ヨーロッパの民族状況について解説していきます。ヨーロッパを4つの地域に分けた場合のそれぞれの主要民族情勢に加えて、5つの少数民族までを見ていきましょう。
ヨーロッパ大陸では昔から、様々な民族が覇権を争って入り乱れ、同地域には非常に複雑な民族的背景が生まれてきました。
そのため、ヨーロッパにおける民族状況を一言で言い表すのはとても困難です。
しかし、ヨーロッパを東西南北の4つの地域へ分け、主要民族に限って焦点を当てていけば、ある程度の傾向を言い表すことが可能になりそうです。
この記事では、ヨーロッパの民族について理解を深めるためにも、東西南北の4つに分けた場合のそれぞれの地域における主要民族状況と、ヨーロッパに住む5つの少数民族の紹介をしていこうと思います。
東西南北ヨーロッパ各地域における主要民族状況
東ヨーロッパ
東ヨーロッパには、大国ロシアに住むロシア人、ロシアの隣りに位置するウクライナに住むウクライナ人、バルカン半島のクロアチアに住むクロアチア人など、その国ごとに人口の多数派を形成している民族集団を挙げることが出来ます。
そして、これら東ヨーロッパに位置する国の多くに住む多数派の人たちは、大枠ではスラブ系民族という共通点を持っていると言えるでしょう。
もちろん例えば、バルカン半島南西部にあるアルバニアの多数派はアルバニア人で、彼らはスラブ系とは異なるイニュリア人の子孫だとされるなど、スラブ系とは異なる民族集団も数多くいます。
しかし、東ヨーロッパにある多くの国は、東スラブ人、西スラブ人、南スラブ人のいずれかのスラブ系民族グループが多数派を占める国であり、東ヨーロッパの主要民族と言えばスラブ系民族だと表現出来るのではないかと思います。
西ヨーロッパ
西ヨーロッパでは歴史の中で、西暦4世紀以降に起こったゲルマン民族の大移動をうけて、それまでこの地域で優勢だったロマンス諸語を話す民族が、ゲルマン民族の諸王国の下に置かれるようになりました。
このような背景から、西ヨーロッパにおける民族状況は、ゲルマン系民族とロマンス諸語民族が民族的背景の主要な根幹を成していると言えるかもしれません。
ベルギーを例に取ってみると、合わせて人口の大多数を占める「フラマン人」と「ワロン人」が主な民族となっていますが、フラマン人はゲルマン語派に属するオランダ語を話すゲルマン系の人々で、ワロン人はロマンス諸語に属するフランス語を話す人々です。
ただし、西ヨーロッパにおいて強大な勢力となった国家が誕生し、そういった国が領土や影響力を他の地域へ拡大していく過程では、他にもケルト人、スラブ人、ラテン人なども入り混じっていったため、実際にはこういった民族の子孫、または部分的にでもこういった民族的背景を持つ人はかなりの数に上るはずです。
北ヨーロッパ
北ヨーロッパと呼ばれる地域に属する国には、狭義の北欧諸国として有名なノルウェー、アイスランド、スウェーデン、デンマーク、フィンランド以外にも、バルト三国、そしてイギリスとアイルランドが含まれます。
そのような背景を踏まえた上で、同地域で最大の民族グループとして名前が挙がるのが「ゲルマン系」でしょう。
例えば、狭義の北欧諸国に関して言えば、フィンランド以外の国における主要民族は全てグルマン系です。
また、イギリスの主要民族であるアングロサクソン人も、同様にゲルマン系の流れを持ちます。
このような理由から、北ヨーロッパの主要民族としてはゲルマン系民族が挙げられるのです。
ただし、エストニア人とフィンランド人はフィン・ウゴル語派の言語を話すフィン・ウゴル系民族の流れを汲む人々としてまとめることが出来たり、イギリスとアイルランドにはケルト系民族も多かったりと、ゲルマン系民族以外にも比較的規模の大きい民族的背景を持った人たちがいます。
南ヨーロッパ
南ヨーロッパには、スペインの多数派を占めるスペイン人、イタリアの多数派を占めるイタリア人、ポルトガルの多数派を占めるポルトガル人などの民族がいますが、これら南ヨーロッパ諸国の多くの国で多数派を占める人々は、大枠ではロマンス諸語を話す民族グループに分類することが出来ます。
そのため、南ヨーロッパの主要民族はロマンス諸語系の民族であると言えるでしょう。
一方で、南ヨーロッパにあるギリシャやキプラスでは、ギリシャ語を母語とするギリシャ人が多数派となるわけですが、彼らはロマンス諸語とは異なるヘレニック語派の流れを汲む人々です。
また、スペイン北部の一地域を形成するバスク地方では、バスク語が話されており、このバスク語は周辺で話されるインド・ヨーロッパ語族の諸言語とは異なる「独立した言語」であることから、バスク人は他のヨーロッパ諸民族とも異なる民族的背景を持った人々だと考えられます。
ヨーロッパのあまり知られていない少数民族5選
ヨーロッパ東西南北4つの地域における主要民族状況を見てきましたが、ここからはヨーロッパに住むあまり知られていない5つの少数民族集団を紹介していきましょう。
ラディン人
(出典:altabadia)
「ラディン」は「ラテン」になんとなく似ていますが、それもそのはずで、ロマンス諸語のレト・ロマンス語群に属するラディン語を話すラディン人は、ラテン語を用いた古代ローマ人の流れを持つ人々だから。
時代を経て、ドイツとイタリアの影響を受けながらも、現在は約2~3万人のラディン人が、イタリア北部の「ドミローティ」一帯に散らばるようにして暮らしています。
氷河が溶け始めた頃にこの地域に住みついた、石器時代の狩人を遠い祖先に持つとされ、現在では多くの人が観光業に従事したり、木製彫刻や絵などの手工芸品で生計を立てながら暮らしています。
マン島人
イギリスが置かれているグレートブリテン島と、イギリスの一部である北アイルランドとアイルランド共和国が置かれているアイルランド島に囲まれた、アイリッシュ海の中央に位置するマン島には、マン島人と呼ばれる少数民族が住んでいます。
マン島人は、紀元前4世紀前後にこの地に住み着いたケルト系民族の子孫で、かつてはマン島語と呼ばれるケルト語派に含まれる言語を母語としていました。
またマン島人は、1000年以上の歴史を有する世界最古の議会立法府「ティンワルド」を今だに存続させている点で、一部では有名だったりします。
サーミ人
サーミ人は、スカンジナビア半島北部ラップランド及びロシア北部コラ半島に居住する民族集団。
ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシアといったスカンジナビア半島の国々にまたがり、数十万人の人口規模を有すると推定されている、フィンランド語やエストニア語と同系統の流れを組む「フィン・ウラル語派」に属するサーミ語を話す人々です。
彼らは1万年以上も前から同地に住んでいると考えられており、ヨーロッパにおける先住民族の1つです。
ちなみに、サーミ人が多く住むラップランドでは、トナカイ飼いが行われていることで知られ、また、この土地はトナカイに乗ってやってくるサンタクロースが住む場所とされることで有名です。
ソルブ人
ゲルマン系が多くを占めるドイツには、スラブ系やケルト系の民族背景を持つ人々もいますが、その中でもスラブ系の流れを組む集団の1つがソルブ人。
(出典:wikipedia)
ザクセン州北東部とブランデンブルク州東部に主に住んでおり、民族全体としての規模は5~6万人ほど。
非常に信心深い民族で、アヒルの羽や蝋、染料をつかって作る美しいイースターエッグの工芸品が有名です。
ただし、近年はソルブ人本来の母語であるソルブ語を話す人の数が減ってきているのに加えて、伝統的な文化の担い手が少なくなりつつあり、ソルブ文化存続の危機だとしてドイツやヨーロッパ政府に支援が求められています。
リーヴ人
(出典:Latvia.eu)
リーヴ人は、ラトビアのクルゼメ半島からエストニアの一部にかけて昔から住む人々で、フィンランドのフィン人やエストニア人と同じように、フィン・ウゴル語派の言語を話すフィン・ウゴル系民族に属する民族集団です。
19世紀には言語や文化が完全に一掃され、20世紀に入るとソビエトの支配下に置かれるなど、近現代においては長年抑圧されていました。
その後、1990年代に入るとリーヴ人をとりまく状況は多少改善され、文化や言語の保護に関する法律が制定されるなどしました。
しかし、最後のリヴォニア語母語話者が亡くなり、民族自体の数も少なく、現在は200人前後しかいません。
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ヨーロッパの主要民族と少数民族を確認してみよう!のまとめ
ヨーロッパの民族について2つの異なる視点から見てきました。
ヨーロッパには異なる民族背景を持つ人々が住んでおり、詳しく見ていくととても興味深い状況になっています。
また、あまり知られていないヨーロッパに住む少数民族の中には、昔から同地に住んでいた集団がいたり、数は少ないものの独特な文化を守り続けたりしているグループもあったりと、とても興味をそそります。