中国は社会主義国家なのか?それとも資本主義国家なのか?この疑問に対して歴史的、そして政策面から答えを出し、現在の中国社会について見ていきます。
中華人民共和国(中国)と言えば、現代に残る社会主義国家の一つとして知られますが、その中国はここ数十年で、資本主義国家を標榜する他の国以上に大きな経済改革を成し遂げました。
しかし公式には共産主義体制のままです。
「社会主義国家が資本主義国家以上に経済を発展させる」
これは一体どういうことなのでしょうか?
また、中国の社会主義とは一体どういった特徴を持っているのでしょうか?
「資本主義の仮面を被った社会主義国家」と言っても良さそうな中国の社会主義の特徴を、歴史と政策の面から見ていきたいと思います。
社会主義国家中国を理解する上で大切な歴史と毛沢東主義
中国共産党が国民党を台湾島へ追放した結果として、1949年10月1日に中華人民共和国が設立された直後、最高指導者であった毛沢東とその政府は、中国において共産主義政権を打ち立てることに尽力しました。
しかし、当時の中国にける共産主義は「毛沢東主義」とも呼ばれ、このシステムには非常に多くの問題点がありました。
例えば、「大躍進政策(注)」、別名「第2次5か年計画」では、政府が掲げる目標があまりにも人々の常識や生活とかけ離れていたため、非常に悲惨な結果を招くこととなってしまったのです。
不十分な農業計画、異なった意見の完全排除、そして不作による飢饉が原因で、5000万人もの人が命を落としたと言います。
このような悲劇の後、毛沢東はいったん隅に追いやられますが、「文化大革命」という「中国にはびこる資本主義の影響を消し去る」ことを目的とした社会政治改革または政策を打ち出し、再び主役の座に躍り出ました。
そしてこの文化大革命もまた、経済の破綻をもたらし、何百万人もの人が犠牲になってしまったのです。
1976年に毛沢東が亡くなり、高い役職に就いていた彼の支持者らも逮捕されて、ようやく文化大革命は終わりを迎え、中国は新たなステージへと進んでいきました。
注釈:大躍進政策とは、中華人民共和国が施行した農業と工業の大増産政策。
ただし、現実にそぐわないあまりにも強引な手法で実施しようとし、多数の人民が処刑死・拷問死させられた。その結果、中国国内では大混乱が起こり、人類史上最多の大飢饉や経済の破壊が発生。最も多くの犠牲者を出した社会主義政策として知られることとなった。
鄧小平の登場と「中国式社会主義」
毛沢東の死後、1970年代後半に、中華人民共和国では穏健派として知られていた鄧小平(とうしょうへい)が、事実上の最高指導者となって権力の座につき、様々な経済改革を実行していきます。
これらの計画を実行していった結果、中国における社会主義は「中国式社会主義」と呼ばれるようになり、その思想としては、
- (公的な部門によって支配される)市場経済を通じて社会主義を実現する
- その中では経済の活性化を図ることが重要視される
といったもので、以下のような具体例が挙げられます。
- 農業の脱集団化が実施され、農民は余剰生産物を販売することが可能となった
- 政府の統制が緩く、外国資本の受け入れが許可された経済特区が設立されった
- 都市産業に対する政府の価格統制が緩和された
- 数十年ぶりに民営企業の設立が可能になった
- 上海証券取引所の営業が再開し、多くの国営企業が民営化された
さらに、この中国式社会主義は、ソビエト連邦(ソ連)のゴルバチョフが実施した改革とは違い、まずは地域レベルで実験的に導入されてから、効果があると認められた後に全国レベルの改革へと発展する段階的発展形式を採用。
この段階的な導入こそ、中国では改革が成功し、ロシアのような悲劇に陥らなかった理由であると指摘されています。
実際、改革が取り入られるようになってすぐに、中国経済は急速な発展を遂げるようになり、この経済成長の結果として人口のほとんどの生活環境が改善し、また食糧不足の問題の多くも解決されました。
ちなみに、鄧小平が採用した市場経済の採用は「社会主義に矛盾していないのか?」という疑問を引き起こしますが、この決定は理念的にも歴史の中で起こった経験則的にも正当化出来るでしょう。
まず、社会主義の理念において市場経済は「廃止」または「制限」の対象であり、鄧小平の採用した政策は、市場経済を自由競争に完全に任せているわけではないので、これは「制限」に当たると言え、理念には矛盾していないと考えられます。
そして、実は他の社会主義国家においても、同様に制限を加えた市場経済の導入が過去の歴史の中で起こっています。
その最たる例が、当時社会主義の盟主的存在だったソ連。
1921年、ソ連の経済は危機に陥っていました。
当時の最高指導者レーニンは、即座に行動を起こさなければ、誕生したばかりの新国家ソ連が崩壊してしまうことを悟ります。
そこで、ネップ(NEP)と呼ばれる新経済政策を打ち出したのです。
ネップは、
- 市場経済における民間統制(特に農業分野において)をある程度可能にし、
- ネップマンと呼ばれる実業家が都市部で小規模ビジネスを展開してお金を稼げるようにした
- 一方で重工業、銀行業、貿易業、鉱業といった分野は政府管理下に置かれたままにした
という特徴を持つ政策で、この改革は成功し、1928年までにソ連経済は、第一次世界大戦、ロシア革命、内戦の3つの影響から立ち直ることが出来ました。
また、この政策を採用したレーニンは、「共産主義は最高レベルの資本主義経済を達成した国でしか成功しない」というマルクスの議論を引用し、自らの政策が社会主義国家の理念に反しないことを強調したのです。
市場経済の導入によって中国は資本主義国家になったのか?
鄧小平が採用した市場経済を利用する改革によって中国は、「共産主義を手放して資本主義へと転換したのではないか?」と考える人も多くいます。
確かに、価格統制の緩和や企業の民営化などは、市場における自由競争を促進し、中国へ急速な経済発展をもたらす大きな要因となりました。
しかし、それでもなお、中国は社会主義国家であることには変わりありません。
中国政府は経済の大部分をコントロールしている
中国政府は、今現在でも経済の大部分をコントロールしています。
管制高地(国家が国内経済を把握するために占領する地点/競争優位、つまり勝ちやすい支配的な地位を確立すること)は、未だに政府の統制の下に置かれ、産業の種類によっては政府による独占体制も存在しているのです。
また、政府主導で5年の期間で達成すべき目標と、その手法について定めた長期的な計画である「五カ年計画」は引き続き実行されています。
確かに、過去の五カ年計画に比べ、現在の中国の五カ年計画が採用している目標はより幅広いものとなっている上に、目標達成に向けた計画が作成・実行されるのは国営産業に限られています。
しかし、国家にとって最も重要で戦略的に抑えておくべき分野の企業は、国によって直接所有されているのです。
例えば、フォーチュングローバル500に含まれるトップ15の中国企業は全て、国家所有の会社だとされ、中国国内のエネルギー、銀行、通信、鉄道の分野では支配的な立場にあります(参照:inkstone)。
ちなみに現在、五カ年計画と言わずに五カ年指針と言う言葉の方が好まれているようです。
民間企業の多くも一部は政府によって所有されている
また現在、中国経済のおよそ60%と、中国国内の雇用の80%が、民間企業によって生み出されていると言われますが(参照:inkstone)、その民間企業の多くは、一部を政府によって所有されるという形をとっています。
このような「所有の分担」が非常に多いため、中国の民間セクターが実際にどれくらいの規模なのか正確に測ることが出来なかったり、政府は民間企業を通して間接的に市場経済へ強い影響を与えていることが想像出来るのです。
さらに、政府が株式を保有しない完全民営の企業も、政府との結びつきが強かったり、特別なパートナーシップを築いていたりすることが多々あります。
なかには会社の憲章に「政府との関わり」を明記している企業まであるほどです。
実際の生活では他の資本主義国家とほとんど変わらない
見てきたように、中国は「資本主義の仮面を被った社会主義国家」と言えるような国で、両主義の矛盾を見事に包含しながら機能していると言え、実際のところ、現地へ行っても大抵の場合、他の資本主義国家との違いはほとんど見出せないでしょう。
例えば、上海のような大都会で見かける、高級ショッピング街が立ち並び、また高級車も多く走っている情景は、ここが本当に社会主義国家なのか疑うほどです。
また、政府運営の電車には最先端技術が備え付けられた車両を導入しているものもあり、そのクオリティは資本主義国家を標榜する日本以上であることが多々あります。
他にも、政府運営の銀行に口座を開けたとしても、日本にある民間の銀行とほとんど変わらず、むしろもっと便利だと言えるサービスも見かけます。
一方で、確かに中国にいると社会主義国家の側面を垣間見ることがあります。
特に、他の領域に比べて「情報」の領域ではそれが顕著で、例えば、中国では(特別な方法でない限り)Facebookを利用出来ないことは有名です。
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中国は社会主義国家か?資本主義国家か?歴史と政策から見る中国社会のまとめ
中国式社会主義とは、実に不思議なものです。
政府による経済の直接的、そして間接的統制のあんばいによって、通常、この国の社会に関して強く社会主義を意識することはそこまでありません。
一方で、現在の中国にとって、「社会主義なのか?資本主義なのか?」という疑問は大した意味を持たないのかもしれません。
と言うのも、近年の中国の指導者たちは、共産党のコントロールを維持するために社会主義イデオロギーを唱えていますが、実際のところ、それ以上に実利を重視していると言えるからです。