チョークポイントとはどのような概念を指すのでしょうか?海洋国家にとっては重要な戦略的要衝となるチョークポイントについて詳しく見ていきましょう。
複雑な国際社会において国の安全を考えていく上では、国際政治や国際関係において重要な概念を把握しておくことが役立ちます。
例えば、勢力均衡(バランスオブパワー)などは最たる例でしょう。
そして、国家の中でも海に面している海洋国家にとって特に重要なのが、「チョークポイント」と呼ばれる概念で、この概念を理解しておくことは、各国の動きを観察してその裏側にある背景を理解する上でとても役立ちます。
チョークポイントについて、その意味や概念の解説から、現代の国際社会においてチョークポイントされる8つの具体例までを見ていきたいと思います。
チョークポイントとは?
チョークポイントとは、国土全体またはその大部分が海に囲まれているもしくは隣接している海洋国家に関する地政学的概念の一つ。
簡単に言ってみれば、
海洋国家にとっては地政学における戦略上、とても重要になる場所
であり、「敵を攻め落としたり敵地に侵攻したり」といった主には軍事目標を遂行するために超重要な箇所となります。
具体的にチョークポイントとは、
- 渓谷
- 細い道
- 海峡
- その他の重要な航路が集束している部位
などを含む海上または水上航路において、兵力が超えていかなければならない地形を指し、このチョークポイントを軍事的に抑えることは、敵対する国家の軍事力を著しく削ぐ結果に結びついたり、また、上手く利用することで、少ない兵力でありながら数で勝る敵を攻撃し討ち取ることも可能にします。
そのため、海洋国家にまつわる作戦計画や遂行において、「チョークポイントを抑える」というのは定石ともいうべき戦略の一つなのです。
チョークポイントは経済面においても重要
また、軍事目的だけでなく、経済面から見てもチョークポイントは重要です。
例えば、ペルシャ湾とオマーン湾の間にあり、北はイランに、南はオマーンの飛び地に挟まれているホルムズ海峡には、多くの船荷や世界全体の2割を占める原油船が行き来しています。
このように、海上や水上航路にあるチョークポイントは経済面でも重要な場所になり得るのです。
一方でチョークポイントは、近隣の海洋国家においては決定的な場所となるため、敵対する相手から軍事目的で狙われやすかったり、チョークポイントの多くは政治的に不安定な国の近くにあるなど、航海リスクが高く航行自体を危うくしている側面を持っているのも事実です。
それゆえ、一度世界情勢または地域情勢の緊張が高まると、チョークポイントの通過リスクが高まり、それによって世界経済にも重大な影響が出る可能性があります。
世界に散らばる主要なチョークポイントの具体例
世界にはおよそ200の海峡や水路がありますが、そのうちいくつかはチョークポイントとして知られています。
以下では、それらチョークポイントの中から具体例として、特に重要な主だったチョークポイントを8つ簡単に紹介していきます。
チョークポイント1:マラッカ海峡
インドネシアのスマトラ島とマレーシアのマレー半島の間に位置して両島を隔てているのがマラッカ海峡。
インド洋と太平洋を結ぶ主要な航路で、海上交通の要衝として国際社会上で非常に大きな役割を担ってきました。
例えば、年間の通過船舶数は9万を越えるとされ、このスマトラ島とマレー島の間に位置する海峡を毎日多くのタンカーが通過していることが分かります。
また、マラッカ海峡は、原油の輸入に頼っている太平洋沿岸諸国(特に日本)と中東地域との間を航海するのに近道として使われており、原油輸入が盛んな太平洋の海洋国家にとっては非常に重要なチョークポイントとなっています。
チョークポイント2:ジブラルタル海峡
地中海と大西洋の間にあるジブラルタル海峡は、北はイギリスの領土である小さな島ジブラルタルとスペイン、南はモロッコとスペインの飛び地であるセウタに挟まれた海峡。
ヨーロッパ大陸とアフリカを隔てている狭い海上航路です。
この海峡は、地中海から大西洋へ抜ける重要な航路となっているため、この場所のリスクが高まることは、主に地中海地域の海洋国家に重大な影響を与えると考えられます。
チョークポイント3:ボスポラス海峡とダーダネルス海峡
(出典:wikipedia)
ボスポラス海峡は黒海とトルコのマルマラ海(トルコ国内にある内海)をつなぎ、トルコのヨーロッパ部分とアジア部分を隔てている海峡。
そして、ダーダネルス海峡は、マルマラ海と地中海に繋がるエーゲ海を結ぶ海峡。
この二つが機能することで、「黒海ーマルマラ海ー地中海」が繋がり、さらにはエーゲ海へと繋がってくるのです。
また、黒海はこの海峡が閉じられてしまうと、外海とは完全に孤立した内海となってしまいます。
そのため、これら二つの海峡は、トルコのみならず、黒海に面して貿易を行うウクライナ、ジョージア、ルーマニア、ブルガリアなどには非常に重要な要衝となり、万が一の場合は致命的なチョークポイントになり得ます。
チョークポイント4:パナマ運河
1914年に完成した長さおよそ80kmのパナマ運河は、大西洋と太平洋を結び、アメリカ合衆国の東海岸から西海岸までの航海をおよそ1万5000km短くしています。
この短縮された大西洋から太平洋までの航路を目的として、中央アメリカに位置するこの海峡には、毎年およそ13,000もの船舶が通過しており、経済的な重要性はもちろんのこと、軍事的な物資の運搬という面でも重要なチョークポイントになっています。
チョークポイント5:マゼラン海峡
1914年にパナマ海峡が開通するまで、アメリカの海岸を行き来する船舶は南アメリカの南端を回らなければなりませんでした。
そして、その際に重宝されていたのが、南アメリカ大陸南端とフエゴ島を隔てるマゼラン海峡(南アメリカの南端から少し北に位置してチリとアルゼンチンに囲まれている)で、19世紀半ばのカリフォルニア州のゴールドラッシュ時期には、東海岸とサンフランシスコ間をつなぐ船が頻繁に航海していました。
現在ではパナマ海峡が出てきたため、かつてほどの重要性はなくなりましたが、それでもこの地域の国々にとっては一つのチョークポイントとなり得ることは間違いありません。
チョークポイント6:スエズ運河
長さおよそ190kmのスエズ運河は、エジプトのスエズ地峡に位置し、紅海と地中海を結ぶ唯一の水上航路。
このスエズ運河があるおかげで、地中海からの船はより効率的にそして短時間でアラビア海へ抜けることが出来、さらにはその先にあるインド洋や太平洋までたどり着けるようになります。
そのため、世界的に見ても非常に重要な海上航路の一つであるため、中東の緊張が高まる時には多くの国やテロリストによって格好の標的となる恐れが考えられるチョークポイントなのです。
チョークポイント7:バブ・エル・マンデブ海峡
紅海とインド洋の間にあるバブ・エル・マンデブ海峡は、インド洋に繋がる紅海の南先端にある海峡で、イエメン、ジブチ、エリトリアに囲まれています。
そのため、スエズ運河を通して地中海から紅海までやってきた物資が、その先の大海へ運ばれる上では(または逆もしかり)重要な要衝であり、国際関係上で無視できないチョークポイントの一つとなります。
チョークポイント8:ホルムズ海峡
ペルシャ湾とオマーン湾の間にあり、北はイランに、南はオマーンの飛び地に挟まれているホルムズ海峡は、上でも簡単に触れた通り、世界の原油のおよそ2割が通過する場所であったりと、ペルシャ湾沿岸地域の原油の輸送に非常に重要な場所で、アメリカ軍と同盟国によって厳しく監視されているチョークポイント。
特に、1991年の湾岸戦争でチョークポイントとして広く認知されるようになりました。
また、日本に来るタンカーの全体の8割がこの海峡を通過するとされ、日本の安全保障上でも非常に重要な場所となっています。
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チョークポイントとは?海洋国家にとって重要な戦略的要衝のまとめ
チョークポイントについて見てきました。
チョークポイントとは、海洋国家にとっては重要な戦略的要衝であるだけでなく、国際社会にとっても重要な場所であることが分かったはずです。
特に現代の国際情勢の中では、主に原油の輸送に使われている水上航路を指すことが多く、これらチョークポイントを巡る対立は、国際紛争の原因となる可能性が高いとされています。
そのような背景もあり、ジブラルタル海峡などの重要な水上航路は、数世紀にも渡って、どの国の船舶も通過できるようにと国際法で保護されてきました。