インドのカースト制度|歴史から差別廃止にも関わらず続く現在の状況まで

インドのカースト制度について詳しく確認してみましょう。制度が社会に根付くまでの歴史から、差別の廃止がされたのにも関わらず現在でも横行している状況までを見ていきます。

インドの社会に昔から根付いているカースト制度は有名で、インドの社会構造を象徴するものと言って良いかもしれません。

また、このカースト制度は、インド亜大陸の歴史的真実であるばかりでなく、現在のインドの現実でもあります。

人権保護が強く訴えられる現代社会においてでさえも、カースト制度が残す序列が、多くの人々の暮らしに影響を与え、中には残虐な状況下で苦しんでいる人々も生み出してしまっているのです。

そのインドのカースト制度に関して、核となる考えや生まれるまでの歴史、そして、制度を元にした差別が廃止されたのにも関わらず、実際には未だに横行する現在の状況までを見ていきます。

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インドのカースト制度とは?

インド社会において昔から存在してきたカースト制度(Caste)とは、インドで多数派を占めるヒンドゥー教における身分制度。

そこには4層の階級からなる「ヴァルナ」と、共同体単位の「ジャーティ(職業・地縁・血縁的社会集団)」が含まれています。

過去にはこの身分によって、公に職業や居住地が優遇または制限されてきましたが、インドの独立に伴って1950年に制定されたインド憲法の17条には、カーストによる差別の禁止が明記されました。

しかし、実際には今日でも至る所でカーストが原因と考えられる差別が確認されており、過去から現在までインド社会に深く根をはっている制度または概念と言えるのです。

カースト制度の階級

主な4つの階級「ヴァルナ」

カースト制度の階級としておそらく多くの人がイメージするのが、4つの社会的身分の総称である「ヴァルナ」。

ヴァルナには

  1. バラモン
  2. クシャトリヤ
  3. ヴァイシャ
  4. シュードラ

の4つの階級がピラミッドの階層を成すように存在しています。

最高位である「バラモン」は神への祭祀をつかさどり、もっとも崇高な人々として扱われました。

そして二番目の階級「クシャトリヤ」は、王や戦士などに分類され、元々はバラモンを守護する役割も担っていたとされます。

さらに、3番目の階級である「ヴァイシャ」は、商人や一部の教育を受けた人々が分類され、これらの人々はバラモンやクシャトリヤに値する権利は持っていないものの、多額の資産を持つことも可能であった階級です。

一方、下位カーストである「シュードラ」は、上位階級の生活を支える農民や使用人(奴隷)など、特別な技術を持たない単純労働者などが分類されていました。

ヴァルナにも含まれないダリット(不可触民)

また、カースト制度にはヴァルナにさえも含まれないほど身分が低い、ダリット(不可触民)と呼ばれるアウトカーストの人々が存在します。

ダリット達は死人や家畜の糞尿の処理など不潔とされる仕事をさせられることが多く、特にこれら不潔なもの触ることは人間の精神を汚れさせるという考えを持つヒンドゥー教において、他階級の人々からむげに扱われてきたのです(※しかし葬式での死人の世話など、ダリットの仕事は人々から嫌煙されがちだけれど大切なものである)

そのため、1950年にインド憲法17条では、不可触民を意味する差別用語の使用禁止が明記するなどされましたが、ダリットに対しての差別や暴力は、現在のインド、特に田舎において未だに頻繁に起こっています。

共同体単位の身分制度「ジャーティ」

カースト制度の主な4つの階級に加えて、同じ階級でも

  • どんな仕事をしているか
  • どんな地域出身なのか
  • どんな血縁関係があるのか

などによって、実際の身分はさらに細かく区分けされていますが、この同じヴァルナ上の階級であっても細い区分けは「ジャーティ」と呼ばれます。

例えば、

  • 壺つくりのジャーティ
  • 清掃のジャーティ
  • 羊飼いのジャーティ

といった感じで分かれ、その数は5000近くにもなると言われます。

また、過去にはこのジャーティによって、付き合う友人や将来の結婚相手を決まる習慣もありました(現在でも一部の田舎などには残っている)

一方で、このジャーティによる区分けにはメリットもあると考えられます。

一例を挙げると、同じ仕事をしている者同士が友人として繋がる環境と言うのは、同じ職業だからこそお互いをサポートしやすく、また、上手く仕事を進めるための秘訣を仲間内でシェアしやすいという利点です。

近年、インドの急激な経済成長や社会の発展によって、ジャーティによる細分化は機能しなくなりつつありますが、現在でも多くのインド人に根付いている考えであることは確かです。

カースト制度の歴史:制度前のインドから制度が根付くまで

インド社会はとてもユニークで、古くから統一国家があった中国や地中海沿岸部諸国などとは違い、一つの国家として統一された歴史がありません

確かに紀元前300年頃に建国したマウリヤ朝や西暦320年頃に建国したグプタ朝のように、インドのほとんどの地域を統一した王朝はありましたが、こういった王朝では社会階級にそれほどの関心が寄せられていませんでした。

さらに、インドには古くから様々な信仰があり、結果、あまり知られていないものから有名なものまで含めれば、非常に数多くの宗教があります

加えて同じ宗教の中でも細かく宗派が分かれていることも珍しくありません。

そして、一つの国がインド全域を統一できなかったのと同じように、宗教のリーダー達も他の宗教に属する人々を統一するまでには至りませんでした

言ってしまえば、インド社会は混沌とした状態が長く続き、社会秩序というものがなかったのです。

しかし、信仰している宗教に関係なく、無秩序な社会に暮らすインドの人々が抱いていたのが、「この混沌とした状態はインドにとって良くない」という思い。

この思いに答えるように、現在のヒンドゥー教の大元であるバラモン教が形成されていく過程で、インド社会の混沌の隙間を縫うように、カースト制度も発達し広がっていったのです。

一体誰がカースト制度を始めたかについては未だに議論されていますが、バラモン教の起源は紀元前1500年まで遡り、紀元前500年頃には現在知られるバラモン教の形になっていたため、この間にカースト制度が徐々にインドの社会構造に根付いていったのだと考えられます。

インドのカースト制度をより理解するために知っておきたいこと

インドのカースト制度の基本を見てきましたが、現在でも未だにインド社会に根深く存在するこのカーストをより理解するには、知っておきたいことがまだまだあります。

ここでは、カースト制度の理解を深めるために確認しておきたい10のことを簡単に紹介していきます。

インドカースト制度に関する知識1:マヌ法典の存在

カースト制度を理解するために不可欠なのは、インドにおける宗教のあり方を形作ってきたヒンドゥーの経典です。

なかでも、最も根幹となるヴェーダがより哲学的であるのに対し、マヌ法典にはヒンドゥー教社会が「どう機能すべき」かや「人々が順守すべき伝統や儀式」に関して、より詳細なことが記されています。

例えば、このマヌ法典には、

  • 不可触民がバラモン階級の人から距離をあけるための歩数
  • ルールに違反した時の経済的、社会的、身体的な罰
    • 例:シュードラの人が上位3つの階層の人間の名前や階級名を傲慢に口にした場合、長い鉄釘を口に突き刺す など

といったようなことが書いてあり、カースト制度による差別の根深さに繋がった原因の一つであることが分かります。

インドカースト制度に関する知識2:カーストから抜け出すための改宗

カースト制度の中で人々は、一生生まれた階級のまま過ごさなくてはいけないため、シュードラやダリットなど、身分の低い階級に生まれた人にとっては非常に過酷な一生が待っていました。

そんな時、「神の生誕以前は誰もが平等だった」という考えを持つイスラム教がインドに入ってきます。

結果、シュードラやダリットなどに属する人々の多くがイスラム教へ改宗することになり、これが、南アジア地域でイスラム教徒が多い一つの理由です。

また、同じような理由から仏教へ改宗する人間も多くいました。

しかし、宗教的上のカーストからは外れたものの、カースト制度は社会構造の一部として存在しているため、結局は生まれた時のカーストによって縛られることも少なくありませんでした。

インドカースト制度に関する知識3:カースト制度の裏にある輪廻転生

このカースト制度がインドにおいて批判されずに正当化されてきた理由として、ヒンドゥー教における「輪廻転生」の教えは無視出来ません。

それは、現在の階級は前世のカルマ(行い・業)によるものであり、低い階級に生まれてきたのは前世で悪い行いをしたからという考え。

この結果、低い階級に生まれた人間は、現世において前世で行った悪い行いを償い、そして耐えることこそ、現世に課された課題であり、その課題を終わらせることで、来世ではより高い階級に行けるとしてカーストの実態を正当化してしまったのです。

インドカースト制度に関する知識4:アンベードカルの過激な批判

ビームラーオ・ラームジー・アンベードカル(1891〜1956)は、自由を求めて戦った偉大な思想家であり、また、インド憲法の草案を作成した人物。

カースト制度における不可触民ダリットの家庭に生まれ、仏教への改宗や圧倒的な努力によってニューヨークのコロンビア大学で学び、博士号を取得した近代インド史における偉大なインド人の一人。

彼はまた、自身の著書「カーストの絶滅」において多くの革新的な主張をしたことでも有名です。

なかでも「ヒンドゥー教自体はカースト無しには意味をなさない」という言葉。

ヒンドゥー教は単なるカーストの寄せ集めであると批判し、イスラム教がインドにやって来てからようやく、ヒンドゥー教は「宗教」や「文化」と定義されたと主張しているのです。

この考えは非常に過激であるため、未だに議論の的となっています。

現在のインドでもカースト制度による差別や人権無視が続いている実態

最後に、インドにおいては未だにカースト制度による差別や人権無視が続いている点に関して、いくつかの例やデータを挙げておきます。

現在の「奴隷」的身分の人たち

インドでは富裕層世帯がメイドや召使い、また運転手などを抱えることがありますが、この「使用人」となる人は、カースト制度でのシュードラやダリットといった人々であることがほとんど。

この「使用人」達に課されるのは仕事だけでなく、支える家族とは

  • 別のコップで飲料を飲むこと
  • 一緒のダイニングテーブルに座らないこと
  • 別の道具を使うこと

なども含まれ、昔の奴隷制度さながらの状況が続いています。

そしてこのことは、残念ながら現在のインドでよく見る光景となってしまっているのです。

現在でも続くデーヴァターシーの恐ろしい慣習

デーヴァターシー(Devadasi)とは「神に支える者」を意味し、カースト制度に数多く含まれるマイナーなカーストの一つで、主に南インドのマディヤ・プラデーシュ州で昔から存在しています。

そして、このデーヴァターシーの慣習と言うのが、現在のインドにおいて、カースト制度による人権無視を象徴している一つの例。

このカーストに生まれた少女たちは、12歳で全てを捨てて「神へ仕えることを強要される」のです。

「神へ支える」というのは聞こえが良いですが、実際には上位カーストの男性に所有されて「性の奴隷」になることを意味しています。

つまり、デーヴァターシーの女性達は、ずっと売春を強要されながら生涯を過ごすことになるのです。

ダリットに対するカースト差別と人権無視

また、カースト制度上でダリットに属する人々に対しては、現在のインドでも差別や人権無視が続いており、以下のデータがそのことを象徴しています。

  • 毎週13人のダリットが殺害されている
  • 毎週5件のダリットの家が燃やされている
  • 毎週6人のダリットが誘拐または拉致されている
  • 毎週21人のダリット女性がレイプされている
  • 田舎の約1/3の公立学校でダリットの子供は他の子供の隣に座ることを禁じられている
  • 田舎の村27.6%ではダリットが警察署へ入ることを禁じられている
  • ダリットの人々が住む村のほぼ半数は水源へのアクセスが無い
  • 田舎の村の70%ではダリットとそれ以外の人が食を共にすることは禁じられている
  • 多くのダリット女性は思春期を迎える前に売春を強要される
  • 18分毎に何かしらの犯罪がダリット一人に対して起こっている

(※インドはおよそ1億7千万人のダリット人口を抱えている)

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インドのカースト制度|歴史から差別廃止にも関わらず続く現在の状況までのまとめ

インド社会に古来より根付くカースト制度について見てきました。

一方で、この制度によって、インド社会では未だに多くの人々が苦しんでいる事実もあります。

しかし、インド社会に構造の一部として昔から根付いてきているため、状況が改善していくにはまだまだ時間がかかりそうです。

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