アルメニアの宗教|世界最古のキリスト教国の宗教事情を語る

アルメニアの宗教事情に関して解説していきます。世界最古のキリスト教国であるアルメニアは、宗教的に見ても興味深い国です。

筆者が拠点を置いているアルメニアは、何千年という歴史の中で様々な民族や国家の影響を受けてきました。

しかし、そのような環境の中であっても守り抜いたものがあります。

その一つが宗教で、アルメニアにおいて宗教は、大昔からアルメニア人たちの営みの大きな原動力となってきたと言えます。

見事な芸術作品を生み出し、敵の攻撃に立ち向かわせ、アルメニア文字の創造を促し、素晴らしい教会を建て、精巧な十字架石を作り、そして過酷な出来事があったにも関わらず負けないで生き抜く力を与えてきました。

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アルメニアにおける主要な宗教は「キリスト教」

アルメニアにおける主要な主教はずばり「キリスト教」です。

私が初めてこの国へ訪れた2009も今も、アルメニアを周ると至る所で洗練された古い教会や修道院を目にし、それらを見るたびに、アルメニアにおいて宗教の存在は無視することが出来ないと実感します。

また、そういった教会や修道院の前を通り過ぎると、現地のアルメニア人の多くが十字を切っている姿を目にします。

このように、アルメニアにおける主な宗教はキリスト教なわけですが、他のキリスト教国家と大きく違う点が一つあります。それは、

  • 世界最古のキリスト教国家

ということです。

アルメニアは西暦301年に世界で初めてキリスト教を国教に制定したことで知られ、アルメニアのキリスト教はカトリックや正教会と違い「アルメニア使徒教会」と呼ばれます(※アルメニア正教会と言われることもありますが、東方正教会やロシア正教会とは異なります)。

そして、「アルメニア=世界最古のキリスト教国」という事実は、アルメニア人のアイデンティティの一部となっていると言え、例えばアルメニア人対して、

「あなたにとってアルメニア人であるということはどういうことか?」

と質問すると、中には、

「キリスト教徒であるということ」

という答えを返してくる人がいるほどです。

アルメニアにおけるキリスト教人口は9割以上

そんな世界最古のキリスト教国家なので、アルメニアにおけるキリスト教人口は非常に高いです。

アルメニア独自のアルメニア使徒教会に属する人の割合は約92.5%と考えられていて、他のキリスト教の宗派に属する人の2.3%を合わせると、キリスト教人口の割合は約94.8%になります(参照:アルメニア国税調査, 2011

アルメニアにキリスト教を伝えたのは二人の使徒

 アルメニアにおいてキリスト教が国教化されたのは西暦301年であるというのは述べた通りです。

一方で、すでに西暦1世紀にはアルメニアへキリスト教が伝わっていたとされ、イエス・キリストの弟子であったタダイバルトロマイの二人の使徒によってでした。

彼らがかつて多くのアルメニア人が住んでいた一大居住地「アルメニア高原(現在のトルコ東部、アルメニア全域、ジョージア南部、イラン北部、アゼルバイジャン西部を含む)」にやってきて宣教活動を始めたと考えられています。

そのため、タダイとバルトロマイの二人はアルメニア使徒教会の始祖とされ、また、301年にキリスト教がアルメニアの国教とされた時、実はすでにキリスト教はアルメニアの各地域社会に根付き始めていました。

このような状況であったため、アルメニアの国教化に関してアルメニアでは、

  • キリスト教への「改宗」ではなく「回帰」である

と言われることがあります。

アルメニア使徒教会の違い

その独自の生い立ちからアルメニア使徒教会は、キリスト教最大宗派であるカトリック教会やギリシャ正教、東方正教会など、他の宗派とは異なる特徴を持っています。

特徴的な違いをいくつかピックアップしてみます。

  • アルメニア使徒教会内では聖人の像や信仰告白の聖画を目にすることはない
    • 聖人の像や信仰告白の聖画はカトリック教会において一般的なもの
  • アルメニア教会のトップはアルメニア総大主教である
    • 有名なローマ教皇とは異なる
  • アルメニアのクリスマスは1月6日である
    • カトリック教会の12月25日とも他の正教会の1月7日とも異なる
  • 西欧諸国で中世期に起きた暗黒時代にあってもアルメニアでは異端審問が盛んになることはなかった
    • 結果的に科学や非神学的な学問が抑圧されることは免れた

アルメニアにおけるその他のマイナーな宗教

アルメニアの地政学的な歴史を紐解いていくと、その位置から何世紀にも渡って、異なるイスラム教国やイスラム系民族から侵略を受けてきたことが分かり、現在でも国境のほとんどはイスラム国家と接しています。

さらに、現在のアルメニアには昔から同地に住んでいたアッシリア人や、ヤズィーディー教を信仰するクルド系のヤジィーディー、他にも遥か昔にロシアからやってきたロシア系の住民たちが、多数派のアルメニア人とは異なる信仰を持ちながら暮らしています。

私は以前にハイキングへ行く際、ロシア系住民たちが住む小さな村を車で通ったんですが、そこには碧眼で金髪の人々が多く暮らしていました(アルメニア人の多くは黒髪で茶色の瞳をしています)。

このような人口構成になっていることもあり、また、アルメニア人の中にも少なからず他宗教を信仰している人がいるため、アルメニアにはアルメニア使徒教会以外の宗教が、それぞれ以下のような割合で存在しています。

  • アルメニア使徒教会:92.5%
  • キリスト教他宗派:2.3%
  • ヤズィーディー教:0.8%
  • その他の宗教:0.4%
  • 無宗教:4%

アルメニアにおけるイスラム教について

ちなみに、地理的に見ればジョージアを除いてイスラム教国家に囲まれているため、アルメニアにはイスラム教教徒が多そうですが、多くのアルメニア人達にとってキリスト教徒であることがアイデンティティの一部となっていることもあり、国内にいるイスラム教徒の数はかなり少ないです。

その数はおよそ1000人前後と言われ、全人口の0.1%にも満たないと考えられています。

ただし、アルメニアは11世紀から19世紀までさまざまなイスラム教国やイスラム系民族からの侵略を受けていた影響で、かつては国内にいくつものイスラム教徒の集落が存在していました。

また、現在もアルメニアの首都エレバン中心の西側には、国内で唯一のイスラム宗教施設として機能している「ブルー・モスク」と呼ばれるシーア派のイスラム寺院があります。

このブルー・モスクはペルシャ王朝支配時代、1828年まで続いたイラン系のハン国によってエレバンに建立された8つのシーア派寺院の1つでしたが、その後のソビエト支配時代にブルーモスクはエレバン歴史博物館として使われたことで残されたものの、他の7つは取り壊されてしまいました。

ちなみにブルーモスクの所有権は、1995年にエレバンからイランへ移され、2015年の12月にはその所有権がさらに99年延長されたため、現在はイランの所有物となって、主にアルメニアへ滞在するイラン人のためのモスクとして機能しています。

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アルメニアの宗教|世界最古のキリスト教国の宗教事情を語るのまとめ

世界最古のキリスト教国を誇るアルメニアには、数多くの教会や修道院があり、廃墟となったものまで含まればその数は数え切れないほどです。

例えば町や村だけでなく、谷や岩の合間や森の中などにひっそりと隠れるようにあったり、難攻不落な山頂にあったりと、建設するのも命がけだったと考えられる場所にさえあります。

それだけアルメニアにおいてキリスト教の教会は重要で、そこまでして独自のアルメニア使徒教会を守ってきたからこそ、歴史的に幾度も東西の戦場となってきたにも関わらず、アルメニア人はどうにか宗教的な独立を保ってこれたんだと思います。

世界のことって面白いよね!By 世界雑学ノート!

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