エスキモーについて紹介していきます。イヌイットと呼ばれる人々が属する、北米からシベリアの北東部にまで暮らす先住民グループの一つです。
「エスキモー」と呼ばれる人々を知っていますか?
北米やロシアのシベリア最北東部の極寒地に住む先住民達のことで、極寒の環境に適応する形で文化や生活様式を発展させてきました。
一方で、「エスキモー」という言葉は、過去にはカナダを中心に侮辱的な意味合いを持つ名称として扱われてきたことから、エスキモーに属する一部の人々は現在、イヌイットと呼ばれるなど、エスキモーを理解するのは少し複雑です。
この記事では、そんなエスキモーについて詳しく見ていきたいと思います。
前半部分ではエスキモーの概要を確認していくと同時に、エスキモーとイヌイットの違いや、エスキモーの文化と生活を見ていきます。
そして後半部分では、エスキモーに含まれる各民族またはグループを簡単に紹介していきます。
エスキモーとは?
エスキモーとは、アメリカのアラスカやカナダ北部、そしてグリーンランドからシベリア極東部など、北極圏およびそれに準ずる北極に近い極寒地域に住んでいる代表的な先住民グループ。
人種的には日本人と同じモンゴロイド(黄色人種)に分類されます。
ただし、「エスキモー」と言うのは単一の民族を指しているわけではなく、その中には複数の民族が含まれおり、各民族は次の二つのグループへ大まかに分けられます。
- イヌイット
- アラスカ北部以東(東部集団)
- アラスカ、グリーンランド、カナダに主に居住している
- アラスカ北部以東(東部集団)
- ユピク
- アラスカ中部以西(西部集団)
- シベリア極東部、アラスカに主に居住している
- アラスカ中部以西(西部集団)
そして、これらエスキモーに属する人々の人口規模は、21世紀初期の統計によると、135,000人以上であると推定され、そのうち85,000人は北米、50,000人はグリーンランド、そして残りの人口は北極圏のシベリア極東部で生活しているとされています。
ちなみに、アメリカ北部には他にもいくつかの先住民グループ(ネイティブアメリカン)が暮らしていますが、エスキモーの人々は文化的にも、そして血縁関係的にも異なる点は抑えておくべき。
例えば、エスキモー達が扱う言語「エスキモー・アレウト語族」に属するイヌイット語やユピク語は、他の北アメリカ先住民の言語とは別の歴史を辿って発展してきたことが明らかになっています。
また、生理学的にみると、エスキモーに属するかなりの人の血液型はB型であり、これは、他のアメリカ先住民グループが持つ傾向とは異なります。
エスキモーという名前(イヌイットとの違いも確認)
「エスキモー」と言う名前は、16世紀頃からヨーロッパをはじめとする人々にとって、「北極圏の人々」を指す目的で使われてきました。
そして、その「エスキモー」という単語の起源は、アラスカに住むエスキモー達の近隣に住んでいたアルゴンキン語の方言を話すモンタニェ族(北アメリカ北東部に住むネイティブアメリカンの一民族)の言葉に由来しているという説が有力。
その説によると元々は、
- 「かんじき(雪の中に足が深く入るのをさけるために、はきものの下につけるもの)」
- または、「かんじきの網を編む」
のどちらかの意味を指し示す言葉であったと考えられています。
一方で、カナダを中心に本来の意味ではない「生肉を食する人々」と間違って解釈されるようになった結果、「生肉を食らう野蛮人」という意味合いの暗に侮辱を込めた呼び名として使われた時期がありました。
そのため、エスキモーに属する一部の人々にとって「エスキモー」という呼び名は侮辱的と捉えられており、特にカナダとグリーンランドにいるエスキモー民族に含まれる人々は現在、「イヌイット」と呼ばれるのが一般的です。
ただし、イヌイットはあくまでもカナダとグリーンランドにいる人々を指す言葉であるため、
- 「エスキモー ≠ イヌイット」(※エスキモーとイヌイットはイコールではない)
という点は覚えておきましょう。
カナダやグリーンランドの人々をイヌイットと言う場合、他のエスキモー達も同じように区別するために、アラスカエスキモーは「イヌピアット」と呼んだり、シベリアなどに住むエスキモーは「ユピク」などと呼んで区別することになります。
エスキモーの文化と生活
伝統的な文化と生活
エスキモーについて文化的な側面から見ていくと、彼らの伝統的な生活は、極寒、降雪、そして氷に囲まれた環境に適応したものであったことが分かります。
食生活について見ていくと、生活の中に野菜はほとんど存在せず果実は限られるため、基本的には、
- カリブー(トナカイ)
- アザラシ
- セイウチ
- クジラ
- 魚
といった極寒の地に生きる動物の肉や脂身が主な食糧源でした。
また、そのためにもエスキモーの生活は狩猟を土台としており、例えば、
- 氷上から、又は皮で覆われた一人乗りのカヌーに乗り、モリでアザラシを捕える
- ウミアクという大きめの船に乗って複数人でクジラを捕える
- 夏には弓矢を使ってカリブーや他の陸上動物を狩る
といったことを通して、食糧の確保をしていました。
さらに、食糧以外の点でも、極寒の地へ適応したエスキモー文化を垣間見ることが出来、その一例として以下のようなものが挙げられます。
- 陸上での移動は犬ぞりが一般的
- 衣服は極寒から身を守るため、カリブーの毛皮から作られている
- 冬はイグルーと呼ばれる雪を固めたドーム型の家(かまくらのような物)に住む人もいる
- 他にも、木製およびクジラの骨からなる骨組みを石または芝で覆った半地下の住居で越冬する人もいる
- 厳しい中でも自然の恵を受けながら暮らすエスキモーは基本的にアニミズムを信仰している
現代の生活
一方で、現代社会の波がエスキモー達にも押し寄せた結果、より南に暮らす人々や地域社会との交流が増え、エスキモーの生活も大きく変化しました。
陸上の移動では犬ぞりにかわりスノーモービルが一般的に使われるようになり、狩りにはモリや弓ではなくライフルが登場するようになりました。
また、船には船外機(スクリューなど)が取り付けられ、既成の洋服を着る人が多くなり、伝統的なエスキモー経済には無縁であった貨幣も欠かすことが出来なくなっています。
そして、多くの人々が遊牧・狩猟生活から離れ、現在は鉱山や油田で働いたり、一部の人はより知的な労働に従事しながら、北部の市街地で生活しています。
エスキモーに含まれる民族
エスキモーは単一の民族集団ではなく、そこには複数の民族が含まれるのは上述した通り。
ここからは、エスキモーを大枠にわけた場合の「イヌイット」と「ユピク」にそれぞれ含まれる、各民族またはグループについて見ていきたいと思います。
イヌイット
イヌイットは次の地域に居住しているエスキモー系の民族グループ。
- アメリカのアラスカ州ベーリング海沿岸
- カナダの北部
- ノースウエスト準州
- ヌナブト準州
- ケベック州の一部
- ラブラドル地方の北極沿岸部
- グリーンランド(デンマーク領)
- デンマーク本土
- アラスカ北部以東のその他の北極圏
このイヌイットには、さらに細かい民族またはグループがいくつか含まれます。
一方で、イヌイットに含まれる民族またはグループは、わりと最近まで文化や生活面で高い同質性を保っていました。
それら「イヌイット」に含まれる民族は以下の通りです。
グリーンランドイヌイット
グリーンランドイヌイットは、グリーンランドに暮らすイヌイット達。グリーンランド人口のおよそ90%を占め、その人口規模はおよそ50000人。
ただし、その中には一部、北欧系の人々との混血も含まれています。
また、グリーンランドイヌイットはさらに以下3つのグループに分けることが可能だとされます。
- カラーリット
- 西部に居住してカラーリット語を話す人々
- トゥヌミイト
- 東部に居住してトゥヌミイト語を話す人々
- イヌクトゥン
- 北部に居住してイヌクトゥン語を話す人々
カナダの北東部のイヌイット
カナダに住むイヌイットの多くは、
- ヌナブト準州
- ノースウェスト準州
- ヌナビク
- ケベック州の北部に位置するイヌイット居住地域
- ヌナツィアブト
- ラブラドル地方のイヌイット居住地でありカナダの自治地方
などに居住しています。
このカナダ北東部のイヌイット達は、イヌイットの中では最大グループになり、人口規模はおよそ65000人です。
カナダの北西部のイヌヴィアルイット
イヌヴィアルイットはカナダ西北部の北極域に居住しているイヌイット達。
その名前は、故郷である「イヌヴィアルイット居住地(カナダの北極域やアラスカ州の国境西部からアムンゼン湾の沿岸線地域にあたる)」に由来します。
そして、現在の人口規模はおよそ3000人ほどと考えられています。
アラスカのイヌピアット
アメリカのアラスカ州北部の北極海沿岸地域に住んでいる人々で、人口規模はおよそ20000人。
イヌイット系民族に属しますが、イヌピアット達は自らをイヌピアット(真の人間の意味)と呼び、イヌイットと自称することはあまりありません。
ただしそれでも、カナダ北西部に住むイヌヴィアルイットなどの他のイヌイットグループと、明確な違いはないとされます。
また、イヌピアット達は「アラスカエスキモー」と呼ばれることもあります。
ユピク(ユピック)
(出典:wikipedia)
ユピクは、アメリカのアラスカ州の中でも西南部のベーリング海沿岸地域や、ベーリング海を挟んだシベリア極東地域最東部に住むエスキモーグループ。
より詳しく見ていくと、以下の場所を主な拠点としています。
- アラスカ州の西南海岸沿いの地域
- ユーコン・カスコクウィム三角州
- 南アラスカのカスコクウィム川沿い など
- ロシア極東地域
- チュクチ自治管区
- セントローレンス島
- ベーリング海北部、アラスカ本土の西、ベーリング海峡の南に位置する島で58km先にはロシア本土東端のチュクチ半島がある
そして、このユピク達は伝統的に、アザラシやセイウチなどの海生哺乳類を狩猟することによって生活していました。
また、イヌイット同様に、このユピクにもいくつかの民族またはグループが含まれるとされます。
アリュティーク
アリュティークは、「パシフィックユピク」や「スグピアック」とも呼ばれることのあるユピク系のグループ。
主にアラスカ南西部とアリューシャン列島(アラスカ半島からロシアのカムチャツカ半島にかけて約1,930キロメートルにわたって延びる列島)に居住している人々です。
アリュティークの人々は、伝統的に海岸沿いという地域性を生かした生活を送り、サーモン、オヒョウ(カレイに似た海水魚)、クジラなどを主な食糧源とし、時期によっては陸地で収穫または狩猟できる果物や陸生動物も食糧としています。
また、現在は漁業が盛んな沿岸沿いの地域において他の分野で働く者も多くいますが、それでも自給自足の生活を基盤とした文化を維持しています。
ちなみに、アリュティークの人口は現在、およそ3000〜4000人だと見積もられています。
中央ユピック
中央ユピックは別名、中央アラスカユピックとしても知られるユピク系のエスキモー達。
ユピク系エスキモーのグループとしては最大規模になり、人口はおよそ34000と推定されています。
アラスカ州西部から南西部に住み、アラスカ本土の南西部の沖合に浮かぶネルソン島にも居住しているユピク系のエスキモーグループで、中央アラスカ・ユピック語を扱う人々です。
ちなみに、中央アラスカ・ユピック語はアラスカに存在する土着の母語としては最大で、ユピック全体の人口21000人のうち10000人がその言葉を話すと見られています。
ユイット
ユイットは、シベリアユピックやシベリアエスキモーとも呼ばれるユピクグループの人々で、ロシア極東のシベリア最東端にあるチュクチ自治管区と、アラスカ州のセントローレンス島へ主に居住し、その人口規模は約3000人。
そして、シベリアユピック語を主な言葉としてしようしているのが特徴で、アラスカに居住するユイット達のほとんどは、このシベリアユピック語を母語として話すとされます。
一方で、シベリアのチュクチ自治管区で生まれた子供達は、ロシア語を母語として最初に習得するようで、シベリアユピック語はその後に学んでいくようです。
ナウカン
ナウカンはユピク系エスキモーの中では、最も規模が小さいグループ。
シベリアのチュクチ自治管区に住んでおり、同じ地域に住むユイットとは異なり、ナウカン語(ナウカン・ユピック語)を話します。
ちなみにその人口規模はおよそ500人前後と見積もられています。
合わせて読みたい世界雑学記事
- ネネツ族(ネネツ人)|ロシア先住民の一つでトナカイの民と知られる人々
- イヌイットとは?日本人に似た北米先住民の生活や特徴を探る!エスキモー諸民族の一つ
- エスキモーキスとは?鼻をこすり合わせる方法が特徴的なキスの種類
- →こちらから世界の民族に関する情報をさらに確認出来ます
エスキモーとは?イヌイットを含む北米やシベリアに暮らす先住民の一つのまとめ
北アメリカの北部からシベリア極東部の極寒地域に暮らす先住民、「エスキモー」について見てきました。
エスキモーはその厳しい環境に適応しながら生き抜いてきた人々で、独特の文化を現代にまで伝えています。
一方で、エスキモーと言っても、そこには異なる民族が含まれる点は、エスキモーを理解する上で重要なポイントです。