ロシアの民族集団(エスニックグループ)について分かりやすく紹介していきます。少数民族から多数派となる民族集団まで、多民族国家ロシアを形成する人々についての理解を深めましょう。
世界のどの国よりも広大な国土を持つロシアには、およそ1億4500万人の人口が暮らしているわけですが、人口規模でみたら日本とさほど変わりないものの、その地理的な広がりによって、多くの民族集団が暮らしています。
例えば、ロシアの首都であり最大の都市「モスクワ」の目抜き通りを下っていくと、異なるエスニックグループ(民族集団)に属する人々を目にすることでしょう。
エスニックグループ(民族集団)とは、祖先、集団としての経験や歴史、言語的な類似性、その他の人々を結びつける要素など、さまざまな共通性をもつことで同じグループに属すると認識している人々のことで、ロシアには推定では185にも及ぶ多様な民族集団が共存しているのです。
この記事では、そんなロシアにおける民族集団を理解するためにも、無数にある集団をさらに大きな枠組みにまとめて整理して見ていきたいと思います。
まずは、この民族集団の理解を促すための、地理的なロシアの分割を行うことから始めていきましょう。
地理的な分類
ロシアは世界一広大な国土を持つことから、そこに暮らす民族達について理解していくためには、地理的観点から国土をいくつかに分割し、それぞれに対して地域的な分類をしておくのが便利です。
細かく分けるとより多くの地域に分割出来ますが、この記事では以下の地図を使って4つの地域に分けていきます。
(出典:WIKIMEDIA COMMONS)
- ヨーロッパロシア(ヨーロッパ地域)
- 黄色、紫、黄緑、グリーンゴールドの地域が該当
- 地理的には主にヨーロッパに位置するロシアの地域で、ロシアの大都市群がここに含まれるだけでなく、総人口の大部分も居住している
- コーカサス地域
- 青色の地域
- 黒海とカスピ海のあいだのアジア/ヨーロッパ境界近くの地域
- 中央アジア地域
- ピンク色の地域
- カスピ海と中国の間にある広大な地域
- シベリア
- 茶色の地域
- ロシアの最東端および最北端の地域で4つに分けた地域の中では最大
ロシアに住む民族を文化圏ごとに確認
ロシアを4つの地域に分割したところで、ここからは早速ロシアに住む民族について見ていきたいと思います。
ロシアには小さな集団までを含めると無数の民族が暮らしており、全てを網羅するのは膨大な長さの記事が必要になるため、以下では「文化圏」ごとに民族をまとめて整理していきます。
① インド・ヨーロッパ語族の文化圏
インド・ヨーロッパ語族とは、ヨーロッパからアメリカ大陸まで広がる言語グループで、ロシア語を始めとして英語やフランス語、インド語やペルシャ語などが含まれます。
特に、ヨーロッパで話される言語の大部分はこのインド・ヨーロッパ語族に属するものです。
多数派は民族的ロシア人
そして、このインド・ヨーロッパ語族の言語を話す文化圏は、ロシアにおいては最大派となり、そこには43のエスニックグループ(民族集団)が含まれ、ロシア総人口のほぼ85%を占めています。
なかでも、最大の民族集団はロシア人で、民族学上でロシア人(民族的ロシア人)に分類される人の半分以上は、ヨーロッパロシアの都市部に居住しています。
また、民族的ロシア人のほとんど全てがロシア語を母語とし、さらに大多数がロシア正教の信徒であり、そこに、少数のイスラム教徒、キリスト教カトリックの信徒、キリスト教プロテスタントの信徒、ユダヤ教徒、仏教徒、その他の宗教の信徒が含まれます。
インド・ヨーロッパ語族の文化圏に含まれる他の民族集団
さらに、その他のインド-ヨーロッパ語族として、民族的には以下のように分類されるグループが存在しています。
ヨーロッパロシアに多いインド・ヨーロッパ語族の民族集団
コーカサス地域に多いインド・ヨーロッパ語族の民族集団
インド・ヨーロッパ語族に含まれる民族集団は、コーカサス地域にも多く居住しています。
具体的には、
といった感じです。
中央アジア地域に多いインド・ヨーロッパ語族の民族集団
最後に、ロシアの中央アジア地域には、イラン系民族に属するタジク人が15万人前後居住しているとされます。
イラン系民族は、インド・ヨーロッパ語族に含まれる人々です。
② コーカサス諸語の文化圏
先の地図でコーカサス地域と紹介した場所は、一般的にはコーカサス地方と呼ばれ、そこは多くの山々(コーカサス山脈)が連なり、他にも森林、ステップ(大草原)、湿地帯など、多様性に富んだ自然環境から成る地域です。
コーカサス山脈を中心に50以上の固有の文化があり、なかには古代の時代にまで遡る文化もあるわけですが、この地域に古代から定住してきた人々は「コーカサス諸語(40種類の言語を含む3つの語族の総称)」と呼ばれる言語を話してきました。
そして、このコーカサス諸語を話す主な民族集団として、以下のようなグループがコーカサスの地域毎に確認出来ます。
- 北東
- チェチェン人、アヴァール人、ダルギン人、レズギ人、イングーシ人、ラク人、タバサラン人など。
- 北西
- アディゲ人、チェルケス人およびその他の少数民族
- 南
- ジョージア人
ただし、現在のコーカサス地域にはコーカサス諸語を話す民族集団だけでなく、インド・ヨーロッパ語族、テュルク語族、セム語族を話す民族集団も多く暮らしており、この地域は四大語族が生活する地域となっているのです。
③ テュルク語族文化の文化圏
テュルク語族とは、中央アジアを起源とするテュルク系民族が話す言語グループで、東は中国の新疆ウイグル自治区に暮らすウイグル人(ウイグル語を話す)から、西はトルコに住むトルコ人(トルコ語を話す)にまで使われています。
このように、歴史の中で東から西まで広範囲に分布していたったため、ユーラシア大陸の大部分を占めるロシア国内には多くのテュルク系民族達が住んでおり、ロシアのあらゆる所に散在しているのです。
ロシアの各地域に住む主なテュルク系民族は、具体的に以下の通りとなります。
- ヨーロッパロシア
- タタール人、バシキール人、チュヴァシ人、ガガウズ人および少数民族
- コーカサス地域
- アゼルバイジャン人、クミク人、カラチャイ人、バルカル人、テュルク人およびノガイ人
- 中央アジア地域
- カザフ人、ウズベク人、キルギス人、トルクメン人およびその他の少数民族
- シベリア地域
- ヤクート人、ツーバ人、アルタイ人、ハカス人、ショル人およびその他の少数民族
ちなみに、中央アジア地域のテュルク系民族の人々は傾向として、コーカソイド(白人系の形質を持った人々)とモンゴロイド(アジア系の形質を持った人々)の特徴が混ざって表現されているのに対して、ヨーロッパロシアに住むテュルク系民族の人々は、よりコーカソイドの特徴が色濃く現れています。
④ モンゴル語族の文化圏
モンゴル語族とは、東アジアに分類される地域の北部に位置する「モンゴル高原」を中心に、ユーラシア大陸の中央部分に広がる「中央ユーラシア」の各地で話される言語グループです。
そして、広大なロシアの国土は、これらモンゴル高原と中央ユーラシアの一部にもまたがり、そこには複数のモンゴル系民族が住み、一大勢力となっています。
例えば、
- ブリヤート人
- モンゴル人
などです。
また他にも、モンゴル高原や中央ユーラシアではなく、北コーカサス地域に暮らすカルムイク人などもいます。
これらモンゴル語族を形成する民族集団の特徴として、ロシアという枠組みではなく、国境を超えて、周辺各国に暮らすモンゴル人と民族的アンデンティティ並びに文化遺産を共有し、固く結びつき合っているという点を挙げることが出来ます。
さらに、都市部に住んで都市型の生活を送る人々もいますが、ゲル(円錐形の屋根のある饅頭型の家屋)を生活の中心に据えて遊牧民として暮らす人々も多くいます。
⑤ ウラル語族の文化圏
ウラル語族とは、シベルア地域の中北部からヨーロッパロシアを含めた東ヨーロッパ、さらには北ヨーロッパの一部にまで広がる言語グループです。
その特徴の一つとして挙げられるのが、通常は言語グループごとに分けた場合、基本的な人種(コーカソイドなのかモンゴロイドなのかなど)は共通する傾向にあるのに対して、ウラル語族には人種的形質が異なる民族集団が含まれることです。
例えば、
- コーカソイド系の人々
- フィンランド人、エストニア人、カレリア人(ロシア北西部のカレリア共和国に居住)
- モンゴロイド系の人々
- ネネツ人、ガナサン人、セリクプ人、ハンティ人、マンシ人
といった感じで、人種的な形質を軸にすると、二つの大きなグループが存在することが分かります。
ただし、ウラル語族に含まれる人々は表面化している人種的形質は異なり、モンゴロイドに見られる遺伝子を引き継いでいるという共通点を持つのも特筆すべき点です。
また、ウラル語族はフィン・ウゴル語派とサモエード語派に分けることが出来ますが、
- フィン・ウゴル語派を話す人々
- → コーカソイドの形質またはコーカソイドとモンゴロイドの混合の形質を持つ
- サモエード語派を話す人々
- → モンゴロイドの形質を持つ
といった、それぞれの人種的な偏りが見つかります。
⑥ セム語系の文化圏
セム系の言語を話す人々は、総称としてセム族と呼ばれますが、そこにはヘブライ人(イスラエル人、ユダヤ人、サマリア人)からアラブ人までが含まれます。
このセム語系の言葉を話す人々の中でも、ユダヤ教を信仰するヘブライ人、つまりユダヤ人は、古来から世界中に離散していった歴史を持つため、ロシア国内にも居住しており、少数民族集団としては比較的大きなグループを形成しています。
また、その他のロシアにみられるセム語系民族集団としては、ヨーロッパロシアに居住する少数のアラブ系民族や、コーカサス地方に昔から住み続けているアッシリア系民族がいます。
⑦ ロシアにあるその他の文化圏
広大なロシアには、上に挙げてきた以外の文化圏に属する民族集団も複数存在します。
一例を挙げると、シベリアには多様なツングース語族を話し、外見的にはアジア人(モンゴロイド)の形質を持ったツングース系民族が住んでいます。
また他にも例えば、ヨーロッパロシアにはベトナム系の人々、シベリアのチベット地方には中国系およびその他の民族グループの人々、さらにシベリアにはチュクチ・カムチャツカ語族と呼ばれる他の言語とは独立した言語文化圏に属する人々もいます。
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ロシアの民族集団(エスニックグループ)まとめ|少数民族から大規模な民族集団までのまとめ
見てきた通り、ロシアの広大な国土には多くの文化が広がって存在しています。
こうした、民族集団の多様性は、ロシアの強みの一つであり、またロシアを文化的にとても豊かにしている要素だと言えるでしょう。