バラモン教はヒンドゥー教の源流であり、インド宗教最古の一つ。インドで生まれた宗教や考え、そして社会構造に大きな影響を与えてきた宗教です。
何千年もの歴史を持つインドの周辺地域では、様々な文明や都市が興っては廃れるなど、古来から人類史において大きな影響を与えてきました。
そしてまた、インドは宗教の拠点とも言え、その長い歴史の中で影響力のある宗教を複数生み出してきた国でもあります。
そのインド宗教のなかでも、最古の宗教の一つとして考えられるバラモン教を知っていますか?
ヒンドゥー教と言われる宗教の源流であり、また、仏教やその他のインド宗教の中でもバラモン教が生み出した考えや要素を垣間見ることが出来る上、インド社会の構造にも影響を与えています。
この記事では、そのバラモン教について詳しく紹介していこうと思います。
バラモン教とは何か?
バラモン教とは「ウェーダ」を聖典としたインド最古の宗教。
その起源はインドの地にアーリア人が入植した紀元前15世紀頃、ヴァーダを成立した時に遡るとされ、その後、土着の神々や儀式を吸収しながら徐々に発展していき、紀元前5世紀頃までには現在知られるバラモン教の形になったと言われます(※この時代をヴェーダ時代とも言う)。
(出典:realhumanhistory.weebly.com)
バラモン教の名前は、宇宙の根本原理「ブラフマン(brahman)」の圧倒的な力に対する畏敬の念と、祭祀を通じてそのブラフマンの神々と関わる司祭階級「バラモン(brahmana)※ブラフミン(brahmin)とも言われる」に由来するとされます。
一方、現在「ヒンドゥー教」と呼ばれる宗教は、このバラモン教が改変されて再構成されたものであるため、バラモン教はヒンドゥー教の源流(つまり古代ヒンドゥー教)とも言える宗教です。
そのため、ヒンドゥー教が再編された後、この古代ヒンドゥー教と新しいヒンドゥー教を明確に区別するために名付けられた結果、現在は「バラモン教」として知られるようになったのです。
また、上記の理由からバラモン教とヒンドゥー教には多くの共通点があり、加えて仏教やジャイナ教は、バラモン教の教えを批判しながらも一部を取り入れながら生まれたため、古代から現代までバラモン教の主な信仰の要素は、様々なインド宗教の中で見つけることが出来ます。
バラモン教で最上位の地位を占めるバラモンについて
バラモン教の中で重要な地位にあるバラモンとは、「ブラフマン」とコミュニケーションをはかる、人間と神々との橋渡し的存在。
特別な祭祀を通して、ブラフマンの神々と関わることが出来、人間を超越してよりブラフマンに近い存在として見なされていることから、バラモン教上で存在する「4層の種姓に分割する宗教的身分制度(ヴァルナ)」いわゆるカースト制度において、頂点の階級に属する司祭階級の人々のことです。
そのため、バラモン教(と、そこから派生したヒンドゥー教)では、人間社会において最も尊い存在であり、司祭階級ということでバラモンの人々の中には、歴史的に宗教的な知識を維持したり教えたりする司祭が多く含まれていました。
ちなみに、バラモンを頂点とするヴァルナでは、次のような身分が存在します。
- バラモン(司祭階級)
- クシャトリヤ(戦士・王族階級)
- ヴァイシャ(庶民階級または農民と職人)
- シュードラ(奴隷階級または小作農民や使用人)
また、このヴァルナの4階層の枠組みにさえ加わることが出来ない、不可触民(ダリットやパンチャマと呼ばれる)という、アウトカーストの人々が、事実上はさらに下の階層として存在します。
そして、バラモン教においては、生きている間はカースト間での移動は不可能で、異なるカースト間での結婚も出来ないとされています。
バラモン教の主要な信仰と特徴的な輪廻転生
ヴェーダを聖典として、宇宙の根本原理である「ブラフマン」を敬うバラモン教では、天・地・太陽・風・火などの自然神を崇拝するというのが主な信仰。
これは、アーリア人が持ち込んだ自然崇拝が影響していると言われています。
そして、インド最古の宗教として、これ以降のインド宗教に大きな影響を与えた重要な信仰の一つが「輪廻転生」、つまり魂は生まれ変わるとする考えで、古代インダス文明の遺跡では、当時のバラモン教に関する輪廻転生信仰の痕跡が多く見つかっています。
この輪廻転生がバラモン教を特徴付けた重要な要素であり、また、バラモン教に見られるカースト制度というのは、この輪廻転生に依るところが大きいと言えるのです。
バラモン教の輪廻転生について
バラモン教では人間を、
- 肉体(物質的なもの)
- 霊魂(精神的なもの)
の二つから成るという二元論を教義の中心と据えたことで、輪廻転生の考えが発達していきました。
物質的な肉体はいつかは滅びる必滅の存在であるのに対して、霊魂は永遠に滅びることはない不滅の存在としたのです。
そして、この不滅の霊魂を説明付ける考えとして発達したのが、「霊魂は生まれ変わる」という発想。
しかし、ただ生まれ変わるのではなく、この世で肉体を失った後は一度、霊魂は天界へ上り、生前の行い(カルマ/業)によって霊位が上下し、次の6つの何れかに行くと考えました。
- 天上道
- 人間道
- 修羅道
- 畜生道
- 餓鬼道
- 地獄道
一方でバラモン教では、この霊位の上下を説明する考えを現世(この世)の社会にも当てはめ、霊魂は現世とあの世を繰り返し行き来するという「輪廻転生」の概念を作りあげたのです。
その結果、バラモン、クシャトリア、バイシャ、スードラという4つの層から出来るカースト制度が出来上がり、実社会の中で固定化していくことになり、
- 現世で階級が低いのは前世の行い(カルマ)が悪かったからであり、
- 「現世で良い行い」をすれば来世ではより上の階級として生まれ変われる
という物質界を説明する輪廻転生の概念が生まれます。
それが、
「現世での良い行い」=「現世の階級での不条理を受け入れて我慢して人生を全うすること」
という発想につながり、バラモン教下では、死ぬまでその階級を変えることは出来ないという考えに行き着くことになりました。
また、バラモン教の輪廻転生は、輪廻が永遠と続くというのが最大の特徴であり、加えて4つの階層で最も下のスードラ(奴隷階級)は、輪廻転生をしてもスードラのままであるという過酷な考えが存在します
このバラモン教における宿命論的な輪廻転生が生まれた背景には、当時インドの地へ入植してきたアーリア人達が、先住民族のドラヴィダ人を支配するために生まれたとする説が存在します。
つまり、カースト上で最も地位の高いバラモンやクシャトリア(主にバラモン)を自分たちが占め、先住民をそれ以下の階級に置くことで、バラモン教が広まれば自らの権力体制が自然と出来上がり、支配が簡単になるからこそ、輪廻転生に縛られたカースト制度を作ったのではないかという説です。
また、その説を裏ずけるために、カースト上で階級の高い人々は比較的肌が白い(アーリア系は肌が白いと言われる)のに対して、下の階級の人々は比較的肌が黒いという違い(客観的な事実かどうかは不明)が持ち出されることがあります。
しかし、この説は証明されている訳ではない点は覚えておきましょう。
仏教の輪廻転生とバラモン教の輪廻転生の違い
同じ輪廻転生でも、仏教の輪廻転生とは何が異なるのか気になる人もいるかと思うので簡単に触れておきます。
上でも触れた通り、バラモン教には、
- 輪廻は永遠と繰り返される
- スードラは輪廻転生してもスードラである
という二つの特徴があるわけです。
まず、輪廻転生を永遠と繰り返すという教えは、来世で今より悪い状態に生まれるかもしれないという不安を一生招きます。
そして、スードラはスードラであるという教えは、カーストの底辺にいる人たちにとっては全く救済の余地がないということです。
そのため、仏教では「解脱」という考えが加えられました。
解脱とは、
「煩悩に縛られた状態から解放され、輪廻の苦を断ち切って魂が自由の境地に達すること」
であり、どんな階級(または環境)に生まれても、この世で良い行いを積めば、誰でも輪廻の鎖から外れて救済される(仏界へ行ける)というもの。
他にも細かく見れば違いはあるものの、この解脱という考えが、仏教とバラモン教の輪廻転生の違いを特徴付ける主なポイントになります。
バラモン教とヒンドゥー教
バラモン教を理解する上で忘れてはならないのが、最初の方で述べたように、現在のヒンドゥー教と呼ばれる宗教はバラモン教を起源としている点です。
そこで、最後にバラモン教からヒンドゥー教が生まれた時代背景と、両者の違いについて簡単に触れておきたいと思います。
バラモン教からヒンドゥー教が生まれた時代背景
バラモン教は紀元前1500年頃から始まり、紀元前500年頃までには現在の形になっていたのは先述した通りですが、この時代(ヴェーダ時代)が終わると、ガンジズ川流域に多くの都市国家が誕生していきます。
すると、それら都市国家においてより重要な役割を担った王族や戦士階級であったクシャトリヤと、商業に従事するヴァイシャの力が強くなり、バラモン教において大きな力を持っていたバラモンの権威が弱まっていきます。
また、バラモンの権威が弱まることで、バラモン教を批判する仏教やジャイナ教が誕生していきます。
その結果、バラモン教は改変を余儀なくされ、民衆が受け入れやすいように、当時民間で信じられていた様々な宗教的要素を受け入れて変化・再編成され、現在のヒンドゥー教に変わっていったのです。
バラモン教とヒンドゥー教の差異
このようなことから、広義の意味でヒンドゥー教はバラモン教を含むとされ、実際にヒンドゥー教にはバラモン教の全てが含まれているとされますが、再編成される過程で、その重要度や解釈の違いなどが起こり、両者には次のような差異が見られます。
- 神への供犠から絶対的帰依
- バラモン教では神に対して供儀(くぎ:犠牲を神に捧げる)が行われる祭祀が重要だったのに対して、ヒンドゥー教では神に対して絶対帰依(神に対して心身を捧げて信じること)で良くなった
- 神の重要度の変更
- バラモン教ではインドラ、ヴァルナ、アグニなどが中心の神だったが、ヒンドゥー教では、バラモン教で脇役的なヴィシュヌやシヴァが重要な神と考えられた
- 聖典の拡大
- バラモン教でもヒンドゥー教でもヴェーダは聖典として大切であるのは変わりないが、ヒンドゥー教ではマハーバーラタ、ラーマーヤナ、プラーナ文献などの神話も重要になった
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バラモン教|ヒンドゥー教の源流でインド宗教最古の一つのまとめ
古代インドで形成され、インド宗教の多くに影響を与えながら、現在もヒンドゥー教として生き続けるバラモン教について見てきました。
その影響力を考えると、インド人やインド社会を理解する上でバラモン教は、非常に重要であると言えそうです。