アルメニアの民族衣装であるタラズに関して、その特徴や歴史を紹介していきます。コーカサスの小国アルメニアの文化を知る上では抑えておきたい要素の一つです。
アルメニア人は何千年もの長い歴史を持つ民族と言われます。
近現代史の中ではオスマン帝国によって支配されるなど、決して独立国を維持し続けたわけではありませんが、そんな境遇にあってもアルメニア人は自分たちの伝統、文化、アイデンティテイを守り抜き、今に至っています。
そんな長きに渡るアルメニア人の歴史や文化を象徴するものの一つが、アルメニアの民族衣装で、現代のアルメニアでは伝統的なお祭りや催しの時、この民族衣装を着た人たちがダンスを披露します。
この記事では、そのアルメニア民族衣装について、詳しく紹介していこうと思います。
アルメニアの民族衣装「タラズ」とは?
アルメニアの民族衣装はアルメニア語で「տարազ」と表記され、読み方は「タラズ(taraz)」です。
同じタラズであっても、その人が住む地域や社会によって微妙に異なり、例えば、もともと一般向けに作られていたタラズは、現地で生産されるウール(羊毛)とコットン(木綿)を使って作られることが多く、一部の資産家や貴族階級に当たる人たち向けのタラズには中国から輸入したシルク(絹)が使われることが多かったようです。
また、タラズは数世紀にわたり「毛皮、布地、金属、宝飾などが入手できるかどうか?」、「刺繍技術」、「天候の状況」、「機能性」などといった様々な要因に影響を受けながら変遷をたどってきました。
その結果、一口に「タラズ」と言っても決して全く同じということはなく、加えて、
- 地域アイデンティティ(西アルメニアか東アルメニアか?など)
- 社会における階級
- 人生における立ち位置
- 抱える富
- 性別
などを表すある意味で社会的要素の強い服だっと言えます。
実際に、かつてはタラズによってその人がどこの社会や階級に属しているのかが理解出来たと考えられています。
ちなみに、「アルメニアの民族衣装」とほぼ同義語的に使われる「タラズ(taraz)」ですが、アルメニア語においてこの言葉は多くの意味を含みます。
例えば、
- 形状
- ブランド名
- ファッション
- 方法
- 外観・外見
- 衣装
- 制服
- ドレス
などです。
次に、長い年月をかけて伝統衣装タラズが徐々に変わっていった歴史とその背景を見ていきます。
アルメニア民族衣装「タラズ」の歴史
タラズの歴史については一説によると、アルメニア高原(現在のトルコ東部のヴァン湖周辺から現在のアルメニアにかけての地域)に広がっていたウラルトゥ王国(紀元前9世紀頃〜紀元前585年)の時代にまで起源が遡り、その後、同地に移り住んだアルメニア人によって受け継がれていったのが今日のタラズとなっていったと言われます。
初期のアルメニア民族衣装は、暖かく、生きていくために必要な、非常にシンプルで機能性のある衣服でした。
それが、
- 新しい布地
- 染料
- 留め金器具
の発達や誕生によって、機能性に加えて少しずつ見た目の良さも重要視されるようになり、今日に見る様なタラズの原型が出来上がっていきました。
ちなみに上でも触れた通り、初期のアルメニアタラズには自分たちの土地で生産出来るウールとコットンが主に使われていましたが、中国から輸入しないと手にはいらないシルクを使ったタラズは富の象徴として一部の富裕層や貴族に愛用されていました。
そして、アルメニア高原とそこに住むアルメニア人は、ビザンチン帝国、ローマ帝国、オスマン帝国、アラブ、ペルシャ、ロシアなど、様々な国の影響を受け、またタラズも同様に大きく影響されて姿を変え、現在のタラズとなっていきました。
タラズの色について
タラズに使用する生地は、その地方で取れる染料を使って染められており、また、タラズに使われる各色は特別な意味合いを持っています。
その具体例をいくつか上げると次のような感じです。
- 黒色:土壌
- 白色:水または慎ましさ
- 赤色:空気
- 黄色:炎
- 紫色:知性
- 赤色:勇気
- 青色:正義
さらに、タラズに使われている色によって例えば、
結婚しているのか?独身なのか?
というのを見分けることが出来るとされ、これは結婚相手を探している人にとってはとても重要で有効な機能だと言えると思います。
他にも、女性が着るタラズには多くの刺繍が施されていますが、金銀の色が刺繍によって加えられている場合、そのタラズは裕福な家庭に属する女性を表していた様です。
タラズに使われる装飾品やデザイン
タラズには、代々引き継がれてきた宝石や装飾品が取り付けられていることが良くあり、これもその人の背景となる先祖代々のステータスや富を象徴していると言えると思います。
また、タラズを着る際に女性は、シルバーのネックレスやブレスレットをつけることが良くあります。
さらに頭につける頭飾りもあり、既婚女性は特に額の半分以上を覆う高さのある帽子の様な頭飾りを身につける傾向にあったようです。
この高さのある帽子のような頭飾りには細かい幾何学模様が刺繍され、さこへ銀貨や金貨が飾られ、頭に被る際にはそのままではなくて白いスカーフを何枚か上からかけて固定するのが一般的です。
一方で、女性が着る服のデザインには、頭飾りのように幾何学模様のものもあれば、ハサミやお椀など、日頃の生活で使われていた物を象徴するデザインが刺繍されていることもあります。
このデザインの違いは、歴史的な影響や地元の慣習によって生地や重要な意味を持つアクセサリーが変わっていった結果、アルメニアの各地方によって少しずつ異なる特徴を持つようになったというのが理由です。
また、気温や季節によっても異なり、寒い冬などはタラズの上に長袖の覆いを重ね着して防寒することがあります。
アルメニアの民族衣装タラズは男性用のものもある
ちなみに、上で触れてきたタラズは基本的に女性用のものですが、アルメニアのタラズには男性用の物も存在します。
男性用のタラズは大きく分けて次の2つのパーツに分けることが出来ます。
- 上着
- シャツ
- ジャケット
- (必要に応じて)毛皮のコート
- ズボンとベルト
男性用のタラズはほとんどがコットン、ウール、またはシルクで出来ています。
シャツは長袖で、袖口には刺繍が施されているのが特徴です。
また、シャツの上にはカフタン(caftan)と呼ばれる前開きの服を着ていて、これはアルメニアの男性向けタラズにおいては欠かせないもので、昔はとても暑い時を除いて、男性がカフタンを着用しないで公の場に現れることは無礼だと考えられていたらしいです。
そして、時期によっては毛皮のコートを着用して寒さから体を守りました。
一方でズボンは大抵非常にゆったりとして履きやすいスタイルになっています。
また、男性が使うベルトには象徴的な意味があったらしく、
- シルバーのベルト
- → 成人している
- ゴールドのベルト
- → 富を持っている
といったことをそれぞれ表していました。
ただし、この男性のタラズも地域によって異なる特徴を持っていました。
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アルメニアの民族衣装「タラズ」の特徴や歴史を紹介のまとめ
アルメニアの民族衣装「タラズ」は、アルメニアの文化や歴史を象徴する物です。
現在のアルメニアでは日頃からタラズを身につけている人はいませんが、伝統的なお祭りやイベントなどでタラズを着たダンスを観ることが出来たり、Yerevan Pandok(Tavern Yerevan)のようなレストランではたまに、タラズを着用したダンサーがダンスを披露してくれたりするので、アルメニアを訪れた際には是非。
さらに、アルメニア人の知人が運営している写真スタジオ「Photo Atelier Marashlyan」では、アルメニアの民族衣装を身につけて写真撮影が行えるので、興味ある人は立ち寄ってみてはいかがでしょうか。