ペルシャ人とアラブ人の違いを詳しく見ていきます。それぞれの特徴や歴史的な背景を確認していくと、両者が異なる民族グループであることが浮き彫りになります。
同じ「中東」と呼ばれる地域に起源を持ち、イスラム教を主な宗教としていることから、ペルシャ人とアラブ人はよく混同され、間違われやすい人々です。
実際、本来はペルシャ人に分類されるべき人々がアラブ人と呼ばれている場面によく遭遇します。
両者はそれぞれ異なる起源を持つだけでなく、言語学的・文化的な背景も異なるグループで、両者を混同してしまうことは出来るだけ避けるべきでしょう。
しかしそうは言っても、ペルシャ人とアラブ人の違いが良く分からないというのが正直なところだと思います。
そこでこの記事では、異なる特徴や歴史的背景を持ったペルシャ人とアラブ人の違いについて、詳しく比較していこうと思います。
ペルシャ人とは?
現代におけるペルシャ人が意味する人々とは基本的に、ペルシャ語(ファールシー語)という言語を話すイラン系民族のことで、中東または西アジアに含まれるイランを中心に住んでいる人々のこと。
ペルシャ語は、インドヨーロッパ語族のインド・イラン語派 – イラン語群に含れる最大規模の言語で、同じイラン語群に分類されるパシュトゥー語話者やクルド語話者、そしてパローチー語話者等とは民族的な分類上で近縁関係にあるとされています。
そして、現在のイランの公用語がペルシャ語であるため、一般的に、
- 「イラン人 = ペルシャ人」
という解釈がされることがありますが、イラン国内には、その他の民族も多く暮らしているため、厳密には、
- 「イラン人 ≒ ペルシャ人」
となり、イラン人の中でもペルシャ語(ファールシー語)を母語としてきた人々を先祖に持つ集団が正確にはペルシャ人となります。
ちなみに、現代イランの人口の中にはペルシャ人も含めて以下のような民族集団が暮らしています。
- ペルシャ人・・・61%
- アゼリ人・・・16%
- クルド人・・・10%
- ロル人・・・6%
- バローチー人・・・2%
- アラブ人・・・2%
- トルクメン人・・・1%
- アゼリ人とトルクメン人以外のテゥルク系民族・・・1%
- その他の民族・・・1%
広義でのペルシャ人
ただし、広義の意味では「ペルシャ人」が指す対象が微妙に異なってくることがあり、特に歴史や文化と言った分野では、こちらの広義の意味が用いられることも多々あります。
この広義の意味の場合、ペルシャ人は歴史的な「地理的および文化的な概念」としてのペルシャと紐付けられた人々が対象となり、そこには上で紹介した、現代イランにおけるペルシャ語を母語とした先祖を持つ人々以外のグループも微妙に含まれてくることになります。
具体的には、かつてペルシャ帝国が紀元前4~5世紀に最盛期を迎えた頃、その領土は西の中央アジアからイラン高原を通って東は現代のトルコから北アフリカの一部まで広がっていました。
そのため、これら地域に住んでいる、コーカソイド的特徴を持つイラン系民族、人種的にはイラン・アーリア系の人々が総称されてペルシャ人と呼ばれることがあるのです。
ただし、この広義の意味でのペルシャ人に関しては、共通した具体的定義がないために、使用している人によって対象とするグループが微妙に異なってくる点は覚えておきましょう。
アラブ人とは?
「アラブ人」という言葉は、過去数世紀にわたり多くの意味をもつ言葉でありました。
重複する意味合いで使われることもありますが、主に北アフリカおよび湾岸諸国を含めた西アジアの「アラブ世界」に起源を持ち、また同時に、アフロ・アジア語族に含まれるセム語派の言語の一つ「アラビア語」を話す人々のことを指す言葉となっています。
一方で、アラブ諸国とされる国々は非常に広範囲に渡り、また、そこには異なる地域が含まれていることから、「アラブ人」に分類されたとしても人種的な特徴は異なることが多々あります。
例えば、イラクのアラブ人の大半は、比較的薄めの肌と白人系のコーカソイド的特徴を持つのに対して、スーダンのアラブ人の中には、より濃い色の肌を持ち、黒人系のネグロイド的特徴を持っている人が多くいます。
これは、歴史の中でイスラム教が拡大した結果、元々は人種的にも民族的にも異なる人々が言語的に、そして文化的に同化させられていき、大きなアラブ圏となっていったのが理由です。
このように、アラブ人は人種的に分類するのが難しく、彼らはむしろアラビア語という「言語」と「アラブ文化」によって決定付けられていると言え、中でも言語がアラブ人であることを特定するために最も重要であると考えられています。
ちなみに、アラビア語はアフロ・アジア語族に含まれるセム語派の言語の一つになります。
また、アラブ人が住むアラブ世界は、中東と北アフリカの22か国から成ると言えるでしょう。
例えば、アルジェリア、バーレーン、コモロ諸島、ジブチ、エジプト、イラク、ヨルダン、クウェート、レバノン、リビア、モロッコ、モーリタニア、オマーン、パレスチナなどです。
アラブ人と家系に関しての議論
アラブ人は文化的、特に言語的な繋がりを持った人々を指すと上で述べましたが、アラブ人の中には「家系」の繋がりで判断する人もしばしば存在します。
そういった人たちにとって「アラビア人」とは、
アラビア半島及びシリア砂漠で生活していたアラブ系部族の先住民に血筋を辿ることが出来る人々
となり、アラビア語を母語とする人でも家系的に異なる場合、アラビア人とは認めていなかったりするのです。
特に、伝統的または保守的なコーカソイド的特徴を持つアラブ人の中には、ネグロイド的特徴を持つアラビア語話者をアラブ人と認めていない人が多くいます。
ペルシャ人とアラブ人の違いのまとめ
ペルシャ人とアラブ人の特徴を見てきましたが、両者の違いは、以下のようにまとめることが出来ます。
ただし、ここで言うペルシャ人とは広義の意味ではなく、現在において最も一般的な狭義でのペルシャ人を指すものとします。
地域的な違い
- ペルシャ人
- イランを中心に住んでいる人々
- アラブ人
- 北アフリカおよび湾岸諸国を含めた西アジアの「アラブ世界」
- アラビア半島が起源と考えられる
言語的な違い
- ペルシャ人
- ペルシャ語(ファールーシー語)
- インド・ヨーロッパ語族-インド・イラン語派-イラン語群に分類される
- アラブ人
- アラビア語
- アフロ・アジア語族のセム語派に属する
人種・民族的な違い
- ペルシャ人
- コーカソイド的特徴を持つイラン系民族
- 人種的にはイラン・アーリア系
- アラブ人
- 人種ではなく言語や文化(主に言語)によって定義されることが多い
- コーカソイド的特徴を持つ人々やネグロイド的特徴を持つ人々まで人種的特徴は幅広い
- 人種ではなく言語や文化(主に言語)によって定義されることが多い
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ペルシャ人とアラブ人の違い|特徴や歴史から分かる違いとは?のまとめ
ペルシャ人とアラブ人の違いについて見てきました。
ペルシャ人とは基本的に、イランを中心としたイラン文化圏に起源を持ち、ペルシャ語(ファールーシー語)を母語とするペルシャ系民族に属する人々のことを指します。
対してアラブ人は、北アフリカから西アジアまでの地域を中心に暮らし、アラブ語とアラブ文化を受け入れている人々で、そこには様々な人種が含まれています。
これらの特徴が、両者を隔てる大きな違いだと言えるでしょう。
一方で、時にはそれぞれの定義が微妙に異なってくる場合があります。
例えば、歴史上使われる広義の意味のペルシャ人は、ペルシャ帝国がかつて領土としていた土地に住むイラン・アーリア系民族全般を指し、また一部の人々にとってアラブ人とは、あくまでもシリア砂漠およびアラビア半島の先住民となるアラビア系部族に祖先を持つ人々となるのです。