ゾロアスター教と呼ばれるペルシャで生まれた、世界最古の宗教について詳しく見ていきたいと思います。後世にも大きな影響を与えた古代から生き続ける宗教です。
キリスト教のように世界的に主流な宗教は、古代から多くの人々に信仰されてきました。
しかし、こういった現代主流となっている宗教よりもさらに古い起源を持つ世界最古の宗教として、ペルシャで発生した「ゾロアスター教」と呼ばれる宗教が存在しているのを知っていますか?
人によっては「ゾロアスター教」を耳にしたことがあったとしても、その教義や特徴について説明出来る人はほとんどいないでしょう。
そこのこの記事では、
- ゾロアスター教とは何なのか?
- ゾロアスター教の教義や信仰の特徴とはなんなのか?
など、世界最古の宗教として知られるゾロアスター教について詳しく紹介していこうと思います。
ゾロアスター教とは?
ゾロアスター教とは、ゾロアスターを開祖とする宗教で、古代ペルシャで発生した世界最古の宗教の一つ。
その起源がいつ頃なのか定かではありませんが、現在からおよそ3000年から4000年前の紀元前2千年紀(紀元前2000年から紀元前1001年まで)にまで遡ることが出来ると言われます。
そのため、実はゾロアスター教こそ、イスラム教、キリスト教、ユダヤ教など、世界中で多くの人々が信仰している宗教の先駆けであり、それらの基盤になっていると考えられています。
さらに、ゾロアスター教は、善と悪の二つに分類して世界を解釈する「善悪二元論」に近い概念を持ち、「神の光や知恵を象徴しているとする炎を崇拝する」ため「拝火教」と呼ばれることもある宗教です。
また、現在でこそ信徒の数が減少してほとんど勢力はありませんが、紀元前3世紀頃から紀元前7世紀前半頃まではササン朝ペルシャの国教とされるなど、大きな勢力を持っていました。
ちなみに、何をもって「宗教」と定義するのかは難しい問題ですが、ゾロアスター教は、現在も信者が存在し、現在進行形で信仰されている宗教としては、世界で最も古い宗教であると考えられています。
ゾロアスターとは誰か?
一体、ゾロアスター教の開祖であるゾロアスターとはどんな人物だったのでしょう?
ザラスシュトラとも呼ばれることがあり、一般的にはゾロアスターと知られるこの人物は、紀元前10世紀から11世紀(※ただし、紀元前1750年や紀元前1400年、イランの伝統では紀元前570年頃などという主張もある)にかけて、ペルシャで活躍したとされる人物。
「最高神アフラ・マズダーの幻影を見ることが出来る」と信じ、「数多くの神々の中から、すべての創造主であるアフラ・マズダーこそ崇拝すべき唯一の神」だと唱えました。
それまでのペルシャでは複数の神を信仰する「多神教」が一般的だったので、ゾロアスターが唱えた「一つの神をこそ崇拝に値する」という考えは、当時のペルシアではとても新しい信仰だったのです。
そしてこれが、後々の「一神教」の宗教(ユダヤ教、キリスト教、イスラム教)に影響を与えていくことになります。
さらにゾロアスターは、「この世のすべてのことが善と悪の抗争である」と主張した人物でした。
ゾロアスター教の信仰
次にゾロアスター教の信仰についてもう少し詳しく見ていきましょう。
二元論的宗教だけど一神教
ゾロアスターが天国に行って最高神(最高善で創造神でもある)アフラ・マズダーと話をした際、「アンラ・マンユ(最高善とする神アフラ・マズダーに対抗し、絶対悪として表される)」という悪神(または破壊の神)の存在を伝えられたとされています。
また、このアンラ・マンユがアフラ・マズダーの創造を妨害しようと破壊行為を行うことで、あらゆる善悪が生まれ出すと伝えられました。
この話が、世界の事象を善と悪の二つに分類して解釈する「二元論的」なゾロアスター教の考えの基盤となっているのです。
しかし、ゾロアスターは「アフラ・マズダーこそ崇拝すべき唯一の神」としたことで、厳密には善神と悪神、他にも複数の神の存在を肯定しているにも関わらず、実践においては一神教の形態をとっているのが特徴です。
一方で、ゾロアスター教では、人間は自由意志を持ち、善(アシャ)か悪(ダエーワ)かを選択できるとしています。
例えば、嘘をつかずに真実を話せば、それは悪ではなく善を選択したということになります。
つまり、幸と不幸、純粋と不純などの違いは、人間が自ら善か悪かを選択した結果であり、人間も秩序と混沌の抗争、すなわち善と悪の戦いに加わる者とされているのです。
そのため、ゾロアスター教の中で人間(教徒)は、善と悪の抗争の中に存在していると信じられています。
ここでのまとめ
- 最高神(最高善)のアフラ・マズダーと悪神(絶対悪)のアンラ・マンユが存在
- 二元論的な発想で世界を解釈する
- 複数の神が存在するので厳密には多神教だが実践においては一神教の形態を取る
- 誰もが善と悪を選択する自由を持っている
天国や地獄から天使や悪魔の存在
さらに、ゾロアスター教では死後の世界(天国か地獄)があるとされ、生きているうちに善い行いをたくさんすれば天国に、悪い行いをたくさんすればその度合いによって、より残酷な地獄に召されるとされています。
他にも、ゾロアスター教は天使、悪魔、救世主の存在についても説いており、この傾向はキリスト教・ユダヤ教・イスラム教にも見られます。
ここでのまとめ
- 天国と地獄があるとされる
- 良い行いを積めば天国へ行け、悪い行いを続ければ地獄に行く
- 天使・悪魔・救世主の存在についても触れている
- キリスト教・ユダヤ教・イスラム教でも同じ傾向が見られる
ゾロアスター教の儀礼
ちなみに、ゾロアスター教を実践するための儀礼は、アウェスターと呼ばれる聖典に記されており、そこでは賛美歌や祈祷方法、そして悪魔に対する呪文などが解説されています。
そして、「拝火教」とも言われるゾロアスター教の儀礼として、
ゾロアスター教の寺院(火の寺院)には、ゾロアスターが点火したといわれる火(アフラ・マズダーの光明を象徴している)が絶えることなく燃え続けており、寺院内には偶像はなく、信者は炎に向かって礼拝する
というものがあります(※ただし、必ずしも寺院に行かないと礼拝出来ないわけではない。詳しくは後述)。
ちなみに、一般的に寺院は信者以外立入禁止で、信者でもあっても、
- 礼拝所に入る前には手と顔を清める
- 祈りの儀式(クスティ)を行う
- 履物を脱いだら礼拝所に入る
- 聖火の前でその灰を自分の顔に塗る
- 火に対して礼拝を捧げる
という手順を踏んで礼拝をすることになります。
ゾロアスター教が残した影響
ゾロアスター教は多くの人々に信仰されていたため、後に発生するたくさんの宗教に影響を与えました。
ゾロアスター教が広まるまで、多神教が主軸であったペルシャでは「ミトラス」という神が知られていましたが、ゾロアスター教が布教されて広がると、このミトラスはアフラ・マズダーに使える天使としてゾロアスター教に組み込まれていくようになります。
ここから見えてくるのが、後世に中東地域を起源として発生したユダヤ教、キリスト教、イスラム教への影響です。
例えば、神に使える天使という存在は、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教で見られる特色です。
その他にも、この3つの宗教において大切な、悪魔、救世主、お清め、儀式、聖典なども、ゾロアスター教の影響を受けていると考えられているのです(※ただし、一体どんな影響を受けて発祥・発達したのかをひとつひとつ厳密に解明するのは困難を極めている)。
現代のゾロアスター教
ゾロアスター教を信仰する人々の数は減少したものの、現在でも小規模の信徒共同体が存在し、ゾロアスター教は宗教として存在しています。
(イランのヤズドにあるゾロアスター教寺院の一つ)
特に、
- イラン中央部のヤズド
- イラン南東部のケルマン地区
には数万人のゾロアスター教徒がいるとされます。
ただし、ゾロアスター教では信徒を親に持たない人が信者になることは許されていないため、その数は年を追うごとに減っていっている状況です。
ちなみに、ヤズド近郊にあるゾロアスター教の寺院は一般にも開放されており、1500年前から燃え続けるとされる炎を見ることが出来ます。
ゾロアスター教について他にも知っておきたい興味深い特徴
ゾロアスター教について基本的な知識を見てきましたが、ここからは他にも興味深いいくつかの特徴を紹介していきます。
ゾロアスター教では誰もが守護霊をもつ
ゾロアスター教では、人間が生まれる前、各人の魂(ウルバン:urvan)は、それぞれの守護霊(フラワシ:fravashi)と1つであると考えています。
生まれる時に魂は世界に出てきますが、守護霊は守護者としてその人を守り続けるとする考えです。
そして、この世での命が終わった後4日目(死後4日目)に再び魂と守護霊は1つになるのです。
そこで魂は、人として生きている間に得た全ての経験を守護霊に伝え、この経験に基づいた知識は、絶え間ない善と悪の抗争において役立つとされます。
死は悪魔の業
ゾロアスター教では、人は最後の息を終えると不純なものになるとされます。
二元論に基づけば、「生」は神の業である一方、「死」は悪魔の業であると考えられているのが理由です。
そして死後、体は不浄な雄牛の尿で洗われ、見せしめのため放置されます。
その後、伝統的に遺体は「沈黙の塔」に置かれ、猛禽類の餌となるのです。ただし、現在では火葬や土葬に代わりつつあります。
同性愛は悪魔崇拝
ゾロアスター教の最も聖典「アヴェスター」には、
「女と寝るのと同じように男と寝る男、男と寝るのと同じように女と寝る女は、悪魔崇拝者である」
と記されています。
そして、このような者は悪魔の力を爆発させ、多くの下等悪魔を生む元凶になるともされています。
牛や牛に似た物を食べない
ゾロアスター教には、体内に入れるべきものと入れるべきでないものに関する教えがあります。
特に、牛や牛のような動物(鹿やトナカイなど)は、食べてはならない物とされているのです。
これは、ゾロアスター教の基本的な教えとして、地球、動物、ペット、家畜などを慈しみ、むやみに自然を破壊したり動物の命を奪うべきではないという考えがあるのがその理由。
古代ゾロアスター教徒が菜食主義者であったかどうかは別として、今日では多くのゾロアスター教徒が菜食主義を実践しています。
ゾロアスター教は環境保護主義的な宗教
また、上記の点と関連しますが、ゾロアスター教は環境保護主義的な側面が強いのが一つの特徴。
ゾロアスター教の考えでは、この地球には7つの「種」が存在しており、その中の1種である人間は、他の6種、すなわち、「空」、「水」、「大地」、「植物」、「動物」、「火」を守る使命があるとされているのです。
逆に、この6種を守らないで怠慢になることは、「悪魔勢力への降伏」とみなされています。
一方でこの6種は「自然環境」と捉えることが可能なため、この教えに従うゾロアスター教は、環境保護主義的な信仰を持つ宗教だと言えるのです。
ゾロアスター教徒は炎があればどこでも礼拝することが出来る
ゾロアスター教徒は寺院にある聖火の前で礼拝することもありますが、基本的には炎さえあれば個々に礼拝することが可能。
つまり、火を燃やせる開放的な環境が整えさえすれば、自宅、海、丘の上など、好きなところで礼拝を行うことが出来るのです。
ゾロアスター教徒は帽子を着用していることが多い
多くのゾロアスター教徒(老若男女問わず)は帽子を着用していますが、これは謙遜のためではありません。
頭を隠すことで、負のエネルギーや悪の誘惑から、創造性と知性の場である頭を守るというのが、その理由とされます。
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ゾロアスター教とは?世界最古の宗教の起源を辿ろう!ペルシャで発生して後世に影響を与えた宗教のまとめ
ゾロアスター教は古代ペルシャで発生した、現存する世界最古の宗教と考えられ、二元論的宗教感と複数の神を肯定しながらも実践では一神教的であるのが特徴的な宗教です。
また、拝火教とも知られ、最高神の光明を象徴している火はゾロアスター教徒にとっては欠かせないものです。
そして、ゾロアスター教は、後世に発生した多くの宗教にも影響を与えてきました。
このように、非常に特徴的で長い歴史を持つゾロアスター教を理解することは、他の宗教がどうやって発祥・発達してきたかを深く理解する上でも大切だと言えるかもしれません。