難民問題とは何なのでしょうか?難民問題の現状や原因などを把握してこの問題に対する理解を深め、解決策を模索する手がかりにしてください。
世界には祖国に住み続けることが叶わず、止むを得ず故郷を離れて海外を目指す「難民」が多くいます。
特に近年は、各地で紛争や少数民族に対する迫害が頻発しており、この難民にまつわる難民問題(難民危機)が、国際社会で大きな問題として取り上げられることは少なくありません。
では、難民問題とは一体なぜ起きるのでしょうか?また、難民問題はどういった現状なのでしょうか?
この記事では難民問題に関して、難民の現状や難民を生んでいる原因、そして難民問題を理解する上で知っておきたい5つの知識までを見ていきます。
まずは、難民問題を理解する上で大切な難民問題を定義することから始めていきましょう。
難民問題(難民危機)とは?
難民問題(難民危機)とは、止むを得ず自国を離れた難民や国内避難民が生まれた状況、またはその結果として引き起こされる、社会的・政治的危機のこと。
さらに場合によっては、住んでいた場所を退去して、難民または国内避難民が移動している最中に起こる問題、そして安全な場所である受け入れ地到着後に難民や国内避難民に起こる出来事までを指すことがあります。
つまり難民問題とは簡単に言ってしまえば、
- 難民または国内の避難民に関する問題
のことです。
そもそも難民とは?移民とは違い迫害や戦争から避難してきた人々のこと
では、この難民危機で中心となる「難民」とはどういった人々のことを指すのでしょうか?
これは、難民問題(難民危機)を理解する上で非常に重要な点なので確認しておきます。
難民
難民とは、戦争、革命、クーデター、迫害、暴力などから逃れてきた人々。
理由はなんであれ、本来の居住地で暮らし続けると、生活や生命、あるいは自由は権利を脅かされる危機が迫り、同地を離れざるをえなくなったり、戻ることができなった結果、保護を提供してくれて、権利も主張できる国(国籍国)を喪失した(国籍国の外にいる)人々のことです。
また難民条約では、
人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見を理由に迫害を受けるという十分に理由のある恐怖があり、国籍国の保護を受けられないまたは受けることを望まず、国籍国の外にいる人々
(引用:国際協力用語集, p.219)
と定義されています。
加えて、彼ら難民は国際法で保護されており、公平かつ効率的に亡命申請を行う権利が与えられています。
ちなみに、難民問題に含まれる国内避難民とは、難民と同様の理由で元々の居住地に住むことが出来ないために避難生活を余儀なくされている人々のうち、国を出ることなく(国境を越えることなく)自国内で生活している人々を指します。
移民
一方の移民は、迫害や死の直接的な危険から逃れるためではなく、主に求職、生活の向上目的や教育、家族との再会などの目的で、自由意志によって自ら選んで国を移動する人々です。
そのため、難民が直線する「故郷へ安全に帰れることを妨害する障害はなく」、自国に帰ることを選択すれば、国籍国の政府から引き続き保護を受けられる違いがあります。
難民と国内避難民の現状の数
ちなみに、UNHCR(国際連合難民高等弁務官事務所)によると、2017年の末時点で、世界には6,850万人もの強制的に故郷を終われた人々がいるとされており、その内訳は以下の通りです。
- 国内避難民
- 4000万人
- 難民
- 2540万人
- 亡命申請者
- 310万人
(参照:UNHCR)
そして、以下の5カ国で難民全体の半分以上が発生しているとされます。
- シリア
- アフガニスタン
- 南スーダン
- ミャンマー
- ソマリア
また、現状、難民全体の数は2017年から遡って過去5年間増加し続けています。
難民問題の原因
難民問題の定義から難民についてまでを見てきましたが、では、この難民問題の原因とは何なのでしょうか?
そこには以下3つの主な原因が存在すると言えます。
難民問題の原因① 戦争(内戦)や迫害
世界全体における難民危機の原因の中でも特に主だった原因として、「戦争(内戦)」と「迫害」であることが分かっています。
特に、ここ最近に起こった、または起こり続けている迫害や内戦、例えば、2011年と2012年に起こった南北スーダン国境紛争や、2014年から続いているシリア内戦などにより、
- 10年前は60秒につき6人が故郷からの退去を余儀なくされていた
のが、
- 2015年には60秒につき24人が故郷からの退去を余儀なくされるまで悪化
してしまい、なんとその数が4倍に増加しました。
このように、現在世界各地で起こっている難民問題の中でも、特に大量の難民や避難民を引き起こしている主な原因が、戦争(内戦)や迫害なのです。
難民問題の原因② 汚職や腐敗による人権侵害
政治的立場にある人々の汚職や欲望によって荒廃した国(失敗国家)では、多くの人が生存できる場所を求め、祖国を離れることを余儀なくされて難民が発生しています。
例えば汚職や腐敗が横行した結果、
- 弱者は土地を奪われる
- 奪われた土地の権利を主張した人間(弱者)は逆に危機(殺害されるなど)に直面する
- 必要な能力、技術や知識を兼ね備えた人材が職に就くことができない状況に置かれる
- 生活が成り立たなくなり基本的人権も無視された貧困状況に陥ってしまう
- 反面、コネや親族としての繋がりを通して、必要条件に満たない人材は雇用される
- 国民が苦しんでいるのにも関わらず、汚職に関与する権力者は何もしない
- 国の利益が公平に分配されず、一握りの権力者に集まる
など、最低限の人間らしい生活が出来ない人々が難民となって祖国を捨てざるをえない状況が生まれているのです。
難民問題の原因③ 環境や気候の変動
国連によって定められた難民の定義には該当しないものの 、環境や気候変動によって住まいを追放された人々は一般的に、
- 気候による避難民
- 気候変動避難民
- 環境難民
などと呼ばれており、特に発展途上国ではかなりの数の人々が、主に国内避難民として故郷を離れざるをえなくなっています。
例えば、干ばつや洪水などによって、生活や生命の危機に直面しているのです。
実際、現状その数は2500万人に及ぶと想定されており、一部の環境問題の専門家によると、今後40年の間に起こる気候変動によって、2億人から10億人もの人々が国内で避難民となったり、祖国を追われる可能性が示唆されています。
ただし、上でも触れた通り、現在の難民の定義とは異なるため、厳密に言えば難民問題の原因には含まれない点は注意が必要です。
難民問題に関して抑えておくべき5つの知識
難民問題の定義や難民を生み出している原因について見てきましたが、難民問題についての理解をさらに深めるためにも、ここからは難民問題に関するその他5つの知識を見ていきたいと思います。
85%の難民が発展途上国に受け入れられている
難民は、多くが北半球にある先進国の国々を目指していると思われがちで、実際、難民の多くはより良い生活の為にも先進国に受け入れられたいというのが本望でしょう。
しかし実際のところは、難民全体の85%は発展途上国に受け入れられています。
これらの国の多くは非常に貧しく、自国の国民に対する基本的な社会サービス提供にさえ苦慮している状況で、難民ケアに充てられる余裕はほとんどありません。
例えば、2017年8月に起こったロヒンギャ問題で大量に発生した難民問題が良い例でしょう。
ミャンマーで迫害を受けたロヒンギャ達の多くは隣国のバングラデシュを目指しましたが、バングラデシュ自体が非常に貧しく、なおかつ人口過密の状況であるため、難民として受け入れられたものの、引き続き苦しい生活を余儀なくされている人々が多くいます。
ボートピープル
ビートピープルという言葉は、1970年代、ベトナム戦争後に多くのベトナム人難民が集団移住したことから一般的に使われるようになった言葉。
漁船やヨットなど、船に乗って海を渡り、遠く離れた国々を目的地として目指す難民達のことです。
このボートピープルは、難民問題を考える上で考えなくてはならない問題の一つ。
というのも、難民全体の中でボートピープルになる人の割合は少ないものの、決して安全とはいえない「にわか作りのボート」に超満員状態で難民が乗り込んで大海原を渡ろうとするため、常に命の危険にさらされることになるから。
例えば、2001年にはインドネシアからオーストラリアに向けて、航海を進めていた353人の難民が船の沈没により溺死しています。
そして、命を危険にさらしてようやく目的地へ到着したものの、国によっては上陸を阻止されたり、入国後に強制退去の措置が取られることもあります。
また、ボートピープルは難民達の命を危険にさらすだけでなく、別の問題もはらんでいます。
それは偽装難民の問題。
本来難民ではない人々がボートピープルとなって難民を装い、外国へ移住しようとする問題です。
過去には経済機会を求めて、インドネシア難民を装う中国人の偽装難民が増加したこともありました。
5人中4人の難民が自国の隣国に留まっている
また、難民問題が起こった場合、上にも挙げたようなボートで海を渡るボートピープルになって、離れた先進国を目指します人もいますが、基本的にはロヒンギャ問題の例で挙げたように、隣国を目指す人々が大半です。
実際、難民の5人中4人が隣国へ流れて行き、それ以外の人々の大多数も周辺国に留まります。
貧しい国の隣国や周辺国は通常、同様に貧しい場合が多く、難民として受け入れられたものの、生活が一向に改善しないという状況が生まれてしまうのです。
別の第三国へ定住する難民もいる
祖国を離れた難民の中には非常に危険な状況下におり、保護を求めた国では対処することの出来ないニーズを抱えた人々がいます。
そのため、こういった人々は難民として当初保護を求めた国に留まることなく、最終的には永住権を与えてくれる、さらに別の国へ受け入れてもらうことがあります。
例えば、カナダやオーストラリア、他にも北米の国々は第三国の代表的な例です。
しかし、このようにさらに別の第三国へ定住するには非常に厳しい審査があったり、特定の条件を満たしている必要があるため、世界にいる難民の1%以下しか別の第三国へ定住出来ていません。
世界の難民人口のうち52%を子供が占める
世界の難民人口のうち18歳未満の子供は全体の半数以上に上り、2017年にはその割合が52%にもなりました。
また、難民となる途中で親または保護者とはぐれてしまった子供の難民の数は17万3800人もいました。
加えて、2009年当時の未成年難民割合(41%)と比べると、その割合が増えていることが分かり、年々増加を続けています。
まだ自分の身を守れない子供である上、難民となって親から離れてしまうことは、その子供達の生活や生命のリスクを急増させます。
(参照:UNHCR)
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難民問題とは?解決策の模索に必要な現状や原因の把握のまとめ
難民問題を詳しく見てきました。
世界には何千万という難民達がおり、未だにその根本的な解決策は見えてきていません。
大量の難民を生んでしまう紛争や迫害を無くし、そして、世界各国政府の腐敗や汚職を減らせれば、難民問題解決へ大きく進展しますが、実現させるのは非常に困難を極めと言えるでしょう。