スラブ人とは?スラブ民族の特徴から東西南スラブの関係に関する議論

スラブ人とはどのような民族集団のことを指すのでしょうか?また、東、西、南に広がったスラブ人達は、それぞれどのような遺伝的、文化的関係にあるのでしょうか?スラブ人について掘り下げていきます。

ロシアやポーランド、他にもチェコやクロアチアなどの言葉を聞いていると、似たような単語や発音が多く含まれていることに気づきます。

というのも、彼らは民族的に「スラブ人」に分類される人々で、共通する「スラブ語派」に属する言語を話すから。

スラブ人は東欧を中心に、東、西、南へ分布しており、ヨーロッパの三代民族ゲルマン民族、スラブ民族、ラテン民族)の一つでもあります。

では、このスラブ人の特徴とはどのようなものなのでしょうか?また、スラブ人の起源や、東、西、南へ広がったスラブ人達の関係性とはどのようなものなのでしょうか?

「スラブ人」と一言で括るだけでは分からないスラブ人達について、スラブ人を定義することから始め、その後、スラブ人についてさらに理解を深めるために、各スラブ人の関係性を遺伝的、そして文化的な観点から議論していきたいと思います。

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スラブ人とは?

スラブ人(スラヴ人:Slavs)とは、インド・ヨーロッパ語族バルト・スラヴ語派の中でも、スラヴ語派に属する言語を話す人々のこと。

ユーラシア大陸全体に広く分布しており、現在は南東ヨーロッパから中欧、そして東欧を中心に居住地を構えますが、他にもコーカサス地域や中欧アジア、そして東はシベリアまで分布しており、外見的にはコーカソイド人種の特徴を共有しています。

一方で、言語学的な理由からスラブ人と一括りにされることが多いものの、一つの民族を指すのではなく、実際はスラブ語派の言語を話す複数の民族集団を指す点は注意が必要。

つまり、言い方を変えれば、「スラブ人」とは、

  • スラブ諸語を使う人々の総称

であると定義付けることが出来ます。

また、スラブ人はその地理的な位置と、言語の近親性の度合いによって、以下のように3つのグループ(東スラブ・西スラブ・南スラブ)に分類することが一般的です。

東スラブ人西スラブ人南スラブ人
ロシア人スロバキア人
南西スラブ人
スロベニア人
ウクライナ人チェコ人クロアチア人
ベラルーシ人シレジア人セルビア人
ポーランド人モンテネグロ人
カシューブ人ボシュニャク人
ソルブ人
南東スラブ人
ブルガリア人
マケドニア人
ポマク
ゴーラ人

さらに、場合によっては東スラブ人と西スラブ人をまとめて「北スラブ人」と分類することもあります。

スラブ人と言う名前は「奴隷」が起源?

ちなみに、スラブ人を英語で表記する場合「Slavs」となり、これは英語で「奴隷」を意味する「Slave」と近いことから、長年、スラブ人の「Slavs」は「奴隷」だった過去に由来していると言われてきました。

例えば、

  • 「スラヴ」という言葉がギリシャ語に組み込まれた際に「奴隷」という意味となり、また、当時のギリシャではスラブ人も含めた他民族を戦利品として奴隷として扱っていたため、このことがスラブ人の「Slav」になったのではないか。
  • 955年にドイツのオットー大帝がマジャール人を討った際、その地にいたスラブ人を捕らえて奴隷として売ったことから、「スラヴ」が「奴隷」と同じ意味に使われるようになったから

(参照:wikipedia & 世界史の窓

といった仮説です。

しかし一方で、この主張に対して異を唱える研究報告もあります。

それは、紀元前6世紀頃のギリシャ人作家達は、スラブ人達のことを、

those “who cannot be forced into slavery or subjugated in their own country.”

奴隷にすることが出来ない人々、または、我々の国に服従させることが出来ない人々

(引用:RUSSIA BEYOND

と描写しているため、論理的に考えると

  • 「奴隷にすることが出来ない人々」「奴隷」

となり、スラブ人が奴隷と言う言葉に由来するとは考えにくいといったものです。

このような主張を基にすると、むしろスラブ人の「Slavs」と奴隷の「Slaves」は、偶然に似たような音を持つ単語となっただけ、つまり、同音異義語」に近い状況にあると考えた方がより自然だとされるのです。

そして、同主張において、スラブ人の「Slavs」の語源は、以下のような可能性が示唆されています。

  1. スラブ語の「slovo」が由来では?
    • slovoは英語の「word(言語・言葉)」の意味
  2. 古代インドヨーロッパ語の「slauos」が由来では?
    • slauosは英語の「people(人々)」の意味

スラブ人の起源や東・西・南スラブ人の関係を探っていこう

スラブ人の定義ならびに基本的な概要について見てきましたが、スラブ人についてさらに理解を深めるためにも、ここからはスラブ人の起源や、東、西、南に分けられるスラブ人達の関係について、異なる視点から探っていきたいと思います。

スラブ人の民族移動と各スラブ系言語の出現

紀元1千年紀(西暦1年から1000年の間)、ヨーロッパの大部分は民族移動の時代に突入していました。

西ローマ帝国は国内に抱える問題と蛮族の侵攻により危機にさらされた結果、紀元300年~500年の間、ゴート族、バンダル族、アングロ族、サクソン族などのゲルマン民族が、西ローマ帝国の領土の大半を支配下に置きました。

そして、紀元500年から700年にかけては、スラブ人をはじめとする他の民族が、ゲルマン民族を西方へと追いやった時代でした。

このような時代において、元々はカルパティア山脈(中欧・東欧にまたがる全長約1500kmの山脈)北のヴィスワ川(ポーランドからバルト海へ注ぐ川)からドニェプル川(ロシアから始まって、ベラルーシを経てウクライナに流れ黒海に注ぐ川)にかけての一帯で、狩猟・農耕生活を行っていたらしいスラブ人が、およそ紀元500年から1000年頃の間にヨーロッパを横断する大移動を行ったと考えられます。

(出典:wikipedia

そして、このスラブ人の大移動は、

  • 中央ヨーロッパ~西ヨーロッパ地域
    • ゲルマン語派の民族グループが影響を受ける
  • 東ヨーロッパ
    • それまでバルト族、フィン・ウゴル語族、トルコ系民族が支配していた地域がスラブ人の大移動により影響を受ける
  • バルカン半島
    • 多様な言語系統の民族グループが影響を受ける

といったように、それぞれの地域に住んでいた民族に影響を与える一方、スラブ人並びにスラブ系言語も、それぞれの地域に居住していた民族の影響を受けながら広がっていったようなのです。

このような移動の中で、スラブ人達のスラブ語の言語学的再構築が起こります。

(出典:pinterest

つまり、スラブ系言語が東方、西方、そして南方と広がって多様化し、どうやら西暦500年前後には、さらに発展した個々のスラブ語系言語(または方言)が出現し始めたようなのです。

遺伝子で見るスラブ人達

ヨーロッパのスラブ化、つまり、ヨーロッパにおいてスラブ語圏が広く広がった現象は一方で、「各地に散らばったスラブ人達は未だに人種的に近いのか?」という問いに関しては明確な答えを出しません。

と言うのも、言語的には同じ「語族」に分類されるスラブ人達であっても、ヨーロッパ各地に広がってから今日まで、各地で異なる民族と交わることもあれば、人種に関係なく言語だけが主に広まった場合もあったと考えられるからです。

そこで、2015年に発表されたバルト・スラブ語族派に属する人々の遺伝子を研究による発見を元に、この疑問に対する答えの仮説を立てていきたいと思います。

この研究は、バルト・スラブ語派の民族と、彼らの3種類の遺伝システムにおける変異に焦点を絞った初のゲノムスケール研究で、その焦点となった遺伝システムとは、

  1. Y染色体(父系性)
  2. ミトコンドリアDNA(母系性)
  3. 常染色体性

の3つ。

この研究による結果としては、以下のようなことが判明したのです。

  • 東・西・南スラブ人には共通の祖先または少なくとも共通した遺伝子がある
  • 東スラブ人と西スラブ人の大半は遺伝的同質性が極めて高い
    • 東スラブ人は遺伝学的に最も同質性が高い
    • 西スラブ人は東スラブ人にくらべると多少の分化が進んでいる
  • 南スラブ人は東西スラブ人間と比較した場合より同質性ははるかに低い
    • 地理的に居住範囲が狭いバルカン半島に限定される南スラブ人は、内部での分化が進んでいるようだ
  • 東西スラブ人は南スラブ人よりも近隣のバルト語派民族やエストニア人との方が遺伝的近縁性が高い

そして、「東西スラブ人(北スラブ人)は南スラブ人より近隣諸民族との遺伝的近縁性が見られる」という点や、その他の発見を基に考えた場合、実はスラブ人と一括りに言っても、

  1. 同じ祖先を持っていたとしても北スラブ人と南スラブ人は人種的には比較的遠い人々
  2. 現在のスラブ人の広がりは人種的(または物理的)というよりも、より言語的(または文化的)なものである

といった結論並びに仮説を導き出せます。

つまり、「スラブ語圏」並びに「スラブ語派に属するスラブ人の広がり」における主要なメカニズムは、その土地に住む民族が物理的に入れ替わったことによるものではなく、どちらかと言えば、言語による文化的な広がりによるものであったことが分かるのです。

ただし、言語的に同じ、あるいは近親関係にある民族同士は文化的にも近いと思い込みがちですが、スラブ語派民族の中では、言語以外の物質文化が大きく変化してきた可能性もあり、言語以外の文化が必ずしもスラブ人の間で共通しているという意味ではない点は忘れないようにしてください。

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スラブ人とは?スラブ民族の特徴から東西南スラブの関係に関する議論のまとめ

スラブ人についてその定義から始まり、東、西、南に広がる人々の関係性について見てきました。

スラブ人はあくまでも、スラブ語派に属する言語を話す人々を、「言語的枠組み」で分類したのであり、人種的には特に「東西スラブ人(北スラブ人)」と「南スラブ人」の間には少し距離があるかもしれない点については覚えておきましょう。

また、その名前の由来についても、一般的に言われる「奴隷が起源である」という認識は、確実なものではなく、見方を変えれば「差別的」にも聞こえるので注意が必要です。

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