ロシアはヨーロッパなのかアジアなのか?この疑問を考えるためにも、地理、文化、政治の側面から議論を展開していきたいと思います。
ロシアはユーラシア大陸に位置し、バルト海沿岸から太平洋までの東西に伸びる、世界最大で広大な面積を持つ国。
そのため、国土の中には「ヨーロッパ」と呼ばれる地域と「アジア」と呼ばれる地域を含みます。
またロシアは、広大な国土の中に様々な民族を抱え、長い歴史の中で異なる文化の影響を受けてきました。
このような複雑な状況に加え、政治的な理由も加わり、「ロシアはヨーロッパなのか?それともアジアのなのか?」という疑問が尽きません。
この記事では、ロシアはヨーロッパと考えるべきなのか、それともアジアと考えるべきなのか、はたまた別な考えの方が相応しいのかなどを、地理、文化、政治的な側面から見ていきたいと思います。
まずはヨーロッパとアジアの定義から
ロシアがヨーロッパなのかアジアなのかを考えるにあたって大切な、ヨーロッパとアジアの定義についての確認から始めましょう。
まず最初に、ヨーロッパもアジアも「大陸ではない」という点をしっかりと把握しておくことが大事で、このことがロシアがヨーロッパかアジアかという問題を引き起こしている最大の要因の一つとなっています。
大陸とは、
海面上に現れている広大な陸地で、その周囲は水に囲まれている
と定義されるもの。
そして、この定義を満たすのは、
- ユーラシア大陸
- アフリカ大陸
- 北アメリカ大陸
- 南アメリカ大陸
- オーストラリア大陸
- 南極大陸
の6つであり、「ヨーロッパ大陸」も「アジア大陸」も存在していないことが分かります。
では、ヨーロッパとアジアとは、どこを指すのでしょうか?
(ピンク部分がヨーロッパでオレンジ部分がアジア)
地理的な観点から簡単に言ってしまえば、ヨーロッパもアジアも、上記6大陸の一つ「ユーラシア大陸」の一部で、ヨーロッパはユーラシア大陸北西部に位置する比較的小さな半島で、アジアはヨーロッパを除くユーラシア大陸全体となります。
それぞれを、もう少し詳しい詳細と共に分けると以下の通りです。
- ヨーロッパ
- ユーラシア大陸北西部の半島
- ウラル山脈およびコーカサス山脈の分水嶺とウラル川・カスピ海・黒海、そして黒海とエーゲ海を繋ぐボスポラス海峡・マルマラ海・ダーダネルス海峡の「西側」
- ユーラシア大陸北西部の半島
- アジア
- ユーラシア大陸北西部の半島(ヨーロッパ)以外のユーラシア大陸全体
- ウラル山脈およびコーカサス山脈の分水嶺とウラル川・カスピ海・黒海、そして黒海とエーゲ海を繋ぐボスポラス海峡・マルマラ海・ダーダネルス海峡の「東側」
- ユーラシア大陸北西部の半島(ヨーロッパ)以外のユーラシア大陸全体
地理的な境界線以上に複雑なヨーロッパとアジアの違いとヨーロッパと多くの共通項を持つロシア
しかし、地理的には両者の定義を分けることが出来たとしても、ヨーロッパとアジアの境界を定義するのは簡単ではありません。
というのも、両者を分けるにあたっては、その人の主観が含まれることが多々あるからです。
これは、ヨーロッパとアジアについて言及する際、「文化的な領域」として指し示されるのが理由となっています。
例えば、文化的な領域を示す要素として、
- 宗教
- 言語
- 歴史、遺産
- 慣習・思想・神話
などが挙げられるわけですが、ロシアの場合は、
- 宗教
- キリスト教が主流で、これは他のヨーロッパの大多数の国と共通
- 言語
- ロシア語はインド・ヨーロッパ語族で、ヨーロッパの大多数の国と共通
- ロシア語はインド・ヨーロッパ語族のスラヴ語派東スラヴ語群に属する言語
- ロシア語はインド・ヨーロッパ語族で、ヨーロッパの大多数の国と共通
- 歴史や遺産
- 元々はヨーロッパのカルパティア山脈からドニェプル川にかけての一帯にいたスラブ人達の一部が東方へ移動していた
- 歴史的にロシアの王朝や他のヨーロッパの王朝と交わり続けてきた
- 慣習・思想・神話
- 古代ギリシャや古代ローマの思想、ルネッサンスとヒューマニズム、啓蒙思想からの影響など、他のヨーロッパ諸国との共通項がある
といったように、文化的な側面でロシアは、ヨーロッパの特質や歴史を全て兼ね備えていると言えるのです。
なぜロシアはアジアまたは「ヨーロッパではない」と言われることがあるのか?
それでは、なぜロシアはヨーロッパではなく、「アジア」や「ヨーロッパではない」と考えられることがあるのでしょうか?
地理的な理由
それはまず第一に、地理的な理由でしょう。
確かに歴史上においても現代においても、ロシアの中心的な都市となってきた「モスクワ」と「サンクトペテルブルク」の二大都市は、地理的なヨーロッパに含まれます。
しかし、広大なロシアの国土の大部分は、地理的なアジアに位置しています。
特に、ロシアが世界的なプレゼンスを保つのに重要な「天然資源」について見ると、そのほとんどがアジア側に集中していることから、「アジア地域のロシア」という特徴は捨て去ることが出来ないのです。
文化的・民族的な理由
また、確かにヨーロッパ諸国と文化的な共通項が多かったとしても、ロシアに対するアジアからの文化的影響も無視出来ないでしょう。
例えば、ロシアは200弱の民族グループが住んでいる多民族国家ですが、ヨーロッパを起源に持つスラブ系の人々を除いた20%弱の国民の中には、アジアに起源を持つタタール人やアルタイ人、他にもネネツ族やブリヤート人などが多く含まれます。
このようなアジアに起源を持つ民族が多く住み、ヨーロッパとアジアの十字路と言える地域を抱えるロシアは、紛れもなく長い歴史の中でアジアからの文化的影響を受けていると言えるのです。
そしてこれが、「ロシア=ヨーロッパの国」と単純化出来ない一つの理由となっているのではないでしょうか。
政治的な理由
さらに、ロシアと西洋との政治的関係性も、ロシアが素直にヨーロッパと言えない要因になっていると考えられます。
例えば、NATO(北大西洋条約機構)の存在。
NATOは元々、冷戦化においてアメリカを中心として資本主義体制をとっていた西洋諸国が、「ロシア(当時はソ連)を締め出す」ことを目的の一つとして1949年に誕生しました。
そして、かつてはソ連側にいた旧共産主義諸国が徐々にNATOへ加盟していった結果、NATOに加盟していないロシアへの包囲網が広がっています。
また、
- ISISとの戦いにおいてアメリカや他の西欧諸国と歩調を合わせることなくシリアでロシアが空爆を開始し、西欧諸国が避難するシリア政府軍を援助したこと
- 2014年に起こった「クリミア併合」
- クリミア併合を機に始まったアメリカと欧州連合によるロシアへの制裁
なども、「ヨーロッパ対ロシア」のある種の敵対関係を裏付けるものとなっています。
この結果、ロシア人は客観的にはヨーロッパ人と言えるかもしれませんが、ロシア人の中にはその政治的苛立ちから、ロシアはロシア独自の文化を有していると主張したり、ヨーロッパ人ではない(アジア人もない)ロシア人だと主張する人が多く存在しているのです。
そして、この主張がロシア人のナショナリズム高揚に結びつき、「ヨーロッパ人とは違うロシア人」という声を強くしているのではないでしょうか。
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ロシアはヨーロッパか?アジアか?地理・文化・政治などから考えるのまとめ
ロシアはヨーロッパなのかアジアなのかを、地理、文化、政治的な観点から議論してきました。
この疑問については、誰もが納得する共通の答えを出すことが不可能でしょう。
地理的に見ればロシアはヨーロッパもアジアも含み、また、文化的にはヨーロッパの影響が強いものの、アジアの影響も無視することは出来ません。
さらに、欧米との政治的な対立は、ロシア人達が素直に自らを「ヨーロッパ人である」と主張出来ない状況を作り出し、だからと言って、ロシア人の多くが「アジア人である」と言うことはあまり多くありません。
そのため、ロシアがヨーロッパなのかアジアなのかについては、明確な答えは出せませんが、一つ言えることは、ロシア人の中には、自分たちを「ヨーロッパ人ともアジア人とも違う独立したロシア人」と主張する人をよく見かけるという点です。