アメリカの国鳥にはハクトウワシが制定されています。この鳥がアメリカの象徴となった歴史的背景と、その生態について見ていきましょう。
現代の世界において超大国と呼ばれ、世界一の経済力や軍事力を誇るアメリカ合衆国には、国鳥が制定され、アメリカの象徴として重宝されています。
長寿で強靭、そして羽を広げた時な壮大な姿は、まさに超大国アメリカの国鳥に相応しく、国章はもちろんのこと、様々な物に描かれているのです。
アメリカの国鳥とはどんな鳥なのか?
アメリカの国鳥について、その歴史的な背景から生態までを見ていきたいと思います。
アメリカの国鳥とは?
まず結論から簡潔に述べると、アメリカの国鳥は「ハクトウワシ」。
ハクトウワシは北アメリカ大陸の沿岸部に広く分布する大型の鳥で、アメリカ合衆国の国章にも描かれていることからも分かる通り、アメリカを象徴する鳥として親しまれています。
その雄大な美しさ、力強さ、長命であること、そして北アメリカの固有種であることなどから、国鳥に選ばれました。
ちなみに、アメリカには合衆国全体の象徴となるハクトウワシ以外にも、各州には州を象徴する州鳥が制定されています。
ハクトウワシがアメリカの国鳥になった簡単な歴史的背景
アメリカがイギリスから独立する以前の1775年から1781年まで開催された、アメリカ13植民地の代表による会議「第2次大陸会議」において、13の植民地の代表たちはイギリスからの独立を決定。
その中では、新たに建国される国には「公式の紋章が必要だ」という結論も導かれました。
これを受けて、ベンジャミン・フランクリン、トーマス・ジェファーソン、そしてジョン・アダムズがデザインを提案。
議会はどの案も採用しませんでしたが、「E Pluribus Unum(エ・プルリブス・ウヌム:”多数から一つへ”の意味で”多州から成る統一国家”としてのアメリカ合衆国を表す)」というスローガンについては採用されることになります。
そして、その後の1782年5月、権威と国家を表す国鳥としてハクトウワシの図柄が議会に提出されます。
1782年6月20日に議会はこの案を承認し、紋章の図柄の最終案に取り掛かり、最終的なデザインを決定する過程で
- オリーブの枝・・・平和の象徴
- 矢・・・戦争の象徴
の2点がハクトウワシの爪に付け加えられました。
アメリカの象徴となる国鳥はかくして生まれ、1787年から正式に採用されていったのです。
ただし、1787年に正式採用される頃にはすでに、アメリカ国内の様々な紋章にハクトウワシが使われていました。
また、ハクトウワシではないものの、ワシは一般的に古代から様々な文明で象徴として使われており、例えば古代のローマ帝国では政府を表す紋章に使われていた歴史を持ちます。
ハクトウワシへを国鳥にすることへの反対意見もあった
ちなみに、すぐに人気が出た一方で、ハクトウワシを国の象徴として使うことに対して反対した人たちもいました。
その中でも有名なのはベンジャミン・フランクリンで、彼はハクトウワシを、
道徳的な手本として好ましくない
と主張。
- 他の鳥が獲った魚を横取りすることがある
- 時折、自分より小さな鳥の攻撃から逃げることがある
といったハクトウワシの習性を引き合いに出し、堂々と挑戦して自由を勝ち取ることを良しとしたアメリカにとって、国鳥としては相応しく無いと主張したのです。
一方でベンジャミン・フランクリンはハクトウワシの代わりに、アメリカ原産でハクトウワシよりも勇敢だと信じていた野生の七面鳥が、より国鳥としてふさわしいと考えていました。
アメリカの象徴として様々な物に登場するハクトウワシ
アメリカの国鳥となって以降、今日までハクトウワシは、様々な物に国の象徴として描かれてきました。
例えば、25セント硬貨、金貨、銀貨、紙幣、切手、50セント硬貨にはハクトウワシのデザインがあしらわれています。
さらに、ハクトウワシは国章としても使われており、そこにはハクトウワシが以下のようなデザインで描かれています。
- 翼を広げたハクトウワシが盾を持った姿で描かれている
- 頭上には13の白い星が描かれた青地がある
- 体の前面にある盾には赤と白の13本の縞が描かれている
- 「E Pluribus Unum」と書かれた布切れがクチバシにくわえられている
- 右足には13葉のオリーブの枝が握られている
- 左足には13の矢が握られている
ちなみに、国章に描かれたハクトウワシのデザインに度々出てくる「13」という数字は、「当初の13州の植民地」を表しています。
さらに、アメリカでは衣服を始めた、その他の装飾品にもハクトウワシが描かれることがあります。
アメリカの国鳥「ハクトウワシ」とは?
アメリカの国鳥とされるハクトウワシは、主に北アメリカの沿岸部に分布する大型の猛禽類で、全長は80〜110cm、羽を広げると180cm〜230m程度にもなることで知られています。
体は濃い茶色をしていますが、頭が白いことから日本語では「白頭鷲(ハクトウワシ)」と呼ばれ、学術的な名前は「Haliaeetus Leucocephalus」。英語名は「Bald eagle」となります。
ハクトウワシは野生下であっても30~35年、飼育下であれば最長で50年程度は生きる長い寿命を誇るのが特徴。
この長寿は、ハクトウワシが国鳥として選ばれた理由の一つとなりました。
そして、 最高時速約48kmで飛行し、時速約160kmで急降下が可能。その高い飛行能力を使って餌を捕まえ、主に魚を食べ、その他小型哺乳類、水鳥、死肉も捕食します。
さらに、ハクトウワシのつがいは一生を共にして何年も同じ巣に住み続けるため、時を経て巣が巨大化することもあり、物によっては直径約3m、重さ2トンになることもあるようです。
雌鳥は一度に2〜3個の卵を産み、親鳥たちは交代で抱卵し、熱心に卵をリス、カモメ、ワタリガラスなどの捕食者から守ります。
また、雛が孵った後も小さいうちは、雛鳥を傷つけないように丸くした爪で、巣を転々と移動させることでも知られます。
一旦は絶滅の危機に瀕したハクトウワシ
ハクトウワシは、国鳥として提案された1782年の時点で、アラスカとハワイを除いた(現在の)48州にあたる地域で最大75000羽近くが生息していたとされます。
しかし、当時の農民たちはハクトウワシを害鳥と考え、見つけ次第射殺。
この結果、人が西へと移動するのに合わせてハクトウワシの個体も減っていき、1800年代後半までにハクトウワシの個体数は大幅に減少してしまいました。
この国鳥の個体数減少を食い止めようと1940年、ハクトウワシ保護法が採択され、その個体数は回復し始めます。
DDTの使用が個体数減少を再び引き起こしてしまう
しかし同時期に、DDTと呼ばれる殺虫剤の使用が広範囲で開始されていました。
その結果、DDTを撒かれた植物を小動物が食べ、その小動物をハクトウワシたちが食べたことで、成鳥と卵が共に影響を受けてしまったのです。
特に卵に関しては、その殻が極端に薄くなり、孵化に耐えられなくなって破砕したり、単に孵化しなくなってしまいました。
さらに、死んだ成鳥のハクトウワシの脂肪組織からは大量のDDTが見つかり、1963年にはワシのつがいはわずか417組にまで減少するなど、DDTの使用は個体数の激減を招いてしまったのです。
その結果、1967年には絶滅危機に直面する鳥に分類され、1994年には絶滅危惧種に認定されるに至ってしまいます。
その後の保護活動によって個体数を持ち直している
一方で、1900年代後半には「絶滅の危機に瀕する種の保存に関する法律」などが制定されて保護活動が盛んになり、加えて1972年にはDDTの使用が禁止されたことで、ハクトウワシの個体数は目覚しく回復。
2000年にはハクトウワシの個体数が完全に回復したとの宣言が米国魚類野生生物局からなされ、2007年6月28日には内務省より、米国絶滅危惧種リストからハクトウワシが除外されました。
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アメリカの国鳥|ハクトウワシが象徴となった歴史と生態のまとめ
アメリカの国鳥であるハクトウワシについて、国鳥に制定された歴史的背景と、その生態を紹介してきました。
壮大な姿を持つハクトウワシは、大国アメリカを象徴する鳥としてアメリカ国民に愛されています。