フランスの貴族階級や制度に関して詳しく見ていこうと思います。今日のフランスで公式には存在しないはずですが、事実上、現在でもフランス社会に貴族はいるようです。興味深くないですか?
ヨーロッパの王室がある国として最も知られる国と言えばイギリス。イギリスには王室だけではなく、未だに貴族の称号を持っている人々が多くいます。
一方で、イギリスのお隣の国でライバル関係にあるフランスに関して、あまり貴族階級やそれに付随する制度のことを耳にしません。
これについてはフランスの貴族制度は過去に廃止されているため、公式には存在しないというのがおそらく最もな理由。
しかし実際のところ、どうやら現在でもフランスには「貴族」が存在するようなんです。
フランスにおける貴族階級とは一体どのようなものなのでしょうか?
この点に関して、過去と現在を見つめながら紐解いていきたいと思います。
フランスの貴族階級って何?そもそも存在してたの?
フランス貴族階級とは、中世から近世初期、そして1790年のフランス革命までの間、「法的」に特権を認められてフランスの社会に存在していた階級のことです。
当時の制度で貴族は、三部会(当時のフランスに制度上存在した身分制議会のこと)における第二身分を構成しており(カトリック聖職者が第一身分、平民が第三身分)、また、貴族のほとんどが世襲によってその身分を継承していきました。
※但し例外もあり、君主によって新たに爵位を与えられるケースもあれば、購入や婚姻によって貴族身分になることもあった。
当時のフランスにおける貴族の正確な数には諸説ありますが、相対的にヨーロッパ貴族のなかでは最小規模だと考えられています。
1789年時点におけるその数として、フランスの歴史学者フランソワ・ブリュシュが推定した数は14万人。そして9,000から12,000の貴族家族が存在したようです。
また他にも、当時のフランス貴族の数は30万人程度だったという主張もあります。
いずれにせよ、法的にその特権が認められていた時代であっても、フランスの人口の1%程度またはそれ以下しか貴族ではなかったことが分かります。
ちなみに、フランス革命時点で全国土の5分の1が貴族所領となっていたと言われます。
過去におけるフランス貴族は特権を持っていたが義務も存在した
フランス貴族階級が持っていた特権
フランスの貴族階級は、法律上、そして金融上で、一定の特権を持っていました。
他にも、狩りをする権利、帯剣の権利、封建制度に基づく荘園の所有権も原則的に認められていたり、タイユと呼ばれる税金もフランス国内の貴族直轄地に関しては免除されていたのです。
さらに、特定の聖職、公職、軍職は、貴族によって独占されていました。
加えてこういった貴族達は、
- 「サンス(cens)」を徴収する
- 領民(主に農民)に対して土地を貸すかわりに徴収する賃料のような税金
- 「バナリテ(banalités)」を実施する
- 領民には荘園の領主が所有する設備を強制的に使用させることが出来た
- 水車やパン焼き釜、ワイン圧搾機、醸造場などを使用させて使用料を徴収した
- 代わりに収穫物の一部の上納させる
- 上記の税金または使用料の代わりに、収穫物の一部を土地の使用料として納めさせることも出来た
といった権利を持っていたのです。
しかも当時のフランスでは、貴族には領民に対する一定の司法権限も認められていたのです。
フランス貴族階級の義務
一方で、貴族階級には特権だけではなく責務もありました。
国王を崇め、仕え、そして助言することが義務付けられていたのです。
また場合によっては、「血税(impôt du sang)」との表現がぴったりな「戦力提供の義務」もありました。
(豆知識)貴族の身分は剥奪されることもあった
ちなみに、当時のフランスにおいて例外はあったものの、特定の活動をすると由緒正しい貴族であってもその身分を剥奪されることがありました。
具体的には、
- 商売をする
- タイル張りのような肉体労働をする
といったことが厳しく禁じられていたのです(※但し、鉱山、ガラス製造、鍛冶場を運営することで利益を得ることは認められていた)。
さらに、ブルターニュ地方などの一部の地域では、こうした規制は緩やかで、特に貧しい貴族は田畑を耕すことが認められていたようです。
また、万が一禁止行為を行って身分が剥奪された場合でも、該当行為を中止して「救済通知」を得ることが出来れば復権することが可能でした。
他にも自らの爵位を男子後継者に譲ることで、貴族としての家名を失うことなく、譲った本人は本来貴族には認められていないような活動をすることが可能になる、「制度の抜け穴」も存在していました。
フランス革命が起こって貴族の特権制度は廃止になる
これまで見てきたフランス貴族階級に特別な権利や義務を与える「特権制度」は、それまでの封建制度を一掃して人民主権を確立するための運動「フランス革命」の中で、廃止されていくことになります。
フランス革命初期の1789年8月4日、まず、荘園におけるバナリテのように、それまで平民が領主(貴族)に対して支払う義務があったものの多くが廃止されました。
他にも、貴族領地としての特権は没収され、国民共通の税負担を課せられ、狩り、領地内裁判権、葬儀などの特権も失いましたが、爵位を保持することは認められます。
そして、1789年8月26日にフランス人権宣言が国民議会により制定され、この中では貴族制度の廃止には至らなかったものの、1790年6月19日には貴族身分の世襲が制度上で廃止されることになり、ここに「制度上」または「法的な存在」としての貴族は消滅することになったのです。
但し、正式には存在しないにもかかわらず、フランス貴族は耐え忍び続け、一部は21世紀になって繁栄しているとも言われます。
以降で、現在のフランスの貴族階級の存在について見ていきましょう。
フランス貴族たちの現在
現在のフランスでは、フランスの憲法に貴族階級が明文化されているわけでもなく、また、貴族を正当化する君主制はないため、公式な形でのフランス貴族はいません。
しかし実際の所、当時のフランス貴族の家名を継いでいる人々の中には、未だに「貴族」と考えられるような人たちが存在することも確からしいのです。
ここでは、イギリスのBBCが2016年に掲載した記事を基にして、現在のフランス貴族の様子を簡単に紹介していきたいと思います。
ナポレオンのせいでフランスの貴族が復活して増えちゃった!?
フランス革命によってフランス貴族階級は廃止されたものの、その後の1804年にフランスの皇帝に即位したナポレオンが樹立した「フランス第一帝政」と共に、1805年には権利が制限されたかたちで貴族階級が一時的に復興した歴史的出来事が勃発したんです。
七月王政(1830年の七月革命によって成立した国王ルイ=フィリップのもとでの立憲君主政)が1848年に終焉すると共に、フランス貴族が持つ全ての特権は再び廃止されたものの、現在、「フランス貴族」を名乗る「ユゼス公爵」のジャック・デ・クルーゼル氏は、
「自らを貴族と名乗ることができる家族は、現在4,000と推測します。確かに、フランス革命時にはもっと多く、12,000の貴族家族がいました。しかし今、家族に含まれる人の数は一層広がっており、全体では50,000〜100,000の貴族達がいると考えられます。」
(中略)
「要するに、フランス革命で多くの貴族が消えましたが、その後19世紀に生まれたフランス皇帝達は、それぞれが独自の貴族階級を創った結果、我々貴族の数が増えてしまったんです!」
と話しています。
それに加えて、人生の大半をパリで過ごしたイギリス人女性作家「ナンシー・ミッドフォード」は著作の一冊の中で、
フランスの公爵を大使館に招待したら、その人が、
- アンシャンレジーム(旧体制)の公爵(an ancien regime duke)
- 王政復古による公爵(a Restoration duke)
- ナポレオンによる公爵(Napoleonic duke)
- ローマ法王による公爵(Papal duke)
のいずれかであることを知らなくちゃダメなの。
と触れ、フランスの貴族はイギリスの貴族よりもはるかに地位に関して神経質だと冗談めかしています。
これに関してはどうやら、フランス貴族達は晩餐会時における正しい席次を知っており、大使が間違えたら非常に気分を害する可能性があったことがその理由らしいんです。
このように、法的根拠も無ければ制度上もフランスの貴族階級は存在しないものの、実際のところ、貴族の末裔として振る舞い(または心の中でそう思っている)、周りにもそのように扱われる人々が、現在のフランスにはそれなりの数存在しているようなんです。
フランス貴族相互支援協会の存在
そして、現在でもフランスに貴族がいることを示すものとして、一般的にはあまり知られていないフランス貴族相互支援協会(Association D’Entraide De La Noblesse Francaise)の存在を挙げることが出来るでしょう。
ちなみに、上に登場したユゼス公爵は協会の会長です。
この協会は1930年代に設立され、その主な目的は「困窮した貴族達を支援するための資金を作って管理する」こと。
また他に、「貴族の調査および認定」という役目も担っています。
毎年、血統証明を求める「貴族候補」から100以上の申請があり、協会の膨大な古文書を徹底的に調べた後、正真正銘の貴族であれば協会によって貴族として承認されます(※法的なものではない)。
しかし、間違いや詐欺もあるようで、貴族家庭の出身と主張する男女がそうではないこともあり、この場合は無情にも承認されない、または貴族から排除されます。
このように、フランス貴族相互支援協会の存在と言うのは、法的にはなんの根拠も無くしてしまった貴族達を、唯一貴族として認める組織であり、このことは同時に、現在のフランスにおける貴族の事実上の存在を意味していると言えます。
現在のフランス貴族って何しているの?名前を挙げながら例を見ていこう
では、これらのフランス貴族達は、現在どのような仕事をしたり生活を送っているのでしょうか?
また、彼らは他のフランス人とは目に見えて違うのでしょうか?
この問いに関してはすぐに答えは出ません。
一般的な仕事をして貴族以外の人と全く変わらない生活をしている人もいれば、富と影響力を持ち続けている貴族もいます。
例として幾つかの名前を挙げると、AXAの社長と会長を務めた「アンリ・ドゥ・キャストゥル(Henri de Castries)や、ミシュランの社長「ジャン・ドミニク・セナード(Jean-Dominique Senard)」がいます。
また、貴族の中にはパリから遠く離れて、古い大邸宅や城でひっそりと暮らしている人も結構多いそう。
このような、都会から離れた大邸宅に住んでいる貴族達は、所有する土地を活用して農業を行ったり、ワイン畑を作ってワインの生産を行って生計を立てている人もいるようです。
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フランスの貴族階級や制度は現在でも存在する?名前の例も挙げてみるのまとめ
あまり世間的には知られていないフランスの貴族階級やその制度、そして現在のフランス社会における貴族達について見てきました。
制度上は廃止になってしまったため、公式には存在してないとされますが、実際のところ、現在の社会でも事実上の貴族は存在することが分かったかと思います。