アニミズムについて解説していきます。シャーマニズムや自然崇拝との関係から、意味や信仰例までを確認して、理解を深めていきましょう。
「自然界に存在するもの」と聞かれて思い浮かべるものは何ですか?
きっと植物や動物、土、水、そして私たち人間などが思いつくかと思いますが、これら自然界に存在する全ての物に精霊や霊魂が宿っているとする考えがアニミズムです。
この記事では、その「アニミズム」という概念について、出来るだけ簡単に、ただし十分に詳しく掘り下げて解説していこうと思います。
まずは、アニミズムの定義や意味を確認することから始め、アニミズムをとりまく議論やシャーマニズムとの関係、そして、アニミズムに分類される具体的な信仰の例までを見ていきましょう。
アニミズムとは?
アニミズムとは、動物、植物、山河、岩、風、雨など、有機物・無機物を問わない自然界に存在する全ての物の中に霊魂、霊、精霊が宿っているとする考え方。
より日頃の生活に即した言い方に直して、
- 私たちの身の回りにあるもの全てには魂が宿っている
といった説明がされることもある考え方です。
一方で、アニミズムには多様な形が存在する、つまり、決まった地域に限って広まっている概念ではない点は、アニミズムを理解する上で大切。
地理的な環境、文化、宗教あるいは精神文化の歴史など、それぞれの地域またはコミュニティ独自の世界観が取り入れられて反映され、独自に発展しているのが特徴です。
例えば、日本発祥の神道にもアニミズムの概念を見つけることが出来るため、アミニズム信仰であると言えますが、他の地域で発展したアニミズムを信仰する人々全てが、神道を信じているかといったらそういうわけではありません。
このように、同じアニミズムと言っても、それぞれの地域に昔からある慣習、宗教的行事、世界観が取り入れられているため、その実践方法や信仰の細部は、地域ごとに大きく異なってくるのがアニミズムなのです。
アニミズムの名前の意味
英語でアニミズムは「animism」と表記されますが、この「animism」は、「霊魂」や「生命」を意味するラテン語由来の言葉。
そのため、英語で「霊魂」や「生命」と関連のある以下のような単語とも関連付けられます。
- animal = 動物
- animate = 生命を吹き込む/活気づける
- inanimate = 生命のない/無生物の/活気のない
このように、アニミズムを英単語の「animism」で捉えると、より意味が理解しやすくなるかと思います。
ちなみに、「アニミズム」を間違えて「アミニズム」と表記してしまう人もいるかと思いますが、アニミズムが大切にする「自然界」に欠かせない「アニマル(=動物)」と関係づけて覚えると、間違いが少なくなると思います。
アニミズムという「定義」はそこまで古くない
「アニミズム」という言葉は、人類学者などの第三者が、この考え方や信仰を説明するために使ってきた言葉であり、アミニズムを信仰する人たち自身が使ってきたものではありません。
(アニミズムを初めて定義したE.B タイラー:出典:wikipedia)
この「アニミズム」という言葉が生まれて概念が初めて定義されたのは、1871年に出版された「原始文化」という研究書籍の中でのこと。
「原始文化」の著者である英国の人類学者「エドワード・バーネット・タイラー」によって、
すべての物や自然現象に、霊魂や精神が宿るという思考
(引用:wikipedia)
と定義されたのが始まりです。
タイラーの研究書物が出版されて以降もアニミズムの研究は続けられて発展してきましたが、アニミズムの定義を最初に発表したタイラーの著書には今でも強い影響力があります。
自然崇拝とアニミズムの違い
また、アニミズムと非常に近い概念として「自然崇拝」が存在しますが、詳しく見ていくと両者は異なるので覚えておきましょう。
自然崇拝は「自然物・自然現象を対象とする崇拝、もしくはそれらを神格化する信仰の総称」のことで、アニミズムの原始的な形とも言われます。
しかし自然崇拝では、アニミズムの特徴である「自然界全ての物に “精霊”が宿る」といった考えはなく、自然または自然現象そのものを崇拝するという点が大きな違いです。
アニミズムは宗教なのか世界観なのか?
さて、見てきたようにアミニズムは、「自然界全ての存在に霊魂が宿るとする」一種の「考え方」であることは分かったかと思いますが、アニミズムを巡っては「宗教なのか宗教でないのか?」という点で議論が続いています。
まず第一に、アニミズムを宗教として考えた場合、アニミズムの考え方は世界各地で確認されており、その範囲は非常に広いため、アニミズムは世界で主流の宗教であると言えるでしょう。
さらに、世界各国に存在する様々な宗教に比べても、アニミズムは人類の歴史の中に長い間存在してきました。
しかし、仮にアニミズムを宗教に分類した場合でも、例えばユダヤ教、イスラム教、キリスト教、仏教などと同じ意味の宗教ではないのは明白です。
例えば、アニミズムは組織化された施設(シナゴーグ、モスク、教会、お寺など)を持つ宗教ではなく、明確な教義や聖典などもありません。
また、アニミズムはとても独特な形で、地域ごとの文化に根付きながらそれぞれ発展してきた概念。
ゆえに、アニミズムの世界観を持つ人々を一つの宗教で定義づけることはとても困難なのです。
さらに、アニミズムを信じる人はアニミズムを、自分の生活からかけ離れたスピリチュアルな慣習を行う「宗教」としてではなく、毎日の生活に自然と盛り込み、無意識にその考えを持っていることが多いのです。
このような理由から、アニミズムは宗教ではなく、「人々が宇宙や自然と人間との関わりを考える上での基礎となる世界観」とする意見も一般的です。
アニミズムを考える上で大切な「シャーマニズム」
シャーマニズムとは、トランス状態になることで、精霊の世界を自分の中に引き込み、精霊たちとコミュニケーションできる能力を持つ「シャーマン」と呼ばれる人が存在することで成り立っている宗教や宗教現象の総称。
アニミズムと完全に同じ概念というわけではありませんが、重複する要素が存在するなど、アニミズムとは切っても切り離せない概念の一つです。
アニミズムの概念が存在する文化では、自然界に宿る精霊や霊魂とコミュニケーションを取れる特別な人物(シャーマン)が存在していることが多くあります。
例えば地域によって、シャーマンは死者の霊魂と交わる能力があるとされたり、農業が不作な時などに呼ばれて、大地、雨、太陽、その他の農業に関係した霊や神と交わり、その状況を好転させるといった力を持つなどと考えられています。
また、シャーマン達は特殊な力に加えて、その文化や社会の中で特別な社会的役割を担うこともあります。
このようなことから、シャーマニズムはアニミズムを知る上では見落とせない概念なのです。
「シャーマン」という名前の由来
シャーマニズム(shamanism)の象徴である「シャーマン(shaman)」という言葉は、ロシア北部の先住民「エヴァンキ族」が使っている「šaman(シャマン)」に起源を持つとされています。
この「šaman(シャマン)」という言葉がその後、ロシア語の中で「шаман (シャマーン) 」として使われるようになり、以来、世界各国の言語に広がり、「一種のトランス状態になってスピリチュアルな世界と交信ができたり、目に見えない世界とつながれる」人々は「シャーマン」と呼ばれるようになっていきました。
そして、このシャーマンを通して精霊の世界と交信する伝統・慣習・宗教などは「シャーマニズム」と呼ばれるようになったのです。
アニミズムの具体例
ここまでで、アニミズムに関する一定の理解が深まったかと思いますが、アニミズムをより理解するためにも、アニミズムの具体例をいくつか挙げていきたいと思います。
ちなみに、「アニミズム」とはあくまでも「自然界全てには霊魂が宿る」とする考え方を指すため、実際の信仰においてアニミズムが単独で信仰されているということは稀で、通常はより大きな宗教的枠組みの中で信仰されています。
例えば、アニミズムの表現は仏教、ヒンズー教、ジャイナ教、神道などの中で見られ、東洋でも西洋でも、アニミズムと言える考え方を見つけることが出来るのです。
そして、以下が実際の具体的なアニミズムの例です。
- 神道における八百万の神
- 神道では自然のもの全てに神が宿っているとされ、これはアニミズムの一例だと言われる
- イヌイット達が狩りの前に行う特別な儀式
- 北米の極寒の地に住む先住民族イヌイット達は、災いが起きないように動物達の魂を沈める特別な儀式を狩りの前に行う
- 中世ヨーロッパに見られたアニミズム
- 中世ヨーロッパの特定地域には、穀物の中に穀物の精霊が宿るとか、牛の中には精霊が宿るといった考えが存在していた
- 古代ヨーロッパで信仰された豊穣神達
- 古代ヨーロッパではギリシャ神話に出てくるデーメーテールや、ローマ神話に出てくるケレースといった神々が、草木の成長に関連付けられ、特に豊穣を願う際に信仰された
- 東部インドの地域で信仰される木の精霊
- 東部インドの特定の地域で働く木こり達は、木に宿るとされる精霊をなだめてから木を切り始める
- アフリカのバカ・ピグミー族のジェンギ信仰
- アフリカに住むピグミー族の一つ「バカ族」は、森林の精霊である「ジェンギ」を信仰しており、ジェンギはバカ族の社会構造を維持する上で欠かせない精神的存在である
- シェルパ族が信じる大自然の神々と悪魔達
- ネパールのシェルパ族は全ての山、洞穴、そして森に神々が宿っていると考えており、登山のガイドとして働く人は登山中に事故が起こらないように、登山前には特別な儀式を行って「精霊」達を鎮める
最後に:「アニミズム」を使うことに関する議論
アニミズムという言葉を生み出したことで、「自然界全てに精霊が宿る」という概念全てを一律にアニミズムと指すことが出来るようになったわけですが、この使い方に関しては未だに意見が分かれています。
アニミズムという言葉を使うことが、同じような慣習や概念を持つ人々をカテゴリー分けするのに役立つという意見もいれば、そのアニミズムに分類された習慣や概念が、時には大きく異なることもあるため、一律に「アニミズム」として使わない方が良いという意見も存在するからです。
この点は「アニミズム」をしっかりと理解するためにも、そしてアニミズムという言葉を利用するためにも、非常に大切なポイントなので頭に入れておいてください。
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アニミズム|シャーマニズムや自然崇拝との関係から意味や信仰例までのまとめ
アミニズムに関して、その意味、シャーマニズムや自然崇拝との関係、そしていくつかの議論や具体例までを見てきました。
アニミズムは、自然界に存在する植物や動物、石などの物体それぞれに、精霊や霊魂が宿っているという概念。
この概念をどういった形で社会や信仰に取り込んでいるかは、その地域にある文化や環境などによって変わってきますが、通常、アニミズムの世界観は人々の毎日の生活に盛り込まれることが多く、アニミズムを宗教として考えべきかどうかは、今でも議論されるトピックです。
ただし、一つ言えることは、アニミズムの概念は世界中で確認することが出来、古来より様々な地域で非常に長い間、それとなく信じられてきた概念だということでしょう。