アグロフォレストリーについて紹介していきます。環境保全や社会開発にも繋がるといったメリットがある、新しい土地利用方法です。
世界の自然環境が年々悪化の一途を辿ってる一方、環境保全を目的としたグリーンムーブメントはますます盛んになっています。
そんな状況の中、枯渇されつつある自然資源を回復させるための方法も数多く実践され始めており、一例として「アグロフォレストリー」が含まれています。
アグロフォレストリー(agroforestry)については、agro(土壌・農業の意味)とforestry(林業)が組み合わさった造語であるため、ぼんやりとイメージ出来るかもしれませんが、より具体的にはどのように自然環境に役立っていくのでしょうか。
アグロフォレストリーについて、その概念から具体的な方法例、そしてメリットや問題点までを見ていきたいと思います。
アグロフォレストリーとは?
アグロフォレストリー(Agroforestry)とは、日本語で「林農」とも訳され、「生態学的な天然資源管理システム」であり、経済、環境、社会的な持続可能性を推進するために編み出されましたもの。
もう少し分かりやすい定義を用いれば、同じ土地で「作物」・「家畜」・「樹林」の3つのうち、樹林を軸として、他の2つの一方、または両方を組み合わせて生産する土地利用方法のことで、
- 作物と樹林
- 牧畜と樹林
- 作物と牧畜と樹林
(参照:国際協力用語集, p.3)
の3つの組み合わせがあるとされ、「資源利用と資源保護を同時に図る」ことが出来ます。
つまり、アグロフォレストリーとは、農業生産力のある、またはそうなる潜在能力のある地域に植林したり、季節によっては間作(同じ畑で二種類以上の作物を栽培する)などを採用し、農業従事者や土地所有者が土地から得られる収穫を増やせ、収益の見込みを多様化させることが可能になるという発想です。
ただし、一言にアグロフォレストリーと言っても、土地によって最適な樹木や家畜、そして作物が異なってくるため、概念は共通していても地域によって様々な方法を採用していくことになります。
また、アグロフォレストリーは熱帯や温帯地域を含めた世界中で導入されていますが、最も普及しているのは発展途上国。
特に、持続的な土地利用を可能にすることで、その地域の生物多様性など、自然環境を保全しながらも農業開発や土地開発を推進していける強みがあります。
アグロフォレストリーの基となる考えは、1900年代初めから存在していましたが、導入されるようになったのは1950年代以降。
食料生産の増加や土壌保全の意識が高まる中で、アグロフォレストリーの考え方が注目を浴びるようになっていきました。
1978年に「International Council for Agroforestry」が設立され、新しい造語である「アグロフォレストリー」が誕生し、研究を進めると同時に、アグロフォレストリーの導入を促進するための活動が行われてきたのです。
アグロフォレストリーで期待できる一般的なメリットとは?
アグロフォレストリーを実施することで期待出来る一般的なメリットをもう少し詳しく見ていくと、次のようなものがあるとされます。
- その国・地域の天然資源を回復させるだけでなく経済発展を助ける
- 樹木によって土壌侵食を防げる
- 土壌侵食によって食料生産能力の低下や災害リスクが高まっている地域もあるが、その対策方法になる
- 水資源の保全、家畜の餌供給などで土地生産性向上・落ち葉など有機物の供給で土壌改良
- 世界の人口が増え続けることにより、食料生産量などの増加が求められているが、その対策の一つとなる
- 薪炭材(まきとすみ)、用材、飼料、薬用原料などとしても活用できる
- 例えば、化石燃料が利用できない地域などでは代替品として使える
- 燃料用材を入手可能になったことによって、他の地域での乱伐や森林の消滅の回避
- 収穫物の生産増加による貧困レベルの低下
- 樹木作物の多様化
- 世界中で見られる気候変動の一定の予防
- 当初は想定していないメリット
- 野生動物の生息地や美しい景観、家畜の避難場所といった、当初は想定していなかった数多くの利益が得られることもある
アグロフォレストリーの原理
アグロフォレストリーの中心となる考え(価値観)は、「可能な限りメリットを生む機会を作り出す」ことにあります。
それはただ言葉で表現するだけの美学的な価値ではなく実践的なものであるべきで、また、アグロフォレストリーに直接関わる人々以外、つまりその地域全体、はては世界全体がメリットを享受出来るようになるという考えです。
例えば、アグロフォレストリーを導入すると、土地所有者が特定のメリットを享受出来るようになります。
しかし、それだけではなく、消費や人口増加によって減少する「世界の天然資源を回復させる」ための大きな一歩になるのです。
また、アグロフォレストリーを実践することで、素早く利益を得るだけでなく、その内容を研究し続けて改良し、新しい方法を開発するプロジェクトサイクルを回せるようになり、より社会全体にメリットとなるアグロフォレストリーを生み出すことが出来るのです。
アグロフォレストーの具体例
ちなみに、アグロフォレストリーの方法の具体例を挙げるとすると、次のようなものがあります。
- すでに列状に植えられた低木や部木の列間に木を植える
- 植える樹種は、空中の窒素を固定して土地を肥やすことが出来るマメ科で成長の早いものなど
- 水に沿って木を植える
- 飼育動物の放牧地と林野を持続可能な形で混成させる(silvopasture)
- 樹木/低木を植えることで、風による土壌侵食や土壌の水への影響を管理する
アグロフォレストリーが導入されているのは、主に農地や放牧地のような大規模な区画の土地です。
しかし、アグロフォレストリーを導入するチャンスは、あらゆる肥沃な土地にあり、その土地ごとに工夫することで実践していくことが出来るようになります。
樹木の種類によって期待出来るメリット
また、地域によっても育成出来る樹木は異なってきますが、その地域差を無視した場合、植林する樹木の種類によって、以下のようなメリットをもたらしてくれると言えるかと思います。
- 肥料木
- → 土地の回復、土壌の健全性、食の安全性を高める
- 果樹
- → 実をつけ、食料や栄養供給に役立つ
- 飼料木
- → 小規模農家の家畜生産を向上させる
- 薬よう樹林
- → 薬の原材料を供給する
アグロフォレストリーを実践する上での注意点と問題点
アグロフォレストリーは正しく実践するとメリットのある土地利用方法ですが、取り組むに当たっては注意しておくべきことや、いくつかの解決すべき問題点があると言えます。
十分な計画や将来の予想が必要
植物の中でも樹木は、決して成長が速いと言えるものではありません。成長し成熟するまで何年もかかるのが一般的です。
つまり、アグロフォレストリーで軸となる樹林を行う際には、基本的に間違いが許されにくいのです。
そのため林業者が目指すメリットを実現できるか否かは、最初の計画段階における、樹木の種類と樹林方法の適切な選択、そして、その後の管理方法に左右されます。
アグロフォレストリーに取り組む場合は、景観評価(landscape assessment)の専門家に手伝ってもらい、土地資源の条件、景観構造、環境、可能なアグロフォレストリー方法などを考慮した上で決定していことになります。
その他の問題点
アグロフォレストリーにはまた、次のような問題点も考えられます。
- メリットが十分に認識されてないため資金を得ることが難しいかもしれない
- 必要機材、アグリフォレストリーの方法や導入のための教育を受けることが難しい
- 植林や樹木の管理が大切な要素となるため、労働者を雇う必要があるかもしれない
- 樹木の伐採やマーケティングにコストがかかる
- 小規模のアグロフォレストリーから利益を上げるにはかなりの工夫が必要となるかもしれない(ただし、規模が小さいことで特定の種の樹木に特化することができ、それによって利益と環境へのメリットを最大化するチャンスが生まれるとも言えたり、樹木作物が少ないことで、より高品質の作物を管理・生産することができるとも言える)
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アグロフォレストリーとは?問題点やメリットまで確認してみようのまとめ
現代は毎年のように環境破壊が進んでいる時代。
だからこそ、アグロフォレストリーのような新しい方法を試していきながら環境を守り、地域社会の開発や、世界全体の発展に繋げていく必要があります。
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