メフィストフェレスはドイツのファウスト伝説に登場する悪魔。ファウスト伝説で描かれて以降は、様々な作品において悪を象徴する存在として登場しています。
世界に存在する様々な宗教や、そこに登場する神聖な存在や天使、他にも悪魔をまとめた悪魔学に興味がある人などは「メフィストフェレス」という名前を耳にしたことがあるかと思います。
他にも何かの作品を通して、メフィストフェレスを知っているという人も多いはずです。
メフィストフェレスは、ドイツの「ファウスト伝説」という話の中で初めて登場した悪魔で、それ以降、様々な作品の中で「悪魔」や「敵役」として描かれてきました。
そんなメフィストフェレストについて、詳しく紹介していきたいと思います。
メフィストフェレスとは?
メフィストフェレス(Mephistopheles)またはメフィストとは、「悪魔」として一般的には解釈される存在。
ドイツのファウスト伝説の中に描かれたことがきっかけで、その後はファウストを題材とした作品(特にゲートのファウストは有名)や、それ以外の文学的作品、そして民話などに登場するようになりました。
(注釈)ファウスト伝説とは、中世に実在したドイツの学者ファウストをモデルとした伝説上の登場人物「ファウスト」が、学問だけの人生に満足出来ず、自分の魂と引き換えに悪魔と契約し、この世のものとは思えない知識や幸福を得るという話
また、メフィストフェレスが登場したのは16世紀にファウストが書かれて以降であり、聖書に描かれているわけではありませんが、
- 当時のドイツは宗教改革(キリスト教世界における教会体制上の革新運動)の渦に巻き込まれており、それに乗じて悪魔の人気が高まったことがメフィスト誕生に影響を与えた
- 作品によっては、聖書に登場しキリスト教では堕天使として知られる「ルシファーに仕える悪魔」として描かれている
といったことから、広い意味ではキリスト教の悪魔として考えられることもあります。
ちなみに、メフィストフェレス(Mephistopheles)という名前の語源については、次の3つの可能性が考えられています。
- 以下2つのヘブライ語を合成したとする説
- מֵפִיץ (mêp̄îṣ:散乱体)
- 嘘を塗る左官を意味するט֫פֶל שֶׁ֫קֶר (tōp̄el šeqer)を略したtophel
- 以下3つのギリシャ語を合成して「光を嫌う者」を意味するという説(※主人であるフシファーの意味が「光をもたらす者」という意味であるため、そのルシファーに対する風刺を込めてパロディー的にした名前ではないか)
- μή (mḗ:否定を意味する)
- φῶς (phō̃s:光)
- φιλις (philis:愛情)
- 以下2つのラテン語を合成して「悪臭を愛する者」を意味するという説
- mephitis(悪臭)
- philos(愛)
ファウスト伝説におけるメフィストフェレス
メフィストフェレスの名は、歴史上実在した人物「ヨハン・ゲオルク・ファウスト」をもとに、学者ファウストを描いた伝説に登場したのが始まりというのは上述した通り。
伝説の中でファウストは、「果てしない知識と現世での幸福を手にするために、自らの魂を賭けた取引を悪魔と交わした」とあり、この時に召喚されて契約を結んだのがメフィストフェレスです。
その後、メフィストフェレスはファウストを題材とした作品に良く登場するようになりますが、ファウストを題材にした作品であっても、ものによってはその描かれ方が微妙に異なってくるようになります。
例えば、作品によって、メフィスストは目的であるファウストの魂を手に入れられる一方、その目的を達成出来無いこともあるのです。
また、後期のファウスト作品では、頻繁にタイトルにも名前が登場するキャラクターとなっていきました。
具体例を挙げると、
- メフィストフェーレ
- 1867年にアッリーゴ・ボーイトによって完成させられたオペラ
- メフィスト – 出世物語
- 1936年にクラウス・マンによて書かれた長編小説
- メフィスト・ワルツ
- 19世紀にフランツ・リストが作曲したピアノ曲及び管弦楽曲
などです。
一方で、「メフィストフェレス」の名前がファウストの伝説から独立して、全く関係ない作品に登場することが17世紀頃から多くなっています。
有名なシェイクスピアの作品「ウィンザーの陽気な女房たち」でメフィストフェレスが登場するのは、そのことを象徴していると言えるでしょう。
ただし、基本的にはどの作品でも共通して、メフィストフェレスは「悪」や「敵役」として描かれています。
メフィストフェレスの役目に関して
ファウストと契約し、その契約の期限が切れた時には「地獄へ落ちる(堕落する)ファウストの魂をもらう」とあるため、一般的に描かれるメフィストフェレスの役目は、
- 堕落していった人々の魂を集めること
だと言えるでしょう。
また、悪魔として現れたメフィストフェレスは、
- 人々を惑わして悪に導く
- 人々を地獄へ導く
存在として解釈されることが良くあります。
しかし一方で、最初にファウスト伝説に登場した際のメフィストフェレスは、決して「悪に導くために人々を探し求めていたわけではない」のであり、
- 地獄に落ちることになるであろう人々に仕え、最終的にその魂を受け取る立場にあった
ため、悪魔召喚を行ったファウストがすでに堕落の道を辿っていたことを悟ったメフィストは、ファウストの呼びかけに呼応して現れただけだという解釈も存在します。
実際、メフィストフェレスは最初、ファウストの「悪魔に魂を売る」という選択に対して警告を与えていたりもします。
登場する作品の中で最も有名な戯曲「ファウスト」でのメフィストフェレス
ドイツの有名な劇作家「ゲーテ」によって作られた戯曲「ファウスト」は、メフィストフェレスが登場する作品の中で最も有名なものであり、この中で描かれるメフィストフェレスは「非常に疑い深い」性格の持ち主として描かれています。
しかし、疑い深いだけではなく、他にもいくつかの異なる性格の側面も持ち合わせていることに気づきます。
そこでここからは、メフィストフェレスをさらに理解するためにも、戯曲「ファウスト」に登場するメフィストフェレスが持つ、3つの特徴的な性格についてまとめていきたいと思います。
実は勝負師で賭け事が好きだったりする?
メフィストフェレスは非常に疑い深い一方、賭け事が出来る勝負師といった性格も持っていたようです。
ファウストの第一部の前にある「天上の序曲」でメフィストフェレスは、「ファウストが神に反抗し、悪事を働くように仕向けることが出来る」と、神に賭けを持ちかけています。
通常、いくら悪魔であっても、神にこのような失礼な態度を取ろうとは決して思わないことを考えると、この描写はメフィストが「非常に自信家で機転が利く悪魔」であることを物語っていると言えるでしょう。
また、メフィストフェレスは(メフィストフェレスを通して作者のゲーテは)、いくら神であってもファウストやその他の人間を完全に操れるわけではないと考えていたことが伺えます。
要領が良くて独創的な頭脳を持つ?
また、メフィストフェレスは人を誘惑しようと試みる際には非常に要領が良く、独創的であったとも言えます。
ファウスト第一部では、メフィストフェレスは黒い犬に化けてファウストに近づき、彼の書斎に忍びこみます。
そして、学問しか行ってこなかった人生に不満を抱えるファウストに対して、言葉巧みに彼の不満を埋めるような話をしていきます。
当初は興味を示していなかったファウストですが、その巧みな言葉によって徐々に心が傾いていき、メフィストが「かつて誰も得る事のなかったほどの享楽を提供する」と伝えると、思惑通りファウストは誘惑に負け、メフィストフェレスの罠に引っかかって契約を結び、悪魔に魂を売ったのです。
この一連のやりとりを見ると、メフィストフェレスは相手の欲を敏感にキャッチして相手に近づき、自分の思い描く通りに動かすことに関して、なかなかに独創的で要領の良いアプローチが出来る悪魔であるのが分かります。
悪の象徴だが無意識に善を教える存在でもあるのでは?
ゲーテの戯曲「ファウスト」の中でメフィストフェレスは「悪」の象徴として描かれていますが、同時に、実は善を教える存在でもあったのではないでしょうか。
例えば、メフィストフェレスが現れるまで、ファウストは学問だけに没頭してきたため、学問には精通するけど人間の幸せにとって必要な他のことはほとんど何も知らない、それなりに年取った男性でした。
(ファウストとグレートヒェン)
しかし、メフィストフェレスと契約したことで若返り、それによってマルガレーテ(グレートヒェン)と出会い、人間の幸せにとって最も重要で善とされる「愛」を初めて知ることになったのです。
他にも、行動を共にしていく中で、メフィストフェレスはファウストが善の象徴である神とも関わるように仕向けていったりもしています。
このようなことから、悪の象徴といて描かれるメフィストフェレスは、一方で善をファウストに教える存在でもあったのではないかと考えられるかと思います。
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メフィストフェレス|ファウスト伝説に登場した悪魔でドイツ民話やゲーテの作品でも知られるのまとめ
中世ドイツにおいて、ファウスト伝説の中で初めて登場した悪魔メフィストフェレスは、それ以降も様々な作品に登場するキャラクターです。
このメフィストフェレスについて理解しておくことは、ファウストを題材にした話や、メフィストフェレスが出てくるそれ以外の作品を読んだり鑑賞したりする際に役立つはずです。