ベルリンの壁に描かれたキスの絵(落書き)を知っていますか?ドイツが歩んだ過去の歴史を象徴する一場面を捉えた絵で、現在は観光名所としても知られています。
「キス」、それは人と人の最も私的な繋がりで、この行為を行う際は、感情の高ぶりが伴っている場合が多いでしょう。
実際、多くのキスシーンは、とても象徴的な場面として描かれることがほとんどです。
例えば、ゴッドファーザーに登場するマイケル・コルレオーネの兄弟に向けた「死の接吻」や、第二次世界大戦におけるアメリカの勝利を祝って喜ぶ看護婦と水兵がキスをした場面を撮影した「勝利のキス」などなど。
そして、その様なキスシーンの中でも歴史に名を残す不朽のキスシーンの一つが、ベルリンの壁に描かれた365cm×480cmの大きさを誇るキスの絵。
1.3kmほどの壁に105点ほど描かれている絵または落書きの一つで、同性愛やセクシャリティーとは全く関係のない、男性同士がキスをしている非常に象徴的で存在感のある絵なのです。
このベルリンの壁に描かれた絵とは何なのか?
その正体や歴史について見ていきたいと思います。
ベルリンの壁に描かれた「キス」の絵の正体
このベルリンの壁に描かれたキスの絵とは、日本語で、
神よ、この死に至る愛の中で我を生き延びさせ給え
Mein Gott, hilf mir, diese tödliche Liebe zu überleben(ドイツ語)
という名の絵画で、「兄弟のキス(ドイツ語:Bruderkuss)」としても知られる作品。
ベルリンの壁に描かれているグラフィティアート(スプレーやフェルトペンなどを使って壁に描かれた絵または落書き)としては最も有名な作品の一つで、ロシア人の絵描きであるドミトリー・ヴルーベリによって1990年に制作されました。
そこには、ソビエト連邦(ソ連)の第5代最高指導者「レオニード・ブレジネフ」と、ドイツ民主共和国(旧東ドイツ)の第3代国家評議会議長「エーリッヒ・ホーネッカー」がお互いにキスを交わす様子が描かれているのです。
ベルリンの壁のキスの元となったのは写真
ベルリンの壁に描かれたこのキスの絵に関しては、1979年、ドイツ民主共和国の設立30周年を祝う行事の際に、レオニード・ブレジネフとエーリッヒ・ホーネッカーがキスを交わし、その様子を収めた写真が作品の元となっています。
この元となった写真は1979年10月7日、東ベルリンにて撮影されました。
ブレジネフは当時、共産主義国家として誕生した東ドイツの大きな節目を祝うために東ドイツを訪れていた最中で、1979年10月5日、東ドイツとソ連は、10年間にわたり相互支援を行うことへの合意を締結。
- 東ドイツは
- 船舶、機械、化学装置をソ連に提供する
- ソ連は
- 燃料そして核装置を東ドイツに提供する
との内容でした。
そして、両国の緊密な連携を祝って強いメッセージを発するためにも二人の指導者がキスを交わし、写真に収められ、その後、様々な形で何度も取り上げられることとなった結果、一つの形がベルリンの壁に描かれたキスの絵だったのです。
ちなみに、ベルリンの壁のキスの絵は、「鋭くて風刺的なエッジの効いた非常に印象的な作品」であるという意見がある一方、実際には上記の写真が元になっていることから、「撮影された写真をそのまま描いただけである」との批判的な意見も存在します。
ベルリンの壁のキスの歴史
ベルリンの壁に描かれたキスの絵は、ドミトリー・ヴルーベリによって1990年に制作され、ベルリンの壁崩壊後も周囲に描かれた他の作品とともに保存されたものの、破壊行為や大気条件、さらに落書きなどに晒されて徐々に劣化が進みました。
その結果、他の作品同様に2009年3月、このキスの絵も描いた作者による復元のために、一旦壁から消えることとなります。
そして、それぞれの作者には対価が支払われ、より耐久性のある塗料を使っての復元作業が行われたのです。
一方で、制作のスタイルにおいて、1990年に描かれた最初のキスの絵と、復元された2009年のキスの絵には多少異なる点もみられます。
具体的には、線そして色の使い方が、それぞれの時期に作られた作品における大きな違いとなっており、2009年の作品の方がより写実的な絵となっているのです。
そして、ヴルーベリ自身も、初期の作品の制作当時はまだ経験が浅く、技術的なミスもあったことを発表し、「ベルリンの人々が新たな作品を初期の作品とは別のものとしてとらえるのではないか?」、また「初期の作品の方が優れていたとみるのではないか」などと懸念していたようです。
ただし、作品のメッセージそのものは変化することなく残されているのも事実です。
現在のベルリンにおける「ベルリンの壁のキス」
現在、ベルリンの壁のキスの絵は、ベルリンにおける観光名所として関心を持たれ、ベルリンを訪れた訪問者達の多くはこの壁画の前に立って眺めたり、写真を撮ったりしています。
一方で、多くのベルリンの若者たちにとっては、それほど興味深い物ではないのかもしれません。
この絵の近くでベルリンっ子達を眺めていると、彼らの多くが一瞥もくれずに通り過ぎていくのを目にします。
その視線はスマートホンの画面に釘づけで、自国の大切な歴史を象徴する絵が、自分の目の前や横にあるのを気づかずに通り去っています。
また、中にはこのベルリンの壁のキスの絵に対して、その歴史的な重要性は認識しているものの、嫌悪感を抱いている人もいるようです。
それでもやはり、この壁画は圧倒的な存在感と共に、過去を語る大切な歴史的遺産となっているのは間違いないでしょう。
多くの若者が関心を示さない中でも、壁画の前で肩を震わせて泣く女性や、壁画を傷つけぬように腕時計を外し、その存在を確かめるようにしながら優しく触れる男性などを、時には目にすることがあるのです。
さらに、歴史的な点に対しては関心を見せない若者の中にも、セルフィーを撮るのにイケている場所として訪れる人もいます。
善きにつけ悪しきにつけ、この壁はベルリンに住む人やベルリンを訪れた人々の心を引き付ける存在であることは間違いないと言えるでしょう。
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ベルリンの壁にあるキスの絵(落書き)とは何なのか?のまとめ
ベルリンの壁にあるキスの絵について詳しく見てきました。
現在、この作品を元にして創作した二次創作物が世の中に数多く存在しています。
例えば、代表的な作品としては、
- リトアニアの壁画
- 2016年に制作された、ロシアの大統領ウラジミール・プーチンと、アメリカの大統領ドナルド・トランプが同じような構図で描かれた
- イギリスの壁画
- ドナルド・トランプと英EU離脱派のボリス・ジョンソンのキスが2016年、イギリスのブリストルに描かれた
- アメリカの壁画
- アメリカのクリーブランドに設置された、大統領選出馬を目指すドナルド・トランプ候補とテッド・クルーズ候補が描かれた広告板
などが挙げられます。