魔女狩りとは何だったのか?基本事項を抑えてから12の真実を確認し、この欧米で起きた迫害の歴史について理解を深めていきましょう。
世間ではよく「昔は良かった」とか、「現代社会の犯罪率が高くなっている」などといった話題がニュースで流されますが、実のところ、人間や人間社会は今も昔もさほど変わりないのかもしれません。
その最たる例が、中世の欧米で行った魔女狩り。
当時、西ヨーロッパを中心に多くの人が無実の罪で殺され、その行為が正当化されていた黒歴史が存在するのです。
12の真実や特徴を紹介しながら、この欧米で起きた迫害の歴史を確認していきたいと思います。
- そもそも魔女狩りとは?
- 魔女狩りにまつわる12の真実や特徴
- 魔女狩りの真実や特徴1)社会ののけ者がターゲットにされやすかった
- 魔女狩りの真実や特徴2)魔女処刑方法の指南書があった
- 魔女狩りの真実や特徴3)魔女を見分ける方法は誰一人として知らない
- 魔女狩りの真実や特徴4)自分の身を守るために友達を陥れることも
- 魔女狩りの真実や特徴5)自白するまで拷問されるのが当たり前
- 魔女狩りの真実や特徴6)告発は死刑宣告を意味した
- 魔女狩りの真実や特徴7)魔女狩りでは暴力が正当化された
- 魔女狩りの真実や特徴8)処刑された実際の数は今も判っていない
- 魔女狩りの真実や特徴9)女性だけではなく男性も対象となった
- 魔女狩りの真実や特徴10)動物さえも対象になった
- 魔女狩りの真実や特徴11)セイラムの魔女狩りは思春期前のヒステリックな少女達が発端だった
- 魔女狩りの真実や特徴12)セイラム魔女裁判は知事(総督)の妻が告発されて終結した
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- 魔女狩りとは?12の真実と共に欧米で起きた迫害の歴史を確認してみようのまとめ
そもそも魔女狩りとは?
魔女狩りに関する真実や特徴を見て行く前に、まずは簡単に、魔女狩りについてのおさらいをしておきましょう。
魔女狩り(witch-hunt/witch purge)とは、「魔女」や「魔術を持つ」とレッテルを貼られた人物を洗い出して裁きを加えるという一連の迫害行動。
魔女として捕まった者は、訴追、裁判、刑罰、また、法的手続きを一切必要としない処罰などに処されました。
またそのために、特に証拠や客観的事実を必要とせず、あくまでも周りの人からの主観や先入観、差別的感情などだけで捕まってしまうことが多々あったのです。
言い方を変えれば、モラルパニック(ある時点の社会秩序への脅威とみなされた特定のグループの人々に対して発せられる、多数の人々により表出される激しい感情)であり、集団ヒステリーとも言えるでしょう。
この魔女狩りは、西ヨーロッパを中心に16世紀から17世紀に最も盛んとなり、18世紀に魔女と有罪判決を受けた最後の人々が処刑されたことで収束しました。その間に処刑された人の数は、3万5千人から10万人に上ると推定されています。
また、西ヨーロッパほどではなかったものの、アメリカでも1692年にセイラム魔女裁判が起こり、当時のアメリカに衝撃を与えています。
魔女狩りにまつわる12の真実や特徴
「魔女狩りとは何だったのか?」について簡単に見てきたところで、ここからは魔女狩りに関する真実や特徴的なことを12個紹介していきたいと思います。
魔女狩りの真実や特徴1)社会ののけ者がターゲットにされやすかった
魔女というレッテルを貼られ、自らの命と無実のために戦っていたのは、一般的にコミュニティで人々に好かれて尊敬されていたような人物ではありませんでした。
つまり、魔女としてターゲットにされやすかったのは、コミュニティ内でのけ者になっていた人々であり、元々差別や軽蔑の対象となりやすい人たちでした(※あくまでも比較的ターゲットにされやすかったということであり、そうでない人も告発されることがあった)。
社会規範あるいは社会の多数派の考えから外れた者は、そこに住む人々へ災いをもたらすとして魔女狩りのターゲットにされやすかったのです。
(出典:wikipedia)
例えば、アメリカで起きたセイラム魔女裁判に繋がる魔女狩りでは、最初に告発された人物は、南アメリカの先住民で奴隷として使われていたティテュバという、同コミュニティにおいては差別の対象となっていた女性でした。
この魔女狩りの事実からは、恐怖に苛まれた人々が「普通であるという考えから外れた存在」に対して如何に攻撃的になるのかについて、大切な教訓を教えてくれています。
魔女狩りの真実や特徴2)魔女処刑方法の指南書があった
当時魔女狩りが盛んだった頃、実は魔女の処刑方法を記した指南書が存在していました。
(出典:wikipedia)
その指南書は「魔女に与える鉄槌」と呼ばれたもので、ドイツの宗教裁判官であったハインリッヒ・クレイマーによって書かれたもの。
その本は、
- 第一部 – 魔女の定義とその能力に関する問題
- 第二部 – 魔女による悪行の類例。また、魔女と産婆の関係について
- 第三部 – 魔女狩り人や魔女裁判の心得と手引き
(引用:wikipedia)
の三部で構成されており、魔女は残酷に拷問を与えて殺害するに値する存在だと語っていたのです。
この本の結果、ハインリッヒ・クレイマー文字通り、大勢の人々を誤った罪で告発し、自分の宗教的信念に基づいて殺害することを正当化。
そしてドイツにおいて、魔女の処刑方法の一つとして行われた火あぶりの刑を横行させる元凶となったことから、クレイマーは歴史上最も軽蔑される人物の一人となりました。
魔女狩りの真実や特徴3)魔女を見分ける方法は誰一人として知らない
魔女狩りの機運が盛り上がり、より多くの魔女を探し出して処刑が盛んになったことで、魔女の見分け方も確立していったかというと、そういう訳ではありません。
つまり、魔女狩りの数自体は多くなったのに対して、魔女狩りを行う人たちは根拠なく、自分たちが頑なに信じる方法によって勝手に魔女をでっち上げていただけなのです。
実際のところ、当時のでっち上げは、インチキ占い師の占いよりも低レベルだったと言っても過言ではないかもしれません。
例えば、
- 神に祈りを捧げるよう強制する
- 祈りの言葉を口にできない(正確に覚えていないなんていうのは当たり前ですよね?)人は、悪魔に魂を売り渡したと考えられた
- 疑わしい人物の家に行きペット(特に猫)の数を数える
- 魔女と思わしき人物を縛って川に投げ込む
- 浮かぶか沈むかを確認する
- バネが仕込まれた針を魔女と思わしき人物へ刺す(実際は刺さらない)
- 皮膚へ当てて押し込もうとすると針の長さが短くなり、周りからは体に刺さっていくように見えても全く刺さらないもの。劇場の小道具などとして使われる
- 魔女は針で刺されても痛みを感じないと信じられていた為、魔女の嫌疑をかけられた人を刺しても泣き叫ばなければ魔女として有罪として処刑した
- 魔女と思わしき人に触らせて痛みが消えるか確認する
- 痛みなどの症状を感じると自己申告した人が、魔女の嫌疑をかけられた人に触れられた瞬間に、痛みが消えたと訴える(もちろん演技)と、魔力があるとされて有罪となった
など、魔女の判別方法は適当であり、不正が横行していたのです。
魔女狩りの真実や特徴4)自分の身を守るために友達を陥れることも
上の例でも明らかなように、魔女だといって他人を陥れることは、いとも簡単なことでした。
気に入らない人物がいた場合、その人を悪魔の使いだと訴えるだけで、目の前から消し去ることが出来たのです。
魔女狩りの機運が高まり、多くの人が恐怖におののくようになってからは、誰もが戦々恐々としていました。
そして、次は自分がターゲットになるのではと恐れた人は、自分が名指しにされる前に少しでも様子のおかしい人がいれば、周りの人を密告するようになっていきます。
結果、周りにいる友人でさえ、自分の身を守るために告発していくことが頻発していくようになったのです。
魔女狩りの真実や特徴5)自白するまで拷問されるのが当たり前
魔女として嫌疑がかけられた人物は、基本的に有罪を免れることがほとんどありませんでした。
というのも、魔女として告発されれば、その後は自白するまで拷問が続けられたから。
もちろん中には、最初は自白しようとしなかった人が多くいたことでしょう(そもそも罪を犯していないことを考えれば、嘘をいって罪に問われたくないのは当たり前)。
しかし、自白のために行われた拷問方法は残虐極まるものだったようなのです。
例えば、
- 魔女の疑いをかけられた者の手足を切断する
- 繰り返し体を水中に沈める
- 重量が増していく拷問具の下で圧迫する
- サディスティックな口輪をして精神的に追い詰める
といった拷問方法です。
そのため、魔女として嫌疑がかけられた者は、拷問の苦しみから早く解放されたいがために、嘘でも自白をし、基本的にはどれも事実無根であったと考えられるのです。
魔女狩りの真実や特徴6)告発は死刑宣告を意味した
魔女の嫌疑をかけられた者が告発されると、多くの場合は「魔女裁判」として、法廷で裁かれることになりましたが、この魔女裁判は、現代社会における「法制度の下に実施されているような公正な裁判からほど遠いもの」でした。
良く言ってもばかげた裁判、悪く言えば非常に恐ろしい裁判だったのです。
基本的に誰もが告発人に成り得たし、誰もが魔女として告発される可能性があり、無実を訴えてもそれが認められることはまずありませんでした。
そして、自らがそうならないために誰か別の人をターゲットにして、「魔女による」とされた現象を誰かのせいにする必要があったのです。
誰かがある人物を魔女だと決めつけたら最後、その人は死刑宣告を受けたも同じで、無実を叫び訴えれば、逆にもっと酷い拷問を受け、魔女であることを認めれば死刑が待っていました。
つまり、魔女として嫌疑をかけられたら最後、どちらへ転んでも基本的には最悪の結果となったのです。
魔女狩りの真実や特徴7)魔女狩りでは暴力が正当化された
魔女狩りが盛んだった時代、魔女と疑われる者に対する暴力は正当化されていました。
「魔女」が善なる人々に害を及ぼす前に一人でも罰することが出来るなら、そこで行われた暴力は正当な価値があると考える向きがあったのです。
しかし、歴史を振り返えることが出来る現代の立場から考えると、この考えは全く持って的外れなのが分かります。
というのも、今まで見てきて分かる通り、魔女と思わしき人々に対して行われた迫害は、全く根拠が無いものであり、また、その方法も馬鹿げているものばかりで、魔女として処刑された者が皆、無実であったことは明らかだからです。
恐怖に取り憑かれた群集心理が働くと、人間は正しい物事の判断が付きにくくなってしまうという悪い具体例です。
魔女狩りの真実や特徴8)処刑された実際の数は今も判っていない
魔女狩りは西ヨーロッパを中心に、大陸を超えて行われていた大規模な集団ヒステリー。
そのため、実のところ何人の人間が処刑されたのかについては判明していません。
一つの推定では4万から6万人が処刑されたとありますが、一方では最大で10万人というものがあったり、報告されていない未確認のケースも加えれば、実際はおよそ20万人が魔女のレッテルを貼られて処刑されたのではないかとも言われます。
例えば、アメリカのニューイングランドで起こったセイラム魔女裁判においては、およそ200人が魔女として告発され、19人が処刑、1人が拷問中に死亡し、5人が獄死したという正確な記録が残っています。
しかし、欧州の魔女狩りは非常に混沌として残虐な状況であり、その中で記録に残す間もなく死に至るケースが多かったため、正確な記録は残っていないのです。
人々は密告の恐怖におののき、あちこちでお互いがお互いを非難し合い、公正な裁判が受けられない状況下では、即刻死刑に処されたケースも多かったようです。
加えて、取り調べを受ける過程でも拷問を受け、判決が下る前に死んでしまうケースも多くあったはずです。
それだけではなく、時には暴徒が自分の手で、法の手を借りずに魔女狩りを決行しようとしたという事実もあり、この事を考慮すると、かなり多くの死者が出たことが想像できます。
魔女狩りの真実や特徴9)女性だけではなく男性も対象となった
多くの人が、魔女狩りのターゲットは女性のみだと思っていますが、それは間違い。
確かに女性が対象になることが圧倒的に多かったですが、「男性」や「子供」でさえも魔女狩りの対象となることがありました。
しかし、女性が標的となることが多いというのは厳然たる事実で、これは悪魔と魂を引き換える代わりに不妊治療や、過去の恋人への復讐を願ったり、または単純に、ピューリタン(注)の考えに対する拒絶等の理由から、悪魔と契約を交わす女性が多いと信じられていた為です。
このように悪魔と契約を結んだ女性達は、その目的を達するために魔力を得て、神を信じる人々に災いをもたらすと考えられたのです。
(注釈)ピューリタンとは清潔、潔癖などを意味するpureが語源となっており、「清教徒」という意味でプロテスタントの一派。ピューリタン達は、質素な生活を送って聖書を読み続ければ、人間も純粋になって神に近づけると信じていた。また、彼らなりの「純粋さ」を求めた結果、服装も灰色、黒、白という非常に地味な服を着るなど、「厳格に」質素な生活を送っていた。
魔女狩りの真実や特徴10)動物さえも対象になった
魔女狩りは人間だけが対象とされたと思われがちですが、動物も対象になったという特徴があります。
ここで知っている人はちょっと思い出して欲しいのが、「魔女の宅急便」に出てくる「クロネコのジジ」について。
ジジは主人公のキキが魔女として成長する過程で重要な存在であり、良き理解者でもありました。
実はこれ、当時の西洋で生まれた魔女に関する考えが元になっています。
魔女には「同伴者」としての動物がいることが多く、その動物は「悪魔または悪霊が動物の体を借りた仮の姿」だと考えられていたのです。
つまり、「魔女」とレッテルを貼られた人が飼っていた動物は、人間を監視して惑わし、魔女の僕として行動すると信じられてきたため、魔女狩りが始まってからは、動物達の運命も翻弄されることとなったのです。
また、ペットとして飼われていた動物以外の猫、ネズミ、犬、ウサギ、その他の小動物達も、将来「危険な存在」になる可能性があると考えられて処刑されることもありました。
魔女狩りの真実や特徴11)セイラムの魔女狩りは思春期前のヒステリックな少女達が発端だった
セイラム魔女裁判は、2人の少女が降霊会に参加した結果、奇怪な行動や、ヒステリー発作、制御できない感情など、自らの身に異常現象が起こり、その理由として「悪霊に憑かれた」と医師に診断されたことが始まり。
結果、二人の少女のうちの一人の父であるサミュエル・パリスが、当時使用人として使っていた奴隷「ティテュバ」を疑います。
さらに少女達は、宗教的に厳格な村の年長者たちに罰せられることを恐れ、ティテュバを加えた三人の女性(いずれもセイラム村ではのけ者にされていた)の名前を挙げたため、その三人の女性が魔女として告発されたのです。
少女たちは、自分たちが3人の魔女達によって支配され、その魔力で怪奇現象が起きたのだと主張し、弱い立場にある女性達に罪をなすりつけました。
そうしなければ、少女たちの奇怪な様子はとうてい受け入れられるものではなく、集団による極刑の処罰は免れない状況だったのです。
魔女狩りの真実や特徴12)セイラム魔女裁判は知事(総督)の妻が告発されて終結した
セイラム村での狂乱騒ぎがいつ収束に向かうのか、当時は誰も知りませんでした。誰もが恐れ、誰もが安全ではないと感じながら、毎日を戦々恐々と過ごしていました。
誰かと話をすることも猫を飼うことさえも、魔女と誤解される可能性があったためにはばかられ、村には人への猜疑心と恐怖が蔓延していたのです。
しかし、その時は突然やってきます。
セイラム村も含まれるマサチューセッツ湾直轄植民地の知事(総督)の妻が告発されたのです。
愛する妻が魔女であるとして処刑されるかもしれないと知った知事は、すべての裁判を完全停止するように命令し、セイラム村の魔女狩り騒動は終わりを告げました。
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魔女狩りとは?12の真実と共に欧米で起きた迫害の歴史を確認してみようのまとめ
魔女狩りとは何だったのかについて、12の真実を挙げながら見てきました。
魔女狩りは群衆に恐怖心が蔓延すると、どれだけ人間は正気を失って理解不能な行動に陥るかを確認出来る例です。
恐怖心を感じると、人はそこにないものがあるように見え、普段なら決して言わないようなことを言い、想像もつかないようなことすらやってしまうのです。
魔女狩りはそのような人間の弱さを教えてくれる歴史的な教訓です。
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