サウジアラビアと宗教の関係を見ていきましょう。サウジアラビアで信仰されている宗教の割合や、それ以外に知っておきたい7つのポイントまでを紹介していきます。
中東の国でアラブ世界の盟主的存在のサウジアラビアは、サウード家を国王に戴く絶対君主制の国家。
世界最大級の原油埋蔵量と生産量を誇り、国際社会や世界経済において大きな影響力を持ちます。
そして、サウジアラビアと言えばイスラム教国の一つで、他のイスラム諸国と比べて比較的厳格で保守的な国だとしても知られています。
このサウジアラビアにおいて宗教とはどういった立ち位置にあるのか?また、信教の自由などは認められているのか?
サウジアラビアにおける宗教状況に関して、各宗教の割合から7つのポイントまでをまとめていきます。
サウジアラビアで信仰されている宗教とそれぞれの割合
およそ3300万人の人口を抱えるサウジアラビアにおいて、最大の宗教はご存知の通りイスラム教。
そして、イスラム教ワッハーブ派(※スンニ派に属するとされる)を国教と制定しているサウジアラビアにおいては、他の宗教やイスラム教宗派を公式には認めていないことから、公式発表では人口の100%がこのイスラム教スンニ派のワッハーブ派に属すると言われています。
しかし実際には、イスラム教シーア派の大国イランに近い東部や、人口の約45%がシーア派を信仰するイエメンに隣接する南部地域などにはシーア派を信仰する人々が住んでいると言われ、シーア派人口の事実上の割合は最低でも10%f、最大で25%になると試算されています。
また、サウジアラビアには海外からの出稼ぎ労働者もおり、その人々の中には非イスラム教徒も含まれているため、この海外出稼ぎ労働者達を含めた場合のサウジアラビアで信仰される各宗教割合は、次のようになると考えられるでしょう。
宗教名 | 宗派名 | 割合 |
イスラム教 | シーア派(75~90%) | 99%以上 |
スンニ派(10~25%) | ||
その他の宗教 | 1%未満 |
ちなみに、サウジアラビアは保守的なイスラム教国家であるため、海外出稼ぎ労働者であっても、国内でイスラム教以外の宗教教義を公共の場で実践することは禁じられています。
さらに、サウジアラビア国籍の取得を希望する場合はイスラム教への改宗が必須条件となります。
イスラム教国サウジアラビアの宗教状況に関して知っておきたい7つのこと
国教であるワッハーブ派とサウジアラビア
現在のサウジアラビアにおいて国教とされるイスラム教宗派の一つワッハーブ派は、スンニ派に属する、またはその下位宗派とされる宗派。
イスラム教の宗派の中でも、宗教的慣例や慣習を厳格に行う保守派としても知られ、いわゆるイスラム原理主義に繋がるものになります。
ワッハーブ派は18世紀に起きた社会的・宗教的改革として興り、また、現在のサウジアラビアの形に統一されてから今日まで、サウジアラビアの国教として続いているため、ある意味でサウジアラビア王朝が同地を統一するための「統治の基礎」となっていると言えるでしょう。
そして、この厳格で保守的なイスラム教ワッハーブ派を国教と置いたことが、他のイスラム諸国と比べてさえ、サウジアラビアが比較的保守的な国となった大きな理由です。
一方で、サウジアラビア統一以来、長きに渡ってワッハーブ派の教義は司法を司る聖職者や宗教警察により守られてきましたが、近年、ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子による改革が進み、こうした聖職者組織は弱体化させられ、宗教警察の逮捕権もはく奪されるなど、変化の兆しが見えています。
国内の宗教に関するサウジアラビア政府の方針
法的にイスラム教ワッハーブ派を国教におくサウジアラビアでは、公式には信教の自由が認められておらず、サウジアラビア王朝が国を統治する上でも、ワッハーブ派が重要であると触れました。
そんなサウジアラビアにおいては、地方政府や地域社会において「政教分離」の認識はありません。
また、サウジアラビアは世界的に起こっている、「社会経済の発展、人格的自律、ジェンダー問題、民主主義」を考慮した上でイスラム法を再解釈するという「21世紀のイスラム教改革」に対しては、反対の立場をとっています。
そして、イスラム法によれば、イスラム教徒(ムスリム)であるサウジアラビア人の父を持つ子どもは生まれながらにしてムスリムであり、イスラム文化で育てることが義務付けられているのです(国内のすべての教育機関では生徒個人の信仰に関わらず、イスラム教の教義を行っている)。
さらに、ワッハーブ派が属するイスラム教スンニ派の宗教指導者には、俸給が毎月支払われていますが、それ以外の宗教関係者に対しては支払われていません。
ちなみに、国民以外の渡航者に対しては、ムスリムかそれ以外かを判別するためのIDカードを持つことを課しています。
サウジアラビアにおける「宗教アパルトヘイト」
サウジアラビアにおいては、国教とされるイスラム教ワッハーブ派が絶対的優位にあるため、宗教的不平等が存在し、宗教的少数派に対する扱いはまるでアパルトヘイトのようだと言われ、「宗教的アパルトヘイト」として国内外から一様に批判されています。
国家として宗教を独占し、他の宗教に対する信仰や観念、シンボルに至るまでの一切を認めていないのです。
これは、同国を訪問する人々に対しても同じで、観光客でさえ宗教的なシンボル、例えばキリスト教の十字架や聖書を持ち歩くことは許されていません。
また、同じイスラム教であっても宗派の異なるシーア派などは、公的施設で宗教行事を行うことが禁止され、それ以外に課される制限も多く、一例を挙げると、シーア派の宗教行事であるアシュラを行うことは認めてはいても、大人数で大規模に祝うことは禁じられています。
さらに、スンニ派とシーア派の間には経済的差別もあるとされます。
そして同国へ出稼ぎなどで訪れている非ムスリムに関して政府は、彼らが公共の場以外で他の信仰を持つことを許可しているとしていますが、「何が公共の場で、何がそうでないのか」の具体的な指針が示されておらず、実際には頻繁に非ムスリムが逮捕されているとする話があります。
サウジアラビアは宗教制限において最上位グループにランクインする
このような状況から、アメリカに拠点を起き世界の人々の問題意識などを調査するシンクタンク「ピュー研究所」は、2017年の報告書でサウジアラビアを「世界198か国のうち宗教制限の特に厳しい23か国」の一つに含めています(参照:Pew Research Center)。
サウジアラビアがこの宗教制限の厳しい国の最上位グループに分類されたのは、以下のような基準を多く満たしてしまっているからだとされます。
- 憲法で宗教の自由を認めていない
- 政府が宗教的慣習や慣例に干渉する
- 衣服などの宗教的象徴を法律で規制する など
サウジアラビアの若い女性は高い水準の教育を受けている
一方、非常に厳格で保守的なイスラム教を信仰するサウジアラビアですが、実は女性の教育という点においては、イスラム教世界の中でも進んでいると言われます。
これは、1956年に初めての女性専用の学校が創設されて以来、サウジアラビア政府が女性教育を推進してきた結果で、また、「ビジョン2030計画」と呼ばれる政府主導のプロジェクトの中では、2030年までに女性の社会進出をさらに促し、サウジアラビアの労働市場強化を目指しています(参照:Borgen Project)。
このような状況であるため、2014年の時点でサウジアラビアにおける大卒者全体の52%は女性で、35,000人以上の女性が海外留学をしていると発表されているのです(参照:Middle East Institute)。
これは、女性は男性の保護下に置かれるべきとする(一般に女性の社会的流動性や就労を制限する)イスラム法を持つ国としては珍しい状況だと言えるでしょう。
サウジアラビアはムスリムにとって宗教的に重要なメッカとメディアがある
サウジアラビアにはまた、イスラム教の宗派を超えて大切な2つの重要な聖地が存在します。
その聖地とは「メッカ」と「メディナ」と呼ばれる場所です。
(メッカ)
中でもメッカには、イスラム教において最も重要で最高の聖地とされる聖殿「カアバ神殿」があり、ムスリムは礼拝時、このメッカの方角を向いて祈るように義務付けられているだけでなく、可能であれば生涯に一度、メッカを巡礼をするよう奨励されているのです(注)。
実際、毎年メッカ巡礼の期間中、世界中の何百万人ものムスリム達が、このカアバ神殿へ6日間の巡礼を行うべくメッカを目指してやってきます(※ムスリム以外はメッカのカアバ神殿内やその周辺への立ち入りを禁じられている)。
さらに、メッカにはイスラム教スンニ派にとっては特別なモスク(イスラム教の寺院)である、マスジド・ハラームもあります。
(メディナ)
一方で、メディナはイスラム教の創始者ムハンマドがメッカから逃れて来た場所であり、ムハンマドが埋葬された墓を有する「預言者のモスク」があることから、ムスリムにとってはメッカに次ぐ第二の聖地となりました。
このように、サウジアラビアには宗教的に(特にイスラム教において)、非常に重要な聖地が存在するのです。
(注釈)熱心で忠実なムスリムの中には、メッカ巡礼期間以外の時期にも数度、短期間の自発的な巡礼(ウムラ巡礼または小巡礼)を行う人もいる。
サウジアラビアでは若年層のイスラム教徒人口が急速に増加中
2015年時点で全人口の年齢の中央値が29.8歳だったサウジアラビアの人口規模は、2000年時点では2100万弱だったのに対して、2018年時点では約3300万、そして2050年には4000万に達すると試算されており、現在拡大しています。
そのため、毎年多くの新生児が生まれ、これによって人口の中における若年層割合が高まっているのです。
例えば2015年、サウジアラビア人口の56%が30歳未満でした。
そして、国自体がイスラム教国家であることから、若年層の人口増加はまた、ムスリム人口の増加に寄与していることを意味しています。
ちなみに、2015年から2050年までの間に、全世界のムスリム人口は2%ほど減少するという予想がありますが、対してサウジアラビアにおけるムスリム人口は、30%前後増えると考えられるのです。
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サウジアラビアと宗教|イスラム教スンニ派の割合や信教の制限などの豆知識のまとめ
サウジアラビアにおける宗教の状況をポイントに分けて見てきました。
正式名称サウジアラビア王国は、絶対君主制を敷き、国民の圧倒的多数がイスラム教スンニ派に属するワッハーブ派のムスリム達です。
また見てきたように、イスラム世界の中でも保守的な国です。
しかし、近年は少しずつその制限の一部が緩和され始めるなど、小さいながらも変化が起こっているのも確かです。