中国とアフリカの関係を3つの柱で見ていきます。積極的なアフリカへの進出をはかる中国と、アフリカ諸国の現在の関係は、今後の国際情勢を占う上でも重要です。
近代の中国とアフリカ諸国の関係は1950年代後半、中国がアルジェリア、エジプト、ギニア、ソマリア、モロッコそしてスーダンと、初の二国間通商協定を結んだことに遡ります。
それ以降、両者の関係は続いており、現在のアフリカ諸国において分野によって中国は、最も重要なパートナーにまでなっています。
そしてこのことは、他国がアフリカ戦略を考える上でも重要であり、それは日本とて同じです。
この記事では、今後の国際情勢において最も重要なプレーヤーとなってくるであろう中国と、非常に大きな潜在力を持つとされるアフリカ諸国の関係を、外交、経済、軍事の3つの柱から見ていきたと思います。
中国とアフリカの外交関係の基盤とそこから見える強固な関係
近代初期の中国とアフリカの関係には、冷戦や共産主義の思想が大きく影響したと言えるでしょう。
中国は当初、南アフリカにおいて反アパルトヘイトおよび黒人の解放運動を目指す「アフリカ民族会議(ANC)」と協力関係にありました。
しかし、中国とソビエト連邦(ソ連)との関係が悪化し、ANCとソ連との関係が強まるにつれ、中国はANCから離れて「汎アフリカ会議(かつて大陸の殆どがヨーロッパ諸国の植民地だった為に発生した問題に取り組む、アフリカ系黒人指導者による一連の国際会議)」を支持するようになります。
そして、この時から中国は、
- インフラ整備に投資をしながらアフリカ諸国の独立を支援していく
といった基本軸を含む、いくつかのアフリカに対する外交方針を掲げていたと言えるでしょう。
ちなみに現在、中国は53のアフリカ諸国と外交関係を結んでおり、2013年と2018年に習近平が国家主席に選ばれた際には2回とも、習近平はアフリカを最初の外遊先として訪問しています。
一方で、2015年から2017年末にかけてだけでも、30人近いアフリカの首脳達が中国へ訪問しています(参照:XINHUANET)。
ソ連と一線を画したことで外交関係を維持した中国
ソ連と同じ共産主義の旗の下に国を運営していた中国ですが、一方ではソ連と一線を画すことでアフリカとの関係を維持し、現在まで良好な外交関係の発展を見ることが出来たと言えます。
例えば、ソマリア民主共和国(1969〜1991)は、冷戦時代には一貫してソ連と協力関係にありました。
しかし、「大ソマリア主義(アフリカ北東部のソマリ人居住地域すべてを統合し、大ソマリアを建設しようとする思想)」の下、ソマリアはエチオピアに宣戦布告。
当初、ソ連の支援によってソマリアは3ヶ月でオガデン一帯を手にしましたが、その後にソ連がエチオピアの支援に回ったことにより、一帯は再びエチオピアの領土となりました。
この一連のソ連の行動は、当時のソマリア大統領で、一時は「アフリカ統一機構(現在のアフリカ連合へと発展したアフリカにおいて重要な国際組織)」の議長も務めた「モハメド・シアド・バーレ」を憤慨させ、結果、ソマリアに在住するソ連の国民や関係者は国外追放されてしまいました。
反面、同じ共産主義でもソ連の共産主義とは異なった中国は、この一連のソ連の動きに対して一線を置いていたため、ソマリアとの外交関係は維持され、以前にも増して強化されることとなります。
そして、他のいくつかのアフリカ諸国(例:ブルンジ)は、この中国の動きをポジティブに捉え、同盟関係を結び強化していくようになったのです。
21世紀に入ってからも多くのアフリカ首脳が中国を訪問し、2000年以降は中国とアフリカ諸国との共同体話(公式フォーラム)である「中国・アフリカ協力フォーラム」が、3年おきに開催されるようになるなど、その外交関係は持続的な発展を続けています。
国連加入時に中国とアフリカの強固な外交関係が示された
中国大陸で共産党が主導する中華人民共和国の建国が1949年に宣言されて以降、中華民国(台湾)と中華人民共和国という、二つの「中国」が存在することになるわけですが、中華民国の存在は中華人民共和国の国連加盟において大きな課題であり続けていました。
というのも、1945年に国連が設立された当初、「中国」の代表は「中華民国」であり、この中華民国が国際連合の代表権と安全保障理事会常任理事国の座を維持し続けていたからです。
しかし1971年、中華民国を国連から追放することに成功し、国連において中華人民共和国は中国の唯一の正当な政府となったのです。
そして、この時、以前から強固な外交関係を発展させてきた多くのアフリカ諸国の支持が、大きな役割を果たしたのです。
また、国連の場において、アフリカ諸国が国連常任理事国入りを果たすかどうかなどは、中国の支持に掛かっているとも言え、現在、両者の関係は「持ちつ持たれつ」の非常に重要な関係となっています。
中国による医療外交の成功
いわゆる本流の「外交」からは少し外れますが、大枠で見た場合、中国が行ってきたアフリカに対する医療面での協力(医療外交)は、中国による協力支援策の中でも大きな成功分野の一つで、中国とアフリカの外交関係を強化した理由の一つと言えるでしょう。
中国は1960年代以降、アフリカに対して「医療外交」を積極的に進めてきました。
例えば、1960年代初頭から数万人にも上る中国人医師が、様々な病気を診るためにアフリカ47カ国以上に派遣されてきました。
彼ら中国人医師達とそのチームは、インフラが整わず、本来であれば医療を受けることが出来なかったアフリカ人患者の治療に当たっており、多くのアフリカ人の命を救ってきたのです。
これは、政府によるトップダウンではなく、草の根的なボトムアップでのアフリカ諸国民が抱える中国に対するイメージ向上に役立っていると言えます。
文化面での外交政策
また、中国は文化面からのソフトパワーを使った外交政策も積極的にアフリカで展開しています。
このことを象徴する最大の例が、孔子学院の増加でしょう。
孔子学院とは、
中華人民共和国が海外の大学などの教育機関と提携し、中国語や中国文化の教育及び宣伝、中華人民共和国との友好関係醸成を目的に設立した中国政府の機関
(引用:wikipedia)
のことで、2004年にアフリカで孔子学院の設立が始まってからというもの、2017年末の時点までで、学院の数は54(39ヵ国)にもなり、いわゆる「カルチャーセンター」をアフリカに設置している国としては、フランスの180箇所についで二番目に大きな規模となっています(参照:QARTS AFRICA & XINHUANET)。
また、この孔子学院が設立されると、その国へ仕事などで移り住んで来る中国人の数が増える傾向にありますが、アフリカの地に昔から移り住んでいた中国人合わせると、現在ではおよそ100万人程度の中国人がアフリカに居住しているのではないかと考えられています(参照:Perspectives)。
さらに、文化交流を通した中国のアフリカに対するソフトパワー戦略は、次の面からも成功していると言えるでしょう。
- 姉妹都市の増加
- 130以上の姉妹都市が中国とアフリカ諸国の間に存在する
- アフリカへの中国人観光客の増加
- 2015〜2017年の平均的な年間観光客(中国→アフリカ)は100万人を超える
- 中国による専門家の養成
- 2018年末までに中国は、アフリカにいる様々な分野の専門家20万人へトレーニングを提供する
(※上記は2017年末時点)
中国とアフリカの経済関係
近年の目覚ましい中国経済の発展のおかげで、中国とアフリカの経済関係も益々強固なものになってきています。
1980年時点では、中国とアフリカ諸国間の貿易総額は米ドルで10億ドルほどでした。
しかし、2000年にその額はおよそ105億ドルにまで上昇し、2017年時点では1700億ドルになるなど、増加の一途を辿っており、現在のところ、アフリカにとって中国は、世界最大の貿易相手国となっています(参照:AfricaRenewal & CHINADAILY)。
さらに、アフリカでビジネスを行っている中国企業は1000近くにも上ると言われ、多くはインフラ整備、エネルギー、金融業など、アフリカの発展にとって重要な分野に投資していることも、アフリカの経済発展における中国のプレゼンスを高めていると言えるでしょう。
中国によるアフリカへの投資は2000年から2017年にかけて100倍以上に増えており、また、2015年から2017年の3年間における、中国からアフリカに対する投資額は年平均で約30億ドルに上り、アフリカ大陸のほぼ全ての国が対象となっているとされます(参照:XINHUANET)。
また、無条件かつ15年から20年間1.5パーセントで借りれる低金利で条件の緩い融資が、より条件に厳しい欧米諸国のローンに代わって利用されるようになっている点も抑えておくべき点です。
加えて2000年以降、アフリカ諸国が中国政府に対して負っていた合計100億ドル以上の負債が免除されたことも、アフリカ諸国の中国に対する心情を大きく向上させました。
ちなみに、中国とアフリカの経済関係の特徴の一つが、インフラへの優先的な投資。
例えば2017年には、ケニアのナイロビとモンバサを結ぶ480kmにも及ぶ鉄道が、中国の投資によって完成しました。
これによって、ケニアの二つの大都市間の移動時間が半分に短縮され、46,000もの雇用が生まれたとされます。
また他にも中国は、内陸国で海へのアクセスがないエチオピアと、ジプチにある港を繋げる国境をまたいだ鉄道建設へも支援を行いました。
インフラへの積極的投資は、中国のアフリカに対する重要な戦略の一つと言えるでしょう。
アフリカ経済の発展へさらに積極的な姿勢を見せる中国政府
さらに最近では、拡大する中国からのアフリカ投資を守るため、中国はアフリカ国内への不干渉政策から転換をはかり、南スーダンやマリなどにおける不安定な情勢の解決に向けて、新たな外交姿勢や軍事政策を打ち出すなど、その姿勢をより積極的なものに変えています。
他にも、2015年12月、南アフリカヨハネスブルグで開かれた「中国・アフリカ協力フォーラム」において、中国の習近平国家主席は、「10大協力計画」とそれに伴う、アフリカ大陸諸国への3年以上にわたる600億ドルの融資と援助を発表。
その中では、
- 産業促進
- インフラの相互接続
- 貿易円滑化
- グリーン発展
- 能力開発
- 健康・衛生
- 人的・文化的交流
- 平和・安全保障
の8つの分野での協力(8大行動)を実施すると約束しました。
このように、中国はアフリカに対する経済協力を以前にも増して積極的に行っていこうとしていることが分かります。
軍事面での中国とアフリカの関係
中国によるアフリカへの軍事支援は、冷戦時代、アフリカの解放運動の支援を中国が積極的にした頃から始まりました。
例えば、1955年から1977年にかけて、およそ1億4200万ドル相当の軍事機材や設備が中国からアフリカ諸国に輸出されています(※さらに現在では、アフリカ諸国の多くが長い付き合いのロシアから価格的メリットのある中国へと、その軍需供給元を変更しつつある)。
また近年では、アフリカ大陸の平和維持活動参加のために中国は軍を派遣し続けており、複数のアフリカ諸国に駐在武官を派遣したり、軍事訓練や装備の提供をしています(※軍隊を派遣しているわけではない)。
一方で、2015年に開かれた中国・アフリカ協力フォーラムにおいて、習近平国家主席は、
China strongly believes Africa belongs to the African people and African problems should be handled by the African people
アフリカはアフリカの人々ものであり、そこでおきる問題はアフリカの人々が対応していかなければならない
(引用:REUTERS)
と言明し、現在(2018年現在)における直近の軍事協力は、あくまでも急進的なテロを抑制するためのものであり、それ以外の国内における紛争に対するものではないことを強調しています。
ただし、2017年8月に中国は、アフリカ大陸北東部に位置するジプチに「初の海外における中国軍基地」を完成させおり、アフリカにおいてはケニアにも中国軍軍基地を建設する計画があるとされています。
この結果、
周辺地域に対する影響力も、国際社会での中国の発言権も大きくなる
(引用:産経ニュース)
といった分析もあり、中国の隠れた「覇権国家」を目指す意図が垣間見れます。
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中国とアフリカの関係|積極的な中国による進出を3つの柱で見る!のまとめ
2015年にヨハネスブルグで開かれた、「中国・アフリカ協力フォーラム」において習近平国家主席は、中国とアフリカの関係をより「包括的で戦略的、そして協力的なパートナーシプ」へ引き上げることを、中国とアフリカ諸国が全会一致で合意したことを発表しました。
このように、現在、中国の積極的なアフリカ進出は、中国とアフリカ両者の強固な関係によって成り立っていますが、一方でその進出が「中国はアフリカにおける新時代の植民地開拓者」だとして非難されることもあります。
国際情勢を理解したり予想するためにも、今後も中国とアフリカの関係は注視していくべき対象だと言えるでしょう。