都市国家とはどういった国家なのか?他の国家とは何が違うのか?かつて世界に存在した都市国家の例や、現代社会で確認することが出来るシンガポールを始めとした、今日の世界に存在する都市国家までを見ていきましょう。
世界史や国際政治などを調べていくと「都市国家」という言葉に出くわすことがあります。
都市国家とは、一般的に想像される国家とは少し違い、一つの都市それ自体が国家として機能している国で、現代社会では限られた数しか存在しないものの、かつては人間の歴史の中で多くの都市国家が興亡を繰り返してきました。
都市国家とは何なのか?
その定義から歴史上に存在した都市国家の例、そして今日存在する3つの都市国家についてまでを見ていきましょう。
都市国家とは?
都市国家とは、簡単に言ってみれば、
「1つの都市」と「その支配地域」だけで成り立つ独立した主権国家
のことで、別な言い方をすれば、
「政治的に独立した」1つの都市(支配地域を含む)
のことを指します。
これは特に古代においてよく見られた国家の形で、例としてカルタゴ、ローマ、アテネ(アテナイ)などが挙げられ、世界史の中で古代ギリシャ文明を学ぶ時に出てくる、アテナイやスパルタなどの都市国家は「ポリス」と呼ばれ有名です。
さらに、世界最古の文明の一つメソポタミア文明は、ウル、ウルク、ラガシュなどといった都市国家が複数誕生することによって、形作られていきました。
そして、時代が経ってからも地域によっては歴史の中で都市国家が数多く出現しました。
例えば、統一される以前、ルネサンス時代のイタリアには、ヴェネツィア、アンコーナ、フィレンツェ、ナポリ、ピサ、バーリ、ルッカといった商業都市国家が多く存在しています。
一方で今日では、都市国家は珍しいものとなっており、本来の定義でいう都市国家はバチカン市国、シンガポール、モナコの3か国のみです。
ただし、厳密には違うものの、都市国家はしばしば「ミニ国家(都市国家を含んだ規模が非常に小さい国)」と明確な区別なく同じように使われることがあります。
例えば、マルタ、ブルネイ、サンマリノ、バーレーンなどがその例です。
これら地域には人口の大半が暮らす都市(事実上の首都)が1つ存在しますが、正確な定義上の都市国家と違い、それに加えて小規模な街や行政地区がいくつか存在しているのです。
古代の都市国家
古代から中世にかけて、ロシア、ギリシャ、中央アジア、エジプト、スワヒリ海岸など、世界の様々な場所で都市国家が繁栄しました。
都市国家ローマ
特に代表的な例の一つはローマでしょう。
ローマはテヴェレ川(イタリアで3番目に長い川で現在のローマ市内を流れている)の沿岸に作られた、数々の定住地から発展しました。
これらの居住地域を基に、そこへ住む人々が都市国家ローマを作り上げたと考えられています。
紀元前509年頃には都市国家ローマで共和政が始まり、憲法や議会、元老院、年に一度選出される政務官など、民主主義的な機能が作られました。
そして、ローマが持つ支配地域は、征服によって北アフリカ、西ヨーロッパ、地中海地域、東欧と北欧、そして小アジアにまで広がっていった結果、最盛期の紀元前120年頃には、約500万㎢の国土と5000万人~9000万人ほどの人口を抱えるほどになり、都市国家から帝国へと変貌を遂げたのです。
都市国家ティルス
古代に栄えた都市国家としても一つ、フェニキア人が作った都市国家の中でも最大級の規模に発展したティルスについても触れておきましょう。
主に地中海を中心に海上貿易に従事して海洋文明を築いたフェニキア人は、古代において数多くの都市を築きましたが、ティルスはその中でも最大で、古いエリアと新しいエリアの2つ(陸地と小島)で構成されていました。
最初に発達したのは陸地の方で、紀元前2500年頃から栄え始めました。
その後、主な都市機能が陸地から1kmほど離れた小島に移され、そこは海上貿易に従事するフェニキア人にとっては重要な貿易の中心地となり、また、強力な防御砦が築かれることで、フェニキア人都市国家の中でも最大規模にまで発展していきます。
さらに、ティルスの人々はムール貝を砕いて染料を作ることに長けており、この紫色の染料は非常に高価なぜいたく品として重宝されたこと、そしてティルスはイスラエル地域と同盟を結んだことなども、その発展を加速させました。
ちなみに、バビロニアの王ネブカドネザル2世は、13年もの間ティルスを包囲しましたが、その防御の盾を破ることはできなかったと言われます。
また、かの有名なアレキサンダー大王がティルスに目を付けた際、ティルスはフェニキア人国家の中では唯一抵抗を試みた都市国家だとされます。
中世から近世のイタリア都市国家
ヴェネツィア、シエナ、フィレンツェ、ルッカそしてジェノヴァは、9世紀から15世紀の間に最も発達したイタリアの都市国家でした。
まずヴェネツィアは、強力な船と海軍を持ち、スパイス、絹、穀物などの交易地として発展。ぜいたく品が多く集まったことで銀行も発展し、ヴェネツィアは世界初の国際金融の中心地となったのです。
そして、ジェノヴァも貿易によって権力を握り、ジェノヴァの銀行家はスペインの王室などにお金を貸すほどでした。
フィレンツェは、12世紀に他の国家との貿易によって繁栄。数多くのパラッツォや教会が作られ、ゴシック建築が発展し、高級な毛織物産業も存在しました。
さらに、ルッカは絹産業で知られ、シエナは商業の中心地として栄えました。
これらの都市国家は古代ローマやギリシャに倣った共和政を敷き、繋がりを持ついくつかの議会が重要な決定を下し、法と行政は選挙で選出(あるいは任命)された大人の男性が担当しました。
一方、主要な都市外の支配地域に住む住民は、ほとんど政治的な力は持っていませんでした。
イタリア都市国家の衰退
16世紀になると、今まで存在したイタリア都市国家の多くが主権を失います。
例えば、フィレンツェ共和国はメディチ家の支配の下で、1532年にトスカーナ地方全域に領土を拡大したトスカーナ大公国となり、シエナは1555年にスペインに占領された後、1557年にフィレンツェによって買収されました。
18世紀になると都市国家はさらに衰退します。
1645年から1718年まで続いたオスマン帝国との戦争の結果、ヴェネツィアは独立を保つことが困難になり、1797年にフランスのナポレオンによって占領されました。
ルネサンス期以降の都市国家は、強力な君主制の専制国家から身を守るための人的資源と富を確保することができずに敗れ、衰退していったのです。
現代に存在する都市国家
最初の方でも触れた通り、今日の世界にはシンガポール、モナコ、バチカン市国の3つの都市国家が存在します。
これら、現代に存在する都市国家を簡単に見ていきましょう。
シンガポール
マレー半島南端に位置する東南アジアの小国シンガポールは、本島であるシンガポール島と、60以上の小島で構成された国家。
国自体が都市であり、他に行政地区を兼ね備えた街は存在しない、アジア地域に存在する唯一の都市国家です。
1965年にマレーシアから独立する以前はイギリスの植民地で、また、第二次世界大戦中は日本の占領下にありました。
そして戦争後、シンガポールは他の元イギリス植民地と一緒にマレーシア連邦として独立しますが、政策の違いなどからわずか2年で分離し、1965年に独立国家となったのです。
独立当初は地政学的な理由や資源不足などに苦労しましたが、国際貿易やアジアにおける金融のハブになることへフォーカスした政策が功を奏し、経済は急速な発展を遂げました。
現在のシンガポールは、代表制と憲法に支えられた民主主義の政治体制を敷き、さらに、レベルが高くテクノロジーの発達した軍隊を持っており、必要があれば小国でありながら自ら防衛を行えます。
モナコ
フランスの地中海沿岸地方に位置し、陸側の周囲をフランスに囲まれるモナコは、今日現存する都市国家の一つで、国連加盟国の中では世界最小の国家。
その面積は約2.02㎢で、人口は40,000万人未満です。
立憲君主制を敷いており、例外を除いては基本的にグリマルディ家が実権を握ってきました。
そんなモナコは、1861年の「フランス・モナコ保護友好条約」によって主権を回復して独立しましたが、軍事面での防衛に関しては、フランスが責任を持っています。
ちなみに、西ヨーロッパに位置するものの、モナコは正式にはEUへ加盟していません。
しかし、国境管理や関税などのEUの政策には参加しており、また2004年からは欧州評議会のメンバーにもなっています。
バチカン市国
バチカン市国はイタリアのローマの中に、0.44㎢ほどの面積を持つ都市国家で、国家としてのサイズは世界最小。
イタリア政府と法王聖座(ローマ教皇及びローマ教皇庁)の話し合いの結果、1929年の「ラテラノ協定」によって独立国家となりました。
このバチカン市国においては、ローマ・カトリック教会の元首がバチカンの政治的な指導力を握るため、ローマ教皇(ローマ法王)が、立法・司法・行政の全てを担っているのが特徴です。
また、バチカン市国の高官はカトリック教会の聖職者であり、世界の様々な国の出身者がいます。
ちなみにバチカン市国は、切手の販売、博物館・美術館への入館料、そしてその他のお土産品の販売になどを通したユニークな経済体制を築いています。
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都市国家に関して、その定義からかつて存在した都市国家の例、そして、現代社会に存在する都市国家までを紹介してきました。