人口の多くがエチオピアに住むスリ族という唇で有名な民族を知っていますか?独特で特徴的な文化を有し、見た人へ強いインパクトを与えます。
アフリカ大陸の中でも東に位置するエチオピアは、アフリカ最古の独立国であると同時に、世界最古の独立国の一つとして知られています。
また、その人口規模は非常に大きく、日本とほとんど変わらない約1億2000万人が同国に住んでいると言われています。
そんなエチオピアはまた、多民族国家であるため、様々な民族が暮らしていますが、その一つが「スリ族」と呼ばれる人々。
写真を通して特徴的な唇を持ったスリ族の女性を見たことがある人も多いはずです。
エチオピアに住む民族「スリ族」について、詳しく見ていこうと思います。
スリ族とは?
「スリ族」とはエチオピア西部から近隣の南スーダンの一部にかけて、農業と牧畜を主に営みながら住んでいる特定の民族に対して使われる伝統的な呼称。
現在の人口はおよそ32,000〜34,000と推定されており、大多数はエチオピアで暮らしていますが、南スーダンにいる一部の人々は、物の売買や結婚を通して、また、乾季により良い牧草地を求め、定期的に国境を越えてエチオピア側に来たりしています。
また、スリ族は「チャイ(Chai)」、「ティマガ(Timaga)」、「バアレ(Baale)」と自らを称する3つの亜部族から構成されており、この3つは政治的にも住んでいる地域も異なるのが特徴。
なかでもバアレは、その他の2つのグループと比べて多少異なる言葉(方言)を使っていますが、どのグループも南東スルマ語(South East Surmic)を話すとされています。
日本国内ではTBSのグレートジャーニーでもお馴染みヨシダナギによって紹介された結果、おしゃれな民族として有名になり、特に、穴を開けて引き伸ばした特徴的な唇や、真っ白に塗った顔(※保護力のある白い粘土の絵の具を使って、特に子供の体や顔に斑点模様を描くことがある)で知られるようになりました。
スリ族コミュニティの特徴
スリ族は一般的に、共同体を作って生活しています。
通常、その規模は40人から1000人ほどのものが多いですが、中には小さな町とも呼べそうな2500人規模のものもあります。
また、その共同体における「首長」は「コモル(komoru)」と呼ばれ、最も尊敬される高齢の人物が選ばれて、儀式を取り仕切ります(※共同体の政治面をコントロールする力はない)。
一方で、スリ族は独特のコミュニティを形成して基本的にはその中で人生の大半を過ごすため、大多数はエチオオピアに住んでいるにも関わらず、エチオピアの公用語であるアムハラ語を話せない上、識字率も高くありません。
しかしここ数十年、スリ族が住む地域には学校が建てられて教育を受けた人も増えてきたため、以前に比べれば読み書きが出来る人の数も増えており、中には他の街で教育を受けて働いているスリ族も現れてきているようです。
スリ族の英語表記は注意が必要!
ちなみに、スリ族は英語で「Suri」とも「Surma」とも表記され、この二つは同じ意味で使われることもありますが、別の意味として使われることもある点は注意。
別な意味の場合、Surmaは「スリ族」、「ムルシ族(Mursi)」、「メエン族(Me’en)」を含めた総称として使われ、実際、スリ族と特にムルシ族には共通点が見られると言います(※例えば、唇に穴を開けて引き延ばす文化はムルシ族でも見られる)。
※ムルシ族は自分たちをスリ族とは考えていない点は忘れずに。
では、スリ族はなぜスルマ族とも呼ばれるようになったのでしょうか?
それは、エチオピア政府が国内の南西部に住んでいたスリ族、ムルシ族、メエン族(3つの民族は同じスルマ語に属する言葉を使っている)を、合わせて「スルマ」という総称で呼ぶようになったのが原因。
各民族の人々に特に相談することもなく、勝手に総称を付けて呼び始めたのが理由です。
スリ族の特徴的な文化
スリ族は自尊心が高く、伝統や文化に誇りを持っている人たちで、その文化は非常に特徴的。
そんな彼らの特徴的な文化の中でも、特に目立つ点を紹介していきます。
スリ族の特徴的な文化① 棒を使った戦い
スリ族が伝統的に重要視して好んで行ってきた文化として、男性による棒を使ったスポーツまたは戦いのような儀式(ドンガ:donga)があります。
これは、「儀式的な決闘」と呼ばれ、
- 若い男子を成人にする
- 成人男性に大きな名誉を与える
- 結婚相手を探す
と言った役割を持つもの。
なかでも結婚相手を探す上では非常に重要であるらしく、この決闘を通して観に来た女性を魅了することで、男性は結婚相手を見つけることが出来るのです。
ちなみに、どういった決闘かというと、以下のようポイントが含まれます。
- 通常は収穫期に行われる
- 2つの村の間で行われる
- 多くの観客が集まる
- それぞれの村から代表が20-30人出て決闘する
- サジン(sagine)と呼ばれる長い棒を使う
- ルールに沿って行うため審判が立ち会う
そして、戦いが始まると最初の何振りかで終わることもありますが、棒が直撃したところが悪くて大怪我や死亡するケースもあるなど、基本的には非常に激しい決闘です。
一方で、なぜこのような命のリスクを犯してまで激しい戦いをするかと言うと、結婚相手を惹きつけることはもちろん、大切な目的として、若い男性を流血に慣れさせるというものがあるようです。
そうすることで、いつか他の部族と闘った時に役立つだろうと考えられているみたいです。
スリ族の特徴的な文化② 大きく引き伸ばされた唇
スリ族の女性に関する文化として、有名な大きく引き伸ばされた唇を忘れてはいけません。
これは、スリ族の基準で「美しくなるため」の独特の文化。
思春期に入ると結婚出来るようになるためにも、多くの女性は下唇にピアスしてから少しずつ引き伸ばしていき、素焼きのリッププレート(デヴィニヤ)を入れ、そのプレートのサイズを徐々に大きくしていくのです。
そして、現在では「エキゾチック」なものとして、多くの観光客に人気となっています。
また、この唇を引き延ばす文化に関しては、次のようなポイントもあります。
- 下の歯2本を抜いてから唇に穴を開ける
- 円盤が大きいほど結婚する時に多くの牛を要求できる
- ※これについては否定する声もある
- 過去には直径40cmのプレートが入るほど下唇を引き伸ばした女性もいるらしい
- 本来は伝統的な女性のしきたりとされてきた
- ムルシ族も同じ文化を共有している
このように、非常に独特で伝統的なスリ族の文化として有名ですが、最近では他の文化に触れることが多くなった影響で、若い女性達の中には、この風習を行わなくなってきている人も出てきているみたいです。
スリ族の特徴的な文化③ 牛が非常に大切
スリ族の人々にとって牛は、家畜以上の価値があるシンボル的存在。
例えば、スリ族の中で問題を起こした場合、「損害賠償」的な理由で牛を渡して解決することもあれば、結婚時の「結納金」のような意味合いで牛を贈与するしきたりがあります。
一般的な男性は通常、30〜40頭ほどの牛を持っているとされますが、結婚する際には花嫁の家族に60頭ほどの牛を贈与しなくてはならないと言われていることからも、牛がどれだけ大切な存在か分かります。
他にも、上で紹介した決闘(ドンガ)の前には、景気付けのために牛の生血を飲んだり、伝統的な儀式の際には牛の血を体に塗る、さらに、虫除けのために牛の糞や尿を体に塗るなど、日頃の生活から特別な儀式に至るまで、スリ族にとってはなくてはならない動物です。
スリ族の特徴的な文化④ 体の傷に誇りを持っている
また、スリ族の人々は一般的に、体に付いた(付けた)傷跡とその数に誇りを持っているのも特徴。
例えば女性の場合、トゲ状のものを使って皮膚を持ち上げてからわざと刃で皮膚を切り、傷跡を付けます。
一方男性の場合、伝統的に敵対するグループの人間を殺した際に、自ら体に傷を入れていました。
体に傷を入れることを誇りに思うスリ族の人々であっても、傷を入れる作業はとても強い痛みを伴うものであることには変わりありませんが、この伝統文化は、若いスリ族が血や痛みに慣れるためにも行われてきたと考えられています。
スリ族の特徴的な文化⑤ 女性が中心な家庭生活や年功序列など
そして、スリ族の各家庭は、基本的に女性が中心となってまわっているみたいです。
女性は、食事を作る、子供の世話をする、畑や菜園を耕す、などの日常生活に責任を負う一方、畑などから利益を得た場合は、好きなことに使って良いとされます。
また、スリ族の社会には「年功序列制(特に男性に関して)」がある点は、同じ年功序列制を持つ日本社会からすると興味深いかもしれません。
若い男性(テゲイ:Tegay)は「戦士レベル」で、社会的にはまだ責任のある成人とはみなされず、家畜を放牧したり守ったりすることを主に任されます。
対して中年層(ロラ:Rora)は共同体に関する意思決定の中心的な年齢層となりますが、20〜30年毎に行われる特別な儀式を通してでしか、この層に加わることが出来ません。
中年層に「昇進」したい男性は、年配者達によって様々な試練が課せられ、なかには流血するまで鞭打たれることもあるそうです。
そして、その意思決定を出来る男性達の集会によって、共同体に関する議論が行われ、意思決定がされます。
一方で、この集会では女性が議論に加わることは許されていませんが、議論の前後に意見をすることは認められています。
スリ族に関してその他にも知っておきたい興味深いこと
スリ族の宗教と信仰
スリ族は独特の宗教や信仰を持っているそう。
トゥム(Tumu)と呼ばれる空の神や、精霊の存在を信じており、神から助言をもらうために、人間と神の仲介をするコモル(Komoru)という神官的役割をする年長者がいます。
また、雨を降らせる魔力を持つと信じられる人々もいるらしく、特定の家系の男子がその才能を引き継いでいるとされ、雨が必要な場合は、
- 特定の樹木から木片を集める
- 木片を咀嚼して汁を出す
- その汁を粘土と混ぜる
- 雨降りの才能を持つ男性の体に塗る
といった一連の行いを通すと、雨が降ると考えられています。
スリ族の経済
また、スリ族の経済に関しては、以下のような点が興味深いです。
- 基本的には牧畜と農業によって成り立っている
- 牛やヤギが飼われている(※牛は儀式に使う以外は殺されることがない)
- 作物はモロコシ、トウモロコシ、キャッサバ、キャベツ、ヤム、スパイス、タバコなど
- 乾季には蜂蜜の収穫もする
- 近くの小川で砂金を取り別の部族の人間へ販売したりする
- 女性は陶器の壺を作ったり飾り物などを作って近隣の部族に売ることもある
- 男性は所有している家畜(特に牛)の数でその価値を判断される
- 牛は経済的、社会的な象徴
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スリ族は唇で有名なエチオピアの民族!文化的な特徴から英語表記の議論までを見ていこう!のまとめ
多民族国家に主に住んでいる唇で有名なスリ族について見てきました。
その独特な文化は痛々しいものが多い気がしますが、他の民族とはかなり異なっている点は非常に面白いです。