ロシアのマフィア(ギャング)について詳しく解説していきます。ボスやブリガディアなどの役職名から、有名なマフィアグループの一覧までを見ていきましょう。
「おそロシア」という言葉あるように、ユーラシア大陸に大きな国土を抱えるロシアは、世界の大国の1つとして知られるだけでなく、どことなく「恐ろしい」イメージで知られる国です。
ソ連時代における西側諸国のロシアに対するプロパガンダや、強大な帝政時代のロシアに依るところが大きいと言えますが、「ロシアンマフィア」として恐れられるロシアのマフィアやギャング集団の存在も、恐ろしいロシアのイメージ作りに一役買っているのかもしれません。
というのも、主に西側諸国のフィクションにおいて、ロシアのマフィアは恐ろしい犯罪集団として、常に主人公を窮地に陥れる存在として描かれてきたからです。
この記事では、そんなロシアのマフィア(ギャング)について詳しく見ていこうと思います。
ロシアのマフィアまたはギャングの概要から、組織の構成と役職、そして、世界各国に散らばるロシア系マフィアの一覧までを見ていきましょう。
ロシアのマフィアまたはギャングの概要
ロシア語でроссийская мафия(русская мафия)、ローマ字ではRossiyskaya Mafiya(Russkaya Mafiya)とは、ロシアのマフィアまたはギャング達のこと。
一部ではロシア語でбратва、つまり「同志」を意味する「ブラトヴァ」とも呼ばれ、旧ソビエト圏を起点として展開する、多様な組織犯罪をまとめた総称です。
ロシアのマフィア(ギャング)の起源は、ロシア皇帝やツァーリの時代に遡るとされます。
しかし、強制労働を強いられた服役中の囚人グループから「ボール・フ・ザコーネ(規律ある泥棒)」と呼ばれるリーダー格が頭角を現し、ロシアンマフィアの倫理規定が制定されるようになったのは、ソビエト連邦時代になってからのことでした。
そして、第二次世界大戦の終戦、スターリンの死、ソビエト連邦の崩壊とともに、闇取引が発展する中で旧ソ連各国の不安定な政治情勢につけこみ、一時はロシア経済の三分の二を支配するまでギャング達が暗躍するようになっていったのです。
例えば、FBIの長官を務めたルイス・フリーは、
1990年代半ば、ロシアのマフィアはアメリカの国家安全保障に対し多大な脅威を及ぼす存在であった
と証言しています。
また、2010年8月にはフランスの犯罪学者が、
ロシアの犯罪組織は準軍事組織を備えており、ヨーロッパでもトップクラスである
との考えを示しています。
近年において、ロシアのマフィア集団の数は6,000にのぼり、そのうち200以上のグループが国際的に展開。
各組織のメンバーは、服役を終えた元囚人、不正を働いた役人やビジネスリーダー、組織のメンバーと民族的な繋がりのある人々、また、同じ地方出身で犯罪経験を共有している人々、他にも同じリーダーを支えた経緯のある人々で成り立っていると言われます。
ロシアマフィア(ギャング)の一般的な役職と組織構成
ロシアのマフィアまたはギャングの全てに共通するわけではないかと思いますが、ロシアのマフィア集団でよく見られる役職と組織構成を簡単に紹介しておきます。
ロシアマフィアによく見られる役職
パカーン(Pakhan)
他にも、ボスやヴォル(Vor, 泥棒の意味)、パパ(Papa)、アヴトリテット(Avtoritet, 権力者の意味)などとも呼ばれるパカーンは、ロシアの犯罪集団組織を統制している人物。
「ブリガディア」と呼ばれる仲介者または小集団のリーダーを通して、大きな1つの集団全体を統率しています。
ツー・スパイズ(Two Spies)
2つのスパイを意味する「ツー・スパイズ」は、組織の中に裏切り者がいないか、また、組織の権力者を超える存在が現れることがないかを監視している存在。
特に、小集団のリーダーであるブリガディアの行動を重点的に監視しています。
ソヴィエトニク(Sovietnik)と呼ばれる「サポートグループ」と、オブシュチャク(Obshchak)と呼ばれる「セキュリティグループ」の2つがあります。
デルツァテル・オブスチャカ(Derzhatel obschaka)
少数団のリーダーであるブリガディアから資金を回収し、マフィア組織の利益のために充てられた資金で政府に賄賂を提供するなど、ロシアのマフィア集団においては簿記係のような存在です。
ただし、ブリガディアまたはパカーンがこの役割を兼任することもあります。
ブリガディア(Brigadier)
1つの大きなロシアマフィア集団を構成する小集団のリーダー(キャンプテン)として、グループの指揮にあたる存在。
「戦士」と呼ばれるボイェヴィクス(Boyeviks)に仕事を振り分け、パカーンに貢ぎ物を納めるのが重要な仕事です。
ボイェヴィクス(Boyeviks)
パトサン(Patsan)またはボロドゥヤガ(Brodyaga)とも呼ばれ、「兵士」のように特別な犯罪活動を展開するブリガディアを支えます。
ボイェヴィクスは、新たなメンバーを招集したり、ブリガディアへ貢ぎ物を納めることを任され、また、ロシアマフィアにおいては重要な攻撃部隊ともなっています。
シェスチョルカ(Shestyorka)
組織の使い走りであり、ロシアのマフィアまたはギャングにおいて、最もランクの低いメンバーです。
普段は舞台裏に徹し、表立った活動には参加しないものの、場面や状況によっては例外となることもあるなど、基本的にはサポート役に徹します。
また、必要に応じて見張りの役を任されることもあります。
一時的なポストであり、シェスチョルカのポジションにある人は、最終的に「ヴォル(Vor)」と呼ばれる「マフィア」の世界に登り着くか、または排除されるかのどちらかとなります。
ちなみに、ロシアのマフィア界では、「泥棒」を意味する「Vor(複数形はVory)」がマフィアの一員であることを示す名誉的な称号となっています。
新メンバーが多大なリーダーシップを発揮したり、個人としての能力、知性、カリスマが十分に高いと認められた場合のみに与えられるのです。
新メンバーがこの称号に相応しいかを、パカーンなど組織内の権力者達が判断して決定し、ヴォルのメンバーになった新参者は、「規律ある泥棒」という意味の「ボール・フ・ザコーネ」の規定を遵守していくことが求められます。
ロシアマフィアの組織構成
ロシアの犯罪グループの組織構成は、集団によっても異なってくるため、全てが共通しているわけではありませんが、4つのグループで構成された以下の組織編成が1つのモデルとなっています。
- エリートグループ
- 組織の経営、構成、観念形態に関わるパカーンがリーダーとなる最も高いランクのグループ
- サポートグループ、セキュリティグループの両グループを統制する立場にあたる
- セキュリティグループ
- スパイがリーダーとなり、組織の円滑な運営そして組織間やほかの犯罪グループとの治安や関係を維持するための役割を果たす
- また、必要な相手には賄賂を提供する
- エリートグループと連携するとともに、サポートグループとは同じランクのグループとなっており、保安そして情報収集を担当している
- サポートグループ
- こちらもスパイがリーダーとなり、ワークユニットの資金の調達動向を見守るとともに、犯罪活動の監督にあたる
- エリートグループと連携し、セキュリティグループとは同じ権力を持つポストとなっている
- 専門性のあるグループが担当する、特定された犯罪活動の内容や、どの人物が実行にあたるかなどの計画作りを担う
- ワークユニット
- 4人のブリガディアがワークユニットによって展開される犯罪活動の指揮にあたっている
- サポートグループのみと連携して任務にあたり、強盗、泥棒、売春、ゆすり、ギャングなどの犯罪に関わっている
ロシアマフィア(ギャング)のグループ一覧
ロシアマフィアについて、その概要から役職や組織構成までを解説してきましたが、最後に、マフィア集団を一覧として紹介しておきます。
モスクワ周辺を拠点とするグループ
- ソルンツェフスカヤ・ブラトヴァ(Solntsevskaya Bratva)
- 約5,000人のメンバーを誇るロシア最大の犯罪グループ
- ソンツェヴォ地区に由来するのがその名前の理由
- リュベレツカヤ・ブラトヴァ(Lyuberetskaya Bratva)
- 1980年代後半から1990年前半そして半ばにかけては、ソビエト連邦において最大級の犯罪グループの1つとして知られた犯罪組織
- モスクワのリュベルツィ地区で誕生し、現在も拠点としている
- イズマイロフスカヤ(Izmaylovskaya)ギャング
- 現代のギャングとしてはロシアで最も古いグループの1つであり、1980年代半ばから後半にかけて誕生し、その名前はイズマイロヴォ地区に由来している
- モスクワのみでも200から500名のメンバーがいる
- オレホフスカヤ(Orekhovskaya)ギャング
- セルゲイ・ティモフェイェヴ率いるグループとしてスタートし、モスクワでは1990年代に全盛期を迎えた
- ティモフェイェヴの死にともなってセルゲイ・ブトリンがリーダーとなったものの、2011年無期懲役の判決を受けている
ロシアの他の地域および旧ソ連各地を拠点とするグループ
- ドルゴプルドネンスカヤ(Dolgoprudnenskaya)ギャング
- ロシア第二の規模を誇る犯罪グループでロシアの都市ドルゴプルドニで結成された
- グレコフ(Grekov)ギャング
- グレコフ・ブラドリク(Grecoff Bradlik)の名にちなんだグループ
- サンクトベテルブルグにおいて主導権を握るほか、カナダのケベック州モントリオールにも支部を展開している
- スロノフスカヤ(Slonovskaya)ギャング
- 1990年代、独立国家共同体(CIS)において最も勢力のある犯罪グループであった
- ロシアのリャザンを拠点としている
- ウラルマシュ(Uralmash)ギャング
- エカテリンブルクの犯罪集団
- チェチェンマフィア
- 主にチェチェン人によって構成されたグループ
- ロシアの大規模マフィアグループに次いで、旧ソ連地域で活動を展開する犯罪組織としては、最も大きなグループの1つだとされる
- グルジアマフィア(ジョージアマフィア)
- ヨーロッパにおいて最も大規模で、権力そして影響力のある犯罪ネットワークであるとされている
- 旧ソ連の国々の中で最も多くの「規律ある泥棒」を輩出している
- ムヘドリオニ(Mkhedrioni)
- 1990年代にグルジア(ジョージア)の規律ある泥棒であったジャバ・ロセリアニ(Jaba Ioseliani)が率いる、組織犯罪に関わった準軍事的なグループ
アメリカ周辺を拠点とするロシア系マフィアグループ
- オデッサ(Odessa)マフィア
- アメリカで活動するロシアの犯罪グループとしては最も有名かつ勢力のある組織
- ブライトンビーチに本部が置かれている
- アルメニアン・パワー(AP-13)
- 旧ソ連に属していたアルメニア人達によって構成されるギャング集団
- カルフォルニアを拠点とする犯罪組織であり、ロシアおよびアルメニアの組織犯罪と繋がっている
- オーダー・オブ・ロノヴァ(Order of Ronova)
- ロシアおよびイタリアの組織犯罪と関わりを持つ組織
- アメリカのユタ州ソルトレイクシティー、ネバダ州カーソンシティー、ワシントン州タコマ、アリゾナ州フェニックスを拠点としている
- およそ100人の会員と400人の準会員が所属している
上記以外の地域を拠点とするロシア系マフィアグループ
- ザ・ブラザーズ・サークル(The Brothers’ Circle)
- 多民族からなる多国籍グループ
- 旧ソ連の国々に拠点を持ちながらも、ヨーロッパ、中東、アフリカ、ラテンアメリカで活動を展開するユーラシアのいくつかの犯罪組織のリーダーや長老メンバーで構成されている
- セミオン・モギレヴィッチ(Semion Mogilevich)
- ハンガリーのブダペストを拠点とし、組織名となった名前の親分が率いるグループ
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ロシアのマフィア(ギャング)|ボスなどの役職名から犯罪組織名の一覧のまとめ
ロシアのマフィア(ギャング)について、その概要から役職や組織構造、さらには世界各地に散らばるグループまでを見てきました。
ロシアに関するちょっとした雑学として覚えておきましょう。