ダリット(不可触民)はインドのヒンドゥー教社会で抑圧された人々|人口数や職業など現状を見ていく

ダリット(不可触民)について詳しく見ていきます。インドを中心にヒンドゥー教社会で差別され続けている人々の話です。比較的多い人口数や職業などに加えて、現状に関するケーススタディやデータなども挙げていきます。

21世紀の現在でもインド全域およびネパール、パキスタン、スリランカそしてバングラデッシュなど、ヒンズー教徒が多く住む地域においては、生まれたときから不浄とされている人々がいます。

ダリットと呼ばれ、歴史的に不可触民として抑圧されてきており、その過酷な状況は今日であっても変わっていません。

「どのような人たちがダリットを呼ばれるのか?」また「なぜ不可触民とされるのか?」、そして、ダリットの差別を廃止した歴史にも関わらず、現在も続く抑圧の現状を、幾つかのケースや具体的な数字と共に見ていきます。

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ダリット(不可触民)とは?

ダリットは「不可触民」としても知られ、ヒンドゥー教社会におけるカースト制度で、最下層とされている人々。

正確には最下層と言うよりもむしろ、

  1. バラモン(司祭)
  2. クシャトリヤ(戦士と王族)
  3. ヴァイシャ(農民と職人)
  4. シュードラ(小作農民と使用人)

の4つの主な階層に分割される宗教的身分制度のヴァルナ(注)の枠組みから外れている人々(それだけ身分が低い)と言った方が良く、アウトカーストと呼ばれることもあります。

ダリット(Dalit)は元々、「抑圧された者」、「壊れた者」、「困窮した者」ことを意味することからも分かる通り、インドのカースト制度の中では、歴史的に差別の対象となってきました。

しかも、ダリットの差別を生むカースト制度が法律上は廃止された現在でも、一般市民からの差別は続き、仕事、教育、そして結婚などにおいて不利な状況を抱え、また時には暴力の対象となっているのです。

(注釈)カースト制度の中においてヴァルナとは、四層の種姓に分割する宗教的身分制度のことで、 4つの階層にはさらに細かい定義または分け方が存在している。

ダリット(不可触民)の職業や社会における立場

江戸時代の日本では、士農工商という身分制度が浸透していましたが、その士農工商の下には「穢多非人(えた・ひにん)」という人々が存在していたことを、耳にしたことがある人は多いはずです。

インドの不可触民は言ってみればこの穢多非人にあたり、一般的には好まれない、

  • 葬儀へ向けての遺体の準備業
  • 皮革の処理業
  • ネズミなどの有害生物の処理業

などの、「不浄なものに触れる」職業を主な食いぶちにしてきました。

ヒンドゥー教では、死後の家畜または牛革に触れることは特に不浄とされており、また「死」に関わる職業につくことはその人の魂を汚すとされているため、これが、上記のような職業に就ているダリットに対する差別の大きな理由の一つになっています。

加えて、汚らわしい存在であると信じられるダリット達は、ヴァルナの四階層の人々と関わることを禁じられ、様々な場所へ立ち入ることや活動を行うことも禁じられてきました。

具体例を挙げると

  • ヒンズー教の寺院への出入り
  • 読み書きを学ぶこと
  • 村の井戸から水を汲むこと
    • ダリット(不可触民)が水に触れることで他の人が必要とする水が汚されてしまう
  • 上層階級の人々が住む地域内に住むこと
  • 上層階級の人々の居住区を通行すること

などが禁止されていました。

現代社会であれば即「人権問題」に繋がりそうなものばかりで、他にも例えば、バラモンやクシャトリヤ階級の人々が側を通る際、ダリットは自分の影でさえ上層階級の人々に触れぬように気をつけたり、また、即座に地面へ顔を伏せたり必要があったと言います。

このようにダリット(不可触民)は、ヒンドゥー教のカースト制度に含まれないほど汚れた人々として、底辺生活の生涯を余儀なくされ、また、その子供達も同じような人生を歩むことを強制されてきた辛い歴史を抱えているのです。

ダリット(不可触民)の人口

ちなみに、ダリット階級出身の人口は全世界でおよそ2億6千万人いるとされ、そのうちおよそ1億7千万人がインドで暮らしているとされます。

これは、現在のインド人口がおよそ13億5千万人だと考えると、全人口の12〜13%にあたり、インドでは10人に1人以上の人が、基本的人権を無視された状況に置かれているという意味です。

ダリットが「不可触民」とされる理由

では、ダリット達はなぜヒンドゥー教社会で「不可触民」として扱われているのでしょうか?

それは、多くの日本人も親しみのある「輪廻転生」が理由。

ヒンドゥー教には仏教と同じように輪廻転生の考えがあるわけですが、ヒンドゥー教では、現世での信仰と業(行い:カルマ)によって、次の人生(来世)の宿命、つまりヴァルナの階級が定まると考えられています。

つまり、現世にダリットとして生まれてきた人間は、前世で相応に悪い行いを行ったためであり、その罰としてダリットの家庭に生まれてきたと解釈され、また悪い行いで汚れているからこそ、他の人間は触ってはならない不可触民であるというわけです。

一方で、現世にダリットとして生まれてきた人間は、禁じられている様々な行いを守り、また、他の人間がやりたくない職業に従事することでカルマを高め、来世にはより高い階級の身分に生まれることが出来ると信じられています。

ダリット(不可触民)解放運動とカースト制度の廃止

19世紀、インドを支配していた英国によりカースト制度の一部、主に不可触民に対する差別の撤廃へ向けた動きがありました。

これは英国の自由主義者達が、インド国内で目に付く不可触民への対応を「残虐行為」と捉えたのが理由。

加えて、英国からのインド独立運動の中で、有名なマハトマ・ガンジーを含む多くの活動家達がダリットを支持するようになり、例えばガンジーは、ダリットの無視された人権を強調するために、不可触民とされてきたダリットを「ハリジャン(Harijan:神の子)」と呼ぶようになりました。

そして1947年のインド独立後、インド制憲議会は「「いかなる形における不可触民制も廃止し、不可触民への差別は罪とみなす」と宣言し、1950年に制定された新憲法下では、

「不可触民制の廃止」

が17条に明記され、形式上はカースト制度(特にダリットに対する差別)が廃止されることになります。

また従来ダリット(不可触民)として扱われていた人々は、「指定カースト民(Scheduled Castes)」とされ、特別な配慮と公的な支援(教育、職業、議会議席数の分野において)をしていく対象であるとされました。

形式上は廃止されても未だに続くダリット(不可触民)への差別

しかし、形式上はダリット達への差別制度が廃止されたものの、現実には未だに社会のあらゆる場所でダリットへの差別や暴力が続いています。

ここでは、その具体例として3つのケースを取り上げて紹介していきたいと思います。

馬に乗っていたことを理由に脅迫された

2018年6月17日、20代後半のダリット男性は、色とりどりに飾られた馬に乗って結婚式へ向かっていましたが、突然、上層階級に属する一団に襲われます。

その一団は、馬に乗ることは上層階級の特権であると主張し、止めなければ男性と男性の家族を襲うと脅迫したのです。

命の恐怖を感じた男性は結局、警察の付き添いの下で花嫁の家と結婚式へ向かうことになりました。

ちなみに、ダリット出身の人間が結婚式へ向かうために馬に乗っていた所を脅されたのは、同地域では初めてではありません。

Shocking! Stone Pelted Over Dalit Groom in Ratlam for Sitting on a Horse – India TV

2015年には別のダリット男性が同じように脅迫を受け、石を何度も投げつけられた事件が起きています。

足組をしながら座っていたことを理由に殺害された

タミール・ナードゥ州で暮らして二人のダリット男性が、上層階級のヒンドゥー教徒によって殺害されたという事件が起きましたが、その殺害の理由は、ヒンドゥー教の儀式を行っている自分たちの前で、そのダリット男性二人が足を組んで座っていたというありえない理由。

儀式を終えた後、その行為を侮辱だと感じた上層階級15人のグループが、ダリット達が住む場所まで行き二人を殺害。

加えて、他にも6人のダリット達を武器で攻撃し、大怪我を負わせたのです。

遊んでいただけで服を脱がされて暴行を加えられた

2018年の6月、マハーラーシュトラ州の村にある大きな井戸を管理する上層階級の村人達が、その井戸で遊んでいたダリットの少年達を裸にして暴力を加えている動画が、インターネットに投稿される事件が起きました。

Inhumane: Minor boys stripped, beaten and paraded nude in Maharashtra

この動画の中では、少年達が葉っぱで陰部を隠すのに必死で何も出来ないのをいいことに、二人の少年達を棒やベルトで痛めつける男性が撮影されています。

また、大元となった動画では、周りからの笑い声も聞こえていたそうです。

この暴行を加えた村人達のうち二人は警察によって逮捕されましたが、一方で被害者の家族達は、報復行為を恐れて生活をしなければいけない状況に陥っています。

現代のインド社会におけるダリット(不可触民)への差別や暴力を表すデータ

見てきたように、形式上は法律で禁止されているのにも関わらず、不可触民と言われてきたダリットの人々は、未だにインド社会で差別の対象となってきていることが分かったかと思います。

最後に、その現状をさらに理解するために、より具体的な数字を挙げておきます。

  • 毎週13人のダリットが殺害されている
  • 毎週5件のダリットの家が燃やされている
  • 毎週6人のダリットが誘拐または拉致されている
  • 毎週21人のダリット女性がレイプされている
  • 田舎の約1/3の公立学校でダリットの子供は他の子供の隣に座ることを禁じられている
  • 田舎の村27.6%ではダリットが警察署へ入ることを禁じられている
  • ダリットの人々が住む村のほぼ半数は水源へのアクセスが無い
  • 田舎の村の70%ではダリットとそれ以外の人が食を共にすることは禁じられている
  • 多くのダリット女性は思春期を迎える前に売春を強要される
  • 18分毎に何かしらの犯罪がダリット一人に対して起こっている

(※インドはおよそ1億7千万人のダリット人口を抱えています)

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ダリット(不可触民)はインドのヒンドゥー教社会で抑圧された人々|人口数や職業など現状を見ていくのまとめ

カースト制度と不可触民の抑圧は現在も一部のヒンドゥー教社会で続いています。

上層階級に位置する人々によるダリットに対する暴力や社会的な排除は、カースト制度の歴史を持つ社会に深く根を張っており、完全に解決するにはまだまだ時間が掛かるのが現状です。

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