ネネツ族(ネネツ人)|ロシア先住民の一つでトナカイの民と知られる人々

ネネツ族(ネネツ人)について見ていきます。ロシアに住む先住民の1グループで、トナカイに依存した生活を送っていることで有名です。

ネネツ族またはネネツ人と呼ばれるロシア先住民の1グループを知っていますか?

トナカイの民として知られる人々で、特有のトナカイに依存した生活や、昔から全く変わっていない生活などが、人類学的観点から非常に興味深いのです。

また、ロシア先住民の1グループといってもイメージする白人系ロシア人とは違い、モンゴロイドに分類されるため、目鼻立ちが似ている点で日本人の中には親近感を覚える人もいるかと思います。

そのネネツ族(ネネツ人)について、生活や宗教、トナカイとの関係などを見ていきましょう。

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ネネツ族(ネネツ人)とは?

ネネツ族またはネネツ人とはロシア極北地方に暮らし、伝統的にトナカイ遊牧を営むロシア先住民族の1グループ。

ネンツィー(Nentsy)、ユラク(Yurak)、ユラク・サモエード(Yurak-Samoyeds)と呼ばれることもあり、フィンランド語と関係のあるネネツ語を操り、人種的には日本人と同じモンゴロイドに属しています。

伝統的な暮らしをしているネネツ人は、トナカイの皮で作った衣服を身につけ、トナカイの肉を食べ、トナカイの血を飲み、気温がマイナス50度になる冬であっても、トナカイの皮と手作りの支柱によるテントの中で眠る生活を送るなど、トナカイとは切っても切り離せないのが最大の特徴。

実際に、ネネツ族はロシアにいるトナカイの約3分の1を飼育しているとされているほどです。

ネネツ族(ネネツ人)とトナカイ

ネネツ族は伝統的に、ほとんどすべてのものをトナカイに頼っていると言っても過言ではないかもしれません。

トナカイにソリを引かせ、毛皮を衣服やテントに使用し、肉を食べることで、ネネツ人は彼らのアイデンティティを保っているのです。

他にも以下のような形でトナカイはネネツ人の生活を支えています

  • 生まれたばかりの赤ちゃんと死亡した人々はトナカイの皮に包まれる
  • トナカイの骨はボタンとナイフの柄に使用される
  • トナカイの腱は糸として使用される
  • トナカイの暖かい皮は、ボート、レギンス、帽子、その他の衣類に使用される

さらに最近では、トナカイの枝角を粉末にしたものが媚薬や漢方薬として、一部のアジアの国で使用されることもあり、トナカイの枝角を売って外貨を稼ぐことも行っているようです。

ちなみにトナカイの肉は、冷凍庫として使われている木製の棚に保管されます。ネネツ人にとって新鮮なトナカイの肉はごちそうであり、生で食べるのを好みます。

居住地域によって分類されることもあるネネツ族(ネネツ人)

ネネツ人の集団は、ツンドラ地帯、タイガ(森林)地帯、山地といった居住地域によって分類されることがあり、主に「ツンドラネネツ」と「森林ネネツ」の大きな2グループに分けることが一般的。

(ツンドラ地帯にいるトナカイ)

ツンドラネネツは、西の白海に突き出したカニン半島から東のタイミル半島にかけての約2000kmのエリアに暮らしており、森林ネネツ人は、オビ川中流域のタイガ地帯に暮らしています。

さらに面白いことに、民族としては同じネネツに分類されるものの、このツンドラネネツと森林ネネツが話す言語はそれなりに大きな差異が認められるため、別言語とされることもあったりします。

人類学的視点から興味をそそるネネツ族

そして、このネネツ族(ネネツ人)は、人類学者の関心を引きつけて止まない民族であると言えます。

1994年に発見された約1000人のネネツ人集団は、外の世界との接触がほぼ無く、8000年前の遺跡で発見されたものと全く同じと言っていい道具やそりを使っていることが分かり、多くの人類学者から注目されるようになったのです。

他にも、生活様式、習慣、そして文化も、遺跡から見つかったものと似ているとされ、古代の人々の生活を現在に伝える数少ない民族であると考えられます。

また、上記のネネツ人グループとは別のネネツ人の中にも、ソビエト連邦やロシアについて全く知らない人が確認されており、近代以降の国家や世界の影響を受けていない貴重な民族でもあるのです。

※ただし多くのネネツ人は、現代的な生活を一部取り入れながら生活しています。

ネネツ族(ネネツ人)の生活

遊牧民としての生活

ネネツ人の中には、永久凍土層の上に樽型をした住居を設置して定住し、主に漁業に従事してたり、農業を営んだり狩猟をして生活するものも存在しますが、1万〜3万5000人のネネツ人は、恒常的または一時的なトナカイ遊牧の生活を続けていると言われます。

しかも、その遊牧の移動のために多くのネネツ人は、現代であってもスノーモービルを使うことなく、伝統的なルートをトナカイと一緒に歩き、自分たちの文化を守っているのです。

また、ネネツ人はその歴史の中で100ほどの氏族に別れてきたとされ、それぞれの氏族に独自の神話や共通の祖先に関する物語、口承文学や叙事詩、そしてルールや習慣などを持っている点も面白い特徴です。

典型的なキャラバンの様子

トナカイ遊牧民であるネネツ人は、通常、キャラバンを組むわけですが、そのキャラバンの様子を簡単に見ていきましょう。

まず、典型的なキャラバンは、

  • 約20人の大家族
  • 数百頭のトナカイ
  • 数十匹の犬
  • 50~80台のソリ
  • テントの支柱
  • 新鮮な肉
  • 冷凍食品
  • 鉄製ストーブや鍋などの調理器具
  • トナカイの皮
  • その他のアイテム

から構成されており、移動する際、大きなキャラバンだと、縦に1km以上に広がることもあります。

そして、1日の移動はおよそ10kmとなり、夕暮れ時からキャラバンの女性によってチュームの設置が始まり、夜になると皆、チュームの中で休み始め、寒い時期には真ん中に鉄製ストーブを設置して暖をとります。

また、移動においては冬の雪の中では重めのソリを、夏の大地の上では楽に引っ張れるように軽めのソリが使用され、トナカイもしくは犬を借りて引っ張っていきます。

トナカイの飼育の様子

飼育しているトナカイの中でも特にソリを引っ張るためのトナカイは、群れからはぐれてしまわないように、他のトナカイや動物が自由に放牧されている間も基本的にはチュームの近くに繋がれています(万が一はぐれてしまうと1日の大半を使って、ネネツ人男性がトナカイを探すことになるようです)

一方で、それ以外のトナカイをコントロールする際は、犬、投げ縄、声、棒、または自身の力を使うことになり、トナカイを管理するための所定の場所へ誘導していくのです。

ちなみに、トナカイを遊牧するネネツ人のグループは他にもいるため、ネネツ人はトナカイの耳に切れ込みを入れ、自身のキャラバンのトナカイとその他のトナカイとを区別することが多いようです。

ネネツ族における男性と女性の役割

ネネツ民族の中では、男性と女性の役割は明確に分かれていると言えます。

まず、ネネツ人の男性は伝統的にトナカイの世話をしたり、カラマツの木から遊牧生活に必要なソリを作ったりしてきました。

一方で、テントを設置したり子供の世話をしたり、食事の準備をするのは女性の仕事です。

そして、女性に関しては様々なタブーもあるとされます。

例えば、女性が男性の持ち物の上を歩くと男性の力が奪われてしまうといったものです。

ネネツ族の人たちが住む家

現在、ネネツ人の多くは、少なくとも一年のいずれかのタイミングで、ロシアスタイルの木材住宅やログハウスで過ごすようですが、それ以外の時間は、伝統的なチューム(chum)というテントで過ごします。

チュームは25から60の支柱で支えられて円錐形(典型的なサイズは直径5.5m、高さ6mほど)をしており、冬には縫製されたトナカイの皮で覆われ熱が逃げないように、夏には特別に用意された樺(カバ)の樹皮で覆われて涼しくなるように工夫されています。

また、典型的なチュームでは、人間7人と犬10匹が収容可能です。

そしてチュームの中では、炉床(ろしょう)として機能する鉄版、または鉄製のストーブが床の真ん中に置かれており、これによって寒い時期にも暖を取れるようになっており、煙はテントの上部にある穴から排出される仕組みです(なかには厚みのあるプラスチック窓が付いているチュームもある)

※チュームに必要な支柱やカバーなどは、トナカイのソリで運べるため遊牧生活に支障をきたすことはないようです。

ネネツ族(ネネツ人)の服

ネネツ人が暮らす地域は特に冬は極寒になるため、衣服にも特徴があります。

ネネツ人はパルカと呼ばれる主にトナカイの毛皮で作ったコートを着用しており、2層になっていることが多く、毛皮が身体の内側を向いている内側の層と、毛皮が身体の外側を向いている外側の層があります。

また、トナカイ以外にも、他の哺乳動物、例えばホッキョクギツネ、様々なアザラシ、リス、飼い犬も衣服の材料として使用されることがあります。

ネネツ人の宗教

ネネツ人の宗教には、シベリアの他のシャーマニズム宗教との共通点が数多くあります。

シャーマンにはいくつかの種類があり、木製の偶像に宿る精霊に祈り、魚やトナカイの肉を捧げるのです。

また、ネネツ人は自然崇拝とも言える宗教観(または考え)を持っていると言えるかもしれません。

例えば、ツンドラ地帯での厳しい暮らしは、空の神ヌン(善の力)と、地下の神ンナ(悪の力)との戦いを映したもので、この戦いによって季節は移り変わるとする考え。

つまり、善の力を持つヌンが優っているときが夏で、悪の力を持つンナが強いときが冬なのです。

他にも、例えば月は単純に美しいものではなく、毎月、自分たちの暮らしに横槍を入れ、生き方を支配する存在とも考えられているようです。

このように、ネネツ人の宗教観は、シャーマニズムや自然崇拝に近いものであると考えられます。

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ネネツ族(ネネツ人)|ロシア先住民の一つでトナカイの民と知られる人々のまとめ

ロシア極北部に住む先住民族の一つネネツ族は、とても独特な生活様式を現在まで維持している世界的にも貴重な民族。

しかし、ヤマル半島は世界最大の天然ガス埋蔵量を保有していると言われ、その石油とガスの調査や採掘、必要なインフラの整備などによって、伝統的な移動経路が阻害されるなど、ネネツ族の貴重な伝統が脅かされているといった問題にも直面しています。

ネネツ族は資本主義世界において、人類の貴重な伝統を破壊してまでも利益を追求すべきなのか、考えさせてくれる人々でもあるのです。

世界のことって面白いよね!By 世界雑学ノート!

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