バスク人バスク文化の特徴について詳しく紹介していきます。隣接する他のスペイン人やフランス人とは異なる独自の文化や言語を持つ非常に興味深い人々です。
スペイン北部とフランス南部をまたぐように位置する、「バスク」という地域を耳にしたことがありますか?
その位置からして、この土地に住むバスク人たちは、フランスとスペイン両国と共通の起源を持っていそうに思われますが、実は、言語的にも文化的にも異なる人々だとされています。
そのため、世界的には知られていなくても、実はとてもユニークで興味深い特徴を多く持っているんです。
近隣のスペイン人やフランス人とは大きく異なる独自の文化、言語、そして多くの伝統や特徴を有しているバスク人について、詳しく紹介していきたいと思います。
バスク人とは?
バスク人とは、スペイン北西部とフランス南西部の2つの国にまたがるバスク地方に住んでいる民族。
主に次のうちどちらかを指すとされています。
- バスク地方生まれかバスク地方在住で、非バスク人であると自己定義していない人
- 例えば、バスク人ではなくガリシア人やフランス人と自己定義している人物は、バスク人とはみなされない。
- 非バスク地方生まれだが、バスク語を話せるかバスク民族だと自己定義している人
(参照:wikipedia)
また、バスクの人口は全体で約300万人とされ、スペイン側におよそ250万人、フランス側におよそ50万人が住んでいます。
バスク人が住むバスク地方について
バスク人が住むバスク地方は、ピレネー山脈スペイン側の4つの地域(ビスカヤ、ギプスコア、ナバラ、アラバ)とフランス側の3つの地域(ラブール、バス=ナヴァール、スール)から成り立っている場所。
彼ら自身はそれらの領域をまとめて、エウスカル・エリア(Euskal-Herria:バスク人の土地)、またはエウスカディ(Euskadi)と呼びます。
ピレネー山脈の尾根や周辺の小さな丘から、ビスケー湾沿いの短い海岸、そして険しく狭い谷や渓流まで、この地域は地理的な変化に富んでいるのが特徴で、この地域特有の料理やチャコリワインなどはとても美味であると評判です。
バスク人の歴史ダイジェスト
約5,000年前からインド・ヨーロッパ語族(注)の人々が来るまで、バスク人はヨーロッパ大陸の南西部に住んでいたと考えられており、一説によるとヨーロッパで最も古い民族と言われます。
また、バスク人はローマ人、西ゴート族、アラブ人、フランス人、スペイン人の侵略を切り抜けて中世(西暦476年〜1450年)まで部外者による支配に耐え、独自の文化や言語を守っていました。
しかしその後、スペイン人、ガスコーニュ人、カタルーニャ人によって、バスクの領土の多くが占拠されてしまい、1516年には、ある程度の自治を保持する権利を得つつも、ピレネー山脈のスペイン側のバスク人は、カスティーリャ人による支配下に入ります。
そして1876年までに、バスクのすべての領土がフランスとスペインに分けられることになるのです。
時代は流れ、スペインに独裁政権のフランシスコ・フランコ政権(1939–75) が誕生すると、スペイン国内ではバスクの言語や文化が容赦なく弾圧されていき、そのことが原因で、テロ組織として知られる「バスク祖国と自由(ETA)」といった抵抗グループの誕生が誕生してしまいます。
ETAによるテロ行為は、1970年代〜1980年代に活発となり、1975年にフランコが死去したあとも、バスクの完全な独立の為に引き続き活動が続けられています。
(注釈)インド・ヨーロッパ語族とは、ヒンディー語、ドイツ語、英語、スペイン語、ロシア語などの起源が同じ言語を操る人々のこと。現在では南アジア、北アジア、ヨーロッパ、アメリカ大陸、オセアニアなどに広がっている。
バスク人の言語
バスク語(euskara)は、ヨーロッパで最も古い現用言語(現在も使われている言葉)で、他のヨーロッパ言語(英語やドイツ語などのゲルマン諸語やスペイン語やフランス語どのロマンス諸語)と関係が無く、どの語族にも属していない孤立した言語だと考えられています。
習得するには非常に複雑で難しいと言われ、バスク地方には「悪魔がバスク語を習得しようと7年間学んだが諦めた」という言い伝えもあるそうです。
さらに、バスク語には多くの方言があり、
- ビスカヤ方言
- ギプスコア方言
- 高ナファロア方言(北・南)
- 低ナファロア方言(東・西)
- ラプルディ方言
- スベロア方言
などが含まれます。
また文法的は、
- 単語を2回繰り返すと強調することが出来る
- 例:とても暑い(very hot)はbero(暑い)を二回繰り返して「bero bero」
- 「木」や「動物」といった総称がない
- オークやカエデといった特定の木の名前はあるが「木」一般を指す言葉は無い
といった、他のヨーロッパ言語とは非常に変わった特徴を挙げることが出来ます。
このように、フランス語やスペイン語とは全く違うため、バスク語ネイティブはフランス語またはスペイン語も喋るバイリンガルであり、同時に、スペインのバスク地方では、すべての県と町でスペイン語とバスク語2つの表記がされています。
日本語 | バスク語 |
こんにちは。お元気ですか? | kaixo, zer moduz? |
はい | bai |
いいえ | ez |
また後で | gero arte |
ようこそ | ongi-etorri |
バスク人の宗教
バスク人のほとんどは、ローマカトリック教徒であり、多くの人物が聖職者や修道女になってきた歴史があります。
しかし、第2バチカン公会議(1962)以降は数が減り、教会への出席率も減っているとされています。
ちなみに、教会の歴史上で最も有名な神学者の2人、日本でも有名な「フランシスコ・ザビエル」と、イエズス会の創立者「イグナチオ・デ・ロヨラ」はバスク出身です。
バスク人の興味深い特徴や文化を紹介
バスク文化には特徴的なお祭りが存在している
スペイン各地にはそれぞれ特徴的なお祭りがあり、カタルーニャ人はゲオルギオスの日、バレンシア人はファジェス(火祭り)をお祝いします。
一方で、バスク人も毎年8月にはセマナ・グランデ(Semana Grande:大一週間祭)、バスク語ではアステ・ナグシア(Aste Nagusia)を開催し、フォークミュージックやダンスを披露したり、地元固有のスポーツを行ったりしてお祝いします。
また、毎年7月にパンプローナで開かれるサン・フェルミン祭(Fiesta de San Fermin)、別名「牛追い祭り」は、世界的にも良く知られています。
サン・フェルミン祭では1週間、毎日6頭の雄牛が町に放たれ、闘牛場に向かって走らされます。
そして、伝統的な色の服を着た男性達は、雄牛の前を走り、丸めた新聞紙で雄牛をピシャリと叩いて運試しをするのです。
なお、サン・フェルミン祭の間は、伝統的に白と赤の服を着ることが習慣になっています。
民話はバスク文化の中でとても重要な役割を担っている
他の多くの文化と同様、民話はバスク人にとって非常に重要であり、神話や伝説の多くは今日でも語り継がれています。
バスク神話は女神を崇めるという点で、ギリシャ神話と似ており、バスクの女神は様々な自然物を象徴しているとされています(※バスク神話には女神しかいないのに対してギリシャ神話では男の神もいる)。
例えば、最高神の1人はマリと呼ばれ、さまざまな姿に変わることができる地球の女神です。
一方で、バスク文化には巨人伝説も存在しています。
この伝説によると、古代においてバスク人の土地には、ジェンティヤック(Jentillak)と呼ばれる巨人族が住んでいたそうで、この巨人達は、キリストが誕生するまで人間と共に暮らしていました。
そしてキリスト誕生以降、多くの巨人達が姿を消すなかで、オレンツェロという巨人だけが1人残されたそうです。
現代においてオレンツェロは、人形やわら人形の姿で、行列や家、時には教会に現れる、民族のアイコンまたはマスコット的な存在になっています。
食べ物はバスク地方と文化を象徴している
バスク地方は料理でも有名。
特に、地理的な理由からシーフードが有名で、バスク版ブイヤベースの”ttoro”には、ムール貝、伊勢エビ、アナゴ、タラの頭、そしてその他3種の魚が入っており、シーフード好きにはたまりません。
また、この地域で取れる野菜も美味しく、トマト、ピーマン、キュウリ、オリーブ油で作られる冷たいガスパチョは、スペインのみならず世界的にも有名な料理です。
なお、バスク料理では赤ピーマンがとてもよく使われ、シーフードのソース、鶏肉の調理、オムレツにも加えられ、バスクの家庭では、家の装飾として壁に張り巡らせることもある程です。
食べることがバスク人共通の娯楽
スペインの他の地域の人々と同様に、バスク人も食べることが大好き。
例えば、軽食やちょっとした飲み物を片手に、周りの人と会話を楽しむタパスバルで余暇を過ごすことはもちろん、チョコ(txokos)という美食倶楽部と言っても良いような場所が1500以上もあることからも分かる通り、バスク人にとって食は大切な娯楽です。
また、バスク地方には非常に多くのミシュラン三ツ星レストランがありますが、これについては、バスク文化の中で食が娯楽になっているという事実が大いに関係してそうです。
バスク人の生活環境
バスク人の中でも農村地域に住む人々の多くは、バセリアと呼ばれる大きな石造りのファームハウスに住んでいます。
バセリアの多くは3階建で、1階では動物が飼われ、2階では家族が生活し、3階には干し草や農作物が貯蔵されています。
一方で、都市部に住んでいるバスク人は、スペインの他の人々と同じように、大抵は、一般的なアパートに住んでいます。
バスク人が大好きな特徴的な飲み物がある
バスク地方はスペインのワイン生産地の一つ。
微炭酸とアルコール度が低め(9.5~12%)で軽い、チャコリワインが生産されている世界唯一の場所です。
このチャコリワインは、昔からこの地域で作られてきた固有のワインで、他の地域では味わえない、バスク地方の自然が風味として加わった、独特の美味しさを持っています。
現在は、世界的にも少しずつ認知がされてきているものの、未だにほとんどはバスク地方とアメリカの一部で飲まれています。
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バスク文化には独特で特徴的な国技がある
バスク文化にはペロテ(pelote)もしくはペロタ(pelota)と呼ばれる独自の国技が存在し、多くのバスク人が楽しんでいます。
ペロテはハンドボールとスカッシュを掛け合わせたようなスポーツで、とても動きが早いのが特徴です。
また、バスクで有名なもう1つの競技スポーツはボート。
バスク地方の漁村には13人1組のチームがあり、毎年サンセバスチャンで行われる大会には何千人もの人が参加します。
一方で、ペロタやボートの他に、地元で実施されている小規模なスポーツも未だ多く存在し、例えば、ストーンリフティング(石の持ち上げ)や丸太切りなどが挙げられます。
そのため、バスク人の身体的な特徴として、体力の高さが挙げられることもあります。
お祭りや休日などには、これらのスポーツを観戦出来る可能性があるので、興味があればその時期に合わせて訪問するのが良いかもしれません。
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バスク人とバスク文化|特徴的な歴史から食べ物までを確認してみよう!のまとめ
バスク地方に住むバスク人達は、非常に変わった独自の文化や言語を持っている人々。
スペインを訪れた際には、バスク地方も訪れて現地の人々と触れ合い、違いを感じてみるのも面白そうです。
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