ベトナムの格闘技と武術を9つ厳選して紹介していきます。ベトナム発祥のものとして最も有名なボビナムから、あまり知られていないナム・ホン・ソンまでを確認していきましょう。
ベトナムは東南アジアに属する国ですが、北部では中国に隣接していることもあり、長い歴史の中では中国から多くの影響を受けてきました。
そして、これに関してはベトナム発祥とされる格闘技または武術に関しても同じで、ベトナムで確認出来る格闘技には、中国武術の影響を受けたであろうものが多く見受けられます。
しかし、それでもベトナム発祥の格闘技は現地の人や地域に合わせながら、独特な発展を遂げています。
この記事では、ベトナム発祥の9つの格闘技や武術を紹介していきます。
ベトナムの格闘技1:ボビナム( ヴォ・ヴィエ・ナム)
ヴォ・ヴィエ・ナムとも呼ばれるボビナムは、ベトナム発祥の総合武術または格闘技と呼べるもの。
東洋の中国拳法を始めとした様々な武術に加えて、西洋のレスリングやボクシング、さらにはムエタイやキックボクシングなどが研究され、それぞれの要素が取り込まれていった結果、グラップリング、殴打、カウンター攻撃、武器の使用など、幅広い様々な技が含まれる混合武術となりました。
ボビナムは、ベトナムで最も広く学ばれ、実践されてきた武術です。
その設立自体は1936年、グェン・ロックという人物によって行われ、ベトナムの人々に闘い方を教えることによって、ベトナム人がフランスによる植民地支配から脱却できることを願い、それから2年後の1938年には一般にも広められていきました。
現在はホーチミンに本部が置かれ、世界ボビナム連盟が統括しています。
ベトナムの格闘技2:ビン・ディン武術
ベトナム南西部の沿岸地域にある「ビンディン省」には長い戦いの歴史があります。
この地方は、18世紀、ビンディン地方出身の3人の獰猛な戦士に率いられた小作農が反乱を起こしたことをきっかけに、、1778年から1802年の間ベトナム南西部を統治した「西山朝(せいざんちょう/タイソンちょう)」が誕生した地です。
そしてこの誇り高き一族から、ビン・ディン武術のスタイルが生まれました。
このビン・ディン武術は、実戦における様々な場面を想定した動きが取り入れられた武術で、中でも特質すべき点は、素手以外にも、鎖、槍、ハンマー等、18の武器を用いるという点です。
ベトナムの格闘技3:サ・ロン・クオン
サ・ロン・クオンは、ビン・ディン武術の流れを組む格闘技の一派。
1964年にサイゴンでチュオン・タン・ダンによって創設され、ビン・ディン武術と中国の少林拳を組み合わせた武術だとされます。
また、精神面での熟達も求められ、精神の訓練の中では、常に優しく謙虚であることが求められます。
現在はベトナムだけではなく、イギリス、フランス、イタリア、アメリカ、オーストラリアなどでも練習されるなど、少しずつ世界的な広がりを見せているベトナムの格闘技です。
ベトナムの格闘技4:タン・カイン・バ・チャ武術
タン・カー・バ・チャ武術は、ビン・ディン武術の動きを元に発展していったベトナムの武術で、同様に素手だけでなく武器の使用に秀でている点が特徴です。
フランスによって西山朝が1802年に終焉を迎えると、多くの人々が報復を恐れて南へ逃れました。
こうした人々が自分たちのビン・ディン武術を持ち込み、新天地であるタン・カイン村および村周辺の人々でも学びやすいように改良していったのがこの武術です。
ベトナムの格闘技5:ニャット・ナム武術
ニャット・ナム武術は比較的新しい武術または格闘技と言えるもの。
1986年にヌゴ・ザン・ビンという人物によって創始されました。
ヌゴ・ザン・ビンはハノイ在住で、ベトナムのさまざまな武術の規律をひとつに統一したいと考えた結果、「ひとつのベトナム」を意味するニャット・ナムというこの武術に行き着いたのです。
打撃もあれば関節技もあり、また、合気道のような柔らかい動きで相手を制圧する技も含まれています。
そして、現在、この武術はロシアを中心に一部の旧ソ連圏で信奉者の数を増やしています。
ベトナムの格闘技6:ヴァン・アン・ファイ
ベトナム発祥の武術や格闘技の中でも比較的古くから受け継がれてきているのが、ヴァン・アン・ファイ。
その起源はベトナム中部の都市であるフエがベトナムの首都とされていた、阮朝の時代(1802〜1945年)に遡ります。
この武術は、皇帝と皇帝周辺の者全員の安全を守る役目の王宮の護衛兵たちが実践していたと言われ、中国伝統のクンフーを参考にしながらも、特に猫の動作をモデルにしており、多くの素早く致命的な殴打の技があります。
ベトナムの格闘技7:ナム・フイン・ダオ
ナム・フイン・ダオは阮朝に始まり、後にサイゴンで発展したベトナムの格闘技。
相手の動きに合わせることで小さな動きでも相手を制圧するを主眼においた武術で、動きの多い中国のクンフーのような動作も含まれますが、練習を積み重ねることで、上級者になると太極拳や合気道のような体の使い方をマスターしている人もいます。
ちなみに、ナム・フイン・ダオでは、左胸にロゴが入った黒色の半袖Tシャツを着用しますが、男性の場合、上半身には何も着ていない場面もよく確認されます。
ベトナムの格闘技8:ダウ・ヴァット
ダウ・ヴァットは伝統的なベトナムのレスリングまたは相撲と言える格闘技で、多くの農村部におけるテト(ベトナムの旧正月)の祝いで不可欠な存在。
競技者は、敬意を表するためのダンスを披露し、それに続き、相手をスイープ、グラブ、テイクダウンなどの技を使って制圧しようとします。
ただし、他の形態のレスリングと同様に、殴打は認められていません。
そして、勝利するためには、相手の腹部が上向きになるか、相手の脚が両脚とも地面から離れなければなりません。
開催される場所は、その主催者や地域によって異なり、例えば、レスリング大会の会場で行われたり、カーペットの上で行われたり、砂の上で行われたりします。
ベトナムの格闘技9:ナム・ホン・ソン
この武術は、中国武術と伝統的なベトナム武術が融合したと言われる格闘技で、ハノイで有名な格闘家であったグエン・グエン・トーによって創設されました。
その後、グエン・グエン・トーが1984年に亡くなると、父の下で9才の頃から武術を教えられてきたグエン・グエン・トーの息子によってその意志が引き継がれ、グエン・グエン・トーはさらに発展していくこととなりました。
古来より伝わる伝統的な素手の動きに加えて、武器を用いた技を駆使するのが特徴で、また、中国に伝わる精神鍛錬の方法や呼吸法なども取り入れられています。
また現在、ナム・ホン・ソンはハノイで最も人気がありますが、ドイツにもいくつか道場があります。
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ベトナムの格闘技と武術9選!ボナナムからナム・ホン・ソンまでのまとめ
ベトナム発祥の格闘技と武術を9つ紹介してきました。
見て分かる通り、多くベトナム発祥の格闘技には、中国の影響を受けながらも独自に発展していった共通点が見つかります。
ちなみに、ベトナムでは世界中で実践されているフリースタイルレスリングの競技者が比較的多くいることから、今後はレスリングを主体にした格闘技が発展していくかもしれません。