アーサー王|伝説の物語と実在したアーサーの違いを掘り下げていく

アーサー王について、伝説や物語に描写される人物像と、実在したアーサーの人物像を比較しながら掘り下げていきます。本当の「アーサー」を知るためにも確認してください。

「アーサー王伝説」や「アーサー王物語」という話を耳にしたことがあるかもしれません。

このアーサー王伝説とは、「アーサー王」というブリトン人(前ローマ時代にブリテン島に定住していたケルト系の土着民族)の君主を中心に描かれた「騎士道物語」。

そのあらすじとしては、

  • アーサーの誕生と即位
    • アーサー王になるまでの物語
  • アーサー王の宮廷(キャメロット)に集った円卓の騎士達の冒険とロマンス
  • 聖杯探索
    • 最後の晩餐で使われたという聖杯を円卓の騎士が探す物語
  • ランスロットと王妃グィネヴィアの関係発覚に端を発する内乱
    • その後に至る、王国の崩壊とアーサー王の死
    • 聖王アーサーの後継者としてコンスタンティンへの王位継承

という4つの部分で構成されています。

一方で、この物語に出てくる「アーサー王」は、神話やアーサー王伝説をもとに作られ、あくまでも伝説上の人物であり、実在した「アーサー」は、物語に描かれているアーサー王とはかなり異なると言われます。

この記事では、「アーサー」を知るためにも、伝説上の「アーサー王」と実在した「アーサー」の違いを比較していきたいと思います。

まずは、アーサー王伝説に出てくるアーサーについて確認することから始めていきましょう。

スポンサーリンク
スポンサーリンク

伝説や物語上のアーサー王とは?

伝説上のアーサー王が生まれた背景

ウェールズ出身の騎士トマス・マロリーによって、中世(1470年頃)に執筆された「アーサー王の死」は、アーサー王について初めて書かれた歴史的書物だと言われるもの。

この物語によれば、ブリタニア(イギリスまたはグレートブリテン島の古称)の国王であったユーサー・ペンドラゴン王が、敵国の王妃であったイグレインに恋をし、自分をイグレインの夫だと騙して行為に及んだ結果出来た子どもが「アーサー」でした

ユーサー・ペンドラゴン王に出来た初めての男の子だったので、アーサー王はユーサー・ペンドラゴン王の後継者とされたのです。

マーリンの助言によってエクター卿の下へ預けられたアーサー

しかし、ユーサー・ペンドラゴンが王に君臨して当時は、ブリタニアの情勢が非常に不安定な時代。

そして、その後にアーサーに助言をしてアーサー王を導くことになる「魔術師マーリン」は、ペンドラゴン王の死後、後継者をめぐって争いが起こることを予知していました。

そこでマーリンは、アーサー王の素性を隠し、エクター卿(アーサーの幼なじみケイの父で、マーリンの指示でアーサーを育てることになる人物)にアーサー王を預けるよう、ペンドラゴン王を説得しました。

ペンドラゴンが死去すると、マーリンが予知したように後継者をめぐって激しい対立が起こります。

激しい対立を予知していたマーリンは、ペンドラゴン王が死去する前に、

この剣を引き抜いたものこそブリタニアの王になるだろう

と書かれた石の台座に聖剣を刺し、後継者をめぐって起こる対立を抑える手がかりとしたのです(※この剣が、有名な伝説の剣「エクスカリバー」だとされることもあれば、別物だとされることもある)

聖剣を引き抜いたことで王となったアーサー

そして、聖剣を引き抜こうと沢山の騎士が挑戦しますが皆失敗。見事に引き抜くことができたのはアーサーだけでした。

結果、聖剣を台座から引き抜いたアーサー王は、正当な王として迎え入れられ、ここに「アーサー王」が誕生するのです。

グィネヴィアとの結婚・キャメロット城・円卓の騎士

グィネヴィアとアーサー王の結婚

南西イングランドの王国キャメリアードの王の娘「グィネヴィア」と婚約していたアーサー王は、彼女を妃として迎え入れます。

二人はまだアーサーが若かった頃に婚約していますが、これは、当時のアーサーはまだ後ろ盾が必要だったのが一つの理由のようです。

そして、彼女を妃として迎え入れると同時に、妃側からの持参品としてグィネヴィアの父親から円卓が贈呈されるのです。

これこそ、後にアーサー王が臣下の騎士に席を与えて重要な事柄を話し合う場となった円卓で、この物語を象徴する「円卓の騎士」の始まりでした。

キャメロットに宮殿を築いたアーサー

5世紀から6世紀にかけて、主に北ヨーロッパのアングル人やサクソン人による侵略を何度か受けたブリタニア。

魔術師マーリンはアーサー王に仕えて国勢を支え、その助言も手伝ってアーサー王率いるブリタニア軍がサクソン人を撃退すると、ブリタニアには平和が訪れました。

※また、物語によっては、マーリンの下で訓練を受けた「湖の乙女」という名を持つ魔術師によって、聖剣「エクスカリバー」がアーサー王に与えられる。

そしてアーサー王は、王国ログレスの都「キャメロット」の地に、キャメロット城(宮殿)を築きます。

アーサー王と円卓の騎士

アーサー伝説の核を成すと言っても良い、アーサー王と共に「円卓の騎士」として円卓を囲んだ騎士達は、猛獣とたたかったり、苦悩する女性を救ったりと、騎士道にそった勇士を示す勇猛果敢な人物達でした。

「聖杯物語」のなかでは、この騎士たちがどんな問題でも解決する聖杯を探し求める旅に出ています。

また、アーサー王物語において重要なポイントとして、

  • アーサー王の円卓では、誰もが平等な立場であること

がとても重視されました。

円形で上座下座が無く、立場に関係なく誰もが同じように座ることが出来るアーサー王の円卓は「対等な関係を表す象徴」だったのです。

一方で、物語の解釈によっては、「臣下である騎士達同士の争いを防ぐためにこの円卓が使われた」とも言われます。

そして、アーサー王の円卓には10人を超す(12人とされることがよくあるが文献によって数が異なる)騎士が選ばれました。

そこには、

  • ランスロット卿(グィネヴィア王妃と不義の恋に落ちた)
  • ガウェイン卿
  • パーシヴァル卿
  • ガラハッド卿(ランスロット卿の息子)
  • ケイ卿
  • ベディヴィア(ベディヴィエール)卿
  • トリスタン卿
  • ガレス卿
  • ボールス卿
  • アグラヴェイン卿
  • モルドレッド卿(後に反逆者となるアーサー王とモルゴース王妃の息子)
  • ルーカン卿(最も忠誠で信頼されていた)※一部の文献
  • アレミラ卿(アーサー王に最も忠誠を誓った)※一部の文献

を始め、文献によって円卓の騎士に含まれる人物が異なることもあり、さらに多くの騎士が含まれます。

アーサー王の最後の日々

アーサー王に仕えていた円卓の騎士の一人「ランスロット」は、聖杯探索の冒険のなかでグィネヴィアと恋に落ちてしまい、このことが最大の原因となって、キャメロットでは激しい内戦が勃発していきます。

(ランスロットとグィネヴィア)

二人の密通が明らかにされると、グィネヴィアに火刑が科せらますが、処刑される寸前にランスロット卿がグィネヴィアを救出。

そしてランスロットは離反してフランスへ向かい、そのランスロットを追ってアーサー王もフランスへ赴きます。

しかし、このアーサー王の留守を良いことに、モルドレッド卿がアーサー王に謀反を起こします。

そして、モルドレッド卿は「アーサー王はランスロット卿との戦いで死んだ」と皆に信じ込ませ、王位についてしまったのです。

ちなみに、モルドレッド卿はアーサー王とアーサー王の異母姉妹であるモルゴース王妃の子どもですが、アーサー王がモルゴース王妃を誘惑したとき、アーサー王はモルゴース王妃が自分の異母姉妹であることを知りませんでした。

王位が奪われたことを聞いたアーサー王は急遽、ブリタニアへ戻ることにし、モルドレッド卿へ王位を戻すように伝えましたが、モルドレッド卿はそれを拒否。

その結果、カムランの地で両者は対峙することになり、その戦い(カムランの戦い)の中でアーサー王はモルドレッド卿を倒したものの、自身も深い傷を負ったため、結局は命を落としてしまいました

その後、コンスタンティンがイングランドの王に選出され、王国を立派に統治していったのでした。

伝説のアーサー王と実在した「アーサー」との違い

文献によって多少の違いはあるものの、上で紹介してきたものが、伝説(物語)上のアーサー王の基本的な描写です。

では、このフィクションとしてのアーサー王に対して、実在したと言われる「アーサー」はどのような人物だったのでしょうか?

ここからは実在したアーサーに関して、伝説上のアーサー王と違う4つの点を紹介してきたいと思います。

アーサーは「王」ではなかった!?

本物のアーサーは英国の王様ではありませんでした。また、アーサー王伝説に登場する有名な円卓や騎士団も持っていませんでした

それらは全て、歴史上実在していた1人の男性、「一介の騎士にすぎなかった男性」の物語が、数百年以上もの長い期間をかけて、何度も形を変えて語られるうちに付け加えられたものです。

アーサーについて最初に言及している物語は、紀元前540年にアーサーと同時代に生きたギルダスと呼ばれる高位僧であり歴史家であった人物によって書かれました。

しかし、ギルダスはアーサーを王と呼んでいません(ギルダスは彼をアーサーとすら呼んでいない)

ギルダスによるとその人物は、当時のブリテンの地に対するアングロサクソン人の侵略に対して軍を指揮していましたが、王座に座ることも無ければ、王冠をかぶることもありませんでした

さらにギルダスは、その人物は「英国の王たちと共に戦った」けれど、特に貴族階級でもなければ、「より階級の高い人物は多くいた」ことを記しており、その人物の身分は決して高くなかったことが分かります。

ただし、アーサーと見られる人物は、王でなくとも英雄であったことは確かでしょう。

アングロ・サクソンがブリテンの地へやってきて国中で大破壊を引き起こし、抵抗するものを虐殺し、ブリトン人を奴隷として無理やり連れ去っていた暗黒時代に立ち上がり、アングロサクソンに対して勝利したのがアーサーとされる人物。

彼の指揮する軍は幾度にも渡る戦いに勝利し、ついには「ベイドン山の戦い(西暦500年前後)」と呼ばれる最終戦で、アングロサクソンを追い出すことに成功したのです。

アーサーはローマ人で元々は名前も違った!?

実在したアーサーはまた、アーサー伝説で描写されるようにブリタニアの地に住むブリトン人ではなく、実はローマ人だった可能性が示唆されています。

(出典:wikipedia

その人物とは、「アンブロシウス・アウレリアヌス」という5世紀頃にアングロサクソンと戦った「ブリトン人の指導者」で、

  • ローマ貴族の末裔で古代ローマ帝国からブリテンの地へ赴いた人物
  • ローマ化したブリトン人

のどちらかであると考えられています。

当時、ブリトン人が住んでいたブリテン島はローマ帝国の支配下にあり、これが、ローマ人の名前を持つアンブロシウス・アウレリアヌスがこの地にいた理由です。

ちなみに、

  • アウレリアヌスとアーサー王が同一人物なのか?
  • アウレリアヌスは単にアーサーの親戚だったのではないか?
  • アウレリアヌス単にアーサー軍の指揮官だったのではないか?

など、いくつかの議論が存在します。

しかし、ギルダスの文献から60年ほどしてから語り直された物語では、「主人公の名前を除くほぼ全ての詳細が同じ」であるのにも関わらず、「主人公の名前だけアーサーとなっている」ことから、

  • ギルダスが書いた物語の主人公「アウレリアヌス」がアーサーである

という推理が論理的に成り立つのです。

キャメロット城はローマ帝国の軍人基地だった?

アーサー王伝説では、ログレス王国の都「キャメロット」にキャメロット城(宮殿)を築いたと描かれていますが、この「キャメロット」並びに「キャメロット城」の位置は分かっておらず、そもそも最初から実在していなかったとも言われます。

一方で、このキャメロット城は、実はローマ帝国に属する小さな要塞で、現在のイギリスの都市コルチェスター(当時はカムロドゥノンと呼ばれていた)の中に存在していたのではないかという話が存在します。

(現在のコルチェスター)

カムロドゥノンは、イギリスに最初に作られたローマ帝国の都市で、西暦40年にローマ帝国皇帝クラウディウスによって建てられました。

ここはブリテンの地を、ローマ帝国支配下において管理出来るように設計された「戦略的な開拓地」だったようです。

ただし、後に「キャメロット」として描かれたと考えられる要塞自体は、実在したアーサーがアングロサクソンと戦っていた時にはすでに廃墟になっていたのではないかとも言われ、その場合、アーサーは「キャメロット」へ足を踏み入れたことさえなかった可能性もあります。

実在のアーサーはマーリンが生まれる前に死んでいた?

アーサー伝説の中でアーサーを導く重要人物であるマーリンも、歴史上に実在したと考えられていますが、一方で、実在したアーサーとマーリンは会ったことがないようなのです。

というのも、実在したマーリンが生まれたのは実在したアーサーが亡くなった後だったため、同じ時代を生きたわけではない両者が会うことは不可能だから。

このマーリンのモデルになったと考えられる実在した人物は、6世紀(西暦540年頃)にウェールズに生まれた「マルジン・ウィスルト」で、預言者とも狂人とも言われた人物。

両者が生きた時代はおよそ1世紀の開きがあるため、二人が会うことはまずなかったはずです。

そして、アーサーの描写と同じように、時間が経つにつれてマルジンの描写もどんどん実在した人物から掛け離れていき、それから長い時を経て、アーサー物語に付け加えられるようになったようなのです。

合わせて読みたい世界雑学記事

アーサー王|伝説の物語と実在したアーサーの違いを掘り下げていくのまとめ

アーサー王伝説やアーサー王物語に出てくる「アーサー」について、伝説上の描写と実在したモデルの描写の違いを見てきました。

アーサー王物語は非常に面白いフィクション作品。

その物語を読み進めるにあたって、実在した人物とのギャップを頭に入れておくと、さらに新しい発見が出来るかもしれません。

世界のことって面白いよね!By 世界雑学ノート!

error:Content is protected !!