ヒクイドリは特徴的な外見を持ち、他の鳥とは違って飛べない大きな鳥。一方で、人間に危害を加える危険な鳥や絶滅危惧種に含まれる鳥と言われることもあります。
火を食う姿に見えることから「ヒクイドリ」と呼ばれる鳥を知っていますか?
ヒクイドリは鳥としては非常に大きな体格を誇る一方で、ダチョウのように飛ぶことが出来ないため、代わりに物凄いスピードで地上をダッシュしたり、高くジャンプ出来る鳥です。
またヒクイドリは、とても攻撃力の高い爪を持ち、毎年多くの人が攻撃されることから危険な鳥としても知られると同時に、個体数の減少から絶滅が危惧されている鳥でもあります。
この記事では、そのヒクイドリについて詳しく紹介していこうと思います。
ヒクイドリとは?
ヒクイドリ(英語名ではCasuarius casuariusまたはSouthern cassowary)とは、「オオヒクイドリ」や「オーストラリアヒクイドリ」とも呼ばれる、大型で黒い体と青色の頭頸部を持ち、喉に赤い肉垂が付いているのが特徴的な飛べない鳥のこと。
鳥綱ヒクイドリ目ヒクイドリ科ヒクイドリ属に分類され、飛べない鳥である「走鳥類(平胸類)」に含まれる一種です。
主にインドネシア、ニューギニア、オーストラリア北東部に分布しており、熱帯雨林を中心に生息しているものの、草原やマングローブの森にも暮らしているのが確認されています。
また、ニュージーランドの国島とされる走鳥類のキウイ(キーウィ)とは、約4千万年前に同じ祖先から分化したとされ、他の走鳥類であるエミュー、ダチョウ、レアなどとも比較的近しい関係にあります。
加えて、ヒクイドリが含まれるヒクイドリ属には以下の種も存在しています。
- コヒクイドリ
- ニューギニアやニューグリテン島に生息している
- ヒクイドリ属の中では最も小さな体を持ち、肉垂がない
- パプアヒクイドリ
- ニューギニア島北部に生息している
- ヒクイドリよりも体格はやや小ぶり
ちなみに、和名であるヒクイドリは元々、漢字表記では「火食鳥」でしたが、実際に火を食べるわけではなく、喉から垂れ下がった赤い肉垂によって「火を食べているように見える」ことから、この名前が付けられたと考えられています。
また、英語名の「Cassowary」は、パプア諸語の「角」を意味する「Kasu」と頭を意味する「Weri」から派生したと言われ、ヒクイドリの特徴の一つである頭頂部の角質突起を指し示してのことだと思われます。
ヒクイドリの外見的特徴
ヒクイドリの体は硬い剛毛質の黒い羽毛に覆われているのに対して、頭部から頸部にかけては羽毛がなく、青い皮膚が見えているのが特徴。
また、喉の根元辺りには18cm近くにもなる「肉垂」と呼ばれる赤い皮膚が2本ぶら下がっているのも、ヒクイドリの特徴の一つです。
さらに、頭頂部には13~17cmほどの高さになる茶色の角質突起があり、くちばしの長さは10cmから20cmの間くらい。
加えて、3本指の足は太く、指には殺傷力の強い刃物のような爪が伸び、その長さは最長で12cmにもなります。
そんなヒクイドリの体は、
- 最大で → 全長190cm(体重は85kg)
- 一般的には → 全長150〜180cm(メスは58.5kg/オスは29〜34kg)
となり、オスに比べてメスの方が頭頂部の角質突起やくちばしが大きく、また、皮膚の色もより鮮やかであるなど、メスの方が優勢です。
一方で、幼鳥の頃は茶色の縦じま模様の羽毛を持ちます。
ヒクイドリに関して抑えておきたい6つの話
大きな飛べない鳥「ヒクイドリ」に関する基本的な知識を確認してきましたが、ここからは、それ以外にも抑えておきたいヒクイドリにまつわる話を6つ挙げて紹介していきましょう。
飛べない代わりに速く走れて高く飛べる!
飛ぶために必要な筋肉を支える胸骨の構造が欠如しているために、ヒクイドリは一般的な鳥類のように空を飛ぶことが出来ません。
しかし、それを補うかのように、ヒクイドリは頑強で丈夫な足を手に入れ、その脚力は非常に強く、なんと地面から2m近くもジャンプすることが出来る上に、凄まじい加速力により、短時間で最高時速50kmのトップスピードを出して走ることが出来るんです。
オーストラリアでは最も重く世界では2番目に重い鳥
一般的な個体でも体重が60kg弱になり、大きな個体は最大で体重が85kgになるヒクイドリは、分布域の一つであるオーストラリアにおいて、もう一つの走鳥類で同じよう大きな体長を誇るエミューを抑えて、最も重い鳥とされます。
エミューは体長はヒクイドリとほとんど変わらないぐらいですが、体重は大きな個体でも60kg程度にしかならないため、ヒクイドリの方が重いのです。
一方で、地球上に存在する鳥全てを見渡した場合、同じ走鳥類であるダチョウの体重は135kgを越えるとされ、ヒクイドリは地球上で2番目に重い鳥となります。
ヒクイドリは頭部の角質突起と爪を自己防衛に使う
ヒクイドリは飛んで逃げることが出来ないため、強靭な足でしっかりと踏ん張り、身を守るために頭部の「角質突起」と「爪」を使って戦うように進化してきました。
角質突起は戦いの最中に頭蓋骨が負傷してしまうことを防ぎ、また、相手に対する威嚇としても利用します。
通常、攻撃態勢に入る際、ヒクイドリは出来る限り背を伸ばして立ち、羽を逆立て、角質突起を相手に見せ付けるように頭を下げて威嚇するのです。
対して12cmにもなる爪はまさしく刃物と言って良い破壊力を持ち、まるで短剣で刺すような攻撃を繰り出して敵へ深刻なダメージを与えます。
その威力は犬や人間でさえも殺傷出来るほどで、これが、ヒクイドリは危険な鳥だと言われる所以です。
理由もなくヒクイドリが攻撃することはまずない
一方で、危険な鳥と言われるヒクイドリは、何の理由もなく攻撃してくることはほとんどありません。
とても臆病な生き物であり、可能な限り争いを避けたがるのです。
ヒクイドリは非常に縄張り意識が強く、若鳥を守ろうとするため、それを刺激した場合に攻撃してくることになります。
攻撃の主な理由は自己防衛であることがほとんどです。
危険!?毎年200人近くの人々がヒクイドリに攻撃されている!?
そして、一旦、攻撃のスイッチが入ると気性が荒い面を見せるのがヒクイドリ。
近づく物は何であろうと強力な足で素早く攻撃し、毎年200件近いヒクイドリよる人間に対する攻撃が報告されています。
ただし、何度も繰り返しますが、これらの攻撃被害のほとんどは、人が餌をやろうとするなどしてヒクイドリに近づき、怖がらせたために起きています。
また、毎年多くの攻撃被害が発生しているとはいえ、ヒクイドリによる人間の死亡事故が最後に記録されたのは1926年まで遡ります。
主に果物を食べて雛はオスが面倒を見るヒクイドリの生態
食欲旺盛なヒクイドリ
ヒクイドリは主に、地面に落ちいている各種フルーツを餌として食べ、他にも、キノコや昆虫類、小型の脊椎動物などを食べることもあります。
その食欲は旺盛で、1日に餌を5kgも摂取するほど。
そして、旺盛な食欲を支えるためにも、ヒクイドリの消化器官は、他の動物には毒となる果実でさえも安全に消化することが出来るのです。
繁殖時期になるとつがいになって子育ては男任せ!
ヒクイドリは通常単独で行動しますが、冬から春にかけての繁殖期になるとつがいとなります。
そして、オスは地面に植物を用いて5~10cmほどの厚みで最大幅100cmほどの巣を作り、メスがそこへ3つから4つ程度の卵を産卵します。
すると、なんとメスは別のオスを求めてその場から立ち去り、残されたオスは一羽だけで、それから50日間もの間、卵が孵化するまでじっと卵を抱きかかえ続けるんです。
卵から雛がかえるまでの間、お父さんヒクイドリは巣を離れることは決してなく、飲まず食わずで排尿や排便をすることもなく2カ月弱を耐えるため、雛がかえった時点で体重は、およそ5kgも減ってしまうと言われます。
しかし、お父さんヒクイドリの仕事はまだ終わりではありません。
その後およそ9カ月の間、今度は幼い雛たちへ餌をあげて敵から守り抜き、つきっきりで子育てしていくことになるのです。
ヒクイドリは自然の循環を健康に保つ役割も果たしている
熱帯雨林を始めとした自然の中に生息するヒクイドリは、生息地域の自然には無くてはならない役割を担っているとも言えるでしょう。
というのもヒクイドリは、地域全体の植物を拡散し発芽させる役割を担っているからです。
フルーツを多く食べることから、なかには未消化のまま、種子や果実が排泄されることもあり、ヒクイドリが移動した先では、これら種子が新しく芽を出して成長するのです。
ヒクイドリは「天然の庭師」として自然の健康な循環を守っているんです。
絶滅危惧種としてのヒクイドリ
森林伐採などによる生息地の減少や、一部地域で人間による乱獲が起こった結果、また野生動物による卵の捕食や交通事故などによって、ヒクイドリは絶滅危惧種の一つとされています。
なかでも交通事故、野生動物、乱獲の影響は深刻で、オーストラリアでは他に、サイクロンによる影響も懸念されており、オーストラリアに生息するヒクイドリの個体数は「危機的」であると、オーストラリア政府とクイーンズランド州政府は指定しています。
一方で、最近の調査によって実は個体数が従来考えていたよりも多いと推測された結果、国際自然保護連合(IUCN)が作成する2017年版の絶滅危惧種のレッドリストでは「絶滅の恐れは低い」と評価されています。
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ヒクイドリ|危険で絶滅危惧種とされる飛べない大きな鳥のまとめ
インドネシアやパプアニューギニア、そしてオーストラリアに生息するヒクイドリについて見てきました。
ヒクイドリは特徴的な外見と共に大きな体格を誇り、飛べない走鳥類である代わりに、地面を猛スピードで走れるように進化した鳥。
そして、飛んで逃げることが出来ないために、あえて自らの爪を武器として進化させ、危害を加えようとした敵に対して危険を顧みずに攻撃します。
一方で、ヒクイドリは絶滅が危惧されている鳥でもあるのです。