北アメリカ大陸の南部に位置するメキシコは、かつてスペインの植民地だったこともあり、現在、スペイン語圏の国としては世界最大規模の国となっています。
そんなメキシコには3万種を超える原産の草花がありますが、その中の一つがメキシコにとって重要な「国花」としての地位を得ることなり、現在も同国では大切な存在となっています。
メキシコの国花について、その歴史やメキシコとの関わりについてまでを簡単に解説していきます。
メキシコの国花は「ダリア」
メキシコの国花とはずばり「ダリア」。
ボタン(牡丹)に似た花が特徴的なため、日本ではテンジクボタン(天竺牡丹)という和名でも知られていますが、ダリアはキク科でボタンはボタン科の植物であるため、両者は異なる種の花になります。
メキシコ原産で元々は食用や薬用、さらには装飾的な価値を持つ花として重宝されてきましたが、18世紀後半にヨーロッパへ持ち込まれてからは観賞用の花として広まり、世界的にも良く知られる花となりました。
また、1963年にメキシコの国花に指定されました。
その花言葉には、
- 華麗
- 優雅
- 威厳
- 感謝
- 栄華
- 移り気
- 不安定
というものがあり、最後の二つ「移り気」と「不安定」は、情勢が不安定であったフランス革命後のフランスにおいてダリアが流行したことが始まりだとされます。
歴史で見るメキシコの国花「ダリア」
ダリアに関する最古の記述
ダリア(かつてのアステカ文明ではacocoxóchitlと呼ばれていた)の最古の記述は、1529年に北アメリカ大陸のヌエバ・エスパーニャに到着したフランシスコ会修道士、ベルナルディーノ・デ・サアグン(1499年頃〜1590年)によるものです。
(ベルナルディーノ・デ・サアグン)
アステカの名前である「acocoxóchitl」は「管のような茎を持つ植物」に由来するとされ、アステカ人は水を運ぶためにこの植物を使っていたと言われています。
ダリアはかつてのメキシコ周辺ですでに品種改良が行われていた
そして、フィリップ2世によってヌエバ・エスパーニャに派遣され、この地域の自然史を調査・記述した最初の科学者フランシスコ・エルナンデス博士(1515〜87年)は、ダリアに関する初期のより具体的で参考になる記述を残しました。
エルナンデスは『ヌエバ・エスパーニャ博物誌』を著し、ヨーロッパで知られていなかった3,000以上の植物について記述。
その中でダリアは、
中型以上の雑草で、紫色で中心が黄赤色の大きな丸い花を咲かせ、香りはほとんどない。花の色と大きさによってのみ区別され、白色、赤黄色、紫色、赤色、紫に白、赤に黄色など、さまざまな種類がある
と表現されていました。
この記述から、コロンブスがこの地を訪れる以前からすでに、多様なダリアの品種が生み出されていたことが分かります。
ダリアを最初にヨーロッパへ送ったのはスペインの植物学者とされる
そして、「ダリア」という言葉が初めて使われたのは1791年、スペインの植物学者「アントニオ・ホセ・カヴァニレス」が『Icones et Descriptiones Plantarum』を出版した時です。
(アントニオ・ホセ・カヴァニレス)
スウェーデンの植物学者アンドレアス・ダル(Andreas Dahl)を称え、最初の品種は「ダリア・ピナタ(Dahlia pinnata)」と名づけられました。
カヴァニレスは当時デンマークに住んでいたダルに球根を送り、これがダリアがヨーロッパを北上するきっかけとなったと考えられています。
一方で、カヴァニレスとは別に、1803年、探検家フンボルトがダリアを発見し、種子をヨーロッパに送っていることも判明しています。
ダリアが世界進出の足場を固めたのは19世紀前半
加えて、イギリスでもダリアの導入が試みられ、19世紀前半の10年間に多くの成功例が報告されました。
ヨーロッパがダリアの魅力に取り憑かれたのはこの頃で、1820年にダリアの栽培品種はわずか100種ほどであったのが、1840年には2,000種以上となったというのです。
こういった経緯からダリアはヨーロッパで広まり、その後、世界中へと広まっていきました。
現在のメキシコにおける国花ダリア
ダリアは現在、メキシコにおいてはただの国花としてだけでなく、より実用的で重要な植物と考えられています。
2000年には、ダリア種の収集、保存、利用を目的とした国家プログラムがメキシコで開始され、29種が国立遺伝資源センターに登録されています。
また、様々な大学の研究者グループが、観賞用、栄養原、薬用として新しい品種を開発するために、ダリア種の形態的・化学的特徴の研究に取り組んでいます。
さらに、メキシコダリア協会は、国内の農村部、特に温帯気候の地域において、機能性食品として消費することを目的として、また、蜂蜜、ジャム、小麦粉、クッキーなど調理材料としての利用を目的に、ダリアの栽培や保存を推進しています。
他にもダリアは、血糖値の上昇を抑え、コレステロールや中性脂肪を低下させるとされることから、糖尿病患者を対象とした利用に注目が集まっています。