ムルシ族とは?なぜ唇にお皿をはめるのか?その宗教や文化とは?

ムルシ族とはどのような民族集団なのでしょうか?彼らはなぜ唇にお皿をはめるのでしょうか?エチオピアに暮らす独特なムルシ族について詳しく見ていきます。

エチオピアには、いくつかの孤立した興味深い少数民族が住んでいますが、ムルシ族と呼ばれる人々もその一例です。

ムルシ族は下唇に大きなお皿をはめた姿で有名で、他にも、独特の儀式、言語、宗教など、魅力的な文化を有します。

この記事ではそんなムルシ族に関して、「なぜ唇にお皿をはめるのか?」の理由も含め、「基礎知識」、「豆知識」、彼らが「直面する問題」の3つに分けて詳しく紹介していきます。

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ムルシ族とは?(基礎知識)

ムルシ族とは、エチオピアのナイル川流域に住む牧畜民族。

東スーダン語派のスルマ語族に属するムルシ語を話す民族の1つで、自分達のことを「Mun(ムン)」と呼び、主に、南スーダン共和国との国境に近い南部諸民族州デブブ・オモ県、又は、エチオピア南西部のオモ国立公園に居住しています。

オモ川とマゴ川の支流のあいだの山々に囲まれたムルシ族の故郷は、エチオピアのなかでも最も孤立した地域の1つで、近隣には、

  • アリ族
  • バンナ族
  • ボディ族
  • カロ族
  • クウェグ族
  • ニャンガトム族
  • スリ族

が住んでいます。

2007年の国勢調査によると、ムルシ族の人口は11,500人で、うち848人が都市部に暮らし、総人口の92.25%が、エチオピア南西部の南部諸民族州(SNNPR)に住んでいるとされました。

ちなみに、スルマ語族を話し民族的に近いこともあり、クウェグ族、メエン族、スリ族、ムルシ族は「スルマ族」と総称して呼ばれることがよくあります(80%以上は血縁の繋がりがあると言われる)

ムルシ族の言語

ムルシ族が話すのは「ムルシ語」と呼ばれる言葉。

ムルシ語は、ナイル・サハラ語族の東スーダン語派スルマ語族に分類される言語で、第二言語としてムルシ語を話すごく一部の人々を除いて、ムルシ族の大多数は母語としてムルシ語を話ます。

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そして、ムルシ語には二種類の正書法があるのが特徴。

1つ目はエチオピアの事実上の公用語であり、アラビア語も属するアフロ・アジア語族セム語派に属する言語である「アムハラ語」の文字をベースにした方法です。

ただし、属する語族が異なるムルシ語は、アムハラ語とは母音体系や強弱子音の面で全く異なります。

そして二つ目の正書法は、より適合性が高いとされるラテン文字をベースにした方法で、こちらはデイヴィッド・タートン教授とアディスアベバ大学のモーゲス・イイゲズ教授によって近年開発されました。

ムルシ族の宗教

トンウィ(Tumwi)の存在

東アフリカのアグロ・パストラリスト(農業牧畜民)に多くみられるように、ムルシ族は「トゥンウィ(Tumwi)」と呼ばれる自らを超越した力の存在(または神のような存在)を信じています。

このトゥンウィという存在は通常、天空にあるとされますが、時として例えば虹や鳥など、空にあるものとして現れます。

宗教や儀式におけるリーダー「クモル」

ムルシ族社会における宗教や儀式では、「クモル(Kômoru)」と呼ばれる主要なリーダーの存在が不可欠。

彼らはいわゆる祈祷師やシャーマン的な存在で、ムルシ族社会の中において「ジャラバ(Jalaba)」と呼ばれる非公式な政治的リーダーとは違います。

クモルは伝統的に受け継がれることで維持されてきており、例えばガリクリ(Garikuli)とブマイ(Bumai)という名の氏族には、祈祷師の一家が存在します。

また、コモルテ(Komortê)という氏族は、ずば抜けて優秀な祈祷師氏族とされます。

クモルの役割

クモルの役目は、雨を降らせる、人や畜牛や作物を害虫被害から守る、他の氏族による侵入の脅威を取り除く、といった公的な儀式でのパフォーマンスに特徴付けられていると言って良いでしょう。

干ばつ、害虫被害、病気などの脅威に晒された時、グループ全体の幸福をクモル自らが体現し、コミュニティとトゥンウィとの意思疎通の担い手としての役割を果たすことになるのです。

また伝統的に、人々とトゥンウィとのつながりを保持するためにクモルは、ムルシ族の地を離れたり、土着の氏族を離脱したりしてはならないとされています。

ムルシ族の宗教はアミニズム

クモルの役割はいわゆる祈祷師やシャーマンと言えることからも分かる通り、彼らの主な宗教または信仰はアミニズムに分類されます。

ただし、エチオピア正教などの影響により、一部にはキリスト教徒もおり、ムルシ族が住む地域の北東部には、教育、基本的な医療、キリスト教の教えなどを提供する施設が建てられています。

ムルシ族の興味深い風習や文化的特徴

ムルシ族は、数多くの通過儀礼、教育や規律上の過程を経験しますが、男女それぞれについて、中には非常に興味深い風習や文化的特徴を見つけることが出来ます。

女性の下唇のお皿(リッププレート)

ムルシ族以外にも、スリ族なども含めたスルマ族に含まれる民族全般に言えることですが、ムルシ族の女性は下唇に装着するお皿(リッププレート)で有名。

ムルシ族は、このリッププレートの風習または文化的特徴を維持する、アフリカ最後の民族の1つとして知られます。

ムルシ族のリッププレートとは、女性の下唇にはめ込まれる大きな陶器や木製の円盤または「皿」のことで、本来は未婚か既婚かのステータスを示す目的を持ち、「未婚」の女性が踊りを披露する際にはめ込まれていました(※近年では徐々に、観光客おを呼び寄せてお金を稼ぐ目的で装着されるようになった)

若い未婚の少女は15歳か16歳になると下唇に穴をあけ、木製のプラグで穴をあけたままにし、徐々に唇の穴を広げていきます。

リッププレートのサイズは個人の選択に任されていますが、リッププレートが大きければ大きいほど良いとされる傾向にあります。

男性による「決闘」の儀式

一方、ムルシ族の男性達は「決闘」の儀式で知られます。

Stick Fighting Festival – Tribe With Bruce Parry – BBC

ムルシの独身男性は、木製の棒を使用した儀礼上の決闘に参加し、戦いによって男らしさを証明するのです。

この儀式化された決闘は、ムルシ族のとりわけ未婚男性にとって極めて価値の高い人気行事であり、ムルシ族としてのアイデンティティの鍵となる存在です。

儀式と言っても戦いは、「一人が骨折」または「その他の重傷により卒倒して敗れる」まで続けられ、多くの場合、この戦いでの勝利は、未婚女性側に良い印象を与え、夫としての価値を高めることになるのです。

ムルシ族に関して知っておきたその他の豆知識

ムルシ族が「エチオピア人」となったのは19世紀のごく最近

ムルシ族の人々は、19世紀にエチオピア帝国の皇帝となった、メネリク2世が近現代におけるエチオピア国境を定めた際に、「エチオピア国民」に含まれました。

そして、時代とともに、ムルシ族はオモ国立公園周辺の地域へと追いやられていき、現在確認出来るコミュニティが出来上がっていきました。

ムルシ族の氏族

氏族とは、共通の祖先を持つ血縁集団、または、共通の祖先を持つという意識・信仰による連帯感の下に結束した血縁集団のことで、言ってみれば非常に大きな親戚または家族のようなものです。

そして、ムルシ族の大半が居住するエチオピアの南西部には、18のムルシの氏族が居住していると言われます。

ちなみに、異なる氏族間で結婚することはタブーとされており、各氏族には衣装や規則などに関して多少の違いがあり、他氏族に対しては必ずしも友好的とは言えません。

男性のステータスに必要な年齢帯(年功序列)

ムルシ族の氏族の中では、特に男性に関して、各個人の社会的立場の特定に年齢が重大な役割を果たします。

男性達は「年齢帯」と呼べる、いわゆる世代別のグループに分けられ、自分のコミュニティ内で相応の立場を担っていくことになるのです。

例えば、長老達はその氏族の警察的役割を担い、時には、住民たちを罰したり監視したりすることもあるといった具合です。

ただし、一部には、何年も前に成年に達していながらも成人男性と認められない男性もいます。

また女性は、既婚すると自分の夫が属する年齢帯の地位を認められます。

ムルシ族は一箇所に複数の家族で住むのが基本

ムルシ族はドリスと呼ばれる小屋に住んでおり、このドリスには一件あたり、複数の家族が居住するのが一般的です。

ムルシ族の食生活

牧畜民族であるムルシの人々は、食肉や牛乳など、食事を家畜に大きく依存しています。

ただし、ソルガム、トウモロコシ、ヒヨコ豆、他の豆類の栽培もしており、こういった穀物や豆類から炭水化物を摂取しているようです。

一方で、こういった環境下での食料確保は天候に大きく作用されることになり、ムルシ族が住む地域は干ばつがよく起こるため、その度に作物や家畜の群れが弱ってしまうという脆弱性を抱えています。

旅行者との交流に積極的なムルシの人々もいる

ムルシの中には、彼らの生活に遠慮なく干渉してくる旅行者に対して攻撃的な氏族もいますが、(大抵は金儲けを目的に)旅行者を歓迎する氏族もいます。

中には、実際の祝賀行事がなくても、旅行者のために伝統的な儀式用の衣装を身に着けてくれたり、観光客に人気なリッププレートをわざと女性にはめさせる氏族もいるのです。

ちなみに、ムルシの男性はライフルを持ち歩いていることがありますが、これは、他氏族からの襲撃の可能性に備えて護身用に持ち歩いているため、観光客は基本的に心配する必要はありません。

ムルシ族が直面する問題

オモ国立公園の問題

ムルシ族の多くは、エチオピア南西部にあるオモ国立公園に居住しているわけですが、実は現在、このオモ国立公園を巡って問題に直面しています。

アフリカン・パークス財団と州政府の国立公園担当官が、ムルシの人々に対して、オモ国立公園の境界内にある彼らの土地を、無償で手放すように強要していることが徐々に浮き彫りになってきました。

この行いに対して人権擁護活動家からの圧力が高まるなか、アフリカン・パークス財団は2007年、エチオピア政府とのオモ国立公園の管理契約を解除することを発表しましたが、オモ公立公園内に居住するムルシ族、スリ族、ディジ族、メエン族、ニャンガトム族などの未来は、不確かなままになっています。

ギベ第3ダムおよび大規模商業用灌漑開発構想

2015年10月、オモ川中流に「ギベ第3ダム」と呼ばれる水力発電ダムが完成しました。

これにより、下流域に住む何千人もの人々が生計を依存しているオモ川の定期氾濫が、大きく変わる可能性が訴えられています。

また、オモ川の流れを制御し、乾季の低水量を「上昇」させることにより、大規模な商業用灌漑の開発も可能になりました。

しかし、プランテーションとして提案された灌漑用として、該当する土地のオモ川の水量は不十分であることが分かりました。

その結果、代わりにオモ国立公園内の土地か、ボディ族、ムルシ族、ニャンガトム族、カラ族が居住する土地のいずれかで計画を実行するという構想が持ち上がり、実際に計画が進められていると言います。

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唇にお皿をはめる風習で知られるムルシ族は、非常に独特な少数民族で、他にも文化や宗教面において、とても興味深い特徴をいくつも有しています。

世界のことって面白いよね!By 世界雑学ノート!

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