英語の歴史をダイジェストで紹介していきます。その起源や発祥、そして成り立ちについて見ていくと、大変興味深い歴史を持っていることが分かります。
世界には多くの言語がありますが、その中でもっとも広く使われており世界言語とさえ呼ばれ、使いこなせると様々な点で得をする言語と言えば英語。
母語としてだけでなく、第二言語として話せる人を含めた数えた場合、世界における英語人口は15億〜20億人またはそれ以上と言われ、英語が話せるだけで世界のおよそ1/3から1/4の人たちとコミュニケーションが取れます。
そんな英語を知る上では一般的に、読み書きやスピーキング、リスニングといったことだけがフォーカスされがちですが、その歴史も非常に興味深かったりします。
英語の起源や発祥、そして成り立ちなどを知るために、英語の歴史をダイジェストで見ていきましょう。
英語の歴史ダイジェスト
英語の歴史は西暦5世紀ごろまで遡る
後に英語と呼ばれる言語が、現在のイギリスが置かれるブリテン島で生まれたのは、およそ西暦5世紀の頃だとされます。
その昔、ジュート人、サクソン人、アングル人といったゲルマン系民族が、新天地を求めて現在のデンマークとドイツ北部から北海を渡ってこの島へやってきました。
当時のブリテン島ではケルト系の先住民「ブリトン人」達によって、ケルト語とその方言が使われていましたが、ゲルマン民族の侵攻を受け、ブリトン人たちは現在のスコットランド、アイルランド、ウェールズ地方にあたるブリテン島の北部や西部に追いやられていきました。
ちなみに、「イングランド(England)」や「イングリッシュ(English, 英語の意味)」という言葉は、古英語を話す人々が住む「アングル人の地」という意味の古英語「イングラ・ランド」が語源です。
古英語の時代(5世紀〜11世紀)
侵攻してきたゲルマン系の民族は同じような言葉を話しており、これが基になって古英語または古期英語と呼ばれる言語が形成されていきました。
古期英語は現在の英語とは音も構造もかなり異なると言われ、古英語の約85%は現在の英語では使用されていません。
そのため、英語ネイティブの人であっても、古英語を理解することは非常に難しいとされます。
しかし、現代英語で使われている一般的な単語のおよそ半数は古期英語がルーツになっているとされるのも事実です。
そんな古英語は、以下のように分類することが出来ます。
古英語① 先史・原始時代(5〜7世紀)
5〜7世紀は古英語の中でも、先史時代または原始時代と言える時期で、現存する文学作品や文書は、アングロサクソンルーン文字と呼ばれる文字体系で書かれたわずかなもの以外に存在しません。
古英語② 初期古英語(7〜10世紀)
英語で書かれた最古の文書が残されており、アングロサクソン文学を代表する詩や文章が、詩人のキネウルフや聖職者のアルドヘルムによって書かれました。
古英語③ 後期古英語(10〜11世紀)
この時期のイングランドはノルマン侵攻を受け、古英語は最終段階を迎えたと考えられています。
以降は初期中世英語に向けて重要な進化を遂げていくことになりました。
中英語(11世紀〜15世紀後半)
1066年にノルマンディ公(今のフランスの一部)であった征服王ウィリアムが、イングランドに侵攻して同地を征服。
新たな征服者たちである「ノルマン人」は、当時のフランス語をイングランドに持ち込み、宮廷や支配層によって使われるようになりました。
その結果、ある期間においては下流階級が当時の英語を話し、上流階級が当時のフランス語を話すといったように、社会的階級によって言葉が分かれている状態が続きました。
しかし、14世紀には英語が再びイングランドで主要言語となり、また、この頃にはたくさんのフランス語に起源を持つ単語が追加されていきました。
そして、この時期の英語は中英語(中期英語または中世英語)と呼ばれます。
ただし、この中英語も時期によって、主に2つに分けることが出来ます。
初期中英語
この段階では、英文法における構文法が発達していきました。
構文法とは「よりよい文章構造のための言葉の組み立て」のことです。
興味深い事実としては、この時期に格語尾が失われたことで、結果的により複雑な語尾変化を遂げるようになります。
格語尾とは「名詞、代名詞、形容詞の文法的役割を示す接尾辞」のことで、語尾の音節をなくしたり弱めたりしたことで、古英語が持つ特有の抑揚が失われたと言われます。
後期中英語
14世紀になるとロンドン周辺で、東アングリア方言が発展していきます。
そして、この方言が古英語の時代に用いられたウェストサクソン方言に取って代わるようになっていき、文語が形成されていったのです。
(ジェフリー・チョーサー)
「英文学の父」と言われ、カンタベリー物語などの作者であるジェフリー・チョーサーは、この時代を代表するもっとも偉大な詩人として知られます。
英語が言語としてフランス語やラテン語とも肩を並べるほどになったと認められたのは、チョーサーの功績によるものが大きかったと言えるでしょう。
そして、15世紀半ばになると「大法官府英語」と訳せる「Chancery English」が登場し、この時期以降、要職の事務官らは以下のような文体を使用するようになっていきます。
- yafの代わりにgaf
- 現在のgaveに当たる
- swichではなくsuch
- 現在のsuchに当たる
- hirではなくtheyre
- 現在のtheirに当たる
このように、後期中英語と呼ばれる言語は、現代英語に近くなってきているのが分かります。
当時の事務官たちは言葉に対して絶大な影響力をもっており、結果的に、近代英語の基礎を作り上げていくこととなったのです。
近代英語(1500年頃〜現代)
西暦1500年頃から現在に至るまでの英語はひとまとめに「近代英語」と呼ばれますが、この近代言語も初期近代英語と後期近代英語の2つに分けることが出来ます。
初期近代英語
中英語の末期にかけて、発音に急激かつ大きな変化が起き、母音の発音がどんどん短くなっていきました。
また、それ以降も17世紀半ばまでにかけ、発音、単語、文法といった個別の変化だけでなく、他国の人々の接触が増え、さらに、イギリスにおけるルネサンス(文芸復興)が始まったこともあり、数々の新しい単語やフレーズが加わるなど、英語全体が大きく変化する時期となりました。
そして、印刷機が導入されたことで、共通の言語による印刷物の発行が可能になると同時に、本の価格は下がり、識字率も上がり、印刷技術によって英語の標準化が進んだのです。
具体的には、
- スペリングの固定化
- 文法の固定化
- ロンドンの方言が標準語となっていった
- ほとんどの出版社があったロンドンにあったことが大きく影響している
といったことが起こり、1604年には初の英語辞典が出版されました。
ちなみに、16世紀の終わりになるとカトリック教徒向けの聖書の英語完全翻訳版が初めて登場。
このこと自体大きな影響力はありませんでしたが、英語の発展には重要な役割を果たしたと言えるでしょう。
世界中にいる英語を話すカトリック教徒に与える影響が大きかったのです。
初期近代英語時代に生まれたウィリアム・シェイクスピア
英語が飛躍的に発展した初期近代英語時代は、イギリスにおけるルネサンスを迎えていたこともあり、数々の詩人や作家が誕生しましたが、イギリス史上最高の劇作家と言われるウィリアム・シェイクスピアもまた、この時代に誕生しています。
シェイクスピアが創作活動を始めたのは、戦乱や植民地化などによって諸外国との関わりが生じ、英語が劇的な変化を遂げている最中でした。
こうした変化は、英語による表現の限界を感じていたシェイクスピアや同じような新興作家たちによって、さらに押し進められていきました。
外来語を取り入れ、英語はなお一層、その表現力を豊かにしていったのでした。
このように、初期近代英語時代においてシェイクスピアの存在は、英語の発展にとても重要だったのです。
アメリカ英語の基盤も出来上がっていった
また、アメリカ大陸にイングランドの植民地が成立したのは、この初期近代英語時代に当たる17世紀初頭のことでした。
そして、ジェームスタウンやヴァージニアといった地では、入植者たちが現地の言葉を取り入れながらアメリカ英語の基礎を作り上げていきました。
その後、17世紀、18世紀、19世紀には、その他のアメリカやってきた移民や、強制的に連れてこられた奴隷などの絶え間ない流入によって、西アフリカ、アメリカ先住民、スペイン、その他のヨーロッパの言語の影響を受け、アメリカ英語は独自に発展していくようになりました。
後期近代英語
産業革命と大英帝国の勢力拡大を背景に、18世紀、19世紀そして20世紀初頭に英語が世界中に広がっていきました。
また、産業革命中の科学技術分野における進歩や新発見により、概念や発明を表現するために新しい言葉や表現、理念が求められていきました。
その結果、イギリスの科学者や学者らは、ギリシャ語やラテン語から転じた言葉を英語の文章の中で多く用いることとなっていきます。
例えば、
- bacteria(バクテリア)
- histology(組織学)
- nuclear(原子力)
- biology(生物学)
などがそうで、こうした造語とも言える単語のおかげで、英語は多くの知識を学べる言語へと進化していったのです。
また、当時のイギリスは大英帝国として、最盛期には地球上の4分の1を支配していたため、英語が世界各地で使われるようになっていったと同時に、英語自体にも異なる国を発祥とする多くの外国語が取り入れられました。
このような背景があるため、初期近代英語と後期近代英語の最大の違いは「ボキャブラリー(単語)」だと言われます。
現代英語(20世紀以降の英語)
近代英語の中でも後期近代英語には、現在話されている英語も含まれますが、20世紀以降の英語をあえて「現代英語」と分ける区分もあります。
文法が非常に洗練された現代英語の見本と言えば、イギリス王室の話す英語を挙げることが出来るでしょう。
また、現代英語の中でもアメリカのCNNで話されている英語には、イギリス王室が話す英語と比べて発音や単語の一部、綴りなどで違いを見つけられます。
他にも、スマートフォンやSNSで書かれる英語は、文法もめちゃくちゃで、省略したり簡略したりする表現が多いですが、これもまた現代英語の一部であることは確かです。
アメリカ英語について
英語の歴史について見てきましたが、最後に、世界各地で話されている英語の中で、もしかしたら本場イギリスの英語よりも有名かもしれないアメリカ英語について触れておきたいと思います。
1600年頃から始まったイギリスによる北米の植民地化は、イギリスで話される英語とは異なる特徴を持ったアメリカ英語を生み出しました。
アメリカ英語は現代のイギリス英語よりもシェイクスピア時代の英語に近い点もあると言われ、イギリス人が「アメリカ英語」と呼ぶ英語の中には、イギリスにおいては失われたものの、元々のイギリス英語表現が保持されたものもあるとされます。
例えば、
ゴミのことをイギリスではrubbishと呼びますが、アメリカではtrashと呼びます。
また他にも、
- 貸す
- イギリス → loan
- アメリカ → lend
- 秋
- イギリス → autumn
- アメリカ → fall
などがあります。
加えて、アメリカは地理的にもスペイン語圏に近く、中南米からの移民が多く暮らしていることもあり、スペイン語の影響も強く見られます。
例えば、
- canyon(渓谷)
- ranch(牧場)
- stampede (暴走)
- vigilante (自警団)
などの単語は、スペイン語を語源とする言葉で、アメリカ西部への入植により流入し、現在はアメリカのみならずイギリス英語にさえ影響を与えています。
さらに、ルイジアナに入植したフランス語圏の移民によってもたらされたフランス語や、奴隷として連れてこられた主にアフリカ西部にルーツを持つ人々の言葉なども、アメリカ英語に影響を与え、イギリス英語とはいくつかの点で異なる英語が形成されたのです。
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英語の歴史|起源や発祥を確認して英語の成り立ちを理解しよう!のまとめ
英語の歴史について見てきました。
その起源や発祥は西暦5世紀頃にまで遡り、それ以降のおよそ1500年の歴史の中で徐々に変化し、現在喋られている英語が出来上がったことが分かります。
そして、歴史の中で世界言語とさえ言える地位を手に入れた英語には今日、アメリカで話されるアメリカ英語をはじめ、オーストラリア英語やニュージーランド英語、南アフリカの英語やインド英語などが含まれ、それぞれは少しずつ異なる特徴を持っています。