ピグミー族は身長が低い民族のことで、通常はアフリカにいる特定の民族集団を指します。いくつかの画像と一緒に、ピグミー族について詳しく確認していきましょう。
「ピグミー」とは「小さい」と言う意味を持つ言葉で、世界には「ピグミー」が頭に付く名称の動物が複数存在します。
そしてピグミーは動物だけでなく、特定の民族集団を指す際にも用いられ、実際、世界にはピグミー族と呼ばれる人々が存在するんです。
では、そのピグミー族とは具体的にどういった人々のことなのでしょうか?
この記事ではピグミー族を定義することから始め、ピグミー族の身長の謎から、アフリカに住むピグミー族の中でも比較的研究が盛んで有名な、二つの民族についてまでを掘り下げていきたいと思います。
ピグミー族とは?
「ピグミー(pygmy)」とは小さい人や動物のことを意味する言葉。
例えば、体長1.5〜1.7mぐらいの小さなカバを日本語ではコビトカバと呼びますが、英語では「pygmy hippopotamus」となり、また、非常に小さな猿として有名なピグミーマーモセットなどがいます。
これは人間に対しても同じで、「ピグミー」と言う場合、「低い身長で特徴付けられる民族全般」のことを指すことになり、基本的には赤道付近に住む平均身長1.5メートル未満の狩猟採集民達のことを指して「ピグミー族」と呼ぶことが多いのです。
そのため、実は「ピグミー族」と言っても、そこには違う民族が含まれ、住んでる地域も異なる点は注意。
例えば、最も一般的に知られているのはアフリカに住むピグミー族で、アフリカの赤道付近を中心に、複数の民族がアフリカ中央部の近隣地域へ広がっています。
加えて、少数ではあるもののアジア南東にあるパプアニューギニアやフィリピンでも、アフリカのピグミー族とは異なるピグミー族の人々(遺伝子的にも異なる)が確認されています。
ただし、アジア地域とアフリカ中央部に住んでいるピグミー族を分けるため、アジア地域のピグミーは「アジアチック・ピグミー(Asiatic Pigymy)」と呼ばれることもあり、「ピグミー族」とだけ言う場合、通常は主にアフリカのピグミー達を指すことが多いです。
そのため、この記事では以降「ピグミー」または「ピグミー族」と言う場合、「アフリカのピグミー族」を指すものとします。
アフリカのピグミー族に含まれる各民族
赤道付近を中心としたアフリカ中央部には、「ピグミー族」に含まれる複数の民族が存在しています。
例えば、
- ムブディ族
- バカ族
- アカ族
- バベンゼレ族
- ビンガ族
- エフェ族
- トゥワ族(またはウォチュア族とも呼ばれる)
など。
多くのピグミー族は遊牧的な生活を送り、狩猟や採集、漁業や近隣部族との物々交換を通して食料を確保しています。
そして一般的に、ピグミー族の文化や信仰は森林と深く関係しており、様々な楽器と多声音楽(複数の独立した声部からなる音楽)から成る独自の音楽やダンスも、ピグミー族の生活ではとても大事にされています。
また、ピグミー族は独自の言語がないために近隣部族の言語を話すと言われることが多いですが、その限りではない民族もおり、例えば、バカ族とアカ族は、近隣部族とは異なる独自の方言を持っています。
ただし、バカ族もアカ族も近隣の農耕民と話すときは、その農耕民の言葉を使ってコミュニケーションをするようです。
ピグミー族はなぜ小さいのか?身長が伸びない理由について
ピグミー族は身長が150cm未満と非常に小さな人々であるわけですが、その理由はなぜなのでしょうか?
一つの原因として考えられているのが、思春期における違い。
私たち人類は通常、思春期を迎えると身長が高くなるのが一般的ですが、ピグミー族ではこの時期の成長が起こらないため、成人を迎えても平均身長が1.5メートル未満のままだと言うのです。
ピグミー族は成長ホルモン結合タンパク質の分泌が少なく、これがピグミー族の低身長の原因の一つだと考えられています。
現地での呼び方やピグミー本人達の呼び方は異なる
ちなみに「ピグミー」と言う名はあくまでも外部の人間が付けた名前。
現地(特に中央アフリカ共和国)では、同国に居住するピグミー族(アカと呼ばれる民族)のことをアカ(Aka)またはバヤカ(アカ族全体を指す複数形)と呼びます。
また、ピグミー族本人達も、それぞれ固有の民族名(例えば「アカ」、「バカ」、「ムンディ」など)で呼ばれることを好みます。
さらに「ピグミー」と言う呼び名は、身長が低いことへの軽蔑的な呼び方と捉えられることもあるため、「森の狩猟採集者」、「森の住民」、「森の民」という呼び名が使用されることもありますが、あまり一般的ではありません。
ピグミー族の中でも比較的知られている2つの民族について詳しく見ていこう!
ピグミー族には多くの民族が含まれますが、その中でもムブディ族とバカ族は比較的よく知られている人々。
そこで、この二つのピグミー族について、さらに深く掘り下げていきたいと思います。
ピグミー族② ムブディ族
ムブティ族は、アフリカのコンゴ地域に住んでいるピグミー族。
中でもコンゴ民主共和国にある「イトゥリの森」と呼ばれる、43500㎢の広大な面積を抱える熱帯雨林を中心に住んでいる人々で、15〜60人ほどの比較的小規模な集団で生活することが多く、その人口を正確に把握するのは困難であるものの、3万〜4万人いるのではないかと推定されています。
ムブティ族には社会を支配する集団や一族、また政治組織が存在せず、平等主義社会の上に生活が成り立っているのが特徴。
基本的に男性と女性は対等な力を持っているようで、問題解決や何かを決断する時は、一緒に生活する人々の総意によって行われます。
そして、弓矢を使った狩りは主に男性の仕事であるものの、網を使って行う狩りには男性だけでなく、女性や子供も参加して行い、女性が男性よりも頻繁に網を使った狩りを行うこともあります。
このように、ムブティ族社会では全員が食糧調達に携わり、男性と女性両方が子供の世話をするのです(※女性には料理、掃除、小屋の修理、水の確保といった役割もある)。
一方で、ムブティ族は、近隣のバントゥー系民族(アフリカの民族集団の一つ)の農民と幅広い関係を持っており、肉や蜂蜜、獣皮など、ムブディ族が森で得た物と交換に、バントゥー系民族が作った農具や農作物を得ています。
また、ムブティ族はその近隣の農民達が使う言語を、自分たちの主な言語として取り入れているようです。
ムブティ族の生活スタイル
ムブティ族の生活は森の中での伝統的な生活が基本。
小さな集団を形成して一時的な村のようなものを築き、村には簡易的に作った円形で小さな小屋(棒や植物のつるで出来たロープで作られ、大きな葉っぱで覆われている)が世帯分建てられ、ムブディ族はその小屋に家族で暮らすのです。
また、乾季の始まりには、ムブティ族はいくつかのキャンプ地を移動し、より広い土地を利用して食糧の調達・確保をしていきます。
ちなみに、森を利用することに長けたムブティ族は、森自体と森がもたらす食物について膨大な知識を持っていると言われ、大きな網や罠、弓を使い、小さなレイヨウやその他の動物を捕まえます。
ただし、網は濡れると脆くなり役に立たなくなってしまうため、網を使った狩りは主に乾季に行うそうです。
ムブティ族の宗教
ムブティ族の生活の全ては、森が中心となっていることから、ムブティ族は自分たちを「森の子供」だと考え、森を聖なる場所と見なしています。
そして、ムブティの信仰においてはモリモ(Molimo)と呼ばれる「概念」が非常に重要。
モリモは最も物理的な形だと、木から作られた伝統的な楽器(木ではなく古い排水管から出来ていることもある)。
それに対して、精神的な形で表現する場合、モリモは「森の歌」であり、「祭り」であり、さらには「何か物音が鳴った時はその音を発生する生きた存在」でもあるのです。
そして使われていない時、モリモは木の中、食べ物や水の中、そして温もりの中で大切に保管されていると考えられています。
またムブティ族は、「静けさ(無音という意味ではなく平穏という意味)」と「雑音(口論や不調和)」のバランスが重要で、この二つのバランスが失われると、若者がモリモを持ち出すと信じられています。
さらにモリモは、森と人の間の交渉を行うためにも、または集団に悪い事が起こった時にも、必ず使われるのです。
このように、ムブティ族の人間でないとなかなか理解が難しい「モリモ」ですが、一つの解釈としては、
「音」を司る概念であり、ムブティ族が世界を捉える上では「音」が一つの軸になっている
と言えるのかもしれません。
例えば、「静けさ」と「雑音」のバランスが崩れると若者がモリモを持ち出すと言うのは、若者が「騒ぎ始める」と解釈するとしっくりきます。
ピグミー族② バカ族
バカ族(Baka)は、アフリカのカメルーン、コンゴ、ガボンの熱帯雨林を中心に居住しているピグミー族の人々。
確実な人数を計測するのは困難ですが、バカ族の人口はおよそ5000人~28000人と推測されており、他のピグミー族と同様に、森林を利用した暮らしをするために独自の生活スタイルを発達させてきました。
また、バカ族は近隣に住むバントゥー系民族と共生関係にあり、バントゥー族とモノの交換することで森林では採取することができない物資や食料を得ています。
そして、バカ族は「バカ語」と呼ばれることもある独自の言語または方言を話し、さらに近隣部族で使用されているバントゥー系民族の言語も話します。
加えてバカ族の成人男性の中には、フランス語と、中央アフリカの共通語であるリンガラ語を話すことができる人もいるとされます。
バカ族の生活スタイル
バカ族の人々は伝統的に、葉っぱや枝を用いて作った「モングル(mongulu)」と呼ばれる伝統的な小屋に家族ごとに暮らしてきました。
しかし、最近ではバントゥー族が住んでいるような、長方形の家を作って住んでいるバガ族も増えていると言われます。
さらに、狩猟はバカ族の生活においてはとても大切。
狩猟は食糧採取には欠かせません(多くのバカ族は狩猟だけでなく漁業や採集によっても食料を確保しています)が、それだけでなく、「威厳」を示すためにも重要な意味を持っているようです。
加えて、弓、毒矢、罠などを使って狩猟を行うバカ族は、現地の植物の使用にも長けており、植物によっては病人の治療や、狩猟に用いる毒薬に使用することもあります。
そして他のピグミー族と同様、バカ族は食料を得るために住む場所を変える遊牧的な生活を送るのが基本。
定住用のキャンプに住んでいる時期や雨期などは別として、普段はだいたい一週間程度で次の場所へ移動します。
バカ族の信仰
バカ族の信仰はアニミズム(自然界のそれぞれのものに固有の霊が宿るという信仰)を基本としたもの。
「コンバ(Komba)」という最高神を崇めており、コンバがすべての物事を創造した神だと信じていると言われます。
しかし、毎日の生活の中でこのコンバへのお祈りをするわけではなく、バカ族の暮らしによりみじかな存在と言えるのが「ジェンギ(Jengi)」と呼ばれる森林の精霊。
ジェンギは人々を守り導く「守護精霊」で、男性の成人儀式を司るとされています。
また、ジェンギは「森林が男性を守り、森林の恩恵を受けた男性が女性を守る」というバカ族の社会構造を維持するのに欠かせない精神的存在だとも言えます。
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ピグミー族は身長が低くて主にアフリカに住む民族|画像やなぜ体が小さいかなどを紹介のまとめ
身長が非常に引く民族であるピグミー族について見てきました。
ピグミー族は成人になっても身長が150cm未満の民族を総称する言葉ですが、主にアフリカに住むピグミーの人々を指します。
そして、ピグミー族は森を中心とした生活を通して、独特な生活スタイルを発達してきた結果、とても興味深い人々です。