フツ族はルワンダとブルンジにおける多数派の民族です。フツ族について詳しく解説していくと共に、少数者のツチ族との関係についても抑えていきます。
フツ族というアフリカの民族は、20世紀後半にルワンダで起きたルワンダ虐殺によって一躍名前が知られることになりました。
しかし、フツ族という民族名を覚えていたとしても、フツ族がどのような人々なのかまでは分かりません。
この記事では、フツ族に関する基本的な情報から伝統生活までを紹介していこうと思います。
まずは、フツ族の概要を抑えることから始め、その後にフツ族が住むルワンダとブルンジにいるツチ族やピグミー・トゥワ族との関係を確認し、最後に彼らの伝統や生活様式などについて見ていきます。
フツ族とは?
フツ族(Hutu)とはアフリカのルワンダとブルンジ両国において、人口の85%前後を占める多数派の民族として知られ、一部はコンゴ民主共和国に住んでおり、全体としての人口はおよそ1850万人。
外見的にはいわゆる「黒人」としての特徴を有するネグロイドに属し、アフリカ大湖沼(アフリカ大陸を南北に縦断する巨大な谷「大地溝帯」にある湖の総称)の周辺地域に最も最初に入植してきた人々であるとも考えられています。
そして、今日のルワンダとブルンジに住む多くのフツ族はキリスト教を信仰しており、およそ人口の90%がキリスト教徒。
しかし、古代からの土着信仰も一部大切にされており、多くの人間の特徴を有して「善」を意味する神「イマアナ(Imaana)」の存在などが信じられています。
他にもフツ族の中には、先祖の霊「アバジマ(abazima)」を信じる人々もおり、これらの霊を供養して現世の人間を守ってもらうためにお供え物がされたり、占い師を通すことで先祖の霊と交信出来ると考えています。
一方、植民地時代以降から広まったフランス語や英語以外でフツ族が話す言語は、バントゥー語群に属する言語。
ルワンダではルワンダ語、ブルンジではルンディ語と呼ばれており、発音が多少異なる点が両者の違いです。
フツ族とツチ族やピグミー・トゥワ族の関係
フツ族が住む地域は他にも、
- ツチ族
- ルワンダとブルンジの人口の14〜15%程度を占める
- ピグミー・トゥワ族
- ルワンダとブルンジの人口の1%弱を占める
という二つの民族が居住していることで知られますが、フツ族が話すバントゥー言語は、同地域に住む少数派のツチ族とピグミー・トゥワ族にも共有されている点はポイント。
特に、フツ族とツチ族に限って言えば、言語だけでなく宗教や文化も共有しており、現在でこそ二つの異なる民族に明確に区分されますが、元々、両者の違いは非常に曖昧であり、人種的には非常に近い、または同じであった可能性が高いと考えられています。
(ツチ族の王妃:出典:wikipedia)
このようなことから、両者の区分はあくまでも、ヨーロッパがこの地を支配下に置いた際、両者を明確に区分して隔たりを作ったことが最大の原因であり、2つの集団の違いは民族性に基づいているというよりは、人口的に分けられたものであると指摘されているのです。
その際、両者を明確に区別した理由が、ツチ族とフツ族を比べると、どちらかと言えばツチ族の方が白人系人種「コーカソイド」に似ており、ヨーロッパ人がこの地を間接的に統治するためにも、この「ツチ族判定された人々」を支配層として優遇しようとしたため。
両者は以下のような違いだけで完全に異なる民族だとされたのです。
- フツ族(よりネグロイドー黒人系ーに近い特徴を持つとした)
- 中程度の背丈とずんぐりした体系
- 肌の色が比較的濃い
- ツチ族(コーカソイドー白人系ーに近い特徴を持つとした)
- 痩せ型で鼻が高くて長身
- 肌の色が比較的薄い
一方で、フツ族やツチ族と比べてさらに人口規模の小さなピグミー・トゥワ族は、成人しても身長が150cm未満にしかならないピグミー族に含まれる人々で、フツ族やツチ族とは人種的にかなり異なると言えるでしょう。
ヨーロッパの植民地支配以降深まったフツ族とツチ族の対立
ルワンダとブルンジに多く住む多数派のフツ族と少数派のツチ族の関係は、1890年から1962年にかけ行われた、ヨーロッパによる植民地支配の影響を強く受けてきました。
まず、1889年から1918年に第一次世界大戦が終戦を迎えるまで、この地域はドイツの支配下にありましたが、ここで優遇されたのがツチ族の人々。
そして、1918年以降はベルギーの支配下に置かれるわけですが、ツチ族が優遇される状況は変わらないばかりか、むしろ1930年代に両者を完全に区別するIDカード制が導入されたことによって、さらに悪化したと言えるでしょう。
そのような状況の中、ルワンダとブルンジは1962年にベルギーから独立することになりますが、両国はその独立に至るまで、以下のように対照的な道をたどりました。
- ルワンダ
- ツチ族出身の当時のムワミ(国王)を滅ぼしてフツ族の勢力が権力を握った
- ブルンジ
- ムワミの支援によりツチ族とフツ族は合意に至るなど、独立に向けての動きは比較的平和的なものだった(実際にはフツ族の勢力が権力奪取に挑んだりしたが敗北している)
- ツチ族の勢力が権力を維持したままだった
つまり、独立に際して両国は、それぞれ反対側の勢力の支配下にあったのです。
その後、ルワンダではフツ族によるツチ族の大量虐殺「ルワンダ虐殺」が起こり、ブルンジでもフツ族によって1万人のツチ族が殺害されると、その報復としてツチ族系の軍隊がフツ族の住人10万人を殺害するなど、フツ族とツチ族の関係はさらに悪化してしまいました。
ちなみに、ウガンダに避難していたツチ族系の難民が組織した反政府勢力が、ルワンダに侵攻して1994年7月にルワンダ全土を制圧した結果、現在のルワンダはツチ族系の勢力によって主導されています。
フツ族について他にも知っておきたいこと
フツ族について知っておきたい基本的な知識や、フツ族とツチ族の関係について見てきましたが、ここからは、フツ族をもっと理解するために抑えておきたい4つのポイントを紹介していきましょう。
① フツ族の挨拶
フツ族の挨拶では、日本語と同じようにその日の時間帯によって挨拶の言葉が変わってきます。
例えば、
朝の挨拶
- Warumutse ho? ー [おはよう、元気?]のような意味
- Waaramutse ー [おはよう、うん、元気]のような意味
午後の挨拶
- Wiiriwe ho? ー [こんにちは(又は、こんばんは)、元気?]のような意味
- Wiiriweー [こんにちは(又は、こんばんは)、うん、元気]のような意味
といった感じです。
② 伝統的なフツ族の生活
伝統的な農村での住居
フツ族の中には都市部に出て働く人もいますが、人口の大半はルワンダとブルンジの農村部で生活をしています。
(出典:wikipedia)
そして、そのような伝統的なフツ族の住居は、木、芦、わらなどで出来た大きな小屋で、その小屋の近くには高さのある垣根が作られていることもあります。
ただし、このような農村部に住むフツ族の人々も、近年はより近代的な資材を用いた住宅を建設するようになってきています。
家庭生活
家庭生活を覗いてみると、他の多くのアフリカ民族と同じく、
- 女性は家事を行って家庭を守る、農作物の手入れをする
- 男性は家畜の世話をする
という基本的な役割を男女がそれぞれ担っていることが分かりますが、それに加えて、女性は農作物の手入れをし、男性は農作物の植え付けに向けた畑の整備を行うという役割も持っています。
ちなみに、従来の伝統的なフツ族社会においては、結婚の縁談を新郎と新婦の家族が主導して決めていました。
しかし、近代化や都市化の波と共に、現在の若い世代の多くは自由恋愛によって結婚相手を決める傾向にあります。
フツ族の食生活
伝統的なフツ族の食生活では、豆類、穀物、モロコシ、サツマイモ、キャッサバなどを主食で、他にも牛乳と牛肉を主要なタンパク源として摂取します。
また、特別な行事などで振る舞われる特別な飲み物として、バナナとモロコシでできたアルコール飲料が存在します。
一方で、タンパク源となる食材に関しては、地位の違いによって異なる傾向があると言えるかもしれません。
社会的に地位の低い人々の間では、牛肉よりも安価で手に入るヤギ肉やヤギの乳が好まれる傾向にあると言えます。
フツ族の伝統的な服装
伝統的にフツ族は、樹皮からできた布地のスカート、そして動物の皮でできたマントを身にまとっていました。
しかし、植民地化によって西洋の洋服が入ってきてから長い年月が経過しているため、現在では洋装が定着しています。
但し、フツ族の人々が伝統的に好んできた手作りのビーズネックレスやブレスレットは、今でも服装の一部やアクセサリーとして取り入れられています。
③ フツ族に伝わる伝統的な通過儀礼
フツ族の伝統文化には、いくつかの通過儀礼が存在します。
まず最初は、赤ちゃんが誕生した時の通過儀礼。
赤ちゃんの誕生後、新生児と母親は7日間、自宅にて二人きりで過ごし、そして「名付けの儀式」が生後7日目に行われ、そこでは近くに住む子どもたちが参加して食事が振る舞われます。
そして、人生の大イベントである結婚も独特。
男性側の家族が新婦の家族に財産を提供することで、法的に婚姻が結ばれたことになるのです。ちなみにその財産とは、家畜、ヤギ、ビールなどです。
また、結婚に関する儀式として、体を清めるために新婦の体をハーブやミルクで覆うといったものもあります。
さらに、伝統的なフツ族社会では死に際しても独特の決まりがあります。
死は祈祷、スピーチ、儀式で悼まれ、近親者はこれらに参加せず、喪に服する間は農作業にあたることや性交渉は行わないことが決まり。
その後、喪が明けたことを遺族が宣言して宴が執り行われるのです。
④ フツ族に伝わる民話のヒーロー「サマダリ」
フツ族の社会には様々なことわざや民話、そして謎や神話が存在していますが、その中の一つに「サマダリ(Samadari)」があります。
サマダリはフツ族の人々に人気な民話のヒーロー。
すべての人が従うべき規則を破り、権力者をあざ笑い、家畜を多く所有する富裕層をこけにするなど、反権力の象徴的存在なんです。
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フツ族|ルワンダとブルンジの多数派民族。ツチ族との関係が象徴的のまとめ
ルワンダとブルンジを中心に居住しているアフリカの民族「フツ族」について見てきました。
現代史の中ではツチ族との対立が目立ちますが、それ以外の点にもフォーカスしてみると、興味深い発見が出来る人々だと思います。