ベトナムの民族について見ていきましょう。ベトナムには驚くほど多くの民族集団が存在し、それぞれが独自の文化を保ちながら暮らしています。
東南アジアには多様な民族集団が暮らしていますが、これはこの地域にある1つの国に絞ってみた場合も同じことが言えます。
例えば、東南アジアの主要国の1つであるベトナムには、一般に考えらえているよりはるかに多様性に富んだ民族が暮らしているのが分かります。
この記事では、ベトナムの民族集団(エスニックグループ)についてとりあげ、人口構成の観点からベトナムという国についての理解を深めていきたいと思います。
ベトナムの主要・多数派民族と少数派民族の状況についてそれぞれ確認し、ベトナムの全民族をまとめた一覧表も掲載しておきます。
ベトナムの主要・多数派民族「キン族(ベト族)」
ベトナム人の大多数は、同じ民族集団に属す人々です。
その民族集団は「キン族(Kinh)」または「ベト族(Viet)」とも呼ばれる人々のグループで、狭義(国籍で分類するのではなく民族で分類する場合)におけるベトナム人です。
ベトナムという国名から考えてみれば、キン族(ベト族)が主要民族であることにそれほど驚きはないでしょう。
ベトナムの総人口のおよそ86%(2009年時点)が、自らをキン族であると認識しており、ほとんどの場合、キン族の人々は、ベトナムを構成する3つの地域、紅河デルタ、メコンデルタ、中央海岸デルタ(中北部、中南部)で、何世代にも渡って何千年も暮らしてきました。
これら3つの地域はいずれも、肥沃な土地と豊富な海産資源に恵まれたデルタ地域で、こうしたデルタ地帯は何千年もの昔、最初にベトナムに社会が根付いた地域であり、今日までベトナムのほとんどの人々が住んでいる地域です。
このことを考慮すれば、多くのベトナム人にとって漁業が主要産業であり、生きていくための手段であるのもそれほど驚きではありません。
ベトナムの少数民族達(エスニックマイノリティ)
では、ベトナム国民の約86%がキン族を自称しているのであれば、残りのおよそ14%の人々はどういった民族グループに属するのでしょうか?
ベトナムには非常に多くの民族集団が存在する
信じられないかもしれませんが、ベトナムは実に54の固有な民族集団の故郷です。
ベトナムはどのようにして、これほど民族的多様性のある国になったのでしょうか。
まず、ベトナムという国のデルタ地帯以外の地域の多くが、きわめて険しい山地であることが挙げられます。
有史以前から、ベトナム周辺の山岳地帯の峡谷には、様々な小規模社会が存在していました。
主にキン族が暮らすデルタ地域や川の流域に興った社会が、互いに頻繁に交流し合い、共有のアイデンティを育むことが出来たのに対し、こうした山岳地帯の社会はそれぞれ、地形の特徴ゆえにかなり孤立した状態に置かれ、それぞれが個別にアイデンティティを形成していったのです。
その結果、独自のアイデンティティを持った異なる民族グループがベトナムの山岳地帯では多く誕生し、今日に至るまで、ベトナムのこうした少数民族の多くは、今だに山岳地帯のコミュニティに暮らしています。
少数民族と言えどもかなりの人口規模になる
2017年時点でのベトナムの人口は約9500万人であり、ベトナムがかなり人口の多い国であることを考えると、少数民族の人口割合は全体の約14%と言えども合計するとおよそ1330万人程にも上り、これは多くの他の国の人口規模を凌駕します。
つまり、少数民族とはいっても、ベトナムの少数民族は集団によって、相当に大きな人口を抱えることになるのです。
例えば、最大規模の少数民族集団には、タイー族、タイ族、ムオン族、ホア族、クメール族、モン族、ヌン族があり、こうした少数民族集団は、それぞれ100万人近い(またはそれ以上の)人口を抱えています。
一方で、はるかに小規模な民族集団もおり、例えば、ブラウ族、ロマム族、オドゥ族の人口は、それぞれわずか数百人足らずです。
緩やかに繋がるベトナムの少数民族集団
それぞれが独自のアイデンティティを形成し、個別の民族として発展してきた多くのベトナム少数民族達は、基本的には孤立した形で暮らしてきたのは確かです。
しかし一方で、キン族以外の53の少数民族の間では、歴史の中で互いに支援し合えるように結束を強める努力をし、緩やかにではあるものの、いわば1つの少数民族集団(エスニックマイノリティ)としての統一したアイデンティティ、または、自分たちに対する見方のようなものを共有していることも事実です。
特に1世紀頃、キン族の王国が拡大を始めて以降から、こうした山岳地帯に暮らす人々は緩やかに結びつき、協力し合うことに強みを見出してきました。
今日に至るまで、少数民族の近代的な農耕技術の発展や生活の質の改善を目的とした、連合や同盟が存在しています。
ベトナム少数民族が抱える生活の質の問題
この生活の質という問題は、まさにベトナムで課題とされてきました。
ベトナムの発展の大半は川沿いのデルタ地帯の発展であったため、特別に少数民族を排除して計画されたものではなかったとしても、山岳地帯の社会は取り残されがちだったのです。
現在、ベトナム政府はこの問題の解決に取り組んでいる一方で、先述したように、山岳地帯の村々は結束して支援を要求するようにもなってきています。
今日のベトナムは、少数民族の伝統文化や信仰を疎かにすることなく、医療、教育、最新技術へアクセスできるよう、改善を図ろうとしている段階にあります。
ベトナムの民族集団の一覧
最後にベトナムの54の民族集団について、一覧としてまとめておきます。
総人口:85,846,997人(2009年の国勢調査) | |||
語族 | 民族 | 人口 | 分布 |
ベト・ムオン語群(オーストロアジア語族) | キン族(ベト族) ※別称べトナム人、ベトナム最大の民族 | 73,594,427 | ベトナム全土 |
チュット族 ※キン族に近い民族 | 6,022 | クアンビン省 | |
ムオン族 ※キン族に最も近い民族 | 1,268,963 | ホアビン省, タンホア省, フート省, ソンラ省, ニンビン省 | |
トー族 ※キン族に近い民族 | 74,458 | ゲアン省, タンホア省 | |
オーストロアジア語族(ベト・ムオン語群以外) | バナール族 | 227,716 | ザライ省, コントゥム省, フーエン省 |
ブラウ族 | 397 | コントゥム省 | |
ブル・ヴァンキエウ族 | 74,506 | クアンチ省, クアンビン省, ダクラク省 | |
チョロ族 | 26,855 | ドンナイ省, バリア=ブンタウ省, ビントゥアン省 | |
コー族 | 33,817 | クアンガイ省, クアンナム省 | |
コホ族 | 166,112 | ラムドン省 | |
コトゥ族 | 61,588 | クアンナム省, トゥアティエンフエ省 | |
ジエ・チエン族 | 50,962 | コントゥム省, クアンナム省 | |
フレ族 | 127,420 | クアンガイ省 | |
カン族 | 13,840 | ソンラ省, ジエンビエン省 | |
クメール・クロム族 | 1,260,640 | ソクチャン省, チャビン省, キエンザン省, アンザン省, バクリュウ省, カマウ省 | |
コム族 | 72,929 | ゲアン省, ジエンビエン省, ソンラ省, ライチャウ省, ダクノン省,ドンナイ省 | |
マン族 | 3,700 | ライチャウ省 | |
マ族 | 41,405 | ラムドン省, ダクノン省, ドンナイ省 | |
ムノン族 | 102,741 | ダクラク省, ダクノン省 | |
オドゥ族 | 376 | ゲアン省 | |
ロマム族 | 436 | コントゥム省 | |
タオイ族 | 43,886 | トゥアティエンフエ省, クアンチ省 | |
シンムン族 | 23,278 | ソンラ省, ジエンビエン省 | |
セダン族 | 169,501 | コントゥム省, クアンナム省, クアンガイ省 | |
スティエン族 | 85,436 | ビンフォック省 | |
クラ・ダイ語族 (タイ・カダイ語族) | ボイ族 | 2,273 | ラオカイ省, ハジャン省 |
ザイ族 | 58,617 | ラオカイ省, ハジャン省, ライチャウ省, イェンバイ省 | |
ラオ族 | 14,928 | ライチャウ省, ジエンビエン省, ソンラ省 | |
ル族 | 5,601 | ライチャウ省 | |
ヌン族 | 968,800 | ランソン省, カオバン省, バクジャン省 | |
サンチャイ族 | 169,410 | トゥエンクアン省, タイグエン省, バクジャン省 | |
タイー族 ※国内最大の少数民族 | 1,626,392 | ベトナム北部 | |
タイ族 | 1,550,423 | ベトナム北部 | |
コラオ族 | 2,636 | ハジャン省 | |
ラチ族 | 13,158 | ハジャン省, ラオカイ省, トゥエンクアン省 | |
ラハ族 | 8,177 | ソンラ省 | |
プペオ族 | 687 | ハジャン省, トゥエンクアン省 | |
ミャオ・ヤオ語族 | ザオ族 ※ヤオ族やミャオ族とも呼ばれる | 751,067 | ベトナム北部 |
モン族 ※中国ではミャオ族に分類される | 1,068,189 | ベトナム北部 | |
パテン族 | 6,811 | ハジャン省,トゥエンクアン省 | |
マレー・ポリネシア語族 | チャム族 ※ベトナム南部のチャンパ王国の末裔 | 161,729 | ニントゥアン省, ビントゥアン省, フーエン省, アンザン省 |
チュル族 | 19,314 | ラムドン省, ダクラク省, フーエン省 | |
ジャライ族 | 411,275 | ザライ省, ダクラク省 | |
エデ族 | 331,194 | ダクラク省, フーエン省 | |
ラグライ族 | 122,245 | ニントゥアン省, カインホア省, ビントゥアン省 | |
シナ・チベット語族 | ホア族 | 823,071 | ホーチミン市, ドンナイ省, ソクチャン省, キエンザン省, バクリュウ省, ビントゥアン省, バクジャン省 |
ガイ族 ※ホア族に近い人々 | 1,035 | タイグエン省, ビントゥアン省 | |
サンジウ族 ※広東語を話すザオ族 | 146,821 | タイグエン省, ヴィンフック省, バクジャン省, クアンニン省, トゥエンクアン省 | |
プノイ族 | 2,029 | ライチャウ省, ジエンビエン省 | |
ハニ族 | 21,725 | ライチャウ省, ラオカイ省, ジエンビエン省 | |
ラフ族 | 9,651 | ライチャウ省 | |
ロロ族 | 4,541 | カオバン省, ハジャン省, ライチャウ省 | |
フラ族 | 10,944 | ラオカイ省, イェンバイ省, ハジャン省, ジエンビエン省 | |
シラ族 | 709 | ライチャウ省, ジエンビエン省 |
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ベトナムの民族まとめ|少数民族を含めた名前や一覧付き!のまとめ
東南アジアのベトナムには54の固有の民族集団が暮らしていますが、多数派の地位にあるのはわずか一つの民族「キン族」です。
キン族は、ベトナムの総人口の約86%を占めており、そのほとんどは、数千年前に先祖が定住したのと同じ地である、天然資源に恵まれた豊かな川沿いのデルタ地帯付近に集中しています。
一方で、ベトナムの少数民族の多くは、山岳地帯の限られた地域に居住しています。
こうした少数民族は民族的な多様性に富む一方で、地理的に孤立しているためにベトナムの発展を享受できておらず、ベトナム政府は現在、事態の改善に取り組んでいます。