南コーカサスとコーカサス三国を紹介していきます。アジアとヨーロッパのちょうど境目にあり、周りの自然だけでなく文化面でも非常に多様性を持つ興味深い地域です。
筆者はアルメニアという小国に暮らしているわけですが、このアルメニアは、地理的には南コーカサスという地域に含まれます。
しかし、この南コーカサスは日本だけでなく世界中であまり知られていない地域なため、南コーカサスに関する日本語の情報はあまりありません。
私はアルメニアだけでなくジョージアでも少し活動していることもあり、南コーカサス地域全体を日本へPRしていくっていう一つの目標を持ています。
そんなこともあり、あまり知られていない南コーカサス地域全体と、コーカサス三国と呼ばれるアルメニア、ジョージア、アゼルバイジャンについて自分なりにまとめてみたいと思います。
南コーカサスとは?
南コーカサスとは、コーカサスと呼ばれる地域の南部にある、
- アルメニア
- ジョージア
- アゼルバイジャン
の総称で、別名トランスコーカサスとも言い、北をロシア、南をトルコとイラン、西を黒海、東をカスピ海に接している地域です。
また、これら3つの南コーカサスの国は総称して「コーカサス三国」と呼ばれます。
一方で、コーカサス自体は、黒海とカスピ海に挟まれるように位置するコーカサス山脈と、その周辺の低地を含めた地域のことで、南コーカサスとは逆側の北コーカサスの大部分はロシア連邦に属しています(※厳密に言うとジョージアとアゼルバイジャンの一部も北コーカサスへ属する)。
南コーカサスはヨーロッパかアジアか?
南コーカサスは地理的には、
- ヨーロッパ、アジア、ロシア、中東
に挟まれています。それに対して文化的には、
- イスラム教とキリスト教の境界線
- 民主主義と権威主義の境界線
にあります。
このような特殊な状況から、南コーカサスはしばしば、「ヨーロッパ」に含まれることがあったり、「アジア」に含まれることがあったりします。
例えば、国連による地理的な分類によると、南コーカサスはアジアに含まれますが、コーカサス三国はUEFAヨーロッパリーグの参加国であったり、ヨーロッパの歌の祭典「ユーロビジョンコンテスト」の参加国であったりと非常に曖昧です。
一般的に、文化的な話ではヨーロッパに含まれることが多く、地理的な話ではアジアに含まれる傾向が多いと言えるかと思います。
また、コーカサスはヨーロッパでもアジアでもなく「コーカサス」だと主張する人もいるぐらいです。
ちなみに、北コーカサスの大部分はロシアに属することから、基本的にヨーロッパとしてみなされます。
南コーカサスの地理
南コーカサスを北コーカサスから隔てているコーカサス山脈には、大コーカサス山脈と小コーカサス山脈の二つの山脈が含まれますが、実際にコーカサスを南北に分けているのは大コーカサス山脈です。
それに対して小コーカサスは、大コーカサスの南側に位置し、アルメニアにおける最高峰で標高4090mのアラガツ山を有します。
このように山脈地帯にあるため、南コーカサスの多くの地域は山岳地帯で、例えばアルメニアの首都エレバンは標高およそ1000mのところにあります。
ただし、アゼルバイジャンの飛び地であるナヒチェバンなどは半砂漠地帯だったり、また、ジョージアの黒海沿岸には亜熱帯気候の豊かな土地があったりと、異なった表情を見せる地域を存在します。
また、アルメニアやジョージアの温暖な気候は、ワインを産出するのに適していることでも知られ、最新の研究だとワインの起源はおよそ8000年前のジョージアに遡ることが判明しました。
コーカサス三国について
南コーカサスにある3つの国が「コーカサス三国」と呼ばれることは触れましたが、この3つの国は隣り合っているものの、民族も違えば言語並びに属する言語グループも違い、さらに三か国それぞれが独自のアルファベットを使うなど、実は違いは多岐に渡っています。
また他にも例えば、アルメニアとジョージアの二か国は、古くからキリスト教を導入しました。
4世紀初めに、アルメニア王国とジョージア王国はともにキリスト教に改宗した初期のキリスト教国となり、アルメニア人とジョージア人はそれ以来、ずっとキリスト教を信仰してきました。
ちなみに、両国は大抵はうまくいっていますが、ワインの発祥地がどちらかなど、結構小さなことでお互いに競争しあってます(笑)。
対してアゼルバイジャンは、三か国の中で最大であるとともに、石油とガスを産出するおかげで比較的豊かな国で、国民はトルコ人や、中央アジアのタジキスタンなどと共通のテュルク系民族でイスラム教を信仰しています。
ただし、同じテュルク系民族であっても、アゼルバイジャンで信仰されるイスラム教はトルクや中央アジア諸国で主に信仰されるスンニ派ではなくてシーア派が多数派です。
以下で、それぞれに関してもう少しだけ詳しく解説しておきます
コーカサス三国① アルメニア
アルメニアはコーカサス三国の中では最も小さな国土と人口規模(300万人)を持つ内陸国で、北はジョージア、東はアゼルバイジャン、南はイランとアゼルバイジャンの飛び地であるナヒチェヴァン、そして西はトルコと接しています。
アルメニア人の民族的なルーツは古代のイラン・アーリア人に遡ると考えられ、実際に隣国のイラン人とは外見面で多くの共通点があったり、また、言語的にもアルメニア語はインド・ヨーロッパ語族に含まれます。
そして、アルメニアと言えば西暦301年にキリスト教を国境とした世界初のキリスト教国として知られます。
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コーカサス三国② ジョージア
ジョージアは、アルメニアのおよそ倍の国土と、およそ400万人の人口規模を抱える国で、首都のトビリシは南コーカサスにおける歴史の中で中心地的な役割を果たしてきました。
北をロシア、南をトルコ、アルメニア、アゼルバイジャンと接し、東を黒海と接しているため、コーカサス三国の中では唯一海に繋がる国です。
そして、同国の人口の大半はジョージア人で、民族的には隣りのアルメニア人やアゼルバイジャン人も違います。その証拠にジョージア語は、カルトヴェリ語族という他の言語とは全く異なる言語グループに属しています。
アルメニアに次いで世界で二番目にキリスト教国となったことで有名で、また最近ではワインの発祥地として世界中で知られてきています。
コーカサス三国③ アゼルバイジャン
コーカサス三国の中では最大の国土と人口規模(1000万人弱)を誇るアゼルバイジャンは、豊富な天然資源で有名な資源国家で、北はロシア、北西はジョージア、西はアルメニア、そして南はイランと接しています。
カスピ海に面していることでも知られますが、カスピ海は海ではなく塩湖であるため、正確にはアルメニアと同様に内陸国です。
他の2つの国と違ってイスラム教国家で、国内人口の大多数を占めるアゼリ人は、トルコを筆頭に、キルギス、トルクメニスタン、タジキスタンといった中央アジアの国に広がるテュルク系の民族に分類されます。
また、アゼルバイジャン語は、ウズベク語、トルコ語、ウイグル語などと同じテュルク語族と呼ばれる言語グループに含まれます。
コーカサス三国を理解するために大切な共通点
コーカサス三国はそれぞれに異なる特徴を持っていますが、南コーカサスを理解するにあったってとても重要な共通点が一つあります。
それは、三か国とも歴史の中で国土の一部がロシア帝国の領土に組み込まれた経験を持ち、また、ソビエト連邦が1922年に設立されてからは、ソ連崩壊の直前までソ連を形成する共和国となっていたことです。
特に、コーカサス三国は1922年から1936年まで、ザカフカース社会主義連邦ソビエト共和国と呼ばれる連邦を形成していました。
このような歴史的共通点が存在するため、それぞれの国は民族的に異なるものの、例えば、食事の出し方や客のもてなし方などは非常に良く似ています。
南コーカサスの将来を考える上で重要な問題点
一方で、南コーカサスはまた、同地域の平和と将来を考える上で重要ないくつかの問題点を抱えています。
そのうちの一つが、アルメニアとアゼルバイジャンが争う係争地「ナゴルノ=カラバフ」の問題です。
現在この地域に関しては、アルメニアとアゼルバイジャンの二カ国が領有権を主張しており、停戦はしているものの小競り合いが続いている状態です。
またこれによって、両国には国交が結ばれていません。
さらに、20世紀初頭に現在のトルコの前身であるオスマントルコによって起こされたアルメニア人虐殺の問題によって、トルコとアルメニアは外交を結んでおらず、これがまた、トルコと同じテュルク系国家であるアゼルバイジャンとアルメニアの関係を複雑にしています。
さらに、ジョージアは北部にあるアブハジアと南オセチアを巡ってロシアと争っています。
2019年の6月には両国の緊張がさらに高まり、ロシアはそれまで運行していたモスクワ〜トビリシ間のアエロフロート航空による航路を停止したほどです。
このように、非常に魅力的な地域である南コーカサスですが、文化文明の十字路にあり複雑な歴史や政治的緊張を抱えている地域でもあります。
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南コーカサスとコーカサス三国|アジアとヨーロッパの境目を語るのまとめ
実際に住んでいて思うのが、アルメニアもジョージアも、とにかく南コーカサスは多くの魅力を持っています。
地域面積的には小さいですが、長い歴史の中で多くの人が混じり合ってきた場所でもあるので、とにかく文化的にとても深みがあって高い教養を兼ね備えた人々が多く住む場所です。