ゼウスはギリシャ神話において全知全能の神であり最高神として知られる存在です。そのゼウスについて、いくつかのポイントに分けて詳しく見ていきましょう。
世界中にある神話の中で、ギリシャ神話はおそらく1、2を争う有名で人気な神話。ギリシャだけでなく、ヨーロッパを飛び越えて世界中に影響を与えてきました。
そして、そのギリシャ神話に登場する神々の中において、全知全能を司る最高神とされるのが「ゼウス」。
ギリシャ神話に詳しくない人でも、ほぼ確実に名前は聞いたことがある存在で、現代においても様々な物語に登場したり、インスピレーションを与えたりしています。
この記事では、そのゼウスについて、基本的な概要から最高神になるまでの過程、その性格を象徴する恋多き神としての姿、そしてさらに、6つの逸話までを紹介していこうと思います。
ギリシャ神話における全知全能の神で最高神のゼウスとは?
ゼウスとは、ギリシア神話に登場する重要な神の一人で、同神話においては最高神とされる神。
全宇宙や天候(雲・雨・雪・雷・嵐など)を支配する天空神であり、また、ギリシャ神話に登場する神々の中でも特に中心的存在である12柱の神々「オリュンポス十二神」を率いるリーダー的存在です。
稲妻の形で描かれることが多い雷霆(ケラノス)と呼ばれる武器を持ち、その一振りで世界を熔解させ、全宇宙を焼き尽くすことができると言われ、神話の中ではどんな強敵でも打ち倒してきました。
また、「他の神々とは一線を画す神」や「運命すらも超越する神」として、古代ギリシャの人々に崇められてきました。
さらに最高神ゼウスは、世界の覇者として人間社会の正義や秩序を守って維持する存在でもあります。
しかし、「女性に対して目がなく多くの恋心を抱いた男神」として度々描かれるなど、とても人間味のある性格を持つ神でもあるのです。
ゼウスが誕生して世界の覇者「最高神」になるまでの話はこんな感じ
全宇宙を最初に統べた祖父の孫、その次に統べた父の息子として誕生する
ゼウスの父クロノス
ゼウスは父クロノスと、クロノスの姉であり妻であるレアとの間に生まれました。
クロノスはギリシャ神話において大地及び農耕の神として知られ、さらに、その体は山よりも巨大だと言われる巨神族「ティーターン(ゼウスを頂点としたオリュンポス神族に先だって世界を支配していた神々)」の長。
さらにクロノスは、自らの父でありギリシャ神話によると全宇宙を最初に統一した「ウーラノス」の後を継いで全宇宙を支配した神でした。
ある時クロノスは、
自分の子供が成長した後、自ら(クロノス)を凌駕するであろう
という予言を聞き、苦しめられます。
その結果、自分の子供たちに支配者の地位を奪われることを恐れたクロノスは、子供が生まれると次々に飲み込んでしまったのです。
母レアによって命を救われたゼウス
産むたびに子供を失ったことでひどく心を痛めたクロノスの妻レアは、必死の思いで大地の女神で母でもあるガイアに助けを求めました。
ガイアは自らも夫のウーラノスによって子供を失った経験があるため、力を貸すことに同意。
その後にゼウスが生まれた時、レアは生まれたばかりのゼウスをこっそりガイアに預け、赤ん坊のゼウスの代わりに2個の石を産着に包んでクロノスに渡して飲み込ませたのです。
そして、この隙にガイアは、赤ん坊のゼウスをクレタ島の洞窟の奥深くに隠しました。
その後、ゼウスはニンフ(ギリシア神話に登場する山、水、森、木、場所、地方、都市、国などに固有な神的力を擬人化した精、若い乙女の形をとる女神)によってヤギの乳で育てられ、島民たちの支援を受けて成長し、やがて強く若い神になっていったのです。
成長したゼウスはクロノスを倒して最高神となる
変装してクロノスへ近づき嘔吐薬を飲ませたゼウス
一人前の大人になったゼウスは、召使いに扮して両親(クロノスとレア)に近づきました。
ある日、レアがクロノスに飲み物を差し出した時、その美味しさのあまりクロノスは飲み干し、レアへお代わりを持って来るように言います。
そしてレアの代わりに「召使い」がお代わりを持って来ると、クロノスはその飲み物をゴクゴクと飲み干しました。
しかし、そのお代わりを持ってきた召使いが、実はクロノスの息子のゼウスだったということに、クロノスは気付いていませんでした。
するとクロノスは突然、胃に激しい痛みを感じて具合が悪くなります。ゼウスがクロノスに飲ました飲み物にはなんと嘔吐薬が入っていたのです。
それによって間もなくゼウスは、クロノスがかつて飲み込んだ息子たちを吐き出させることに成功。
その子供たちはまた、時間と共にクロノスの腹の中で大人へと成長していたこともあり、ゼウスとその兄弟達は、父と全宇宙をかけた戦いに挑むことになりました。
クロノスによって吐き出された神々達
ちなみに、この時にクロノスから吐き出された子供達とは、ギリシャ神話において重要な初期の神々となった、
- ポセイドン
- ハーデス
- ヘラ
- デメテル
- ヘスティア
です。
ついにゼウスはティーターノマキアーの戦いに勝利して宇宙を統べる最高神となった
ゼウス陣営(オリュンポスの神々)に対して、クロノスは巨神族ティーターンを率いて戦います。
このティーターノマキアーと呼ばれる神々の戦いは、宇宙を崩壊されるほどのもので、また、神々は不死であったため、終結するまでには10年の月日が掛かりました。
しかし、ゼウス、ポセイドン、そしてハーデスが究極の武器をそれぞれ手に入れた結果、徐々にゼウス陣営が有利になっていき、最後にゼウスは最強の武器である雷霆(ケラノス)を投げつけて、ティーターン神族を打ち破ったのです。
そして、ゼウスは兄弟達と一緒にクロノスを大地の深奥にある冥界タルタロスに閉じ込め、これによってオリュンポスの神々を率いたゼウスが最高神の座に就くこととなったのです。
ちなみに、クロノスを倒した後、ゼウス、ポセイドン、ハーデスは、支配地を決めるためにクジを引いた結果、ゼウスは天界が当たり、これによって天空を司る天空神となりました。
恋多き神として有名なゼウス
最初の方でも触れた通り、ギリシャ神話においてゼウスは全知全能で最高神であるにも関わらず、非常に恋多き神として描かれているのが特徴です。
このゼウスを象徴する性格について、もう少し詳しく見ていきましょう。
ゼウスとエウロペ(エウローペー)の話
ゼウスは、自分の姉であるヘラと結婚していたにも関わらず、好色な神で、若くて美しい女性と度々恋に落ちてヘラを苛立たせていたことで有名。
しかも、出会った美しい女性を手に入れるためなら、どんなことでもしたほどです。
このゼウスの性格については、以下へ簡単に紹介する「ゼウスとエウロペ」の物語を読むとよく分かります。
ゼウスは若いエウロペに夢中になるがエウロペは年上に興味がない・・・
エウロペは若くて美しいフェニキア人女性で、フェニキア王アゲーノールの娘、つまり王女であり、またヨーロッパの語源にもなった存在です。
ある日、草原で遊んでいるエウロペを目にしたゼウスは一目で恋に落ち、たちまちエウロペに夢中になりました。
そして、女性に夢中になると我を忘れてしまうゼウスはいつものようにエウロペに近づきましたが、エウロペは年上の神に興味がないため、ゼウスは拒否されていまいます。
ちょっとずる賢い方法でエウロパを手にしたゼウス
そこでゼウスは、エウロペを誘惑するためには彼女を騙すしかないとずる賢い策を考えました。
その策とは、「美しい白い牡牛に姿を変えて牛の群れに紛れ込む」こと。
ある日、エウロペと侍女たちが花摘みをして草原で遊んでいる時、ゼウスは白い牡牛の姿で近づいていきました。
するとエウロペ達は、その見事な牡牛(ゼウス)の頭に花冠を乗せたり、ふわふわした柔らかい毛を撫でたりと喜びます。
そして、さらに楽しもうとエウロペがこの立派な白い牡牛にまたがった時、白い牡牛に変身していたゼウスはすかさず彼女を乗せたまま海を渡り、フェニキアから遠いクレタ島まで疾走。
クレタ島に着くとゼウスは真の姿を現し、最終的にエウロペはゼウスの愛人となったことで、ゼウスの望みは達成されたのです。
その代わりゼウスは、見返りとしてエウロペをクレタ王妃にして、何不自由ない贅沢な暮らしをさせたと言われます。
ちなみに、ゼウスはこのエウロペとの間に、ミノス、ラダマンテュス、サルペドンという三人の子供をもうけました。
ギリシャ神話におけるゼウスにまつわる6つの真実
ギリシャ神話の神ゼウスについて、最高神になるまでの経緯や、恋多き神としての性格を表すストーリーを見てきましたが、ここからはそれ以外にも、他の6つの興味深い事実を紹介していきます。
ゼウスは英雄ヘラレクスの父!
ギリシャ神話には様々な英雄達が登場しますが、その最も代表的な存在と言えばヘラクレスでしょう。
ヘラクレスは半人半神、つまり人間と神の血を半分ずつ持つ存在として知られ、人間には真似できない圧倒的な力を持っていたと描かれますが、その父こそ恋多きゼウス。
ミケーネ王家の娘で人間であるアルクメーネーという女性にゼウスが恋をした結果、その夫「アムフィトリオン」が留守にしている時にアムフィトリオンに化け、アルクメーネーと関係を持った時に出来たのがヘラクレスです。
ゼウスは浮気性の男神でしたが、その一方で宇宙の支配者であった父親を倒して兄弟を救った絶対的な勇気を持ち、その勇気はヘラクレスに受け継がれました。
ゼウスは兄弟の末っ子?それとも長男?
ゼウスの父であるクロノスと母であるレアの間には、複数の兄弟が生まれました。
その中でゼウスは、末っ子と言われたり長男だと言われることがあります。
どっちが正しいのかについては、絶対的な確証を持った答えが存在しませんが、ゼウスが生まれてレアによって隠された時、すでに他の兄弟がクロノスによって飲み込まれていた点を考えると、末っ子だと考える方が論理的でしょう。
ただ、神なので論理をも超越した話が存在する可能性もありますが。
ゼウスの有名な妻「ヘラ」は実は3番目の妻だった
ゼウスと言えば「ヘラ」が連想されることがあるぐらい、ヘラはゼウスの妻として有名な存在です。
しかし実はヘラ、ゼウスにとって3番目の妻だということはあまり広く知られていません。
その1番目と2番目の妻とはそれぞれ、
- メーティス
- 知恵の女神であり巨神族の一人だった
- テミス
- 掟の女神で父クロノスの兄妹でもあった
でした。
そして3番目の妻になるヘラと出会った時、ゼウスはまだテミスと結婚していました。
しかし、あまりにも美しいヘラに対して恋に落ちたゼウスは、カッコウに姿を変えてヘラに近づいて犯そうとしたものの、ヘラは抵抗してそれを許さず、代わりに結婚する条件と引き換えにゼウスを受け入れた(ゼウスはテミスと別れた)のです。
そんなヘーラーは、結婚と母性を司る女神であると同時に、「貞節」を司るとされます。
短気でかんしゃく持ちでもあった
ゼウスは正義や秩序を司る神として、どのような困難にも立ち向かう勇気と、正義や秩序を維持するためには真面目で非常に厳しい側面も持っていました。
しかし一方で、女性関係にだらしない側面を持つゼウスは、信仰の対象、特に最高神としては問題を抱えている性格の持ち主だと言えます。
それに加え、ゼウスはさらに短気でかんしゃく持ちでした。
笑いと冗談を言いって周りを茶化す間抜けな神として描かれこともあれば、短気で急に切れることもあり、まさに「予測不可能な性格」だったのです。
この「予測不可能な性格」というゼウスの特徴は、まるで自然に突如発生する稲妻や嵐などの自然現象と重なり、まさに天空神を象徴するものだと言えます。
世界的に広がったゼウス信仰
紀元前4世紀にギリシャのマケドニア王国に生まれ、その後、広大な帝国を築いたアレキサンダー大王によって、ゼウスの名前は世界規模で知られることになります。
例えば、ギリシャから東へ遠く離れたアフガニスタンでは、「ゼウスの足先」と呼ばれるゼウス神像の左足断片が見つかっています。
また、アレキサンダー大王の遠征によって持ち込まれたギリシャ文化が古代オリエントと融合したことで生まれたヘレニズム文化の中で、ギリシャ神話の一部も土着の信仰へ融合していき、その中ではゼウスが信仰の対象となることもありました。
このようにゼウスは一地域に限らず、世界的に受け入れられた初めての神の一つであると言え、キリスト教やイスラム教よりもかなり前から、世界レベルで受け入れられていたのです。
古代オリンピックはゼウスを讃えるものだった!?
現在行われているはるか以前、古代ギリシャでは現代オリンピックの前身となる古代オリンピックが、オリュンピアと呼ばれる古代都市で紀元前9世紀頃から4年に一度開催されていました。
そして、このオリュンピアにはゼウスを祀る神殿があり、ゼウスに捧げるために当時では最大級の競技会を開催したのです。
ちなみに、この古代オリンピックは古代ギリシャ社会においては非常に重要な位置を占めていったようで、中期の古代オリンピックではこの大会が開催される間、古代ギリシャの都市国家間で起こっていた戦争は休戦されるほどったと言われます。
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ゼウスはギリシャ神話における全知全能の神で最高神!逸話を見ていこう!のまとめ
ギリシャ神話において全知全能で最高神と崇められているゼウスについて見てきました。
ゼウスは正義と秩序を守るために厳しい性格を持つ一方で、気前がよくて好色な神で、エウロペやその他の愛人たちにたくさんの贈り物を惜しみなく与えました。
このように、良い性格も悪い性格も持つ点が、人々に親近感を覚えさせ、世界中で親しまれる神となったのかもしれません。