ワインの発祥地または起源は、南コーカサスのジョージアだったのかもしれません。2017年にジョージアで発見された、世界最古のワインの痕跡を見つめていきましょう。
世界中で愛されているワインには、赤、白、ロゼといった基本的な種類をはじめ、細かく分けていくとさらに多くの種類があり、また、有名なものから無名なものまで、世界中には様々なブランドが存在しています。
そんなワインは、人間にとって非常に古くからの友だったようで、2017年まで7000年前後の歴史を持つと考えられていましたが、南コーカサスの国ジョージアを調査した国際チームによって8000年の歴史に塗り替えられたのです。
この記事では、2017年にジョージアで見つかった世界最古のワインの痕跡を紹介しながら、ワインの発祥地や起源について考えていきたいと思います。
ワイン発祥・起源は8000年前のジョージアに遡るのか?最古のワイン醸造跡が見つかる
始まりはガダチュリリ・ゴラとシュラベリス・ゴラから
歴史の中で南コーカサスの中心地となってきたジョージアの首都トビリシから、南に約30kmの距離にある、川沿いの小高く青々とした豊かな土地には、泥造りの丸い家々が並んでいます。
(出典:youtube)
そこはガダチュリリ・ゴラ(Gadachrili Gora)と呼ばれ、今から8000年前の石器時代にそこで暮らしていた農民達は、ブドウが大好物だったようです。
ガダチュリリ・ゴラの遺跡から発見された、焼きの粗い器の表面には果物の房の装飾があり、遺跡から見つかった花粉の分析から、現在は木々に覆われている近くの丘の斜面が「かつてはブドウ畑だった」ことが分かったのです。
さらに、この遺跡の重なり合った円形の家々を発掘調査していた研究チームは、他にも大きな壺を含んだいくつかの壊れた焼き物を発見。
それらは村の家々の床に埋められていました。
そして、ガダクリリ・ゴラから1.5kmほど離れた石器時代の場所、1960年代に一部だけが発掘されたシュラヴェリ・ゴラ(Shulaveri Gora)では、さらに多くの焼き物が見つかりました。
ちなみにこの地域では、同時期に一般的に使われていた石や骨で作られた道具などが発掘されている以外に、近東で初の素焼き鉢だとされる物も見つかっています。
発掘された焼き物からワインの「指紋」が発見される
その後、研究チームは「発見された焼き物の用途を調査するため」に、30の破片と周辺地域の土壌サンプルを26種類採取し、ワイン製造の可能性の分析を依頼。
この分析を任されたペンシルベニア大学の考古学者パトリック・マクガバン氏によって、どちらの遺跡で見つかった破片からも、ブドウやワインの残留物を示す化学的な「指紋」である酒石酸が特定されたのです。
この酒石酸は、ブドウやワインに多く含まれている成分で、焼き物が発見された場所周辺で採取された土壌には微量しか含まれていなかったため、自然に発生するものではないと結論付けられました。
さらに、
- 壺の表面のぶどうの装飾
- 遺跡の土壌から見つかった大量のブドウの花粉
- 土器から発見されたブドウに関連するリンゴ酸、コハク酸、クエン酸の3種類の複合物
- ブドウのツルから出たと考えられるブドウ糖や細胞の痕跡
などは、ワインを作るためだけに、野生のユーラシアブドウを栽培化した最古の物証だと考えられました。
さらに、放射線炭素年代測定法によって、遺物が紀元前6000〜5800年に遡る(つまり今から約8000年前)と示されたことにより、ガダチュリリ・ゴラやシュラヴェリ・ゴラで8000年前に生活していた人々は、ワインを醸造していたと考えるのが妥当であるという結論に至ったのです。
それまで最古のワイン醸造跡とされたイランやアルメニアの歴史を塗り替えた
今回の発見までは、ジョージアの隣国アルメニアの南部にあるアレニで見つかった「紀元前4100〜紀元前4000年頃」のワイン醸造跡か、イランのザグロス山脈で確認されたワイン醸造をほのめかす「紀元前5400〜紀元前5000年頃」の跡が、最古のワインを製造していた場所だと考えられていました。
しかし、今回のジョージアでの発見によって、最古のワイン製造は、さらに古くまで遡る可能性が判明。
この結果、現時点(2019年4月現在)では、最古のワインは8000年前のジョージアに遡り、ここがワインの発祥地または起源である可能性が出てきたのです。
最古のワインはワイン進化の過程ではまだ初期段階
ただし、8000年前のジョージアで作られていたワインは、現在のワインと全く同じとはいかず、ワインの進化の過程でまだまだ初期の実験的な段階にあったようです。
というのも、最新の分析結果では、後世のワイン製造者たちが質の悪化防止目的に使用した「松ヤニ」が検出されなかったから。
言い方を変えると、もっと後の時代におけるワイン作りでは、今日のワインに酸化防止剤が添加されるのと同じようなことが行われていたのに、8000年前のジョージアで発見されたワイン醸造跡では、その痕跡が見つからなかったのです。
この結果、当時のワインは村人達にとって季節の飲み物で、作ったら酸化する前に早く飲まないといけない類のお酒、つまり、まだまだワインとしては未熟な初期段階と言える類の物だったようなのです。
ちなみに、ガダクリリ・ゴラでもシュラヴェリ・ゴラでも、村の中心にはブドウの種やヘタが無かったことから、この地域に住んでいた石器時代の人々は、村から離れた涼しい場所でワインを作り、ピッチャーのような壺に入れて村まで運んだと考えられています。
ジョージアで発見されたワインの醸造跡は、今のところ「同地で作られたワインが人間の歴史において最古のワインである」ことを示していますが、人類がお酒を作っていたのはそれよりもはるか以前のことです。
例えば、中国では蜂蜜、米、サンザシを発酵させて作ったアルコール飲料が、9000年前に作られていたという証拠が見つかっています。
しかし、この中国での発見でさえ人類が作った最古のお酒とは言えないかもしれず、人類はそれよりも遥か昔からお酒を嗜んでいたのではないかという説が存在し、この説を支持する有力な証拠として、人間が持つアルコール分解の酵素が挙げられています。
つまり、人間が体内にアルコール分解酵素を有しているというのは、大昔を生きた人間の祖先が発酵させた果物を食べていた結果であり、人間は石器時代よりもはるか以前からお酒を作っているのではないかというのです。
ワインの文化は今日のジョージアにも脈々と受け継がれている
今回の世界最古のワイン醸造跡の発見によって、ワインの発祥地や起源と考えられるようになったジョージアでは、8000年後の現在でもやはりワインが大量に消費されています。
例えば、首都トビリシの一画「オールドタウン」を歩けば、狭い道の両端の至る所にワインの販売店を見つけることが出来ます。
また、レストランへ行けばワインがすすめられ、トビリシの国際空港のゲートを潜るとそこには、様々な種類のボトルを販売しているワインの専門店(実際にはワイン以外も少し売っている)が広いスペースを占めています。
そして、ジョージアには500種を超えるブドウがあり、賑やかなトビリシの中心部ですら、崩れかけたソ連時代のアパートの建物にブドウのツルが絡まっていたりするのです。
この様にジョージアは、初めてワインが作られてから8000年の長いワインの歴史を持ち、ジョージアのワイン造りでは今でも、8000年前に発見された様な壺が使われていると言われ、ジョージア産のワインは歴史と伝統、そして最古のワインのDNAを脈々と受け継ぐ特別なワインなのです。
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ワインの発祥・起源はジョージアだった!最古のワインを南コーカサスの地に見る。のまとめ
ワインの発祥地または起源と考えられる、ジョージアで見つかった最古のワイン醸造跡について紹介してきました。
この発見に関しては、当時の村人がどのようにワインを作っていたのかをより詳しく調べる研究が続いていたり、さらに、遺跡の発掘もまだ完全に終了しているとは言えず、もしかしたら、ワインの起源がさらに古いものだったという発表がされる可能性も残されていると言えます。