タミル人と呼ばれる南インドの民族について詳しく見ていきましょう。タミル人を知るために、彼らの特徴や宗教観など多岐に渡って紹介していきます。
14億人近い人口を抱え、数年後には中国を追い越して世界一の人口を持つ国になるであろうインドには、様々な民族が住んでいます。
その民族は主に、
- インド・ヨーロッパ語族系民族
- ドラヴィダ語族民族
- オーストロアジア語族民族
- モンゴロイド系のシナ・チベット語族民族
の4つに大別することが出来、南インドにはこのうちドラヴィダ語族に含まれる人々が主に暮らしています。
そして、ドラヴィダ語族の中で最古の歴史を持つ言語「タミル語」を使うタミル人達は、ドラヴィダ系の中でも非常に長い歴史を持った民族であり、昔からこの地域に大きな影響を与えてきました。
この記事では、そのタミル人達を深く知るためにも、宗教観や特徴など様々なことを紹介していこうと思います。
タミル人(タミル族)とは?
タミル人(タミル族)とは、南インドのタミル・ナーデゥ州に多くの人口を抱える南アジアの民族の一つ。
古代から南インドに定住していたとされるドラヴィダ系民族の一つで、ドラヴィダ語族の主要言語の一つであるタミル語を話す人々です。
現在(2010〜2012年の統計から導き出した場合)は、南インドのタミル・ナーデゥ州に約6900万、スリランカの北部および東部に約315万、そしてマレーシアに約180万の人口を抱え、他にも、
- シンガポール
- マレーシア
- モーリシャス
- ミャンマー
- アフリカ東部・南部
- フィジー
- イギリス
- アメリカ
など、世界中に広がっており、全世界のタミル人全体の人口は7600万から7700万の間であろうと推定されています。
また、タミル人の間には元々、仏教とジャイナ教が広く普及していましたが、6世紀になると、バクティ(信愛)と呼ばれる「最高神への絶対帰依」を意味する究極の神への信仰と共にヒンドゥー教が浸透したため、今日のタミル人の多く(90%弱)はヒンドゥー教徒です。
一方で、ヒンドゥー教徒以外の一部のタミル人は、キリスト教、イスラム教、ジャイナ教、仏教などを信仰しています。
ちなみに、一言で「タミル人」と言っても、世界に散らばるタミル人は、異なるコミュニティやアイデンティティを形成しているかもしれないことが、スリランカの状況から垣間見れます。
今日のスリランカに在住するタミル人の多くは、ヒンズー教徒であるにも関わらず多様なグループや階層に分かれているのです。
まず、「セイロン・タミル」と称されるグループが、同地域に居住するタミル人の2/3を占め、主に島の北部で生活し、比較的教育水準が高くて多くがホワイトカラーの仕事に従事しています。
対して、スリランカには「インド・タミル」とよばれるタミル人達もおり、彼らは19世紀から20世紀にかけ、茶園の労働者としてイギリス人によって雇用され、この地方に移住してきた歴史を持ち、セイロン・タミルを含めた他のスリランカ人達からは「よそ者」扱いされる傾向にあります。
結果、セイロン・タミル人とインド・タミル人は、それぞれ異なるカースト制度の下に置かれ、それぞれの間の交流は限られたものとなっています。
2つの視点から見るタミル人を物語る歴史
タミル人を知るには、彼らの歴史について2つの視点から見ていくのが良いかと思います。
長い歴史の中に見る様々な「偉業」
タミル人の起源は先史時代にまで遡るとされ、現在、可能性として考えられている最古の痕跡は紀元前1500年まで遡ります。
そのため、3500年近い非常に長い歴史を持つ民族であると言え、その長い歴史の中でタミル人は、様々な偉業を成し遂げてきたのです。
まず、タミル人の社会では早くから、
- 海上渡航
- 都市生活
- 商業
が発展したと考えられ、タミル人による古代ギリシャや古代ローマとの貿易が、文学的、言語的、また考古学的にも確認出来るとされています。
加えて、タミル人が使う「タミル語」はドラヴィダ語族の中で最も古い歴史を持つ言語で起源は紀元前後だと言われ、その豊かな文学的伝統は紀元後初期(西暦初期)にまで遡ります。
このように、タミル人は長い歴史の中で数々の偉業を成し遂げてきた民族なのです。
タミル人が属した王国や国の歴史的な移り変わり
紀元前4世紀になると、タミル人達が古来より住んでいたインド南部に、パンディア朝やチェーラ朝などのタミル系の王国が成立し、この地域を支配下に置きます。
そして、6世紀になるとタミル系のパッラヴァ朝が成立。
9世紀になるとタミル系のチョーラ朝が南インドを支配し、このチョーラ朝は滅亡する13世紀までの間で勢力を拡大した結果、タミル人はスリランカや東南アジアにまで進出していくことになりました。
また、これら王朝の治世においてタミル人は、
- 寺院
- 灌漑設備
- ダム
- 道路
などの建設を通し、インド文化の発展と、スリランカや東南アジアに対するインド文化の普及に大きく貢献したのです。
しかし、14世紀になるとテルグ人によるヴィジャヤナガル王国が同地域を支配するようになり、これは17世紀中頃まで続きます。
そのなかで、タミル人の居住地域一帯は、長い年月を掛けてインドの他の地域と文化的に統合されていきましたが、インドがイギリスの統治下となる17世紀後半まで、政治的にはほぼ独立を貫き通していました。
タミル人をもっと知るために抑えておきたい特徴
タミル人に関する基本的な情報は理解出来たかと思いますが、ここからは、タミル人をさらに知るためにも、タミル人やタミル社会の特徴的なポイントを4つピックアップして紹介していきます。
① タミル人は友好的で真面目な人が多い
タミル人はインドにいる他の民族と比べて、より親しみやすく、リラックスした性格の持ち主が多いと言われます。
また、訪問者に対するタミル人のホスピタリティは高く、争いごとを好まない傾向にあるため、このことがまた、タミル人のイメージを「友好的」な民族としているのでしょう。
さらに、幼い頃よりタミル人はボディーランゲージやジェスチャーなど、様々な感情表現の方法を生活の中で身につけており、コミュニケーション能力が非常に高いのも特徴です。
ただし、友好的であるものの、人によっては興奮しやすい傾向にあると言えるかと思います。
一方で、仕事や勉強に関しては勤勉で真面目、忍耐強くてしっかり者な人が多く、また、謙虚でいることを大切にしています。
② カーストの影響が色濃く出る伝統社会と影響が薄れてきている都市生活
タミル人の特徴を語る上で、人口の大多数が信仰するヒンドゥー教は切っても切れないと言えるでしょう。
しかし、その影響は伝統的な社会と現代都市における社会によって異なると言えます。
伝統的なタミル社会に見るカースト制度
タミル人が住む伝統的な社会の基盤は、ヒンドゥー教のカースト制度によって成り立っていると言ってよく、それぞれのコミュニティは通常、カーストの階層ごと分かれています。
そして特に際立っているのが、カースト制度に含まれる4つの階級のうち最底辺のシュードラや、カーストの階級にも含まれない不可触民(ダリット)達は基本的に、他の階級の人たちと交わることがないという点。
例えば、
- 下層カーストの人々は他の階級の居住地から隔離された集落に住んでいる
- 寺院によっては下層カーストの人々の立ち入りを禁止している
といった具合です。
また、1980年代まで、多くのカフェやレストランには次のような慣習が存在しました。
- 中流カースト以上向けには
- 通常の席が用意される
- シュードラ(下層カースト)向けには
- 低めの椅子が用意される
- 不可触民向けには
- 床に座るためのスポットが用意される
ただし、こういったカーストに基づいた差別的で伝統的なタミル社会は、次で説明するような理由で少なくなってきています。
都市化による現代のタミル社会とカースト制度
インドの発展に合わせて、タミル人達が住む地域にも都市化の波が押し寄せた結果、多くのタミル人達は都市で暮らすようになり、徐々にですが伝統的なカーストによる身分制度は衰退傾向にあります。
多くの中級以上のカーストに属する人々は、当たり前のように都会で教育を受けてそのまま都会に残って仕事をし、また、下層カーストの人も都市へ移り、中には優れた成績や実績を残して活躍する人が出てきています。
ただし、それでも現実的には、まだまだ多くのカーストに基づいた差別が存在するのも確かです。
③ タミル人の生活を象徴付ける3つのこと!
タミル人の生活の特徴として、次の3つの点を挙げておきましょう。
ベジタリアンの人が結構多い気がする
タミル人の中には、菜食主義を実践するベジタリアンが比較的多いように感じます。
特に、カースト制度の中でも上から三番目のヴァイシャ以上の階層に属する人たちが、その傾向にあると言えるかと思います。
世界的も有名な「ニーム」!
タミル人の多くは、日頃の生活の中で「ニーム」と呼ばれる苦みのある木の枝を使って歯を磨くのが特徴的。
ニームは害虫対策や治療薬としての効能が高く、先進国からは「奇跡の木」と注目を浴びる薬木。
タミル人は何千年も前から、胃薬、虫除け、治療薬、そして歯磨きに使ってきており、タミル人の生活においては大切な伝統なんです。
ちなみに、ニームを使ったタミル人の歯磨き方法は、
- 30分間、ニームを噛みながら唾液を吐きだし続けて歯を磨く
というものらしいです。
男性はサロン、女性はサリー
男性はサロンで女性はサリーと言っても、決して男性がサロンへ行ったり、サリーという名前の女性が多いわけではなく、これはタミル人の男女が伝統的に着る服の名前。
タミル人の男性は「サロン」と呼ばれる、スカートのように腰へ巻く腰布を纏うのが好き。
そのサロンに合わせて、上はTシャツだったり、タンクトップだったりと自由に選びます。
一方の女性は、ヒンドゥー教徒の女性が着用する民族衣装(細長い布)である「サリー」を身にまとうことが多く、それに加えて髪に花を飾ったりします。
タミル人の芸術には様々なダンスが存在する!
タミル人の芸術には、様々なダンスが存在するのが特徴。
2000年以上前に神に捧げる舞として発祥した舞踏「バラタナティヤム」や、「カラガム」と呼ばれる(米を入れた壺と、竹で高く編まれた円錐形の周りを花で縁取ったものを頭に乗せてバランスを取りながら男性が踊る)最も一般的な舞踏があります。
(バラタナティヤムの例)
さらに、不可触民(ダリット)達のアイデンティティを示す太鼓「タップゥ」を用いたタッパアッタムという舞踏は、現在ではカーストに関係なくタミル人の間では広く受け入れられており、民族舞踏として披露されることがあります。
他にも、祭事において主に踊られる民俗舞踏の「クンミ」は、踊り手達が輪になって、手を打ちながら踊る最も単純なダンスです。
また、手を打つ代わりに、踊り手同士が木の棒をお互いに打ちながら踊るダンスも存在します。
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タミル人は南インドの民族|特徴や宗教観などを見ていこうのまとめ
南インドに古来より住み続ける民族「タミル人」について詳しく紹介してきました。
インド南部へ訪問する最には、長い歴史を誇るタミル人の文化や伝統に触れてみるのが面白そうです。