ベトナムの宗教事情について、各宗教の割合や解説をしながら紹介していきます。ベトナムに強い影響を与える三教や民間信仰、さらには仏教やカオダイ教といった新興宗教まで見ていきましょう。
ベトナム社会主義共和国、通称ベトナムは、共産主義を標榜する国家であることから公式には無宗教国家です。
そのため、ベトナム人の中には多くの無宗教者や、信仰していると言っても民間信仰を信仰していると主張する人々がいるのも事実です。
しかし、そうは言いつつも、彼らの多くはアジアを発祥としたいくつかの宗教に強く影響されていたり、他にもキリスト教徒やベトナム国内で興った新興宗教を信仰している人々がいます。
そのため、ベトナムの宗教事情と言うのは、他国に比べて多少複雑であると言えるかもしれません。
この記事では、そんなベトナムの宗教状況について、
わかりやすく十分に詳しく紹介していきます。
ベトナムの宗教状況とそれぞれの割合
ベトナムは1992年に制定された憲法の70条によって、すべての国民に信教の自由が保証されていることから、ベトナム国内では多様な宗教や信仰が実践されています。
また、それに加えて公式に無神論の国としていることもあり、2017年時点で行われた調査では、ベトナム国内の74%の人々が「民間信仰を信仰しているまたは無宗教である」と主張。
次いで、13%の人々が大乗仏教を信仰し、7%の人々がキリスト教のカトリックを信仰していることが分かっています。
そして、ベトナムでは19世紀に複数の新興宗教が勢力を高めてきた結果、人口の2.5%は新興宗教の一つ「カオダイ教」を、そして同じく新興宗教である「ホアハオ教」を1%の人々が信仰しています。
さらに、キリスト教プロテスタントの信徒が人口の1%を占め、それ以外の宗教を信仰する人々が残りの1%を占めています。
ちなみに、実際に信仰されている宗教とは別に、ベトナム政府は公的に6つの宗教を認めており、その6つとは、「仏教、カトリック、プロテスタント、イスラム教、カオダイ教、ホアハオ教」になります。
各ベトナム宗教の割合
それぞれの宗教割合を分かりやすく示すと以下の通りです。
- 民間信仰を信仰している / 無宗教である:74%
- 大乗仏教:13%
- キリスト教カトリック:7%
- カオダイ教:2.5%
- ホアハオ教:1.5%
- キリスト教プロテスタント:1%
- その他の宗教:1%
(参照:https://dfat.gov.au/about-us/publications/Documents/country-information-report-vietnam.pdf)
(重要)ベトナムの宗教事情を理解する上で大切な三教について
上記で示したように、ベトナムでは「民間信仰を信仰している / 無宗教である」と主張する人々が全体の74%を占めているわけですが、実際のところは、この言葉が意味するほど単純ではありません。
というのも、ベトナム人の習慣や文化は仏教、儒教、道教の3つの宗教または教えに強く影響されているからです。
そのため例えば、「無宗教」だと主張している人であっても仏教的な考えを持っていたり、儒教的な教えに沿った生活を送っていたりする一方で、「民間信仰を信仰している」と主張する人でも日頃から仏教寺院を訪れることがあるのです。
実際、ベトナム人の85%近くは、定期的に仏教寺院を訪れて言われ、この数字は割合の部分で紹介した大乗仏教徒の13%を遥かに上回ります。
そして、この仏教、儒教、道教は合わせて三教と呼ばれ、ベトナム文化およびベトナム人の世界観に浸透しており、異なる統計や調査であっても、ほぼ共通して、70〜90%のベトナム人はこの三教の影響下にあることが分かっています。
ベトナムで大きな影響を持つ三教と民間信仰
ベトナムの宗教状況とそれぞれの割合、さらに三教が与える影響について見てきたところで、ここからは、まず、三教に含まれるそれぞれの宗教についてを確認し、その後に数あるベトナムの民間信仰の中から、2つを取り上げて見ていきましょう。
ベトナムにおける三教
仏教
ベトナムに仏教が伝来したのは、紀元前2世紀のこと。
そして、ベトナム北部に存在した李朝(1009年〜1225年)時代、この王朝は仏教を国教として制定しました。
その後、仏教は国教としての地位を失ったものの、現在のベトナムに当たる地域に住む多くの人は仏教を信仰し続けたため、仏教はベトナム文化に浸透していったのです。
ちなみに、後ほどさらに詳しく解説しますが、ベトナムで信仰されている仏教は、中国、韓国および日本でも広く信仰されている大乗仏教です。
儒教
儒教は、孔子(紀元前551年~紀元前479年)を始祖に中国に興りました。
儒教の教えによれば、信仰によって育まれるべき美徳として、五常(仁、義、礼、智、信)という徳があります。
孔子は、人々の徳を向上させることの大切さを強調し、それこそが健全で幸福な社会を促進するための方法であるとの信念をもって、儒教を広めていったのです。
厳密にいえば、儒教は宗教というよりはむしろ、社会的行動の「規範」または「教え」と言えます。
儒教の教義に神についての教えは少なく、自らの人生を如何に導いていくかに焦点が当てられているのです。
そんな儒教はベトナムが中国の支配下にあった1世紀には、既にベトナムへ伝えられていたと考えられており、フランス統治時代で一旦は下火になりましたが、引き続きベトナムの人々の思想や行動に影響力を及ぼし続けていきました。
特に、儒教的な価値観は「ベトナム人の人生観や家族観を支配する存在となっている」と言えるでしょう。
道教
道教は儒教と同じく中国が発祥で、宗教ではなく当初は「思想」として、紀元前600年~紀元前500年頃、老子を始祖に始まりました。
儒教が社会に調和を生み出すことに焦点を当てているのに対して、老子は「人と自然の調和」、そして「道」を追求することに重きを置いており、この調和の域に達するために「対立は避けるべきであり、質素、忍耐、自己充足感を美徳として実践しなければならない」としています。
老子の死後、数世紀にわたり、老子の弟子らが老子の教えを宗教へと発展させていき、道観(道教寺院)や道士(道教の教職者、修行者)らを生み出した結果、現在、道教では神々、精霊、そして死者との対話も行われます(※精霊崇拝”シャーマニズム”はベトナムでも一部で広く信仰されている)。
そんな道教がベトナムに伝わったのは、ベトナムが中国の支配下に置かれていた時代でした。
そして11世紀および12世紀にはベトナム政府の役人登用試験問題の一つとして、道教を含めた「三つの宗教」についての論文が課されていました。
陳朝(1225年〜1440年)の末期以降になると、道教は神秘主義的な様相を呈するようになり、多神教に変化していき、その後、ベトナムの社会や文化、そして人々の自然観や宇宙観へ影響を与えていくようになったのです。
ベトナムの主な民間信仰
上で紹介した三教は、無意識のうちに多くのベトナム人へ影響を与えていますが、それと同じぐらい影響力を持っていると言えるのが民間信仰で、ベトナムには「民間信仰を信仰している」と意識している人も多くいます。
以下では、2つのベトナム民間信仰を紹介しておきます。
ミン・ダオ(Minh Đạo)
ミン・ダオは、中国の民間宗教である「天道」に由来する信仰。
ベトナムでは17世紀、中国の明王朝(1368〜1644)の権力が弱まり、ベトナムへの影響力が失われるとともに、サイゴンを中心にその教えが広まるようになりました。
歴史的にベトナムにおけるミン・ダオ信仰の活動は、文学、貧困層の救済、崇拝を中心としてきましたが、20世紀初期に入ると、国家主義的な姿勢が強調されるようになっていきました。
ダオ・マウ(Đạo Mẫu)
ダオ・マウは、ベトナムの様々な地母神を崇拝する民間信仰で、この宗教的慣習は先史時代より続くものと考えられています。
実践されている慣習には、バーチュアスやバーチュアコーなどの女神や、女性の軍事指揮者であったトラン姉妹などの実在した人物への崇拝が挙げられます。
その他のベトナムにおける主だった宗教
大乗仏教
割合の部分で紹介した統計によると、国民の13%は大乗仏教を信仰しているとされます。
この大乗仏教は、ミャンマー、ラオス、カンボジアなど、ベトナム近隣諸国で信仰されている上座部仏教とは異なり、中国、韓国および日本で広く信仰されている仏教の宗派です。
しかし、仏教徒全体の中では非常に割合が低いものの、大乗仏教ではない上座部仏教も、メコンデルタ地帯に住むベトナム人や、民族的にはカンボジア人(クメールクロム人)とされる人々の間では、一般的な宗教となっている点は抑えておくべきでしょう。
キリスト教カトリック
16世紀に始まるヨーロッパ宣教師団の布教活動の結果、ベトナムでは現在、人口全体の8%強の人々がキリスト教徒となっており、そのうち90%以上はカトリック教徒です。
16世紀後半、ポルトガル、スペインおよびフランスから、カトリックの宣教師団が渡来。
17世紀にはイエズス会の宣教師数名が、ベトナム語をラテン文字表記する文字体系を考案しました。
この文字体系はクオック・グー(quốcngữ)と呼ばれ、今日のベトナムで全国的に使われ続けています(この表記方法が考案される以前、ベトナム人は、漢字を応用したチュ・ノム”Chữ Nôm”とよばれる文字表記を用いていた)。
このような努力の甲斐もあり、外国の宗教としてはベトナムに到来した時期が比較的遅かったものの、現在では人口の約7%の人々が信仰するまでに至ったのです。
ちなみに歴史の中で1960年代、カトリック教徒であるゴ・ディン・ジエムがベトナムで政権をとったこともあり、より数の多かった仏教徒は差別的な待遇を受けた一方で、カトリック教徒には優遇措置がとられたこともありました。
カオダイ教
カオダイ教は、1926年、神からのお告げを受けたとするベトナム人公務員、ゴォ・ヴァン・チェウによって正式に創始されたベトナムにおける信仰宗教。
ブッダ、キリスト、孔子、老子、ヴィクトル・ユーゴーなどの教えをはじめとして、様々な思想を統合した習合的な宗教です。
最高神を意味するこのカオダイ教では、三教の教義を再解釈しているのが特徴で、さらに、特異な点として、「聖職者」である神との仲介者は「神と接触して神のお告げを信者に伝えることができる」という教えがあります。
当初、共産主義者によって非難されていましたが、現在では容認されており、主に南部デルタ地帯の農村部に集中しています。
ホアハオ教
(出典:wikipedia)
ホアハオ教もカオダイ教と同じようにベトナムの新興宗教の一つで、19世紀の仏教一派(民間信仰とされることもある)である「宝山奇香教(ブ・ソン・キ・フォン教)」を改編した宗教。
ホアハオ教では寺院での礼拝を第一にするのではなく、一般人、とりわけ農民が家庭で仏教の教えを実践することに重きを置いており、「土地を耕しながら仏教」といったスローガンが相応しいものになっています。
また、ホアハオ教の信徒は、自宅の祭壇に無地の茶色の布生地を置き、花や真水、香を用いて礼拝を行っているのも特徴です。
そして、カオダイ教と同じように、信徒の多くは南部デルタ地帯の農村部に集中しています。
キリスト教プロテスタント
ベトナムにキリスト教のプロテスタントが伝わったのは、1911年、カナダの宣教師であったロバート・A・ジャフレーがベトナムに来訪したことがきっかけでした。
ジャフレーがベトナムに到着すると、直ぐにダナンで教会が建設されたのです。
そして、現在、ベトナム国内におけるプロテスタント信者の半数以上が、モン族、タイー族およびヤオ族をはじめとする、ベトナム北西部の山岳地帯に暮らす少数民族であると推定されています。
その他の宗教
信教の自由を認めているベトナムでは、他にも多くの少数派の宗教が存在します。
その中には、ホアハオ教の元となったブ・ソン・キ・フォン教やダオ・トゥ・ヒエウ・ギエ教といった比較的新しい民間信仰や、ヒンドゥー教やイスラム教、そしてキリスト教正教会といった、世界的にはメジャーな宗教などが含まれます。
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ベトナムの宗教や割合|仏教やカオダイ教から三教や民間信仰までの まとめ
ベトナムの宗教事情について見てきました。
共産主義を標榜するベトナムは、建前上は無宗教国家であるものの、実際には多くの人々が何かしらの宗教または信仰を信じていたり、少なくとも影響下にあることが分かります。