フランスの宗教|カトリック教徒や他の宗教割合から現在の状況まで

フランスの宗教状況を見ていきましょう。カトリック教徒が比較的多いものの、その割合は過去数十年の間に縮小し、現在は無宗教割合が増えているなど世俗化が非常に進んでいます。

フランスが持つ歴史は「現代世界史の幹」とも表現されるなど、近現代のヨーロッパが形成されていく上で、フランスは非常に大きな影響を与えてきました。

このように、ヨーロッパになくてはならない国として存在してきフランスは、他のヨーロッパ諸国と同じく、キリスト教が主な宗教であるという宗教的特徴を持ちます。

一方で、歩んできた歴史によって、フランスは他とは異なる宗教状況も抱えています。

この記事では、そんなフランスの宗教について、現在の状況や各宗教の割合などを見ていこうと思います。

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現在のフランスにおける宗教状況と各宗教の割合

西ヨーロッパ諸国の中にはキリスト教のカトリックの影響を強く受けている国が複数見つかりますが、フランスもまた「カトリック文化の国」であることは否定出来ない事実。

実際、フランス国内には他のどんな宗教や宗派に属する人々よりもずっと多くのカトリック教徒がいます。

カトリック文化の国ではあるが年々カトリック教徒は減少している

一方で、フランスの国籍を持つ人の大多数が「自らをカトリック教徒である」と考えていた時代は、今となってはずっと昔のこととなってしまいました。

というのも、1986年には人口の80%以上が自らをローマ・カトリック教徒と考えていたものの、その割合は年々減っていき、2001年には69%、2010年には64%、そして2017年に実施された調査によると47.4%、つまり全人口の半分弱にまで落ち込んでしまったからです。

さらに、日曜日に行われる教会でのミサに参加する人たちの割合は全人口のわずか5%ほどで、言い換えれば、カトリック教徒全体の10%程度。

これはカトリック文化圏の国としては非常に低い参加率となっているのです。

「ライシテ」が大きく影響を及ぼした可能性

そして、このカトリック教徒の減少の主な原因は、現在のフランス共和国のアイデンティティの基礎の一要素ともなっている「ライシテ」の影響だと考えられます。

ライシテとは、

フランスにおける教会と国家の分離の原則(政教分離原則)、すなわち、

  1. 国家の宗教的中立性・無宗教性
  2. および(個人の)信教の自由の保障

を表わす

とされるもので、これによって「フランスにおける宗教の立場や役割は、例えばイギリスやアメリカ等と比べると、日常生活の中で限られている」と言える状況となっているのです。

具体例を挙げると、イギリスやアメリカでは、しばしば宗教指導者がいる中で政治家たちが写真を撮られたり、イギリスでは大きな国家行事が宗教儀式によって特徴付けられることがありますが、フランスではそうではありません。

さらに、フランスの教育分野において宗教とそれにまつわる事柄は、しばしばタブーなテーマであると考えられてきました。

そのため、子どもに宗教教育を受けさせたい場合、親は放課後に宗教教育を受けさせるか、もしくは私立学校(多くはカトリック教会によって運営されている)に子どもを通わるのが一般的です。

このように、フランスのアイデンティティに強く根付くライシテによって、国家もその原則に従い、いわゆる世俗主義的な考えが一般社会に受け入れられていった結果、元々はカトリック教徒の割合が人口の80%近くを占めていたものの、現在は半分弱にまで減ってしまったと考えられるのです。

フランスにおけるカトリック以外の宗教状況と各宗教の割合

フランス国内にはまた、カトリック教徒以外のキリスト教宗派や、他の宗教を信仰する人々ももちろんいます。

上述したPew Research Centerの調査によると、2017年の時点でフランス人口の54.2%にあたる人々がキリスト教に属し、47.4%のカトリック以外は、2.2%のプロテスタント教徒と1%の正教徒、そして、3.6%のその他の宗派を信仰する人々に分かれます。

また、キリスト教徒の次に多いのがイスラム教徒(ムスリム)達で、フランス全体の人口に占める割合は5%。

さらには、0.4%を占めるユダヤ教徒と、その他の宗教を信仰する人々が1.4%ずつとなっています。

一方で、宗教的にはどこにも属さないとする「無宗教」の人々が37.8%存在し、そのうちの24.8%は無神論者であり、4.8%は人間は神の存在を証明することも反証することもできないと唱える不可知論者、そして8.2%は「特に何もない」と答えています。

そして、同調査によると残りの1.1%は無回答でした。

フランスにおける各宗教の割合

上記に説明した各宗教割合を簡潔に示すと以下の通りです。

  • キリスト教54.2%
    • カトリック:47.4%
    • プロテスタント:2.2%
    • 東方正教会:1%
    • その他の宗派:3.6%
  • イスラム教5%
  • ユダヤ教0.4%
  • その他の宗教1.4%
  • 無宗教(宗教的にはどこにも属さない):37.8%
    • 無神論者:24.8%
    • 不可知論者:4.8%
    • 特に何もない:8.2%
  • 無回答1.1%

(参照:Pew Research Center, 2017

フランスにおける主な宗教グループについてもう少し見ていこう

今日のフランスにおける宗教状況から、各宗教の割合までを見てきましたが、ここからはフランスにおける主な宗教グループについて、もう少しだけ見ていきたいと思います。

フランスの宗教グループ①:キリスト教

全ての宗派を合わせた場合、フランスではキリスト教徒が未だに人口の過半数を占め、他の宗教グループと比較するとその数は圧倒的に多いこともあり、フランスはキリスト教国家と見なされます。

そして、中でもカトリック教徒がキリスト教徒全体の約85%を占めるのが特徴です。

そんなフランスにおけるカトリックは、西暦466年頃から511年までに実在したメロヴィング朝フランク王国の初代国王「クロヴィス1世」が洗礼を受けた時に起源を遡るとされ、11世紀頃には現在のフランスにあたる地域にも大きな影響力を持っていました。

ちなみに、フランク王国は現在のフランス、イタリア北部、ドイツ西部、オランダ、ベルギーなど、西ヨーロッパの相当な範囲を占める大王国でした。

一方で、他の西洋諸国にはプロテスタントが主流となっている国もありますが、フランスはそうではありません。

これは、1534年に檄文事件(げきぶんじけん)(注1)が起きると、当初はカトリックからプロテスタントへの分離を促す宗教改革運動に寛容だった当時のフランス国王「フランソワ1世」がプロテスタントを脅威だと感じ始め、プロテスタントを弾圧・迫害したことに依ります。

結果、現在はカトリックがフランスの国中に広まっているのに対し、プロテスタントはほぼ、フランシュ=コンテ地域の北部、アルザス、セヴェンヌ山脈の一帯に限定されることとなりました。

(注釈1)檄文事件とは、「教皇のミサの恐るべき、重大な、耐えがたい弊害について真正な諸箇条」と題する檄文が、パリやオルレアンなどの諸都市に張り出された事件。教皇のミサ、とくに聖餐論における化体説を非難するものであったものの、檄文はアンボワーズの宮殿内のフランソワ1世の寝室の扉にも張られていたため、国王の激怒を招く結果となった。

フランスの世俗化の流れについて

上で説明したような理由から、過去の長い歴史の中で、フランスはヨーロッパにおける「カトリック」の主要国の1つとなってきました。

またその後、イギリス、スイス、ドイツやスカンジナビア地域のヨーロッパ諸国がプロテスタントを採用した一方で、フランスはカトリックを主な宗教として維持してきました。

しかし、1789年のフランス革命を経験してからおよそ100年が経った1905年のフランスでは、政教分離法」が公布され、先述した「ライシテ」の原則が法律で規定されることとなったのです。

これによってカトリックは、法律的には多くある他の宗教と変わらない一宗教という扱いになり、フランスにおいて他の宗派や宗教と比較すると優勢な宗教のままではあるものの、時間の経過とともに社会は世俗化していき、現在はカトリック文化の国でありながらも、世俗的な人がとても多い国へと変貌しました。

フランスの宗教グループ②:イスラム教

イスラム教徒(ムスリム)は、フランスで二番目に信徒数の多い宗教。

総人口に占める割合は現在のところ、およそ5%を占めており、その大多数はとりわけ、モロッコ、アルジェリア、チュニジアなど、フランスの旧植民地国に所縁がある人々です。

さらに、イスラム教に関する一つのトレンドとして、イスラム教諸国にルーツを持つ移民の受け入れなどによって、少しずつではありますがイスラム教徒の割合が増えているという点を挙げることが出来、また、フランス国内には30校ほどのイスラム教系の学校が存在しています。

一方で、他の多くの国ではムスリム女性が顔を隠すために着用するスカーフやベールの着用が許されているのに対して、フランスでは身元を隠すとしてセキュリティ対策を理由に、公共の場で顔や頭を覆うスカーフやベールを着けることは禁じられています。

そのため、ムスリムにとても寛容的であるとは言い難く、また、「自由」を標榜するフランスにとっては矛盾と言える状況が生じています。

フランスの宗教グループ③:無宗教

無宗教は宗教と言えないため、宗教グループと見なせるかどうかの疑問が生じますが、フランスの宗教状況を理解する上では大切であり、また、大きな人口割合を占めるため、無宗教の人々についても触れておきます。

19世紀初頭、まだフランスで「政教分離法」が制定される以前、カトリックが国の政治と一体だった時、神の存在に疑問を持ったり無関心を公言する者達は道徳的価値観がないとして、社会的に制裁を受けることもありました。

しかし、20世紀始めに政教分離法が公布されると、主に若い世代を中心に徹底的に無宗教を公言する人々が増えていき、世代が変わるごとにその割合は増えていったのです。

さらに、2001年に起きたアメリカ同時多発テロ事件以降、一部の人々はイスラム教に対して恐怖を抱くようになり、これが世俗化(ライシテの右傾化)を促すことになったとも言われ、より多くの無宗教の人々を生み出したのではないかと考えられています。

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フランスの宗教|カトリック教徒や他の宗教割合から現在の状況までのまとめ

フランスの宗教事情について見てきました。

フランスは歴史の中でカトリックが主流となっており、また、カトリック文化の影響も強く受けてきましたが、「ライシテ」によって世俗化が進み、現在はカトリック教徒の割合も人口の半分以下にまで減少しています。

ただ、そんな今日のフランスであっても、他の宗教と比較して未だにカトリック教徒の割合は圧倒的で、いくらイスラム教徒の割合が増えていると言っても、その増加速度は非常に緩やかなため、今後もカトリック主流の宗教情勢が長く続いていくと予想出来ます。

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