インドの食文化について見ていきます。インドの料理は地域ごとに異なるため、理解するには各地域毎の特徴を確認していくことが大切です。
古くは紀元前2600年頃から始まったインダス文明に遡るとさえ言えるインド文化には、長い歴史の中で独特な食文化が栄えてきました。
特にインドの料理はスパイスがふんだんに使われているのが特徴で、それらは総称してカレーと呼ばれています。
一方で、インドには461の民族と200以上の言語が存在し、公用語として認められているものだけでも22言語に上ります。
そのため、インドの食文化と言っても一言でまとめることは難しく、理解するためには最低でも国土を東西南北に分けて考えていく必要があると言えるでしょう。
そこでこの記事では、インドの食文化を知るために、北、西、東、南インドの4つに大きく分け、それぞれの地域の食べ物や料理の傾向を見ていこうと思います。
北インドの食文化と食事
北インドは、インドとパキスタン、そして一部は中国との間において係争地となっているカシミール地方も含めた地域のことで、この中でもカシミール地方の料理と、それ以外の地域の料理と分けることが出来るでしょう。
カシミール料理
まず、中央アジアと接しているカシミール地方の料理は、長い年月の中で中央アジアの影響を強く受けながら発展してきました。
そのため、カシミール料理には中央アジア料理の調理法や、ペルシャやアフガニスタン料理の調理法なども取り入れられています。
カシミールにおけるほとんど全ての食事が、美しい渓谷で豊富に作られる米を主食としているのが特徴で、ここで料理される美味しいものの1つに、「ハク(Hak)」として知られる緑の葉野菜で作られる「サグ」があります。
ちなみに、サグは菜の花のことで、サグカレーと言ったら「菜の花(からし菜)で作ったカレー」のことです。
その他の地域の北インド料理
一方、パンジャーブ州、ハリヤナ州、ウッタル・プラデシュ州といった州では、主食としてチャパティが大量に食べられる点が、食文化の特徴の一つと挙げられるでしょう。
チャパティは小麦粉、米粉、中力粉、ひよこ豆粉などといった様々な粉で作られる薄いクレープ状の様なパンです。
ちなみに、この地域ではチャパティと良く似た、ナン(タンドールと言う壷窯型オーブンで焼かれるもの)やルマリ・ロティ(中華鍋を逆さにしたような鉄板で焼くもの)も食べられますが、フライパンで簡単に作れるチャパティの方が家庭料理として一般的です。
また、カシミール地方以外の北インドや西インドと東インドにも言えることですが、ムガール帝国時代に皇帝のために調理された料理を起源に持つとされる、ムガール料理の影響も大きく受けていると言えます。
この地域では、肉料理と菜食料理のレパートリーが豊富にあるという点も忘れてはなりません。
西インドの食文化と食事
西インドと呼ばれる地域には、ラジャスタン州、グジャラート州、マハーラーシュトラ州などが含まれますが、西インドと言っても、それぞれで気候が異なったりするため、その料理の特徴も微妙に異なってきます。
ラジャスタン料理
まず、インドの北西部にあるラジャスタン州はインドでもっとも大きな面積を持つ一方で、大部分が乾燥しているため、基本的には日持ちの良いパンなどの固形物や、豆、濃く持ち、ドライフルーツなどの、乾燥させて保存出来る食べ物が良く使われます。
例えば、ダール(剥いた小粒の豆を挽き割ったもの)やアチャール(漬物のような保存食)が、他の地域と比べて足りていない新鮮野菜の簡単な代用品として消費されています。
また、菜食料理のメニューが多く、加えて、食用に用いるバターオイルの一種である「ギー」がよく使われ、美味しいデザートでも知られます。
グジャラート料理
クジャラート州も比較的乾燥している地域だということもあり、ここで出される料理はラジャスタン料理と似た特徴を持っていると言えるでしょう。
さらに、この州には殺生に関して厳しい戒律を持つジャイナ教の白衣派の人々が多く住んでいることもあり、菜食料理が大きく発達しています。
マハーラーシュトラ料理
インドを大きく北と南の二つへ分けた時、ちょうど中間あたりに位置するマハーラーシュトラ州の料理は、北と南の調理法がミックスされていると言えるでしょう。
また、同州の州都であるムンバイはインド最大の都市で、金融から芸能まで経済と文化それぞれにおいてインドを引っ張っている場所であるため、東西南北全て、インド各地の料理が楽しめる場所となっています。
例えば、肉料理や菜食料理両方が多彩であったり、米と小麦の両方を同じくらい消費したりといった具合です。
さらに、ムンバイの海岸線沿いの地域では様々な種類の魚が手に入り、ここでは魚介類を美味しく調理した料理があります。
東インドの食文化と食事
東インドでは、多くの異なる料理が存在するインドにおいて最も美味し料理の一つだとされる、ベンガル料理が際立っていると言えるでしょう。
ベンガル料理
人口密度がインドの首都デリーや、最大都市ムンバイよりも高いとして知られるコルカタを州都に持つ西ベンガル州に住む人々は、魚を食べるのが大好きで、主に米と魚、そして野菜を組み合わせた美味しい料理が作られます。
例えば、この地域では「ヒルサ」と呼ばれるニシン科の魚を、カボチャの葉に包んで調理する珍味があります。
さらに、ベンガル料理で一般的に使われるもう1つの独特な食材は「タケノコ」で、タケノコを使ったベンガル料理に「タケノコカレー」などがあります。
加えて、ベンガル料理を際立たせている特徴として、パンチフォラン (フェヌグリーク、クミン、ナイジェラ、マスタード、フェンネルの種を総称した呼び名)を使うという点も挙げられるでしょう。
そしてデザートとしては、牛乳を使って作られる「ロショゴッラ(パニールと呼ばれるチーズをピンポン玉のような形にしてからカルダモンの香りをつけたシロップで煮て冷やしたもの)」、「サンデシュ(練り菓子)」、「チャムチャム(牛乳を煮詰めて丸めてシロップに漬けたものを牛乳と砂糖から作ったもので包んだ菓子)」など、多くの食べ物が挙げられます。
南インドの食文化と食事
南インド地域にある州では、そのほとんどの食文化に沿岸料理があり、料理にスパイス、魚、ココナッツを多用する特徴があると言えるでしょう。
一方で、それぞれの州にある料理をより詳しく見ていけば、異なる特徴も見つけることが出来ます。
タミル料理
インドの最南部の東に位置するタミル・ナードゥ州の食事では、料理に酸味を付けるためのタマリンドが比較的よく使用されるので、これによって簡単にタミル料理を他の料理から区別することができます。
また、タミル料理では、イドゥリー(蒸しパンのような食べ物)やドーサ(クレープのような食べ物)が代表的な食べ物として食べられますが、これらはタミル人が多く住む南インド地域全般で良く食べられています。
アーンドラ料理
タミル・ナードゥ州の上にあるアーンドラ・プラデーシュ州では、チリ(唐辛子)を始め、その他のスパイスをふんだんに使うため、他の地域のインド料理に比べて辛めの料理が出されるのが特徴です。
これにより料理の味がより一層良くなると考えられています。
ゴア料理
西インドのところで紹介したマハーラーシュトラ州の下にあり、ちょうど西インドと南インドの境に位置している小さな州「ゴア」は、16世紀から20世紀半ばまでの長い間、ポルトガルの植民地となっていました。
そのため、西インドや南インド料理の影響に加えて、ポルトガルからの影響が確認出来、例えば、トマト、じゃがいも、カシューナッツといった食材にその影響を見て取れます。
他にもワインビネガーを使った料理など、ゴア特有の料理が多くあります。
ケーララ料理
タミル・ナードゥ州の西隣りにあるケーララ州は、肥沃な土壌によって食材が豊富であるため、他の南インド地域以上に、肉料理、菜食料理、魚料理に関して、多岐に渡るメニューがあると言えます。
また、この地域で有名な食べ物にはスウィートココナッツミルクや、プットゥと呼ばれる米粉とすり下ろしたココナッツの蒸しケーキの様な、デザートとしても食べることが出来るものがあります。
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インドの食文化|特徴は食べ物・食事・料理方法が地域ごとに異なる点のまとめ
見てきた様に、「インドの食文化」には地域の多様性が含まれ、このことを抜きにしてインド料理を語ることは出来ません。
また、地域の違いだけでなく、長い歴史の中で異なる文化の影響を受けてきたインド料理は、まさに歴史が凝縮されたと言っても良い食べ物だと言えるかと思います。
ここ10年から20年の間に、インド料理は日本を始め世界中に広まって多くのファンを抱えていますが、インド料理が人気になった裏側には、その多様性と歴史が大きく影響しているのかもしれません。