アインシュタインの脳の違いとは?脳の大きさは一般人と違うのか?アインシュタインの脳の違いや、アインシュタインの脳研究の歴史までを見ていきたいと思います。
「現代物理学の父」や「20世紀最高の物理学者」と呼ばれるアルバート・アインシュタインは、人類史上においてさえ、最も知力の高い人物の一人だと言われることがあります。
アインシュタインは、抽象的なアイデアを頭の中だけで考える「観念的な思考」がとても得意だった人物であることは疑いの余地がなく、彼の発表した特殊または一般相対性理論は、それまでの宇宙や時間に対する概念を変えたのです。
例えばアインシュタインは「時間は相対的だ」と言いましたが、これはつまり、人によって時間の流れる速度は違うということです。
こうしたことを考えたのはアインシュタインが最初でした。
もう一つ、アインシュタインはそれまでの科学者が持っていた重力に対する解釈を変え、結果として空間の構造に関する我々の考え方をも変えました。
簡単にいえばアインシュタインは「物質によって空間がゆがむ」と言ったのです。
この高い抽象的思考を生み出したアインシュタインの脳は一旦全体、他の人たちと何が違っているのでしょうか?
この記事では、まず結論としてアインシュタインの脳の違いを簡単にまとめていき、これら違いが発見されるキッカケとなった「アインシュタインの脳が盗まれた事件」から、近年まで続いている研究の進捗について、時系列で追いながら見ていこうと思います。
アインシュタインの脳の違いまとめ
優れた抽象的思考を得意としたアルバート・アインシュタインの脳は、一般的な人々の脳と比べて以下のような違いがあるとされています。
- 2箇所でグリア細胞の数が異常に多い
- 神経系(注1)を構成するグリア細胞(注2)が、神経細胞に対して異常に多く見られる箇所が2つ存在する
- 前頭葉で見られるシワが少ない
- シワが少ない特徴は、アインシュタインの3次元で物事を考える高い能力や、数学的能力と関連があるのではないか?と考えられる
- 前頭前皮質に複雑な渦状の珍しい模様がある
- 前頭前皮質は脳内の抽象的な思考をつかさどる
- 時空の本質に関するアインシュタインの独創的な発見に関係している可能性がある
- (注釈1)神経系とは主に神経細胞(ニューロン)の連鎖によって作られる神経を通して、外部の情報の伝達と処理を行う動物の器官
- (注釈2)グリア細胞とは神経系を構成するが神経細胞ではない細胞
アインシュタインの脳の大きさの違い
また、アインシュタインの脳の大きさに関しては、ある意味で逆説的な違いがあることが分かっています。
一般的には、脳のサイズが大きければ大きいほど優れていると考えられがちですが、その基準に当てはめるとむしろアインシュタインの脳は逆説的になるのです。
その大きさとはなんと1230g。
これは、成人男性の平均的サイズである1350〜1500gと比べるととても小さく、女性の脳の平均サイズである1200〜1250gの範囲に収まる程度でした。
アインシュタインの脳研究の歴史を追っていこう!
アインシュタインの脳の違いについて見てきたところで、ここからは、彼の脳研究の歴史を追っていきたいと思います。
アインシュタインの脳が盗まれた!?
稀代の大物理学者アインシュタインが1955年4月に腹部の大動脈瘤でこの世を去ると、彼の脳が盗まれるという事件が勃発しました。
アインシュタインは生前、自分が死んだら遺体を全て火葬にして欲しいと自らの意思を表明していたにも関わらず、火葬されることなく解剖され、その際に脳が取り除かれ、この後、アインシュタインの脳は23年もの間、行方不明になってしまうのです。
脳を盗んだ犯人はトーマス・ハーヴィーだった
アインシュタインの脳を盗んだのは、アインシュタインが1955年に亡くなった当時、プリンストン病院で働いていた病理学者のトーマス・ハーヴィー医師でした。
ハーヴィーは医学的研究のため、アインシュタインの希望を無視して大物理学者を検死することに決め、その検死中に、アインシュタインが世紀の発見をする上で核となった脳を研究するために、彼が死んでからわずか8時間後に脳を取り出して盗み出したのです。
そして、その脳を数ヶ月のうちに240個に分割した後、その1つ1つから組織サンプルを採取して顕微鏡のスライドグラスに乗せ、それらを世界中の高名な神経病理学者に配ったのでした。
このようにしてアインシュタインの脳研究は始まったのですが、詳細な研究が世にでてくるのには30年以上がかかりました。
また、ハーヴィー自身はホルマリン漬けにしたアインシュタインの脳を23年に渡り、ビールの保冷箱、クッキーの瓶、密封容器などに入れ、自宅の地下室に脳を隠してきました。
アインシュタインの息子から了承を得ることに成功したハーヴィー
アインシュタインの脳が盗まれた事実をアインシュタインの家族が知った時、当初は非常に怒っていました。
しかし、その後に交渉を重ねていく中で、アインシュタインの息子ハンス・アルバート・アインシュタインは、医学的研究のためならという条件付きで、しぶしぶ脳を返す必要はないと了承したのです。
とはいえその後、肝心の研究は全く進まずに数年が過ぎ、そして数十年が過ぎていきます。
この過程では、ロシアを出し抜くために研究に使いたいと考えたアメリカ軍が、ハーヴィーに脳を引き渡すように交渉していますが上手くいかず、結局、アインシュタインの脳は、カンザス州にあったハーヴィーの自宅で保存されたままでした。
ちなみに、アインシュタインの脳の一部を欲しいと頼んできた人に対してハーヴィーは、包丁で少し切り落として郵送したことすらあったと言い、また、1994年に日本のアインシュタイン研究者で近畿大学の教授だった故杉元賢治氏が訪れた際には、その一部を渡しています。
1978年に事態が動いた
アインシュタインの脳を取り巻く状況に変化が現れたのは、ジャーナリストのスティーブン・レヴィー氏が1978年にハーヴィーを訪ねてからです。
彼が書いたアインシュタインの脳に関する記事によって、それまで行方不明となっていた脳に関して世間一般にも知られるようになったのです。
また、この時を境にしてハーヴィーは、アインシュタインの脳の秘密を解き明かすために、亡くなったアインシュタインの友人であった神経病理学者のハリー・ジマーマンの力を借りて研究を始めました。
特に、ハーヴィーは神経学者ではなかったことから、初めから到底自身の手に負えるものでないことは分かっていたようで、それも、ジマーマンの力を借りた大きな理由となったと考えられます。
しかし、その後、ジマーマンは何の予兆もなく姿を消してしまい、ハーヴィーによる研究は行き詰まってしまいました。
80年代・90年代の研究では特筆するような結論は出なかった
ジャーナリストのスティーブン・レヴィーによる記事によって一般的にもアインシュタインの脳が知られることになると、ハーヴィーだけでなく他の研究者達によっても数々の研究が行われていくようになりました。
特に、1980年代と1990年代は最も研究が盛んだったと言えるでしょう。
1985年には、アインシュタインの脳の特徴として、グリア細胞が神経細胞に対して異常に多く見られる箇所が2つあるという研究が発表されました。
また、それから10年後には、アインシュタインの脳では通常頭頂葉で見られるシワが少ないことが判明。
当時の科学者らは、シワが少ない特徴は、アインシュタインの3次元で物事を考える高い能力や、数学的能力と関連があるのではないかと考えました。
しかし、この時点でこれらの研究は、凡人とアインシュタインの違いを説明するにあたって、何か特筆するような結論を導き出すことが出来ていませんでした。
2012年に雑誌「ブレイン」に掲載された新たな発見
21世紀に入った2012年のこと、雑誌「ブレイン(Brain)」に、フロリダ州立大学の進化人類学者「ディーン・フォーク(Dean Falk)」氏によって率いられた研究により、アインシュタインの天才的な能力を引き出した可能性を示唆する、脳に関する新たな発見が発表されたのです。
実はあまり知られていませんが、アインシュタインが亡くなった直後に解剖を行ったハーヴィーは、脳を取り出してホルマリン漬けにしただけでなく、脳の白黒写真を大量に撮影していました。
そしてこの点に着目したフォークは、アインシュタインの脳を研究するにあたって、これまで詳しく分析されたことのなかった、死後直ぐに撮影された脳の写真を研究へ取り入れることを決定。
アインシュタインの脳を異なる角度から撮影した12枚の写真を入手した研究チームは、他の研究で用いた85の脳と比較して分析していきました。
その結果、一般的な人の脳と比較するとアルバート・アインシュタインの脳には、ある部位に特徴的な違いがあることが分かったのです。
その特徴的な違いとは、
脳内の抽象的な思考をつかさどる前頭前皮質に複雑な渦状の珍しい模様がある
というものでした。
そして研究チームは、この脳の構造の違いこそが、時空の本質に関するアインシュタインの独創的な発見に関係している可能性があると結論づけたのです。
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アインシュタインの脳の違いと大きさから盗まれた事件とその後の研究のまとめ
宇宙の起源、原理、運命を予言し、ニュートン力学を始めとしたそれまでの科学の常識を覆したアインシュタインの脳に関して、違いから、その研究に関する歴史までを見てきました。
ちなみに、アインシュタインの脳を盗んだハーヴィーは2004年に亡くなり、現在、アインシュタインの脳はペンシルバニア州のムター医療博物館に展示されており、訪れた人は実際に目で見ることができます。
興味があれば訪れてみると良いかもしれません。