シンガポールにおけるガム禁止令は世界的にも有名です。観光客でさえ持ち込みに規制がかかり、違反すると罰金や実刑が課される可能性があるのです。このガム禁止令について確認していきます。
東京23区より少し大きいだけの面積しか抱えない小さな都市国家でありながら、シンガポールは過去数十年で目覚ましい発展を遂げてきました。
また現在では、世界でも有数な生活水準に加えて、非常にクリーンな都市であり国として知られており、その一つの理由としてシンガポールにおけるガム禁止令が挙げられます。
- この世界的にも有名なガム禁止例とは一体どういったものなのか?
- 罰金や実刑が課されるとして知られるガム禁止例が施行された背景や現状とは?
シンガポールのガム禁止命について詳しく見ていきましょう。
シンガポールにおけるガム禁止とは?持ち込みにも罰金がかかるって本当?
「ガム禁止令」は、1992年からシンガポールが施工した法律として世界的にもよく知られた法律。
当初は、全てのガムを国内で販売することはもちろん、持ち込むことも固く禁じられており、破ったものには禁固刑の実刑や大きな罰金が課されました。
一方で、アメリカとの自由貿易協定を締結する過程で、一部のガムはこの対象から外れ、2004年以降は医薬品や医療品に準ずるガム(健康目的、虫歯予防、禁煙予防のためのガム:シュガーフリーガムやニコチンガム)は、歯医者または薬局に限ってのみ販売が可能となりました。
また、現在ではその他のガムに関しても規制の施行が実質的に緩和され、観光者は一人当たり2パックまでは持ち込みが可能で、公共の場でなければ噛むことが出来るという話もあります(参照:Chewing Gum Facts)。
ただし、この件に関しては、未だに「政府が認証した健康目的のガム」以外は、シンガポール政府が発表している「税関で持ち込みが禁止されている商品」の中に含まれている事実があります。
そのため、
- 現実に緩和されていたとしても、税関や政府はガムを持ち込んだ観光客に対し、いつでも法律に乗っ取った形で罰金または実刑を課すことが出来る
と言え、「あくまでも担当した税関職員の裁量でガムの持ち込みが咎められるかどうか決まる」と考えられます。
さらに、
- 2パックと言うのが具体的に何枚・何個または何gのガムなのか不明瞭
- 2パック以上持ち込んだと判断された場合は、ガムの密輸と見なされて5500シンガポールドル(10000シンガポールドルという情報もある)の罰金または一年の禁固刑が課される可能性がある(参照:Chewing Gum Facts & MONEYSMART)
という点にも気をつけなくてはなりません。
このように、シンガポールでは1992年以降、ガムに関しては非常に厳しい罰則付きの法律が制定&施行されています。
また、一部では緩和されたと言われますが、それはあくまでも税関側などの裁量によると考えられ、現在でも法的には特定のガムを除いて規制対象に含まれているのです。
シンガポールでガムが禁止された背景
シンガポールでガムが禁止された背景を確認していくと、そこには小さな港湾都市国家でしかなかったシンガポールを巨大な貿易と金融のハブへ変えた、初代シンガポール首相リー・クアンユーが目指す国家と、それを実現しようとした政府機関の働きが見て取れます。
リー・クアンユーは、シンガポールを発展させるにおいて、経済発展だけでなく、清潔感と正しい行いも強調していました。
リー・クアンユーによると、1983年、国家開発省より「ガム禁止令」についての初めての打診があったと言います。
そして、この時点でガムの販売や消費を促すテレビコマーシャルを規制するなど、「初期段階の規制」が始まりました。
当時の住宅開発庁の報告によれば、シンガポールでは長年にわたりガムの清掃費として年間約15万シンガポールドルがかかっており、その場所は、
- 歩道
- 鍵穴
- 住宅地周り
- 公共交通機関の座席
にまで及んでいたと言います。
MRTの誤作動を引き起こしたことがガムの全面禁止につながった
当初、リー・クアンユーは、ガムの全面禁止には反対の立場をとっていました。
全面禁止の措置は過激であり、国民教育や再犯者への罰金刑で現状は改善できると考えていたのです。
しかし、このリー・クアンユー主張は、MRT(マス・ラピッド・トランジット)と呼ばれる、大規模な都市鉄道網の運用が開始されてから一変します。
1987年にMRTの運用が開始される時点で、この計画には総額50億ドルがつぎ込まれ、政治家達や財界人達は、都市国家シンガポールがどのように近代化、もっといえば革命的に変化していくのかという点に沸き立っていました。
そうしたなか、乗客達の中にはガムでイタズラをして、電車を誤作動させて混乱を引き起こす者が現れ始めたのです。
そのガムによるイタズラとは、
- 電車のドアセンサー部分にガムを張り付ける
- センサーを感知出来なくなったドアが閉まらないなど誤作動を起こす
- 長時間の運行停止といった障害が起きた
といったものです。
この様な背景もあり、激しい議論が展開されたものの、1992年、ついにガムの全面禁止が当時のシンガポール首相ゴー・チョクトンから発表され、ガムはシンガポールから公式に禁止される存在となったのです。
ガム禁止令が発表されて以降のシンガポール
ガム禁止令の賛成派は「これでシンガポールの近代化を妨げる見苦しい迷惑行為がなくなる」と、この新しい法律を歓迎しました。
これに対して反対派は、突然の全面禁止は厳し過ぎ、また、個人の自由を制限するものだと主張。
さらに1994年、アメリカの若者がスプレーによる落書きによって鞭打ちの判決を受けたことから、アメリカのメディアがシンガポールにおける法律の厳しさに注目。
これによって、シンガポールにおけるガム禁止令も国際的な注目を集めるようになりました。
さらに、ガム禁止令が施行されてから10年ほど経った頃、イギリスのBBCがリー・クアンユーに、
これほどまでに厳しい禁止令があっては、人々の創造性(クリエイティビティ)を抑圧してしまうのではないか?
と尋ねたところ、
リー・クアンユーは、
Putting chewing gum on our subway train doors so they don’t open, I don’t call that creativity. I call that mischief-making,… If you can’t think because you can’t chew, try a banana.
地下鉄のドアにガムを張り付けてドラを開かなくする。これを私はクリエイティビティだと思わない。私はそれを迷惑の想像と呼ぶ。(中略)もしも、何か噛まないと考えられないなら、バナナで良いのでは?
と答えています。
一方で、シンガポールに住む人の中には、ガム禁止令を無視し、国境を越えてマレーシアの都市ジョホールバルまで行きガムを買い付けたりする者も現れました。
この行為に対してシンガポール政府は、行為自体を取り締まることはなく、代わりに、買い付けたガムを国内で転売した者を発見した場合に罰金を課すやり方をとりました。
2004年以降から一部が緩和された
1999年に当時のアメリカの大統領ビル・クリントンがシンガポールを訪問した際、アメリカとシンガポールは両国間における自由貿易協定を推進していくことに同意。
この過程でアメリカは、ガムも対象となる輸入品目として議題に挙げます。
これがシンガポール政府にとってはジレンマとなり、結果、「医薬品や医療品など、健康目的と政府が認可したガムは、歯医者または薬局に限ってのみ販売が可能」として、2004年からガム全面禁止の規制が緩和されたのです。
ガム禁止令と現在のシンガポール
法律的には税関の持ち込み禁止商品に含まれているなど、未だにガムはシンガポール国内において規制対象になっているため、自由にガムを噛みたい人にとっては、確かに息苦しさがあるかもしれません。
しかし、吐き捨てられたガムの跡が一切ないシンガポールの道は、非常に綺麗であるのも事実です。
例えば日本では、道を歩いていたら気づかぬうちに誰かが吐き捨てたガムを踏んでしまうことがあり、その後には歩くたびに不快感を覚えます。
一方のシンガポールでは、吐き捨てられたガムによる不快感を経験することがないのです。
実際、シンガポールに長期滞在していても、ガムの規制に従うことに問題を感じることはほとんどないでしょう。
賛否両論あるかと思いますが、ガムが禁止されたことによるメリットもある上、ほとんどの人にとっては大きな問題になっていないというのが、現在のシンガポールにおけるガム禁止令の実情かと思います。
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シンガポールのガム禁止令|持ち込みは罰金や実刑?背景や現状とは?のまとめ
シンガポールのガム禁止令について、その罰則から、禁止令が採用された背景、そして現状までを見てきました。
ちなみに、ガム禁止令はシンガポールの清潔さを改善するためにある複数の法令の一つにしか過ぎません。
他にもポイ捨て、落書きやつば吐きなども、シンガポールでは禁止されています。